アベノミクスが実感できないと感じる理由は

昨年終盤からの円安が日本企業の収益を押し上げているが、各業界とも国内の設備投資に対する慎重姿勢は変えていない。輸出採算は改善しているものの海外需要が軟調で数量は伸びず、国内需要にも本格的な回復はみられない…
Reuters

昨年終盤からの円安が日本企業の収益を押し上げているが、各業界とも国内の設備投資に対する慎重姿勢は変えていない。輸出採算は改善しているものの海外需要が軟調で数量は伸びず、国内需要にも本格的な回復はみられない。

アベノミクスのプラス効果を実需面で「実感できる段階に至っていない」(JFEホールディングス

<アベノミクス、実態経済につながるか>

野村証券の松浦寿雄ストラテジストによると、14年3月期は全19業種中13業種で円安が業績を押し上げる。中でも自動車、鉄鋼、機械、電機・精密など、為替感応度が高い業種で増益幅が膨らむ。金融を除く主要企業295社合計の今期経常利益(3月末時点の試算)は、1ドル=87円、1ユーロ=114円で31.7%増、1ドル=95円、1ユーロ=124円なら46.3%増になる見通しという。「足元の為替が続けば経常利益は前回ピークの07年度水準に迫る」と、松浦氏は予想する。

しかし企業の経営陣は実需の見通しや投資にいまだ慎重で、たとえば素材業界からはあまり明るい話が聞こえてこない。JFEの岡田副社長は決算会見で「アベノミクスや円高修正は日本の産業にとってプラスだが、素材産業として実感が得られるフェーズには至っていない」と指摘。日本鉄鋼連盟の友野宏会長(新日鉄住金

海運各社も、円安に伴う輸送需要の拡大について保守的な見方を示した。商船三井

株式市場はアベノミクス効果による収益拡大期待で上昇したが、企業は「これが実態経済につながってくるかどうかが上期の重要なポイント」(三菱電機

<自動車生産の国内回帰は見込めず>

企業が国内の設備投資に消極的な背景には、日本市場の縮小とこれまでの円高で、すでに生産の多くを国内から移転させた構造的な変化もある。為替感応度が高い自動車業界は、昨年までの1ドル=80円を割り込む超円高時代に生産の海外移管を加速。国内生産に占める輸出の割合は08年に過去最高の58.1%だったが、12年には48.3%まで低下した。自動車メーカーの首脳陣は1ドル=100円前後が続いても、日本生産に回帰するのは考えにくいとの見方を示す。

三菱自工の益子社長は、円安で「日本で生産する車の損益が大きく改善し、競争力を回復しつつある」としながらも、人口減で需要拡大が見込めない国内での能力増強は難しく「現状のレベルを維持していくのが精一杯」と語る。14年にメキシコ、15年にタイの工場が稼働するホンダ

電機・精密などでも海外シフトの流れは変わらない。村田製作所

為替が円安基調に転換したのは昨年秋。そこからすでに2割程度の円安が進み、株価の上昇で高額商品は売れ行きが伸びている。「消費者心理が上向いている間に企業心理が好転し、自動車などを中心にキャッシュが回り始めればアベノミクスの勝利だ」と、野村証券の松浦氏は話すが、円安の恩恵で「(受注など)数量効果や設備投資が出てくるには1年程かかる」と指摘する。

(ロイターニュース 企業チーム;編集 久保信博)[東京 2日 ロイター]

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