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TPPで著作権保護期間が死後70年に延長か【争点:クール・ジャパン】

2013年07月17日 16時35分 JST | 更新 2014年06月07日 21時54分 JST

TPPで著作権保護期間が「20年延長」?クールジャパンを痛打する「4つの懸念」

著作者の死後50年とされている「著作権の保護期間」が、さらに20年、延長されるかもしれない。日本経済新聞が7月9日、「日本が著作権の保護期間を権利者の死後50年から70年に延長する方針を決めた」と報じたのだ。

TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉では、アメリカが著作権保護期間の延長を求めてくるとみられている。日本がその要求を飲む方針だと伝えられ、ネット上では失望する声があがった。しかし、日経新聞の報道について、TPPを担当する甘利明経済再生担当相は「全部誤報。具体的な協議をしたわけでも、結論を出したわけでもない」と、記者会見で否定しており、まだ決まったとはいえない状況だ。

この著作権保護期間の延長をめぐる問題は、6月末に東京都内で開かれたシンポジウムでも議論されていた。「日本はTPPをどう交渉すべきか ~『死後70年』『非親告罪化』は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?」と題したシンポジウムで、著作権法にくわしい弁護士の福井健策さんや野口祐子さんらが登壇した。このなかで「死後70年問題」がどのように論じられたのか、まとめてみた。

●「プーさん1匹で、JASRAC1つ分」の著作権料

日本の著作権法では、著作権の保護期間は原則として、著作者の死後(法人の場合は公表後)50年とされている。一方、アメリカでは死後70年と20年長い。その背景について、福井弁護士は次のように説明する。

「欧米は1990年代に一律20年延長しましたが、アメリカでは激論が起きました。著作権の保護期間については『ミッキーマウスの著作権が切れそうになると延ばす』ともいわれ、違憲訴訟にまでなったのですが、最高裁では7対2で合憲とされました。このころから、欧米は他国にも保護期間延長を求めるようになりました」

TPP交渉で、アメリカが保護期間の延長を迫ってくると想定されるのには理由がある。アメリカにとって、コンテンツは最大の輸出品目だからだ。福井弁護士は言う。

「2011年のデータで、アメリカが海外から稼いでいる特許と著作権の使用料は、合わせて約9.6兆円だといわれます。2013年の為替レートにすると約12兆円で、農産物・自動車を上回る大変な金額になります」

その象徴が、日本人にもおなじみの『くまのプーさん』なのだという。

「『くまのプーさん』は1926年の作品ですが、こういう古い作品での売り上げが非常に高いんです。数年前のデータで、『プーさん』が全世界で年間に稼ぐ印税が1000億円といわれます。これは、JASRAC(日本音楽著作権協会)が1年間で稼ぐ著作権使用料と同額です。プーさん1匹でJASRAC1個分。すごい額ですよね」

●著作権保護期間の延長がひきおこす「4つの懸念」とは?

クール・ジャパンでコンテンツを国外へも売り出そうとしている日本の場合はどうか。ゲームやアニメといったコンテンツは、諸外国でも広くうけていそうだが・・・。

「日本はおおいにコンテンツで稼ぎたいわけですけど、現実はというと、著作権使用料の国際収支は年間5800億円の赤字です」(福井弁護士)

となると、アメリカの要求を飲んで著作権の保護期間が20年延びた場合、アメリカがさらに稼ぎ、日本は赤字を増やし続ける。そんな事態に陥ることも十分にありそうだ。福井弁護士はこの問題も含め、懸念材料として次の4点をあげる。

「一つは保護期間を延長した場合、著作者の遺族の収入が増えることを期待しているんだろうけれども、はたして増えるのかということ。次は、国際収支問題。そして3つ目は、保護期間を延ばしてしまうと、許可が取れない作品や権利者が見つからない作品が激増し、死蔵作品が増えて、デジタル立国を害するのではないかということ。最後の4つ目は、古い作品に基づく新しい創作、二次創作ができなくなるんじゃないかということです」

つまり、日本にとって、著作権保護期間の延長は必ずしもメリットが大きいとはいえないようなのだが、TPP交渉においては、他の分野が優先される可能性がある。シンポジウムで、野口祐子弁護士は次のような懸念を表明していた。

「私が一番恐れているシナリオは、最後に自民党政権がTPPをまとめようとしたときに、農業が大事だとか自動車が大事だとかといったプライオリティを守るために、知的財産は仕方ないよねと取引材料としてねじ込まれるというものです。これが本当にイヤなんですよね」

TPPにおける著作権保護期間の延長問題は、さながらミッキーマウスやプーさんが日本に「進撃」してくるかのようだ。はたして、著作権に精通した弁護士たちが危惧する「シナリオ」は現実のものとなってしまうのだろうか。日本はいよいよ7月23日から、TPPの交渉に参加する見通しとなっているが、どのように展開していくのか目が離せない。

弁護士ドットコム トピックス編集部

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