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関西の景気に出遅れ感、理由は?【争点:アベノミクス】

2013年07月14日 19時16分 JST
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OSAKA, JAPAN - FEBRUARY 06: General view at Dotonbori in Osaka on February 6, 2013 in Osaka, Japan. A recent servey shows Tokyo as the most expensive city in the world and Osaka ranked second. (Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images)

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国内総生産の2割弱を占める関西経済は、円安効果などで回復基調にあるものの、輸入品の値上がりでコストが増加し、中堅・中小企業の利益をひっ迫する恐れがある。

関西電力<9503.T>が値上げに踏み切った電気料金の負担も、企業と家計に重くのしかかる。首都圏に比べ中小企業のウエートが高い関西経済が直面する苦悩は、アベノミクス効果にわく首都圏や中部圏とは違った日本経済の断面を浮き上がらせている。

日銀が4日に発表した地域経済報告では、全9地域のうち東北を除く8地域の景気情勢が、前回(4月)と比較し上方修正となった。好調な自動車産業の恩恵が比較的少ない近畿地域も「緩やかに持ち直している」と、4月から上方修正された。

ただ、「持ち直している」となった関東甲信越、東海に比べ幾分、出遅れた印象が否めない。日銀の櫛田誠希・大阪支店長(理事)は4日の会見で、中国向けの輸出は弱く、先行きは慎重な見方が多いと指摘した。

<再建シナリオに影>

「鋼材の需要が強くない。値段が思うように上げられない」──。経営再建中の国内電炉大手、中山製鋼所<5408.T>の森田俊一社長は、苦渋に満ちた表情で話す。電気を大量に使う電炉各社にとって、今年4月の関電による電気料金の値上げが経営に及ぼす影響は大きい。同社の場合、電気コストは3月に比べ30%上昇したという。

同社は2013年3月期に4期連続の営業赤字を計上し、債務超過に陥った。取引金融機関による債権放棄などで、財務体質の健全化を図り、今期の営業・経常黒字化を目指す。

一方、主力の建築用鋼材は、東北地方での復興需要が遅れたことで需要が伸びず、顧客への価格転嫁は一筋縄にはいかない。

黒字確保には数十項目に及ぶ利益改善策の着実な実行が求められている。電気料金の価格転嫁が進まない状況が続けば、再建のシナリオに狂いが生じかねない。「値段が上がらない場合でも、影響を抑える努力はしなければならない」(森田社長)と、徹底したコストダウンに取り組みつつ、安倍政権が掲げる国土強靭化策に伴った鋼材需要の拡大に望みをかける。

<設備投資に踏み切れない>

中小企業庁によると、大阪府内の常勤雇用者・従業者のうち、中小企業の勤務者数は全体の約62%に上る(09年時点)。東京都の約36%を大きく上回る水準だ。また、2010年の製造品出荷額等における中小事業所の割合は約58%。国内の景気動向に大きく左右されがちな中小企業の業況が、大阪をはじめとする関西経済に及ぼす影響は決して小さくない。

大阪湾周辺に拠点を構える中堅冷蔵倉庫業者のフリゴ(大阪市此花区)は、関電による電気料金の値上げを機に、取引先に対し倉庫保管料の価格改定を要請した。大掛かりな値上げはオイルショック以来、約40年ぶりになるという。

同社の倉庫業務における電気代は年5000万円程度増加する見通し。「これだけ大きな値上げになると、自助努力では難しい」と、西願廣行社長(日本冷蔵倉庫協会副会長)は苦しい胸の内を明かす。

追い打ちをかけるのが、食材などの輸入元となる中国経済の動向だ。現地では人件費高騰で食品加工工場を閉鎖する動きが相次ぎ、品目によって供給がタイトになっているという。

一方で急激な円高是正を背景に、日本国内の取引先は輸入食材の調達を抑えるようになり、同社の倉庫保管収入は伸び悩みを見せ始めている。

国内の人口が減少し、食品需要の増加が見込めない中で、中小冷蔵倉庫業者が設備投資に踏み切るには困難な状況にある。冷蔵倉庫の築年数は業界平均で30年だが、多くの企業はすでに償却期間を超えて運用しているのが現実。「各社、設備の更新をしたら真っ赤になることを分かっている。借り入れの金利負担に耐えられない」(西願社長)という。

<中小のコスト転嫁は困難>

円安・株高を背景に関西に本社を置く大手各社は、軒並み業績回復を予想する。農機大手のクボタ<6326.T>、空調首位のダイキン工業<6367.T>、電子部品大手の村田製作所<6981.OS>などは海外需要の増加などで、今期は大幅な営業増益となる見通し。前期に巨額の最終赤字を計上したパナソニック<6752.T>、シャープ<6753.T>など電機大手も業績回復を見込む。

対照的に経営体力の乏しい中小企業に対する「アベノミクス」の波及には、時間がかかりそうだ。大阪信用金庫(同天王寺区)が取引先1796社を対象に6月上旬に実施した特別調査(回答率67.8%)によると、アベノミクス効果について「ほとんど影響はない」と回答した企業が62.1%に上った。

関西財界のシンクタンク、アジア太平洋研究所(同北区)の稲田義久・研究統括は、株高と円安は企業や消費者の「センチメントの改善に寄与する」と指摘する。

他方、中小企業には円安によるコストアップを「価格に転嫁しにくい」という構造があると述べる。そのうえで「設備投資に動くには、企業側が(収益拡大に対する)確証を得られない状況にある」とし、持続的な経済成長を達成するには解決すべき課題が多いと見る。

<投資・消費マインド好転できるか>

日経平均<.N225>が1000円以上値下がりした5月23日の夜、「街の中は本当に深閑としていた」と、大阪商工会議所副会頭の小嶋淳司・がんこフードサービス(同淀川区)会長は語った。小嶋副会頭が足を運んだ大阪の二大繁華街であるキタとミナミでは、株価下落の影響をまともに受けて客足がサーと引いていくのを肌で感じ、消費は繊細なものだとの思いを強くしたという。

関電によると、今年8月の家庭用電気料金は平均モデルで7691円。基本料金の値上げに加え、円安、原油高を背景にした燃料費調整の加算分の影響で、昨年8月比で781円の負担増となる。

特に影響が大きいのは低所得者層だ。大阪市立大学大学院の福原宏幸教授(労働経済論・社会政策)は、専門性を持たない労働者の雇用環境は厳しい状況にあるとし、低賃金を強いられる非正規雇用者に対して、アベノミクスの効果は「あまり波及すると思っていない」と話す。

パナソニック、シャープ、関電といった地元の有力企業が相次いで経営不振に陥ったことから、関西地方の今夏の賞与は全国平均と比較して低い水準になる公算が大きい。消費増税を前に、所得環境の改善が進まなければ、景気回復は一時的なものとなりかねない。

大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働から1年。同原発については、9月中までの運転を事実上容認されたことから、関西のこの夏の電力供給の不安は後退しつつある。

半面、高浜原発3、4号機(同高浜町)など現在、定期点検中の原発の再稼働が進まなければ、関電の財務体質は燃料費負担増の影響でさらに悪化し、電気料金の再値上げに追い込まれる可能性も高まる。出遅れ感の残る関西経済の先には、狭く険しい道が広がっている。

(長田 善行 編集;田巻 一彦)

[大阪 4日 ロイター]