アベノミクスの副作用で住宅ローン金利が上昇?日銀の質的・量的緩和が原因か

住宅ローン金利が、一部の大手銀行でまた6月に上がると報じられている。5月の引き上げに続いて、2カ月連続となる。この上昇の理由は、住宅ローン金利が決定される元になる、国債の金利の上昇が原因となっている。そして、債券市場関係者の間では、国債の金利の上昇はアベノミクスの副作用であるとする声が上がっている。どいういうことなのか…
時事通信社

住宅ローン金利が、一部の大手銀行でまた6月に上がると報じられている。5月の引き上げに続いて、2カ月連続となる。この上昇の理由は、住宅ローン金利が決定される元になる、国債の金利の上昇が原因となっている。

そして、債券市場関係者の間では、国債の金利の上昇はアベノミクスの副作用であるとする声が上がっている。どいういうことなのか。

デフレ脱却を目指すアベノミクスには「1.大胆な金融政策」「2.機動的な財政政策」「3.民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢がある。3本の矢は一気に放たれるわけではなく、まず第1の矢として、「大胆な金融政策」の矢が放たれた。この「大胆な金融政策」が、今回ニュースとなっている住宅ローンの値上がりという副作用ではないかと言われている。

「大胆な金融政策」としてまず行われたのが、安倍政権と日本銀行との共同声明の発表であった。その後、日銀総裁の黒田東彦総裁は、4月4日に「量的・質的金融緩和」を発表する。これが金利の上昇をまねくことになった。

一般的に、金融緩和とは、日本銀行が民間銀行を通じて世間に出回るお金を増やす政策のことである。具体的には、「日銀から民間銀行等に貸し出す金利を下げる」、「日銀が民間銀行等から国債などを買い取る量(買い入れる量)を増やす=銀行に払う出すお金を増やす」、「民間銀行等から買い取る事ができる資産の種類を増やす」などの対応がある。

日銀の「量的・質的金融緩和」には、「民間銀行等から国債などの買い取る量(買い入れる量)を増やす」という内容と、「民間銀行等から買い取る事ができる資産の種類(質)を増やす」の2つが掲げられた。

具体的には、「量」の点では日銀が供給するお金の量を表すマネタリーベースで目標を設定、2012年末は138兆円だったものを、2013年末には200兆円、2014年末には270兆円と、年間約60~70兆円のペースで約2倍に増やす計画である。

また、「質」の点からは、日銀が買い取る国債の種類や、株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)を買い取るようにする。

これらの政策により、日銀が国債を買い入れる→市中に出回る国債の量が減る→国債の価格が上がる→国債の利率は変わらないので国債利回りが悪くなる→金利が下がるというふうになるだろうということが予想されていた。金利が下がると、設備投資のために銀行等からお金を借りる企業が増え、景気が良くなるという考え方だ。

しかし、ここで、日銀の行動を先読みした金融機関が出てきた。保有している国債の利回りが下がるのであれば、持っていてもしょうがないから、売ってしまおうというのがその理由だ。

一般的に、固定金利の住宅ローンの金利の決定には10年物国債の金利が使われ、変動金利の場合には短期プライムレートが利用される。ロイターは日銀の10年物国債などの長期債の買い入れについて、「流動性の低い年限10年超の超長期債の買い入れを日銀が従来の月1000億円から8000億円と大幅に増やしたことも、超長期債の運用益減少につながれば生命保険など機関投資家が超長期債購入を手控えかねないとの思惑」が金利上昇要因となったと報じている。

日銀の思惑とは逆に、国債を売る→国債が出まわるため国債の価格が下がる→国債の利率は変わらないので国債利回りが上がる→そのため、金利も上がるという動きになった。

また、日銀による長期国債の買い入れが増えても、これまで取引があった短期国債の買い入れは減るのではないかとの思惑が市場に広がったこともあり、短期国債を売る量が減り、短期国債も金利が上がってしまった。このような自体から、債券市場は乱高下となり、東京証券取引所で売買を一時停止するサーキットブレーカーも発動され、金利は乱高下を繰り返すことになった。

この結果、金利の先行きが不透明な状態では買えないとして、国債の購入が減る。ボストン・マラソンでの連続爆発事件もあり、海外からの参加者もリスクを回避する志向が強まったこともある。

金利の上昇を受け、住宅ローンの金利も上昇。大手銀行による5月の住宅ローン金利の引き上げについて、朝日新聞デジタルでは下記のように報じた。

国内の大手銀行は5月から、住宅ローン金利をそろって引き上げる。期間10年の固定金利ローンの場合、0・05%幅高い年1・40%(最優遇金利)となり、昨年10月以来7カ月ぶりの高さになる。

