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ハフィントン・ポスト、NYのニュースルームで急成長の秘密を探る

2013年05月15日 18時47分 JST | 更新 2013年05月15日 19時04分 JST
The Asahi Shimbun

メディア融合、最前線 ハフポスト日本版、7日開設

「ザ・ハフィントン・ポスト(ハフポスト)」日本版が7日、開設された。本国の米国では最も読まれるソーシャルニュースサイトの一つ。米国以外にカナダ、イギリス、フランス、スペイン、イタリアで現地版を展開している。アジアでは日本が初めて。急成長の秘密は何か。日本版の開設を前に、ニューヨークの本社を訪ねた。

■NY本社、技術者・編集者が一体で制作

 ユニオンスクエアにほど近いAOL本社ビルの中にハフポストのオフィスはある。柱の少ない広大なニュースルーム。カジュアルな格好の若者たちが、ずらりと並んだデスクトップに向かっている。IT企業そのものだ。

 それもそのはず、ハフポストの急成長に「技術」が果たした役割は大きい。サイト上の記事がグーグルなどの検索結果の上位に表示されるようにするSEO(検索エンジン最適化)、記事をどう配信するかを決めるコンテンツ管理システムなどの独自技術を開発。技術者と編集者は同じフロアで肩を並べて働き、技術に関するフィードバックが常時行われている。

 政治やビジネス、環境など各セクションの編集者は、ユーザーの反応や行動をリアルタイムで分析し、見出しや記事の配列を変え、ページビューを伸ばす。ソーシャルメディア上の話題をつねにチェックし、広く読まれそうなテーマで臨機応変に特集を組んでいく。

 テレビ出身のニュースエディター、ティム・ステノベック(29)は「1日はツイッターのチェックで始まる」という。

 ハフポストのコンテンツは米国のフェイスブックで最も共有され、ツイッターでは日に50万回以上言及される。ニュース記事だけで毎日30万件のコメントが投稿され、ソーシャルメディアを通じて瞬時に拡散していく。

 昨年8月には「ハフポストライブ」を始めた。1日12時間、独自編成したニュース番組を社内のスタジオから届けるネット放送局だ。読者はスカイプやグーグルハングアウトなどのネット上の通話サービスを使い、コメント感覚で映像を投稿。開設から半年で6千人が議論に参加したという。放映済みの番組はサイト上で見たい時に見たいものを見られる仕組み。昨年、革新的なメディア技術に贈られる賞を受賞した。

 社内では毎日あちこちで新人編集者の研修が行われている。1人につき22時間、特集のつくり方やページビューの伸ばし方といった技術やノウハウを、先輩編集者がみっちり教える。

 創業当初は約30人だったスタッフも、2011年のAOLとの合併で急拡大。現在は全米で500人ほどに増え、インターンも数多く働く。「08年の大統領選以来の愛読者」というシニアエディターのトラビス・ドノバン(27)は23歳でインターンに採用された。編集を学び、「環境」セクションのエディターに。ソーシャルメディアの活用でユーザーを増やし、同分野で最も読まれるサイトに育てた。彼の後任もインターン出身だ。創設編集者ロイ・シーコフ(53)は言う。「会社が拡大してもハフポストのDNAを絶やさないよう、教育には力を入れている」

■独自報道でも評価

 ネットメディアの多くはコストのかかる独自取材はせず、既存メディアの記事の転載や再編集(アグリゲーション)でサイトを構成することが多い。ハフポストも当初、既存メディアから「ただ乗り」との批判も浴びた。だが、事業の成長とともに独自報道に力を入れ、昨年はイラク戦争の負傷兵の苦悩を描いたブログ連載でピュリツァー賞を受賞。同年は政治専門サイト「ポリティコ」が風刺画で受賞し、調査報道サイト「プロパブリカ」は前年まで2年連続で受賞するなどネットメディアの興隆を印象づけた。

