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「党派ではなく、政策で政治家を選ぶ」 政治を可視化するメディア「ポリタス」を公開した津田大介さんに聞く 【読解:参院選2013】

2013年07月18日 16時49分 JST | 更新 2013年07月20日 17時54分 JST

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インターネットを選挙活動に活用できる「ネット選挙」解禁後初の参院選投開票日を前に、政党や候補者によるネット発信が盛んになっている。ただ現状、ネットで見られる情報は政治家による発信全体のごく一部に過ぎず、テレビや新聞などオフラインメディアが果たす役割は大きい。ジャーナリストで、メディアアクティビストでもある津田大介さんは、テレビや新聞、雑誌などオフラインメディアを中心に、参院選比例区候補者の発言をオンライン上に掲載し、テーマごとにチェックできるサイト「ポリタス」をこのほど公開した。

トップページには、「憲法」「TPP」「原発」など参院選の争点を、さまざまな大きさの円(バブル)で表示した「バブルチャート」が現れる。バブルの大きさは政治家の発言数に応じており、最大のバブルは「原発再稼働」次が「TPP」「消費税」。逆に「貧困」や「いじめ対策」などのバブルは小さく、政治家の関心の偏りを視覚的に確認できる。各バブルをクリックすれば、そのテーマに関する政治家ごとの発言をチェック可能だ。参院選に合わせてこのサイトを作った理由や、オフラインの発言中心に収集した背景、今後の展望などを、津田さんに聞いた。

■政治家の「党派」ではなく「政策」が分かるサイト

——「ポリタス」を作った理由を教えてください。

僕は「政治報道を政局から政策に」と言い続けていて、政策を解説するメディアを作りたいと昨年から本格的に検討していました。

最初にやろうと思っていたのは、役所の審議会などの情報を解説するメディア。原発や消費者政策などについての行政の審議会に傍聴に行き、議論をリアルタイムに伝え、識者に解説してもらうといったサイトです。でも役所や審議会の数は膨大。定期的に記者を張り付ける必要があり、識者に分析してもらうには編集者も必要で……と考えるとマンパワーや資金が必要です。現状の金銭・人材リソースを考えてやるには、ウィークリーやデイリー更新の政策解説メディアはフルスペックではできないなと。

でも、「政治メディア」の資金を集めたいとメールマガジンを始めていましたので、参院選までに何らかのアウトプットを出さねばと思っていました。安倍晋三氏が首相になった時、ネット選挙運動も解禁される見込みが濃厚になり、どうしようかと考えてたときに思いついたのが「ポリタス」です。

ネット選挙運動が解禁されれば、そのメリットを最大限に生かせるのは、参院選の全国比例区だろうと思っていました。衆院選候補者のサイトを作っても、選挙区を選ばないと使えませんが、参院選の比例区なら、日本全国どこからでも、ネットで見た情報に意味が出てくる。参院選の全国比例区に出馬する候補者の情報を集めたサイトを作ろうと。

日本の政治家は党議拘束が激しく、政治家個人が実現したいと思っている政策と、党の方向性が一致せずに言行不一致になってしまうことがよくあります。とはいえ、昔と比べると、選挙で党派だけを見る人は減っていて、政治家個人の政策を見ている人が増えている。人を見て、政策への思いを知り、有権者が納得して票を入れられる仕組みが必要ではないかと思いました。

参考にしたのは、米紙ニューヨーク・タイムズが去年の大統領選前に公開したデータジャーナリズムサイト「At the National Conventions, the Words They Used」(全国党大会で彼らが使った単語)。民主党や共和党の党大会のスピーチに出てきた単語を、頻出度に応じてバブルチャートにし、それぞれの陣営が何を重視しているかを視覚的に確認できるというものです。共和党はビジネスや成功、小さな政府を強調し、民主党は医療やミドルクラス、大きな政府を目指すんだな——といったことが、ひと目見るだけで分かります。

さらに、バブルをクリックすると、その単語の発言者と発言の詳細が表示され、発言した文脈が分かるようになっているんです。データ分析とWebのインタラクティビティを組み合わせ、ネットならではの見せ方をした新しいジャーナリズムとして分かりやすく、スマートな見せ方だなと感動しました。

■政治家の過去の発言、ネットにはどこにもなかった

——新聞やテレビなど、オフラインの情報をまとめるサイトにしたのはなぜですか?

