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坂口恭平さん(建築冒険家・作家)インタビュー「すでに革命は起きている」

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KYOHEI SAKAGUCHI
坂口恭平さん(建築冒険家・作家)インタビュー「すでに革命は起きている」 | Kaori Matsumoto
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福島第一原発の事故から間もない2011年5月10日、熊本県で放射能からの避難を呼びかける「新政府」が打ち立てられた。同政府が掲げた政策は、「生存権の死守」。「初代内閣総理大臣」を名乗る建築冒険家・作家の坂口恭平さんは、わずか1か月で100人もの避難者を受け入れた。新政府の活動は多くのメディアで注目を集め、坂口さんは3.11以降の社会を語るうえで欠かせないオピニオンリーダーとなっていく。その坂口さんが今年4月、新政府の終了を突如宣言。設立3年目を目前に、なぜそのような決断を下したのか。そして現在、日本をどう見ているのか――。坂口さんの足跡を振り返りつつ、話を聞いた。

■路上生活者に学んだ「都市の捉え方」

すべての原点は建築だった。大学3年生の時、建築家を志していた坂口さんは、大工仕事の現場を手伝った。建物の基礎工事では、植物が根こそぎ掘り出され、コンクリートが流し込まれていく。その様子を見て、「おかしい」という生理的な違和感を抱いた坂口さんは、「なぜ土地は誰かに所有されているのか」という問題に関心を向けていった。

その過程で出会ったのが、路上生活者たちだ。彼らは土地を所有せず、既存の環境をうまく利用して暮らしている。道端に落ちているダンボール箱を保温性に富んだ機能的な寝具に転用し、拾ったバッテリーを使って冷蔵庫や洗濯機を動かす。坂口さんが出会った「隅田川のエジソン」や「多摩川のロビンソン・クルーソー」をはじめとする路上生活者たちは、都市のゴミを「都市の幸」として再利用していた。

彼らの都市の捉え方は、自分とは異なっている――。坂口さんはここから、独自の考え方に行き着く。「ものごとは無数のレイヤー(層)で構成されている。このようなレイヤーを認識できるかどうかによって、現実は大いに変化する」。路上生活者たちは、こうしたレイヤーを見分ける目を持っているがゆえに、現行の経済システムから独立して生きられるのだ。

どういうことか。一つ例を挙げよう。国有地である河川敷に、住居を作る路上生活者がいる。自治体の許可を得なければ、河川法第26条により罰せられる行為だ。しかし、実は河川法第26条よりも優先されるものがある。それは憲法第25条に記されている「生存権」、お金がなくても生きていける権利だ。法律の体系が持つこうした複数のレイヤーを見抜き、生存権の優位を利用すれば、隅田川や多摩川の河川敷で暮らすことが可能になる。

現実の社会を構成しているレイヤーを認識し、自由な生き方が無数にあることに気付こう――坂口さんはフィールドワークから得た思想を『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(2010年、太田出版)などの著書やトークイベントを通じて訴え、その名を知られるようになる。

■「新政府」という「もうひとつの社会」

そして迎えた2011年3月11日。地震からほどなくして、福島第一原発は放射能漏れ事故を引き起こす。「放射能から逃げるべきだと知りながら、それを言わない政府なんて、もはや政府ではない」。坂口さんはこの事故をきっかけに、現在の日本政府に疑念を抱き、「新しい共同体とは何か」という問題意識のもと、具体的な行動を起こしていく。

2011年5月10日、熊本県中央区内坪井町にある築80年の一戸建てを本拠地に、放射能からの避難を呼びかける「新政府」を設立。「新政府初代内閣総理大臣」を名乗り、「生存権の死守」を掲げて、わずか1か月で100人以上の避難者を受け入れた。

また、みずからの携帯電話の番号を公開し、自殺防止のホットラインを開設。のちに「草餅の電話」と名付けられたこのホットラインには、年間約2000件もの連絡が寄せられるようになる。

さらに「お金がなくても生きられる生活圏を日本各地に作る」という「ゼロ円特区」構想を発表、「Zero Public」というWebサイトを立ち上げ、余っている土地の提供を呼びかけた。