 「私たちニューメディアと既存メディアは今後ますます融合していく。未来のジャーナリズムはハイブリッド型が担うでしょう」。創設者のアリアナ・ハフィントン(62)が語るように、ハフポストの軌跡はメディアの将来像を映し出してもいる。(後藤絵里)

■ジャーナリズムの本質を踏まえ変革 創設メンバー、ロイ・シーコフさん(53歳)

 当初は複数の著名人のブログと他メディアからのニュースを集めたシンプルなサイトだった。こんな巨大メディアになるとは思わなかった。

 思い出すのは創設まもない2005年夏の英国ロンドンの地下鉄テロだ。私たちは現地のブロガーからの速報を使い、トップ記事から周辺雑観まで刻々と書き換えていった。翌朝、各紙朝刊の紙面を開くと1面はやはりロンドンの写真。ただし五輪開催地決定にわく市民の姿だった。オンラインジャーナリズムの可能性を確信した瞬間だった。

 成長のカギはソーシャルメディアだ。創設当時はユーチューブが誕生したばかり。フェイスブックはまだ広く世に知られず、ツイッターは存在しなかった。いま人々はツイッター経由でニュースを知り、ユーチューブに動画を投稿し、フェイスブックで交流する。人々と情報やニュースとの関係は、創設から8年で劇的に変わった。

 もう一点、サイトが急成長した背景には、ニュース記事にも私たちの編集方針や考え方を明快に打ち出し、ユーザーと親密な関係性を築いたことがある。こうした点が「自分たちのサイトだ」というユーザーの帰属意識を育て、ブログやコメントの投稿を促したのだろう。

 ただ、メディアを取り巻く環境は変わっても、伝統的メディアが培った事実確認(ファクトチェック)や記事の物語性(ストーリーテリング)などの価値は不変だ。ハフィントン・ポストはジャーナリズムの本質を踏まえ、新たな試みを続ける革新者であり続けるだろう。(聞き手・後藤絵里)

■日本人の声、世界に届けては 政策研究大学院大学アカデミックフェロー・黒川清さん(76歳)

 本国版ハフポストのツイッターをフォローし、興味のある記事を選んで読んでいる。ハフポストは常連の投稿者がいる「Op-Ed」(社外筆者が署名入りで論評するページ)のようなつくりで面白い。どんな人が書いているか、どんな主張を持っているかがはっきりわかり、テーマごとに賛成・反対双方の意見を掲載しているのも良い点だ。

 ユーザー間の議論もとてもオープンだ。議論に参加するユーザーは、建設的な意見を持たなくてはならないという、ある種の社会的責任を負っているようにみえる。ハフポスト日本版も、多くの人がいろんな意見を言いあえるオピニオン構築の場になれば素晴らしい。

 日本版の記事の中から印象的なものを選び、英語で発信してはどうだろう。日本語だけで発信しても世界の1.7%にしか届かない。日本人の声を世界に届けることにも、サイトを立ち上げる意義があるのではないか。(聞き手・宇津宮尚子)

■読者参加型の発信、めざしてほしい 評論家・濱野智史さん(32歳)

 

 若者は今の社会状況に危機感を感じている。匿名で文句だけ言っていても、社会は変わらないこともわかっている。日本版に有益な情報やツールがあれば、信頼性と影響力を持つメディアになれるだろう。ソーシャルメディアで読者とコミュニケーションして記事を作る読者参加型ジャーナリズムを目指してほしい。

 日本のメディア環境も変わっていくだろう。いまは報道機関が取材から編集まですべて担っているが、ソーシャルメディアが力を増せば、ユーザーが記事を作るプロセスから関わるようになる。先月米国で起きたボストン・マラソンのテロでも、ランナーや観客からの投稿が記事の素材となり、警察もツイッターで市民に情報提供を呼びかけた。日本も同じ流れの中にある。日本版の成功はソーシャルメディアに親しみがない人たちをどれだけ巻き込めるかにかかる。主婦や高齢者など、生活情報を多く持つ層の発信を期待したい。(聞き手・千代明弘)

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