出生前診断で訴訟、裁判所の判断が注目される理由

出生前診断の結果を逆に伝え、両親が病院を訴えたというニュースが報じられている。妊娠時の羊水検査が陽性だったにもかかわらず、陰性と伝えてしまったということだ。この裁判の結果が、4月から始まった血液検査による新しい出生前診断の今後のありかたにも関わってくるのではないかという懸念がある…
足成

出生前診断の結果を逆に伝え、両親が病院を訴えたというニュースが報じられている。妊娠時の羊水検査が陽性だったにもかかわらず、陰性と伝えてしまったということだ。この裁判の結果が、4月から始まった血液検査による新しい出生前診断の今後のありかたにも関わってくるのではないかという懸念がある。

出生前診断は、胎児障害の有無を調べるものだが、妊婦の羊水や血液からのDNAを調べるものや、超音波検査などいくつかの種類がある。これまでは、妊婦の腹部に太い針を刺し、羊水を採って調べるものが主流であったが、4月1日から血液検査での診断が認められるようになっている。この新しい血液検査では、10週以降の妊婦の血液を採取して行い、ダウン症など3種類の染色体異常を調べるもので、自己負担の費用は約21万円かかるが、陰性の的中率は99%だ。しかし、陽性の的中率は年齢でも差があるが、35才以上だと、約80~95%程度(検査結果で陽性と出ても、5%~20%が実際は陰性(偽陽性))という。ただし、35歳以上の高齢妊娠や、超音波検査などで胎児に染色体異常が疑われる妊婦に限っての実施とされていた。

11日に朝日新聞が報じたところによると、血液検査による診断は、既に400件以上の行われているとされる。

妊婦の血液で胎児の染色体異常がわかる新型出生前診断が15施設で441件行われ、結果が出たうちの9件(3・5%)が陽性だった。受けた妊婦の平均年齢は38・5歳だった。

朝日新聞デジタル 2013年5月11日)

ここで問題になるのは、母体保護法は障害を理由とする中絶を認めていないという点である。弁護士ドットコムが報じるところによると、「染色体に異常があった胎児」を法的に中絶してよいかどうかという根拠の有無について、東川昇弁護士は下記のように述べたという。

「母体保護法14条1項1号は、『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある』場合には、指定医師が、『本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる』と定めています。これが拡張的に運用されてきたために、人工妊娠中絶の件数は飛躍的に増加してきたといえます」

このように述べたうえで、次のように続ける。

「この条文の定める要件の有無の判断は、人工妊娠中絶をなしうる指定医師に委ねられています。そのため、堕胎罪の取締りは実際にはほとんど行われないようになり、その結果、現在のわが国では、堕胎罪は事実上『非犯罪』化されたともいいうる状況にあります」

弁護士ドットコム 2013年04月15日 16時50分)

妊娠中絶の増加など「命の選別」につながりかねないという議論が起こっていた出生前診断。医療現場での条文解釈によって対応がされているのが現状だが、裁判所がこれをどう判断するのか。注目が集まる。

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