政治に関する情報はネット上にもあり、候補者や政党へのアンケート結果とユーザーの嗜好をマッチングする「ボートマッチ」のようなサービスもあります。ただ、それだけを見ても選びにくい。候補者名で検索しても、公式サイトにはいいことしか書いていないし。

自分が有権者として知りたいのは、興味のあるジャンルについて、その候補者がこれまで、どういったことを言い、行ってきたかですが、そういう情報がネットにはどこにもないんです。政治家がテレビやシンポジウムでいいことを言っていたり、雑誌でなるほどと思うような発言があっても、一切ネットに出てこない。だから、あらゆるメディアから政治家の演説やスピーチ、政策についての発言を収集しようと考えました。

政治家の発言・演説は著作権法第40条で「公開して行われた政治上の演説」は自由に利用できることが定められています。また、収集している政治家の発言は「どこどこで誰々がこのような発言をした」という事実の伝達に過ぎないので、著作物にはならないという考え方もできる。なので、情報源を明示して集めることにしました。

僕はネットに出ていなかったアナログの情報をデジタル化し、スマートに見せていくという新旧メディアのつなぎ役ですね。サイト構成は、ニューヨーク・タイムズのバブルチャートを参考にして、注目のトピックをバブルにして表示し、クリックするとトピックに関連する発言が表示されるという形にしました。

今回オープンしたポリタスについては、まだ第一段階にも到達していないというか、自分がやりたいことの2割くらいしかできていないので、「メディア」を作ったというよりは、データジャーナリズムの手法を使った1つ作品を作ったという感じですね。

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——発言のデータはどのように集めているのですか?

テレビは、全チャンネル1週間分まるまる録画できるPTP社の地上波全録レコーダー「SPIDER PRO」をここ数年使っていたんですね。SPIDER PROには、出演者と発言のテキストデータを保存する機能があり、二次利用もできるようになっているんです。それを使って政治家の発言をピックアップしています。雑誌は国会図書館に行ってデータを調べ、新聞は新聞社のデータベースサイトから調べています。

——政治家のツイッターやフェイスブックなど、オンラインの情報は載らないのですか?

今後はツイッターやフェイスブック、ブログ、ニコニコ生放送といった情報も収集したいと思っていますが、最優先にはしませんでした。もちろん、これも拾ってはいきたいのですが、データは集めるだけでなく、分類して公開するという一連のプロセスが必要なので単純にものすごく時間がかかるんですね。なので今回は涙を飲んで優先順位を下げています。

ただ、新聞やテレビ、雑誌で発言された「オフライン」の政治家発言は今までネットで見られなかったものが多いので、ネットで見られることが新鮮で、面白いですね。ああ、ネットで自分が読みたかった政治関連の情報ってこのようにきちんと編集されたオフラインの情報だったんだな、と。それらを網羅的に見られれば、それは必然的に価値が生まれてくるだろうと。

■「バブル」「政策分類」 ジャンル分けの方法は

——政策の分類は、トップページに表示される「バブル」と、メニューからたどる「ジャンル」の2つの分類がありますが、どのようにジャンル分けしたのですか?

バブルは、「原発再稼働」「TPP」「憲法改正」など参院選の争点をピックアップしました。タグのようなもので、すべての発言がバブルとひもづいているわけではありません。政策分類は、参院選の争点かどうかに関わらず、すべての発言をジャンルに分けたものです。

当初、政策のジャンル分けに悩みました。選挙の予測市場の研究などで知られる静岡大学の佐藤哲也准教授に相談したところ、神戸大学の品田裕教授がすでに分類を作っていて、「選挙公約政策データについて」という論文にまとめらているということを教えてもらったんですね。

品田教授の分類は、1996年の総選挙で小選挙区制に変わった後、政治家の発言に変化があったかを可視化するため、政治家の公約を書いたビラを全国から集めて分類記号を付け、定量化してデータ化するという取り組みの中で作られたもので、学術的な裏付けもある。ただ、作られたのが省庁再編前の06年なので、「大蔵」(大蔵省)といった分類があったり、原発やTPPといった新しい論点が拾いにくいところもあったので、実際に神戸大学まで行って品田さんにそのあたりを相談し、一部をアップデートしてカテゴリーを作りました。

——データ収集や分類に、かなりの人手がかかったのでは?

いろんな人の力で実現しました。昨年から僕は東京工業大学でネットジャーナリズムの授業を持っているのですが、昨年度の授業が終了するときにポリタスを作るためのインターンを募集したら何人か応募してくれて、彼らが優れた能力を発揮してくれたおかげで、ポリタスを作れました。東工大生というと、ツイッター廃人みたいなイメージが強いですが(笑)、一人ひとりの学生のポテンシャルはすごいですね。東工大に誘ってもらった池上彰さんに感謝です。

データ収集はツイッターで呼びかけて80人ぐらいのボランティアが協力してくださっています。集めてきた発言を政策ごとに分類する人は、今パートタイマーで5人ぐらい雇っています。これを作ってきた1年でどれだけコストがかかったのかまだきちんと計算してないんですが、正直計算するのが怖いです(笑)。間違いなく1000万円以上はかかっているので……。

——まずスマートフォン版から公開したんですね?

