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「みんな、民主主義に飢えている」 小平市の住民投票に挑む哲学者、國分功一郎さん

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KOKUBUSAN
新しい民主主義について語る國分功一郎さん | Hiroyuki Ueda
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小平市で東京都初の住民投票に挑む哲学者、國分功一郎さん


 5月26日、小平市で住民投票が行われる。50年前に決まった都道建設計画の是非が住民に問われるのだ。直接請求による住民投票が実現するのは、東京都では初めてのことである。
 しかし、小平市の公式サイトにアクセスしても、トップページに「住民投票」の文字は見つけられない(5月6日現在)。案内はサイトのかなり深い場所に掲載されていた。さらに市長は、投票率が50%未満の場合、住民投票自体を不成立とみなして開票もしない、結果も公表しないとする改正案を提出。投票日が迫る4月24日、この改正案は小平市議会臨時本会議で可決された。
 ソーシャルメディア時代を迎え、政府の可視化や市民の参加を促す「オープン・ガバメント」の潮流が注目を集めているなか、それに逆らうかのような動き。国木田独歩の「武蔵野」で描かれた自然の面影が残る小平市で今、何が起きているのだろうか。小平市在住で、住民投票の実現に奔走した哲学者、國分功一郎さんを訪ねた。
 
 「素敵なところでしょう」。雨上がりの雑木林に踏み入った國分さんの表情が和らいだ。ここは「小平中央公園」。クヌギやコナラの落葉樹が立ち並び、渡り鳥が長旅の羽を休める中継地にもなっている。住民たちは散策や虫採りをして雑木林の自然に親しんできた。
 高崎経済大学准教授で、哲学書としては異例のベストセラーとなった「暇と退屈の倫理学」の著者である國分さんも、自宅からほど近いこの雑木林で、論文や著書のための思索の時を過ごした。
 しかし、この雑木林を潰して4車線幅36mの都道を建設する計画が持ち上がっている。國分さんがこの「小平都市計画道路3・2・8号線」計画を知ったのは、2010年に東京都が開いた説明会に参加した時だった。國分さんは説明会でそれまでにない経験をしたという。

現在の民主主義にある「単純な欠陥」

 「バットで頭を殴られたような衝撃を受けました。説明会ではまず、この道路がどれほど必要なのかを説明するビデオを見せる。その後で質問コーナーが設けられているのですが、司会をしている東京都の職員によって、答えに対して再び質問をすることが禁じられました。つまり一方的に説明するだけで住民と対話する気など全く無い。行政がいちど道路を作る決定したら、僕らには本当に何もできないのだと、思い知らされたんです」
 それでも國分さんは最初、楽観視していた。これだけの人が反対しているのに建設できるはずがないと思っていた。ところが事態は逼迫していた。國分さんは、東京都による国土交通省への事業認可申請が間近に迫っていること、ひとたび事業認可されてしまうと、東京都には強制的に事業を執行する権利が与えられてしまうことを知る。なんとかしたいという思いから、住民投票の実現に向けて動き出していた住民グループに参加することになる。

 そのグループ、「小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会」は、昨年末から年始にかけて街頭で署名集めを行い、法定必要数の約2.5倍にあたる7183筆の署名を集めた。予想を超える住民からの反響。市長が住民投票に反対する意見を付したにも関わらず、市議会は実施へと踏み切った。しかし、住民投票以外に、民意を行政に反映させる方法はなかったのだろうか。
 「ありませんでした。行政の決定に住民がオフィシャルに関われる制度というのは本当に限られていて、住民投票は最後の手段でした。しかも、この住民投票も、首長や議会のリコールの場合とは異なり法的拘束力はないんです。僕らは民主主義の社会に住んでいるなんて言われているけれど、実際に許されているのは数年に一度議会に代議士を送り込むことだけ。つまり立法府に少し関われるだけです。実際に物事を決めているのは行政なのに、行政の決定にはほとんどアクセスできない」

 現在の民主主義の背景には哲学が長い時間をかけて作ってきた理論がある。「でも、そこに単純な欠陥があった」と國分さんは哲学者の目で分析する。
 「これまでの政治理論は、どうやったら議会、すなわち立法府が民意を十分に反映できるかについてずっと考えてきました。その前提には、議会こそが物事を決定する機関であるという考えがあった。でも、実際には行政が物事を決めているのだから、住民が行政の決定プロセスに関われなければ意味がないのです。それなのに、行政は単なる執行機関だという建前があるから、住民が行政の決定プロセスに関われなくても民主主義を標榜できてしまう」
 
