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利根川進MIT教授、「ニセの記憶」をマウスで再現

2013年07月25日 20時22分 JST | 更新 2013年07月25日 20時23分 JST
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いったん体験した出来事が、思い出す際に異なる内容に置き換わってしまう「誤った記憶」(過誤記憶)ができる過程をマウスで再現したと、米マサチューセッツ工科大教授で、理化学研究所脳科学総合センター長の利根川進氏らのチームが26日付の米科学誌サイエンスに発表した。共同通信が伝えた。

日刊工業新聞によると、脳細胞への光刺激で過去の記憶を思い出させるという手法を応用した。過去の記憶を呼び出している間に嫌悪刺激を与えると、記憶が不正確に再構成される可能性が示唆された。人間が過誤記憶をどのように形成するかを解明する手がかりになるという。

利根川センター長らはこれまでに、特定の記憶に関与しているマウスの脳細胞に光感受性たんぱく質を導入することで、光照射でその記憶を思い出させることができることを発見していた。同手法を使い、マウスに安全な場所の記憶を思い出させながら弱い電気刺激を与えた。すると、マウスは安全な場所で恐怖反応(すくみ)を示すようになり、本来は安全な場所を危険な場所として誤認するようになった。

私たちが過去に起こった一連の出来事を思い出すとき、脳は断片的な記憶を集めてその一連の出来事を再構築する。しかし、記憶を思い出すときに、その一部が変化することがあり、不正確な記憶が思いもよらない影響をもたらすこともある。例えば、米国では、事件捜査にDNA鑑定が導入されたことで冤罪(えんざい)が晴れた250人を調べたら、約75%は誤った目撃証言による被害者だったというデータがある。これは、過誤記憶がもたらした結果といえるが、どのように過誤記憶が起きるかについては明らかにされていなかった。

(独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター「記憶の曖昧さに光をあてる-誤りの記憶を形成できることを、光と遺伝子操作を使って証明-」より)

理化学研究所脳科学総合研究センターによると、今回の実験は、以下のような形で行われた。

実験では、まず、安全な環境であるA箱の環境記憶痕跡(エングラム)をマウスの海馬に形成し光感受性タンパク質で標識しました。次に、このマウスを異なった環境のB箱に入れ、A箱の環境記憶を思い出させるためにこの細胞群に青い光をあて、同時に、マウスが嫌がって恐怖反応(すくみ)を示す弱い電気刺激を足に与えました。すると、電気刺激とA箱のエングラムが結びついて、このマウスはその後安全なA箱に入れてもすくみを示しました。さらに、A箱のエングラムに対応した細胞群を光刺激しただけで、すくみが生じることを発見しました。これにより、安全なA箱のエングラムは、恐怖と一緒になった別のエングラムへと再構成されたことが明らかになりました。

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左:安全な青い箱を記憶した神経細胞を光感受性タンパク質で標識。

中:赤い箱の中で、青い箱の記憶を光刺激で読み出し、足には電気刺激を与える。

右:青い箱に戻すと、怖がる(過誤記憶の証拠)。

記憶を形成する脳の仕組みの解明につながる成果で、チームは「冤罪を生み出す裁判の目撃証言が、いかにあやふやかを示したともいえる」としている

利根川進氏は、1939年名古屋生まれ。京都大学理学部卒。修士課程修了後に渡米し、カリフォルニア大学で博士号を取得。ソーク研究所、バーゼル免疫学研究所を経て、81年からマサチューセッツ工科大学教授。抗体グロブリン分子の多様性が、免疫細胞の分化過程における抗体遺伝子の遺伝子組換えによって実現されることを明らかにし、分子生物学の従来の常識を覆した。その功績によって、84年文化勲章、87年度ノーベル医学生理学賞を受賞。

(コトバンク「利根川進」より)

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