「TPPの非親告罪化、児童ポルノ禁止法改定で表現者は萎縮する」【座談会】赤松健さん×福井健策弁護士×日本劇作家協会

日本やアメリカなど12カ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の第19回交渉会合がブルネイで8月30日、最終日を迎えた。TPPの中でも、日本政府が政策として進める「クールジャパン」に大きな影響を与えるのがTPPの知的財産条項だ。アメリカは自国と同じ「保護期間70年」や、著作権侵害を権利者の告訴なしに起訴・処罰できる「非親告罪化」を求めてくると予想されるが、二次創作文化が盛んな日本に馴染むのか議論を呼んでいる。演劇界の第一線のクリエイターらが所属する一般社団法人(東京都杉並区)はこうした背景をふまえ、座談会を開催。福井健策弁護士や漫画家の赤松健さん、同協会会長の坂手洋二さん、劇作家の若手ホープの谷賢一さんらが、表現の自由とは何か、著作権法とは何を守るものなのかを語り合った。、を議論し、最後に児童ポルノ禁止法や法規制の問題点について話した。
猪谷千香

日本やアメリカなど12カ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の第19回交渉会合がブルネイで8月30日、最終日を迎えた。TPPの中でも、日本政府が政策として進める「クールジャパン」に大きな影響を与えるのがTPPの知的財産条項だ。アメリカは自国と同じ「保護期間70年」や、著作権侵害を権利者の告訴なしに起訴・処罰できる「非親告罪化」を求めてくると予想されるが、二次創作文化が盛んな日本に馴染むのか議論を呼んでいる。

演劇界の第一線のクリエイターらが所属する一般社団法人「日本劇作家協会」(東京都杉並区)はこうした背景をふまえ、座談会を開催。福井健策弁護士や漫画家の赤松健さん、同協会会長の坂手洋二さん、劇作家の若手ホープの谷賢一さんらが、表現の自由とは何か、著作権法とは何を守るものなのかを語り合った。TPPによる性表現や政治的表現への影響非営利の上演や二次創作が直面する課題を議論し、最後に児童ポルノ禁止法や法規制の問題点について話した。

■児童ポルノ禁止法改正案問題と表現

福井:少し前に議論になった児童ポルノ禁止法の改定案ですが、その中に漫画とかアニメ表現への規制を検討しようという附則2条が入っていました。児童ポルノ法は元々が非親告罪ですから、ああいうものが入れば第三者が判断することになります。漫画やアニメは、元々がフィクショナルな表現ですから、いわゆる児童虐待の直接の被害者がいないのが特徴です。当然、第三者が判断するしかないんですけれど、そうすると著作権の非親告罪化で第三者が判断するのと似た問題が、実は存在するわけですね。

赤松:そういうもののない世界はきっときれいだろうなと思って規制しようと思ってるんです、規制したい人たちは。そういうことやってると、漫画文化産業自体がどんどん弱くなっていくよ、いいんですかって聞くと、いいって言うんですよ。子供を守るためならいいんだよ、文化なんかなくなってもっていう極論まで言われると、もう話し合いは無理なんです。

福井:まさにエロとかグロとかの歴史で言えば、全く人後に落ちない演劇という場があるわけですけど、フィクショナルな表現を児童ポルノの一種と認定して規制しようってことに対して、お二方はどのように感じますか?

谷:僕はストレートに反対はします。非親告罪化、TPP、児童ポルノ禁止法、全部含めて表現者の側が萎縮したり警戒したりというところが今、すごい気になっています。我々も勉強しなきゃいけないし、何やっていい、何やっちゃいけないっていうことは、自分の良心に照らして考えないといけない。ただ、一律に法律で決めてあるからだめとか、グレーゾーンなくすってことは、本当に萎縮でしかないと思う。

坂手:法律の前に、まず社会自体が判断するような阿吽の呼吸があるんだけど、それに対する信頼がどんどん失われている。演劇は、お客さんや自分が生きている時代や社会に対する信頼の上で成り立ってる。法律っていうのは、その信頼を支えることに意味があると思うんだけど、それを否定するふうに動いてるのは、政府の側がそう判断している。つまり、取り締まる側が自分の考えでやってもいいと。だから、今の自民党の憲法改悪と同じなんだけど、そこに何かおかしさがあると。演劇はライブで、お客さんが見てるでしょ。お客さんがブーイングしたらもう終わりなんですよ。成立しないんです。お客さんを信用してないとできないんですよ。

福井:寝られたら終わりですからね。

坂手:まあいっぱい寝られている現場はありますけどね(笑)

赤松:漫画はそれないわ。ちょっと怖いですね演劇。

坂手:ライブ表現は双方向なんですよ。お客さんが役者の演技を良くする。最初のシーンでうまくいってないと次のシーンでも悪い空気が残ってて、その日の芝居は悪くなる。演劇の持ってるスペシャリティっていうのは、人に対する信頼しかないんですよ。そういう意味では法律っていうものが一番縁遠い。

で、ある意味ネットって、うまくいった時にはそれに近い空気をかもし出してる気がするんですよ。双方向の広場としてのネットっていうものがあって、コミケで実際にライブで会うってことのつながりみたいなことに、僕らがそこまでの規模で演劇を考えたことはないけども、ひょっとしたら僕らがこれから参考にするってことが多々あるのではなかろうかということを思って、今日来てるんですけどね。

(福井健策弁護士)

福井:社会の判断を信頼するというのは、私も表現問題ではかなり本質的なところだと思うんですよ。自分の立場をいっておくと、私は実際の被害者がいる本来の児童ポルノは、つまり実在の児童の写真などは単純所持含めて規制すべきだと思っています。なぜなら被害者がいるからです。これは最も罪深い犯罪、人の人生を奪いかねない犯罪のひとつだと思う。しかし、そのこととフィクショナルなキャラクターを使った表現は大きく異なる。

フィクショナルな表現でも、時にとっても不愉快で悪趣味で、人に悪い影響を与えるかもしれないという意見があります。でも、表現の自由の真骨頂は、何一つ同意できるところのない表現に対して、それを権力によって規制まではしないところにありますよね。なぜかというと、現代の社会は、次世代の社会にとってのその表現の意味や重要性を完全にはかることはできないから、つまり次の社会にとってのゴッホや金子みすずを現代の社会は評価できないから、その遺伝子を次の時代に残すことまでは禁止しちゃいけないと。だから、僕は児童ポルノ法の中にフィクショナルな表現の規制を入れることはやっぱり反対です。

おわり

これまでの記事は、以下になります。

(この座談会の全文は、日本劇作家協会のサイトでも見ることができます)

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