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ハゲタカが狙うデトロイト市

2013年05月09日 21時35分 JST
Reuters

過去20年間に破綻企業に投資し、「ハゲタカ」と非難されることもあったディストレス債専門のヘッジファンドが、今度は財政の悪化した市や郡に狙いを定める可能性がある。中でも注目の的はデトロイトだ。

米連邦準備理事会(FRB)の低金利による恩恵もあって、大きなもうけが期待できる企業の破綻が鳴りを潜めたため、地方債市場への関心が突如として高まっている。

地方政府への投資は社債投資とは異なるリスクもはらむが、それでも一部ファンドは既に数億ドルの投資に乗り出している。

裁判所の記録によると、モナーク・オルタナティブ・キャピタルはアラバマ州ジェファーソン郡の債権を6億ドル以上購入した。

しかしデトロイトほど魅力的な場所は他にない。デトロイトの長期負債は86億ドルで、仮に最終的に破綻申請するとなれば最大級の企業破綻に匹敵する規模だ。一度に数億ドルを投資するのに慣れた大手ヘッジファンドにとってこれは、大きな利点となる。

債務規模だけを考えても、ファンドは(1)非常にまとまった額の債券購入(2)潜在的利益の最大化(3)調査・アドバイザリーのコスト削減(4)債務再編交渉に入った際の影響力行使──が容易になる。

デトロイト市の非常時管理責任者ケビン・オー氏の報道官は、同市は財政再建の方法を依然検討中であり、ヘッジファンドからの投資打診は一切承知していないと述べた。

デトロイトはかつて米国で5番目に大きい市で、産業の中心地だった。しかし現在、人口はピーク時の180万人から70万人に急減し、その3分の1は貧困層。街灯などの基本的公共サービスも破綻している。ミシガン州のスナイダー知事は3月、デトロイト市の財政立て直しに向けて企業破綻専門家のオー氏を任命した。

デトロイト市が破綻申請しないとしても、債務再編の可能性は高く、ヘッジファンドに収益機会がもたらされそうだ。

<デトロイトへの道>

ヘッジファンドと取引のある財務アドバイザーや債務再編コンサルタント、弁護士らがロイターに語ったところによると、彼らは利益の大きい投資方法を見定めようと問い合わせに対応したり、書類を調べたり、場合によってはデトロイトに飛ぶなどしてきた。

地方政府に再建について助言するブラント・ポイント・アドバイザーズの創設者、マーティ・コパツ氏は「だれもがデトロイトに入る道を探している。これは新しく、特異な現象だ」と語る。

通常は口の堅いディストレス債ファンドのマネジャーらも、デトロイトについて調べ回っていることを確認した。

ストーン・ライオン・キャピタルの創設者、アラン・ミンツ氏は「他のファンドと同様、われわれもデトロイトを狙ってきた」と話した。

米企業は手元資金が潤沢になり、債務不履行や破綻、清算はほとんど姿を消した。対照的に、米国の市や街の中には、好況時に約束した給与や年金の支払いに苦心する例が少数ながら見られ、今後その数は拡大する可能性がある。

ジェファーソン郡以外にも、カリフォルニア州ストックトン、サンバーナーディーノ両市が最近、財政破綻している。

<投資の方法>

ヘッジファンドは地方政府について資産やローン債権の売却を含む多様なアプローチを検討しているが、デトロイトの場合は債券が大きな魅力だ。

法律事務所グッドウィン・プロクターで公的・民間開発慣行責任者を務めるルイス・フェルドマン氏は「デトロイトの債務価値が下がれば、ファンドは市場でそれを拾い、市の再建を助ける解決策に取り組むだろう」と述べた。

ことしに入り、デトロイトの年金証書2500万ドル分が額面1ドルに対し0.66ドル前後で取引されたことがあった。買い手は分かっていないが、調査会社ミュニシパル・マーケット・アドバイザーズのマット・ファビアン氏は、ヘッジファンドの関与を示している可能性があると言う。

ファビアン氏の仮説では、ファンドはデトロイトとの間で、年金証書の返済額について額面当たり0.80ドルで手を打つと持ちかけたとしても、大きな利益を得られる。額面で買っていた投資家は痛手を被るが、デトロイトは助かる。

フェルドマン氏は「デトロイト市民、ヘッジファンド自体の両方にとって良い話だ」と述べた。

ファビアン氏によると、元本削減が実現すれば、地方債は財政破綻の際にも元本返済されるという長年の信用が崩れかねない。そうなれば債券価格は下落し、ヘッジファンドが買えるディストレス債がさらに増える可能性もあるという。

ストーン・ライオンのミンツ氏はファビアン氏のシナリオを一蹴しながらも、ファンドは正当な理由があれば元本を下回る返済の受け入れも検討するだろうと述べた。

<欧州銀>

デトロイトには債券を売る動機を持った債権者がおり、このこともディストレス債ファンドにとっての魅力だ。

地方債投資を専門とするファンド、ファンダメンタル・クレジット・オポチュニティーズのヘクター・ネグローニ共同最高経営責任者(CEO)は、デトロイトが発行した年金証書約15億ドルの相当部分を外資系銀行が保有していると指摘する。

一部の財務アドバイザーによると、これらの銀行は国境を越えた政治的な債務再編交渉に時間を費やすよりも、証書の大半を売却する方を好みそうだ。

裁判所の記録によると、ジェファーソン郡の破綻では、英ロイズ・バンキング・グループとフランスのソシエテ・ジェネラルが証券をヘッジファンドに売却した。

ただ、アドバイザーや弁護士によると、破綻企業への投資で磨いた手腕が地方政府に適用できるとは限らない。

コパツ氏は「ディストレス債投資家界が、企業破綻とは状況が著しく異なることに気付く時期が訪れるだろう。だれもが政治要因を指摘するが、それよりさらに根本的な問題だ。北国では積雪に対処する必要があるし、警察部門も消防部門もある。市は清算するというわけにはいかない」と語った。

(Tom Hals記者)[8日 ロイター]