蓬莱島=ひょうたん島のモデルとなった無人島を大槌町が購入へ

井上ひさしさん原作の人形劇『ひょっこりひょうたん島』のモデルの一つといわれる無人島「蓬莱島」を、岩手県の大槌町が購入することになったが、町には様々な問題があるようだ…
時事通信社

井上ひさしさん原作の人形劇『ひょっこりひょうたん島』のモデルの一つといわれる無人島「蓬莱(ほうらい)島」を、岩手県の大槌町が購入することになった。島を所有していた大槌町漁業協同組合が震災の影響で破綻したため。

大槌町は岩手県の南北のほぼ真ん中にあり、街の目の前には大槌湾が広がっている。蓬莱島は大槌湾の沖合300メートルほどのところに位置し、真ん中が窪んだ「ひょうたん」のような形をしている。

「ひょっこりひょうたん島」のような形の島は他にもあるが、大槌町の隣にある釜石市に、井上さんが住んでいたこともあり、また、井上さん作の小説『吉里吉里人』の舞台と同じ「吉里吉里」という地名も大槌町にあることから、蓬莱島が『ひょっこりひょうたん島』のモデルとなったのではないかといわれている。

町の人々も蓬莱島を「ひょうたん島」と呼び、大槌町の防災無線のお昼のチャイムにも、『ひょっこりひょうたん島』のテーマソングが使われている。トヨタのCMで、北野武さんや木村拓哉さんがひょっこりひょうたん島の歌を歌いながらロケをしたのも、大槌町だ。

蓬莱島はかつて防波堤で大槌町とつながっており、島までは歩いて渡ることができた。しかし、東日本大震災の津波で、防波堤も流されてしまった。島の面積もやや小さくなり、灯台は根元から折れ、島のお堂も、鳥居が流された。

漁船が流されるなど大槌町漁業協同組合は負債総額15億5000万円の大きな損害を出し、盛岡地裁に自己破産を申請。蓬莱島の所有権も管財人の手に渡った。産経ニュースによると、地元住民からは「島は町にとって大きな存在。第三者の手に渡ってしまったら、自由に行き来できなくなる」と懸念の声が出ていたという。蓬莱島の評価額は数百万円と見られており、島を購入したいという個人もいたという。

数百万円ならすぐに購入すればどうかと思う人もいるかもしれないが、津波の被害を受けた大槌町の財政は苦しい。町税5億6,931万円を年収569万円の家庭として考えた場合、銀行からは更に402万円を借金し、また、親(国)からの仕送りも3億8,930万円ほどになっている。

地元住民が懸念する第三者の土地取得については、蓬莱島に限らずこれまでも何度も問題視されてきた。震災直後、尾瀬国立公園内の土地を所有者の東京電力が売却するかもしれないというニュースが流れた際、民間シンクタンクの東京財団の平野秀樹さんと吉原祥子さんは、日本の土地売買法制の甘さを指摘し、「グローバル経済の中、結果的になし崩し的な『国土の切り売り』に繋がる可能性も十分にあり得る」との論考を発表している。

安倍首相は、3月27日の参院財政金融委員会や、4月9日の衆院予算員会で土地制度の問題について、固定資産税や安全保障上の課題も踏まえ今後検討する考えを示していると発言していることもあり、今後の法制に注目が集まりそうだ。なお日本には約7,000の無人島がある。無人島売買を手がける会社によると、代々、個人で島を受け継いでる人がいるという。

また、尾瀬のニュースには、誰が自然を守るのかとの声も上がった。毎年約2億円の保全費用負担は、小さくはない。これを経営が悪化した東電が負担できるのかと、心配する内容であった。

現在、管財人の管理下に置かれている蓬莱島も、津波の被害を受けた島のお堂が壊れたまま2年放置された状態だ。町の対応が遅いことに業を煮やした住民らが今年5月に調査を行っている。「赤浜の復興を考える会」のブログによると、修復には「修復の許可が必要か、必要ならばそれは現段階でとれるものなのか、そこから調査してく必要」があるという。大槌町は6月末にやっと、市街地整備に着工したばかりの状況とのことだ(朝日新聞デジタル「(やっぺし)復興は遅れてない?」より。2013/07/06)。

幸いなことに、2日、大槌町が蓬莱島を購入する方針を明らかにした。47NEWSによると、碇川豊町長がこの日の記者会見で「島は震災復興の精神的なシンボル。町民皆さんの財産にしたい」と取得に乗り出す意向を示したとのことだ。

取得のための町内での審議はこれからとなる。蓬莱島も含まれる三陸復興国立公園について、デイリー東北新聞社は「地元住民が三陸復興国立公園の『保護』と『利用』にどう関わっていくかが重要』」と指摘している。厳しい懐事情の中で、蓬莱島をどのように位置づけて活用してゆくかが焦点となる。今の蓬莱島には、日本の土地制度など複雑な問題が凝縮して現れているのではないだろうか。

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