 「住民が行政の決定プロセスに関われる手段はわずかながらあります。でも、最近よく見るパブリック・コメントは実際には全く尊重されない。自治体が作った諮問委員会に住民が参加できることもありますが、これも非常に限られている。実は国も、住民が行政の決定プロセスに関われない現状を憂慮していて、2011年1月、大型公共施設の建設に限り住民投票に法的拘束力を持たせるという地方自治法の改正案を用意していました。ところが、なんと、地方の議会・首長の連合組織である『地方六団体』の反対にあって潰されたんです」
 彼らの言い分はこうだった。「議会制民主主義の根幹を揺るがす」。 
 「議会制民主主義が反民主主義的たりうることを、こんなに分かりやすく示してくれる事例が他にあるでしょうか」。國分さんは言う。

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 さて、小平市の話。少しさかのぼるが、4月7日に市長選の投開票が行われている。都道建設計画を推進する現職の小林正則市長が再選されたのだが、選挙中に「投票率50%未満は開票しない」という住民投票改正案については一言も触れていなかったという。「自分が反対する住民投票が可決された直後には何も言わず、選挙戦の間も何も言わず、再選後に突然こんな改正案を提出してくるなんて、隠していたと言われても仕方ない」と國分さんは厳しく批判する。この市長選の投票率は37.28%。「投票率50%超」という住民投票に課せられたハードルの高さがうかがい知れる。

「反対」ではなく「対話」しながらみんなで作る

 「現在の政治が、住民の自治と参加にどれほどアレルギーを持っているかを示すよい例でしょう。住民と一緒に考えて作っていくという経験が行政の側にないので、怖がっているんです。でも、誤解しないでもらいたいのですが、僕たちは反対しているのではない。提案しているんです。今回の住民投票も、都道計画に賛成か反対か、を問うものではなく、住民の意見を聞いて計画を見直すべきか、それとも見直す必要はないか、を問うものなんです」
 「住民の自治と参加を考える時には、政治の舞台を議会一つに限定するというこれまでの考えを変えていく必要があります。諮問委員会とかワークショップとか、そしてもちろん住民投票とか、物事が決される場を複数設けていくという発想が必要。また政治家の役割も少し変わってくる。ジャーナリストの津田大介さんが『政治家をツールとして考える』とおっしゃってますが、住民と行政の間で橋渡しや交渉をする政治家の役割は大変重要になる」
 
 政治に慣れていなのは、住民の側も同じだ。政治運動の挫折と市民運動の形骸化は日本人に強い政治アレルギーをもたらしてきた。しかし、國分さんたちの活動はこれまでの運動とは少し毛色が異なるという。「皆がとてもビジネスライクにやっていますね。問題解決型の運動です」
 「確かに署名集めをしていて、政治アレルギーを感じたこともありました。でもこのアレルギーって、ただ『反対、反対』って言っていた人たちへのものなんです。だから工夫してやっていけば、反応は変わる。最近思うのは、この国の人たちは政治に無関心なんて言われているけれど、実はこんなにも民主主義に飢えていたのかということです。何かを訴えてもすぐに議会と行政に潰されて嫌な思いをするから、無関心のふりをしてきただけなのです」

 國分さんの語る新しい民主主義は、住民としての率直な声であり、民主主義の理論を担ってきた哲学者からの提言でもある。哲学者カントは「悲惨な失敗を通じて人間は進歩する。これが歴史だ」と語ったという。國分さんは言う。「政治アレルギーをもたらした時代の失敗を経て、いま新しい運動が生まれてきているのでしょうね。カントやフロイトが歴史について言っていたことは正しかったんだなぁと思います。人間が進歩しているって感じますよ」
 もしかしたら、その「進歩」が5月26日に小平市で起こるかもしれない。住民投票の投票率50%突破に向け、國分さんたちは動き始めている。

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 ソーシャルメディア時代が到来、これまで散在していたひとりひとりの声をつなげ、ボトムアップで政治や社会をよりよい方向に変えてゆこうとしている人たちが登場しています。ハフィントン・ポスト日本版では、連載「変えるのは、あなただ」で、そうした人たちとその活動を紹介します。連載「変えるのは、あなただ」はこちらからお読み頂けます。

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