技術者の意見でスマホから作ることにしました。スマホなら投票所でも見られ、投票の参考にしやすいですし。2択の質問に投票できる当社のサイト「ゼゼヒヒ」のアクセスログを見てもスマホからが多く、「スマホだけでもいいんじゃないの?」という意見もあったほどです。PC版も間もなく公開予定です。

——開発にコストがかかっていると思うのですが、収益化の可能性はあるのでしょうか?

ビジネスにはならないでしょう(笑)。無料でネット公開することにもこだわりたいですし。ポリタスは、ニューヨーク・タイムズのデータジャーナリズム、そして、品田教授の公約ビラを全国から集めて分類記号を付けて定量化してデータ化する試み、そして、米国のInternet Archiveがやっているニュース番組全文検索サービスの3つを僕なりに「マッシュアップ」して作ったサービスです。

いろいろなネットサービスや取り組みにインスパイアされ、ネットで集めたいろいろな人の協力を得て作ったものを無料のネットで公開するという「the インターネット」なサービスだと思います。本来ならばこういうデータベースって、新聞社やテレビ局の報道部門が作ってくれればいいんですけど、どこにもなかったからDIYで作ってしまおうということですね。まだまだ完成度は低いですけど、可能性は示せたかなと。そういうサービスを作れてうれしいですし、今後もネットの力を借りながらどんどん発展させていきたいですね。

■全政治家をカバーへ 見た人が行動できるメディアに

——今後の展開や機能追加は?

参院選候補者だけでなく、衆参両院の議員や地方議員、首長などの発言も扱っていきたいです。街頭演説や国会の発言、議事録、YouTubeで公開されている動画のテキストなども公開したいし、ブログやTwitter、Facebookも収集したい。ニコニコ生放送などネット番組の発言も入れたい。「この議員はTwitterでは勇ましいことを言っているけど国会ではおとなしい」ということが分かるところまでやりたいですね。

今週末にもリリース予定のPC版では、Facebookのタイムラインのようなイメージで、発言を過去にさかのぼれるようにしたいと考えています。ある政策に関する発言をさかのぼり、発言のブレが分かったり。ブレを叩きたいのではなく、なぜ変わったんだということが分かるようにたくて。発言の背景を政治家が自ら説明できるような機能も作りたいと思っています。政治家だけが書き込めるコメント欄のような機能ですね。

政府の審議会の内容をリアルタイムに伝えたり、政治家の日々の発言を集めたデータベースを分析して記事を作ったり、政策部会のメンバーのTwitterアカウント一覧をまとめて、政策について意見がある人は直接リプライできるようにしたりとか、個人がネット経由で財源を提供できるクラウドファンディングで、有権者が議員連盟を支援する機能も入れたいです。アイデアは無限にあります。

■政治を動かすには、できるだけ早く騒ぐこと

僕はこれまで、CDの輸入を規制するいわゆる「レコード輸入権」や、違法にアップロードされたコンテンツをそれと知りながらダウンロードすることを規制する「ダウンロード違法化」などに反対してきましたが、結局は導入されてしまったという苦い思い出もあり、政治を動かすにはリアルタイムに、できるだけ速く騒ぐことがとても重要だと痛感しています。

今なら、例えば表現規制や生活保護の縮小など、「この問題について止めたい」と思った時、その政策のバブルをクリックして発言を調べ、主張を分かってくれそうな議員がいれば、フェイスブックやツイッターを通じて陳情するとか、「個人献金ボタン」から個人献金できるようにするとか、発言を見た後に何かできるようなサイトにしたいですね。

有権者の道具としての価値中立性にはこだわっています。有権者だけでなく、マスコミの取材先探しなどのも使ってほしいし、市民メディアのようなものにも役立っていくといいなと。

今回は人をたくさん雇って作りましたが、ずっと続けるのはマンパワー的にも資金的にもきついので、参院選後にいったんデータの更新を止めて凍結します。ポリタスをプレゼン材料にして、お金を出してくれるところやデータのメンテナンスをしてくれるところなど、連携先を探していこうかなと。

自分が全部決定できる思い切ったサービスにするため、最初は全部自分で作ることにこだわりました。インターネットがあったから、数人の会社で、このサービスを短期間で作ることができた。改めてデザインをしてくれた氏デザインさんや、ボランティア、インターン、僕のメルマガ読者、品田裕さん、佐藤哲也さん、東工大と早稲田の教え子たちに感謝したいですね。ネット選挙解禁されて、ツイッターとか見てると頭の痛くなるようなツイートもたくさん見られて「日本のインターネットは残念」とか思わなくもないですが、こういうサービスはネットがなきゃ作れない。やっぱインターネットは最高ですよ。

【フリーライター/IT戦士 岡田有花】

IT専門サイトITmedia News記者、ネットベンチャーnanapi編集者を経て現職。インターネットと人との関わりを中心に取材活動を続ける。著書に「ネットで人生、変わりましたか?」(ソフトバンク クリエイティブ)

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