憲法に「家族の助け合い」を入れるべきか?自民党改憲草案に河野太郎議員が反論

13日に開かれた衆院憲法審査会で、自民党の河野太郎氏は、同党が提出した憲法改正草案に対し異論を唱えた。憲法に「家族の助け合い」や「道徳」を書き込むべきではないという。「家族は助け合うべきであるということは道徳的に正しい。しかし、これを憲法に盛り込むことは違うのではないか」という主張である…
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13日に開かれた衆院憲法審査会で、自民党の河野太郎氏は、同党が提出した憲法改正草案に対し異論を唱えた。憲法に「家族の助け合い」や「道徳」を書き込むべきではないという。「家族は助け合うべきであるということは道徳的に正しい。しかし、これを憲法に盛り込むことは違うのではないか」という主張である。

自民党は、昨年4月、憲法改正草案を発表している。この草案の中で家族に関する記述は3点あるが、河野議員が問題にしているのは前文と、第24条であると思われる。

(前文)部分

日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。

(家族、婚姻等に関する基本原則)

第二十四条家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。

(自由民主党「日本国憲法改正草案(全文)」より。2012/4/27)

河野氏は、審査会の中で下記のように発言している。

「2つ申し上げたいと思います。

多くの国民が歴史を通じて、憲法という手段を持って、政府あるいは国家の権力に多がをはめてきたということを考えれば、憲法の名を借りて、国民の権利を制限したり、義務を貸したりしたりすることは、今の日本においては、ふさわしくないと思います。

現在の憲法でも、教育ですとか、納税ですとか、勤労ですとか、国民の義務と称されるものは確かにございます。

しかしそれで十分であって、それ以上のことを、憲法改正の名を借りて、国民の権利を制限するような方向に安易に行くことには、断固反対を申し上げたいと思います。

2つ目に家族が助け合うというのは、個人的には私も賛成でございます。しかしそれは道徳であって、道徳を憲法の中に持ち込むべきではないと思います。

何年か前に、私も、肝臓を切って、親父の命を助けました。いいことをしたと私は思っておりますけれども、いろいろな環境を考えれば、それが出来る人もいれば、出来ない人もいる。やれるならやるべきだという人もいれば、やるべきでないという環境の方もいらっしゃる。そういうことを考えれば、家族を助け合うというのは確かに私はそうあるべきだろうとは思いますけれども、そういうことを、国家の最高法規である憲法の中で定義をするというのは少し違うのではないか、むしろ道徳は、それぞれ個人に任せられるべきものであって、多くの人間がそういうことを信じているならば、それはその国の多くの国民が信じる道徳になるでありましょうし、しかし、全て、例外なくそうしなければいけないという道徳を、憲法の中に書き込むべきではないと思います。」

これに対し、自民党の衛藤征士郎氏は、下記のように発言。

「河野太郎議員がおる時に発言したかったんですけれど。

私ども自民党は、憲法に、家族を守る義務というものを書き込むという方向なんですね。河野太郎議員は、そういうことを書くことはなにか憲法が、国民を押さえつけるとか、憲法が国民を拘束するとか、縛るとか、そういう観念が非常に強いのではないかと思うんですが、憲法というのはそういうものではなくて、憲法は国民を救済する、国民を守るというのが憲法そのものであって、考え方がちょっと違うのではないかなと、私はあえて、発言しておきたいと思います。」

よく勘違いされることがあるが、近代的な立法主義においては、憲法とは、「国家から国民を守るもの」とされている。そのため、河野議員は、憲法に家族に関する文言を明記することが、国民の権利を侵害すると考えているようだ。

また、衛藤議員の発言を受けた、日本維新の会の西野弘一議員は次のように発言した。

「今のまさに衛藤先生と私も同感でございまして、私も憲法に家族を守るとか、家族という価値観をしっかり書き込むべきだと思っています。これは例えば、婚姻制度であったり、家族を大事にするという価値観も、国民の普遍的なものでありまして、むしろそれを、国家権力によって、例えば夫婦別姓のような法律ができたりして、こういう日本の家族という価値観を根底から覆すような法律を国家権力は作らないように、国に対して家族という価値観をしっかり守れという意味で、書き込むことは大事だと思っております。」

自民党の土屋正忠氏は、価値観を憲法に記すことについて、下記のように発言している。

「今まで議論された中に、それぞれの国民が生きる価値観のようなものと、憲法との緊張関係が議論されているわけであります。前に、各国の憲法を衆議院法制局に調べていただいただいた時に、前文が書かれたのが、その時点で調べられた範囲で59。そして、その前文の中に、神に言及したものが20、ありました。イスラム教国などはみんなそのような形をとっております。キリスト教もそうであります。