(朝日新聞デジタル「住宅ローン金利、4カ月ぶり上昇 日銀の思惑とは逆に」より。 2013年04月30日21時40分)

金利の上昇に対し、日銀は国債の買い入れオペを敢行。しかし金利の上昇は抑えられず、6月の住宅ローン金利の引き上げも決まった。朝日新聞デジタルは次のように報じている。

長期金利の指標となっている「10年物国債」の流通利回りは4月末時点では、年0・6%程度だったが、足もとでは0・9%程度に上がった。このため、三菱東京UFJとみずほは、6月初めから適用する住宅ローン金利を引き上げる方針だ。ただ、「0・10%幅にするか0・20%幅にするかはまだ決めていない」(大手銀幹部)といい、最終調整中だ。三井住友銀行も引き上げを検討している。

朝日新聞デジタル「来月分の住宅ローン金利、引き上げ 大手行、2カ月連続」より。 2013/5/30)

このような金利の上昇を受けて、住宅ローンの借り換えを相談する動きが強まっている。北國新聞では、北國銀行の広報CSR課の話として、下記のように報じている。

「相談に来られるお客さんは増えてきている。借り換えたいという方もあった」。長期固定金利型住宅ローン「フラット35」を取り扱う住宅金融支援機構北陸支店の開元健二郎支店長は、将来の金利上昇リスクを嫌って長期固定型の住宅ローンを検討する人が増えてきたと見立てる。

(北國新聞「借り換えの動き 北陸の住宅ローン」より。 2013/5/28 02:11)

国債の金利の上昇に対し、日銀の黒田総裁は24日午後の衆議院財務金融委員会で、次のように述べたとロイターが書いている。

黒田総裁は「長期金利は景気・物価への期待で決まる部分とリスクプレミアム部分で決まってくるが、後者は日銀が年間50兆円を買い入れるオペが進むにつれ圧縮が強まるとみており、したがって長期金利が跳ね上がるとはみていない」と答えた。

(ロイター「UPDATE 1-長期金利跳ね上がるとはみていない、ボラティリティ拡大おさめたい=日銀総裁」より。 2013/05/24 14:01)

また日銀は29日、市場関係者との懇談会を開き、これまでの国債の買い入れ方法を見直す検討を行っている。

日銀が29日開催した3回目の市場参加者との会合で、国債の買い取り方針について「より頻繁に、より小分けに買った方がいい」との意見が多かったことに対応する。具体的には、これまで財政ファイナンスと受け止められないとの理由から見送ってきた流動性供給日の同日通告を検討する。

(ロイター「長期国債買い入れ日、さらに増やす検討へ=市場懇踏まえ日銀」より。 2013年 05月 29日 19:39)

この結果、30日の債券市場は反発した。

ではこれからの金利の動きはどのようになるのか。zakzakでは高橋洋一氏が下記のように述べている。

はっきりいえば、この程度の変動は「市場もの」には常にあることだ。思わぬ市場変動によって、借入月の違いで金利が高くなったり低くなったりするレベルの話だ。この程度の話を大げさに書いた新聞記事もあったが、住宅ローンのこれまでの変動を調べれば、この程度の話は大したことがないことがわかる。

(zakzak「住宅ローン金利は「変動」と「固定」どちらがいいのか?」2013.05.12)

とはいえ、今後も日銀の国債買い入れは進むだろう。黒田総裁は、30日の参議院財政金融委員会で、上昇基調にある長期金利の動向について下記のように述べている。

黒田総裁は、足元の金利動向について「イールドカーブは全体として緩やかな右肩上がり」とし、長めの金利に上昇圧力がかかっていると指摘した。そのうえで長期金利の構成要素として、先行きの経済・物価見通しと債券保有に伴うリスクプレミアムを挙げ、「日銀による巨額な国債買い入れはリスクプレミアムの圧縮効果がある。買い入れが進むにつれて、この効果は強まっていく」と述べた。

(ロイター「長期金利に強力に低下圧力加える、変動率の高まり放置せず=日銀総裁」 2013/05/30 12:14)

アベノミクスの第1の矢で、カンフル剤が聞いたかのように見えた日本市場だが、日経平均株価の下落等もあり、大丈夫なのかとの声も聞こえてくる。日銀の質的・量的緩和は今後どのように行われるのか。日々の金利の動きなども合わせて確認すると良いだろう。

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