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「はだしのゲン」閲覧制限問題 子供たちが学校で読む本はどうやって選ばれている? 全国学校図書館協議会の森田盛行理事長に聞く

2013年09月09日 16時20分 JST | 更新 2013年09月11日 23時12分 JST
時事通信社

松江市教育委員会が市立小中学校に対し、漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を要請した問題は、大きな反響を呼んだ。日本図書館協会(東京都中央区)は8月22日、松江市教委の措置を「学校図書館の自由な利用が歪む」と懸念を表明。ネット署名サイト「change.org」でも、8月末までに閲覧制限の撤廃を求める署名が2万筆集まった。

こうした動きを受け、松江市教委は8月26日、要請の撤廃を決定したが、この問題ははからずしも学校図書館に目を向けるきっかけとなった。全国学校図書館協議会(SLA、東京都文京区)は9月9日、「はだしのゲン」問題について「『はだしのゲン』の利用制限等に対する声明」とする意見を表明した。学校で子供たちが日常的に触れる本はどのように選ばれ、使われるべきなのか。全国61の各県学校図書館研究団体と協力、学校図書館の発展のためにさまざまな活動を行っているSLAの森田盛行理事長に、そのあり方を聞いた。

■教育委員会による一律の「お願い」は問題

−−今回、SLAでは「この件に関し、教育委員会が各学校の選定した図書を各学校の司書教諭・学校司書などの意見を聞くことなく閉架措置を求めたこと、児童生徒の情報へのアクセス権を考慮しなかったこと、学校図書館の有する機能及び専門性に対する理解が欠如していたことなどに問題があり、深く憂慮するものです」という意見を表明しました。松江市教委は何が問題だったのでしょうか?

森田理事長:事実関係の流れでいきますと、教育委員長をはじめとする教育委員で構成される教育委員会と、それを補佐する事務局がありますが、今回は事務局の判断で子供たちが自由に「はだしのゲン」にアクセスできなくしてしまいました。これを松江市教委が審議、撤回して一件落着となりました。私たちは、学校が選んだ図書を教育委員会の判断により、「この本を置いてはいけない」と学校側が解釈してしまうようなお願いを一律にしてしまったことが問題だと考えます。

どのような本を選ぶかという学校図書館の蔵書構成は、そもそもその学校が決めることです。「はだしのゲン」もある学校では蔵書されているが、隣の学校には置いていないということは多々ありうる。ですから、教育委員会がこの本を必ず置きなさいとか、置くべきではないとか判断すること自体が、非常におかしなものなのです。

−−しかし、小中学校の義務教育は、「国民が共通に身に付けるべき公教育の基礎的部分を、だれもが等しく享受し得るように制度的に保障するものである」と定められています。学校ごとに蔵書構成を決めるということは、「だれもが等しく」という部分と矛盾しないのでしょうか?

森田理事長:たとえば、同じ市内でも海辺の学校と山間地の学校、街中の学校では保護者の仕事や家庭環境が違います。また、地域によっては、昔からの住民が多い学校、新しく入ってきた住民が多い学校もある。保護者の考え方もさまざまで、家庭の背景を背負っている子供もそれぞれです。そうすると当然、学校はひとつひとつ異なり、必要とされる本も違ってきます。さまざまな背景を持った子供たちに一律に同じ本を読ませるということは、マイナスになることもあるのです。

−−では、それぞれの学校で図書はどのように選ばれるのが理想的なのでしょうか?

森田理事長:その学校図書館を使う児童・生徒が必要とする本をまず選ばなければなりません。しかし、高校にもなると農業や金属、木工など分野が専門的で多岐に渡ります。司書教諭や学校司書が一人ですべての本を選ぶことは不可能です。ですから、学校内に「図書選定委員会」を作って、「図書選定基準」に基づいて選ぶのが理想的です。

たとえば中学校だったら、選定委員は学年主任、各教科の代表が一人ずつ、教務主任、研究主任、校長または教頭などの管理職が入ります。学校によっては生徒や保護者の代表が入ることもあります。それぞれ利用する人の意見が反映されるような基準を作って、選んだ本がその基準に合っているかを判断します。最終的には校長が決定して本を購入するというのが、本来あるべきシステムです。

−−そういう理想的な環境の学校もあるかとは思いますが、一方でそこまでの体力や意識がない学校もあるのではないでしょうか?

森田理事長:残念ながら、学校図書館はあまり重視されてこなかった歴史があります。そういう学校では、選書を1人の担当者に任せてしまうこともある。もう少し意識的な学校は、学校の中に図書館部があって数人で選んでいます。

−−そうやって選ばれた図書の中には、「はだしのゲン」のように人によっては残酷と感じる描写が含まれるものもあるのでしょうか?

森田理事長:たとえば、戦争の写真集もありますが、そもそも子供向けの図書には遺体や生々しい写真などは掲載されていません。それはテレビの番組や新聞と同じです。

■どんな本でも子供によって感じ方は違う

−−そうなると今回、問題となった「はだしのゲン」の描写は特殊なケースだったのでしょうか?

森田理事長:「はだしのゲン」については、一部を取り上げるのではなく全10巻をみてその評価をしなければいけないと思っていますが、どのような本でも子供によって感じ方は違います。特に民話を題材にした本は残酷ととられるケースもあります。

−−確かに、よく読まれてきた児童書の「ベロ出しチョンマ」や童話の「かちかち山」も読み方によっては残酷な描写がありますね。「はだしのゲン」に限らず、子供によってはショックを受けるかもしれない本を学校図書館に開架で置く時には何か配慮が必要なのでしょうか?

森田理事長:「この子はこの本を読んだらショックを受けるかもしれない」という子供たちの個性を一番知っているのは、担任の教師です。日本が戦争していたことを知らないような小学一年生が戦争に関する本を初めて読む際には、担任の配慮が必要です。子供たちのアクセス権を侵害するのではなく、担任の教師が学校図書館の司書教諭や学校司書と相談しながら子供の成長に合わせて段階的に本を読ませてゆくことが求められるでしょう。

−−子供たちが人格形成の大事な時期を過ごす小中高の学校図書館ですが、現場でどのような本が選ばれ、どのように読まれているのか、保護者をはじめとする大人たちはあまり意識してこなかったように思います。

森田理事長:今回、「はだしのゲン」問題をきっかけに、学校図書館のあり方を考えて頂ける機会になったと思っています。1953年に「学校図書館法」によって「学校図書館が、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であることにかんがみ、その健全な発達を図り、もつて学校教育を充実することを目的とする」と定められてから60年になります。しかし、残念ながらその理解は矮小化され、学校図書館はただ文学書を読んで心を豊かにするところというイメージが強いです。それも大事なことですが、本来は学習のために使われるもので、現在でしたらウェブやデータベースなどを含めた最新の知的情報環境と子供たちを結びつける役割があります。

また、家庭で本に縁がなかった子供が、公立図書館に行くとも限りません。最も子供たちがアクセスしやすい学校図書館の意義や責任は本当に大きいのです。

■取材を終えて

大人が見過ごしがちだが、子供の健やかな成長のためには大事な学校図書館。その現状とあり方について、どう思いますか?ご意見をお聞かせください。

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