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20年も解決できない「少子化問題」―「子育てしやすい国」の条件(1)

2013年05月15日 18時27分 JST | 更新 2014年05月21日 17時46分 JST

■「保育所が足りない!」

 「子育てを家庭ではなく社会のものとして考えよう」

 そんな理想に基づき、日本初の少子化対策「エンゼルプラン」(正式名称は「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」)が、文部・厚生・労働・建設の4省(当時)の大臣の合意で策定されたのは1994年12月のことだった。あれから20年近い歳月が流れた今、テレビや新聞では連日「少子化」や「子育て支援」など、子育てをめぐる諸問題について大きく報じられている。

 時代は変わった。かつて「女性のもの」「家庭の問題」と位置づけられていた「子育て」が、今や日本社会の将来を左右するメインテーマになったのだ。

 しかし、エンゼルプラン当時から課題とされていたことの中には、20年経った現在でも、まだ未解決のまま残されているものも多い。その一つが、今年の2月以来特に大きく報じられている保育所の「待機児童問題」である。安倍首相自身が「成長戦略」の中で、「待機児童解消」について言及しているほど、日本社会の屋台骨を揺るがすほどの大きな問題であると位置づけられている。

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(東京都内などで、保育所に入れない保護者による異議申し立て、いわゆる「保育園一揆」が相次いだ。待機児童は減らないどころか、入所状況はますます悪化してきている)

 「待機児童」とは、一定の水準を満たした「認可保育所」や自治体で補助金を出している保育施設などに申請しても入れない子どものことである。子どもを出産した後で働きたい人、あるいは育児休業を経て職場に復帰したい人たちが、子どもをどこにも預けることができずに困っている。特に首都圏や近畿圏、政令指定都市や中核市などの都市部でこの問題が顕著だ。昨年10月時点で、全国で4万人以上の待機児童がいた。

 筆者自身、第一子を出産した1996年当時、住んでいた自治体の窓口で「どの園にも空きがない」と言われ、申請すらさせてもらえなかった経験がある。当時はまだ育児休業制度も十分ではなかったが、制度があっても利用せずに0歳で入園申請をすれば、なんとか認可保育園に入れることが多かった。大変ではあるが、「産んでしまえばなんとかなる」というのが当時の感覚だった。

(参照:「平成23年版 働く女性の実情」図20)

 

 ところが、もはや「産んでしまえばなんとかなる」とは決して言えない。特にリーマンショックの後、入園事情は急激に悪化している。今年4月に子どもを入園させようと、「保活」と呼ばれる保育園入園のための活動をしてきた杉並区のある母親はこう語る。

 「とにかく妊娠初期からずっと『保活』でした。つわりがひどくても頑張って。杉並区では0歳の時に認可外に6か月預けていれば、入園のためのポイントがつくんです。その認可外の入園予約の申し込みで先着順というところがあったので、つわりで本当に辛い中、朝6時にその園の前に行きました。そうしたらすでに徹夜で並んでいるお父さんがいて……ショックでした」

 

 さらに別の母親が続ける。

 「とにかく4月1日に入園するには、その時点で生後47日を過ぎてなければならないから、なんとしても2月8日までに産まなきゃダメなんです。その辺りが予定日の人は、とにかく歩き回って出産が遅れないように努力したり、中には陣痛促進剤を使って早く出してもらう!と言っていた人もいましたね」

 努力しても、どこにも入れない子どもも出て来る。

 「フルタイムの正社員夫婦でも、認可保育所には全く入れない。認可外も平気で300人待ちなんて言われてしまう。仕事を辞めたら暮らしていけません。いったいどうすればいいのか……」

 

 多くの親たちが途方に暮れる一方で、当の杉並区では、平成24年4月時点での待機児童数を「52名」と発表していた。この52名という数字は東京都内ではきわめて少ない数だが、育休中や認可外に預けている子どもなどが外されていることが、保護者の調査でわかった。杉並区で「待機児童」に相当するのは、①親族が見ているこども、②職場に連れて行っているこどものみ。それが54人という数字で、「保育園に入園できない」という親たちの「体感」とはかけ離れている。そのギャップに対する怒りが、集団による3回に渡る「異議申し立て」という形で示されたのだ。結局、区では待機児童のカウント方法を見直す、と発表した。

 

■増える共働き、男女平等世代

 しかし、多くの人は疑問を抱くのではないだろうか。日本は非常な早さで「少子化」が進んでいる。子どもの数は少なくなっているはずなのに、なぜ保育園に入れない子どもたちが出て来るのだろうか、という疑問だ。

 その理由として、2つの背景があると考えられる。

 1つは不景気のために、共働きを希望する親が増加したことである。平成17年には全国で199万3796人だった利用者が、平成24年には217万6802人。実に7年間で18万人も増えている。リーマンショック以降の景気の悪化とともに、特に平成17年以降からは保育園を利用する子どもの数が急増している。保育園の定員数は毎年2〜3万人の規模で増やしているのだが、希望者はそれを上回って増えているので、待機児童は減らない。

 さらに、もう一つの背景はライフスタイルの変化である。夫婦がそれぞれ非正規雇用であるといった経済的な側面もあるだろうが、それ以前に家庭課男女必修(中学校では93年、高校では94年に実施)世代がまさに子育て世代になり、育児も家事も分当たり前に分担する時代になったのではないか。また出産で退職する女性の割合は依然として高いものの、育児休暇を利用して復職した人の数は格段に増えている。育児休暇を取りつつ、夫婦で共働きを続けるというライフスタイルが浸透しつつあると言えるだろう。

(参照:「平成23年版 働く女性の実情」図10)

 平成24年現在、就学前人口(0〜5歳)のうち、保育所を利用している子どもの割合(保育所利用率)は、34.2%である。これは今後さらに伸び、最終的には40%以上にまでなるのではないかと考えられる。

 都市部では保育園が足りない一方、地方では少子化以上に「過疎化」が進み、自治体で1カ所の保育施設しかない、といったところも増えてきている。待機児童解消は重要だが、本格的な少子化が進む地域のこともきちんと考えていかなければならないはずだ。また、家庭で子どもを育てている世帯に対する支援も必要になっている。

 少子化の時代に、日本の子育てをどうすればいいのだろう? 規制緩和、幼保一体化、子ども・子育て支援法などによる保育新制度……等々、さまざまな解決案や政策があがってきている。

 次回からは、さまざまな事例に基づき、「よりよい日本の子育て」についてさぐっていきたい。

【ジャーナリスト、東京都市大学客員准教授 猪熊弘子】

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 連載「『子育てしやすい国』の条件」では、20年に及ぼうとする日本の少子化問題をリポート。待機児童問題、家庭と子育ての両立など、国や自治体、そして私たちは何をするべきなのか。その解決への糸口を考えてゆきたいと思っています。「『子育てしやすい国』の条件」はこちらから読めます。

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