DIY精神に溢れた一連の新政府活動は、クーデター防止のために定められた「内乱罪」に触れるおそれがあった関係で、「芸術」と呼ばれた。坂口さんは2012年、新政府設立に至る思考の過程を『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)という本にまとめ、新政府は3.11以降の社会を考えるうえで重要な試みのひとつとして、注目を集めるようになっていく。

しかし2013年4月15日、坂口さんは突如、「新政府」の活動終了をTwitterで宣言。発足から約2年後のことだった。なぜこのような決断を下したのか。坂口さん自身はその理由をこう説明する。

「本にも書いているように、僕は社会を変えようとしているわけではないんです。今ある環境の中で、考え方を変えてみようと言っている。でも関わる人が多くなってきたら、新政府の活動をいわゆる実体のある『社会運動』と誤解する人が、ものすごく増えてきたんですよ」。

確かに『独立国家のつくりかた』の中で坂口さんは繰り返し、既存の社会を変えるのではなく、社会を見る視点を変えて生き延びろ、と述べている。坂口さんが3.11後の日本で展開した新政府の活動は、社会変革ではなく「もうひとつの社会」を作る、という思考実験だったのだ。

「僕の場合、結局は作品をつくることしかできない。だから『何かを変えることは革命ではない、すでに革命が起きていることを思考の転換によって見つけだせ』とずっと言っているんです」。

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■そして『幻年時代』へ

そんな坂口さんが新政府を終了させて取り組んだのは、なんと小説だった。それが7月20日に発売された『幻年時代』(幻冬舎)だ。この作品では、4歳の坂口さんが母親に手を引かれて幼稚園の入園式に向かう道行きを舞台に、現在に至るまでのさまざまな記憶が交じり合いながら、物語が進行していく。

「そもそも新政府は、3.11の避難者を受け入れたり、福島の子供たちに0円でサマーキャンプを提供したりすることを活動目的にしていたので、社会運動だと思われても、ある程度は仕方なかった。でも、自分では思考停止してしまっているのに、新政府という概念にだけ何かを期待してくる人たちが増えてきて、『ちょっとまずいぞ』って言う。僕はずっと同じことを言っている。『すでに革命は起きている』。じゃあ、ちょっと子供の時のことを思い出してみようぜってことなんです」。

作品のテーマは幼年時代だ。家族というユニットから地域社会への一歩を踏み出す。国家から一転、家族、団地、友人、地域社会など、いくつにも折り重なる共同体のヒダへと潜っていく。しかし、これまでの著作との一貫性がないかというと、そんなことはない。

そこにあるのは、都市に住む路上生活者の住居を「0円ハウス」と呼び、放射能の恐怖から避難してきた人々との共同体を「新政府」と名付けたのと同じ感覚。つまり、既存のものの中に潜んでいる多層のレイヤーを見極め、新たな可能性を見出すこと。それを今回は「記憶」という領域で行っているといえる。

また、作中で描かれる両親のコミュニケーションの食い違いや、家族という原初的な共同体に常につきまとう不安定さは、読者が自分の記憶に引き寄せて読めるような普遍性を獲得している。

「この本は『幼年時代と向き合った作品』なんて言われています。だけど僕は、今までの本でもずっと『子供の時を思い出せ』ということを書いてきたつもりなんです。学習机とイスに毛布をかけて作った家、僕は最近〝巣〟と呼んでいるんですが、それは路上生活者の0円ハウスへと繋がっていく。大事なのはそこに空間を感じられることなんです。子供の時に感じていたあらゆる空間、今回はそれについて記述するのではなくて、文字によって空間そのものを作り出す試みをしています。その空間を通過することで、読者の方が忘れていた感覚を取り戻してくれたら、それは『すでに革命は起きている』ってことの証明ですよ」。

「建築冒険家」として、「新政府初代内閣総理大臣」として、「小説家」として、坂口さんは変わらず思考実験を繰り返し、共同体のあり方を新たな視点から捉え直してきた。果たして次はどこに向かうのか。いずれにしても、また私たちに今までとは異なる世界を見せてくれるに違いない。

▼『幻年時代』(幻冬舎) 坂口恭平

(取材・文:鈴木伊知)

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