さらに、中国の憲法の前文のように、孫文、毛沢東、マルクス、レーニン、こういう個人名まで入れて、記された憲法もあるわけであります。必ずその国の成り立ちを担う、歴史なり、価値観が反映されている憲法が多いわけであります。

一神教の国々と、我が国との違いというものが、私たちの心理や、背景にあると思います。宗教裁判所があり、宗教法が有り、それに従って生きていく、その上で、世俗の憲法がある。こういう国と、我々のような国とは、成り立ちが違うわけですから、どこまで共通の、国民が同意できる価値観を書き込むかというところは、憲法上、なんら否定されるべきものではないと思います。どういう価値観を書き込むかという点については、議論をしていけばいいと思います。つまり私が申し上げたいのは、立法がある国、ラビのいる国、宗教裁判所がある国と、日本国の違いといったものがあるんではないでしょうか。そのことを、法意識の前提として申し上げたいと思います。」

憲法に価値観に盛り込むことについては、5月16日の衆院憲法審査会で、前文に「日本らしさ」を盛り込むべきかどうかという点に触れた。産経新聞では、前文に日本の歴史、伝統、文化、価値観を明記することに前向きの自民党・日本維新の会・みんなの党の議員の意見として、次のように報じている。

(現在の憲法の)前文が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」としていることについて、自民党の保岡興治氏は「ユートピア的発想による自衛権の放棄にほかならない」と強調。維新の伊東信久氏も「他国に自国の生存を委ねる趣旨を改め、国家の自立を目指す趣旨に基本骨格を改正すべきだ」、みんなの小池政就氏も「理想主義的観点が強すぎる印象が残る」などと同調した。

(産経ニュース「民主党と共産党以外は前文改正必要、憲法尊重義務は自民以外反対」より。2013/5/16 22:28

5月16日の会議では、民主党の三日月大造氏は、国民に特定の歴史観や価値観を強要することになると発言している。

なお、現行の日本国憲法の第24条にも家族に関する記述がある。

第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

(日本国憲法より)

実は、日本国憲法の原案は別のものだったと、産経ニュースは報じている。

現憲法の男女平等に関する条項の原案を書いたベアテ・シロタ・ゴードン氏が亡くなった。彼女は「家族は人類社会の基底にして其(そ)の伝統は善(よ)かれ悪(あ)しかれ国民に浸透す…」とする家族条項をGHQ案に書いたが、法文の形になじまないとして日本側が削除した経緯がある。

(産経ニュース「家族尊重で少子化克服 自立と共助の国民に」より。 2013/4/29 08:07)

産経新聞は4月、「国民の憲法」を提案した。この中で、家族の条項を盛りこんだ。少子化や、親が死んでいることを隠しての年金受け取り事件などを受けて、日本人は家族をもっと大切なものだととらえ直すべきだという理由からである。その内容は、自民党の日本国憲法改正草案と似ている点もある。

第二三条(家族の尊重および保護、婚姻の自由) 家族は、社会の自然的かつ基礎的単位として尊重され、国および社会の保護を受ける。

2 家族は、互いに扶助し、健全な家庭を築くよう努めなければならない。

3 婚姻は、両性の合意に基づく。夫婦は、同等の権利を有し、相互に協力しなければならない。

(産経新聞「国民の憲法」より)

では、「家族の助けあい」を憲法に記すと、何か不具合があるのか。森永卓郎氏は、NEWSポストセブンで下記のように書いている。

要するに、生活保護や年金などの社会保障を国に求めず、家族が面倒をみろと明言しているのだ。

自民党は高校の無償化や高速道路の無料化、子ども手当(児童手当)の削減を検討しており、今後、家庭負担の大幅増が見込まれる。この改正案には、憲法を改正したら社会保障をバッサリ切る狙いが隠されている。

(NEWSポスト「森永卓郎氏 安倍自民の憲法改正案は生活保護や年金削る狙い」より。 2013.01.13 16:00)

この発言には、考え過ぎとする意見もある。現行の日本国憲法の第25条では、「国民の生存権、国の社会保障的義務」に関することが記されているからである。

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(日本国憲法より)

「今の日本の憲法には、「家族の助け合い」を盛り込むべきであろうか。」

そのただ1点だけでも複雑に絡み合った議論になる。

あなたは憲法に「家族の助け合い」を盛り込むべきだと思いますか?コメントで考えをお聞かせください。

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