「共謀罪」ではテロは防げない? 落合洋司弁護士が指摘【争点:安全保障】

2020年の東京オリンピック開催決定を受け、政府がテロリスト集団による組織犯罪の未然防止に向けた「共謀罪」創設の検討に入ったというが、共謀罪ではテロは防げないと落合洋司弁護士が指摘している。共謀罪とは一体、どのようなものか。
時事通信社

2020年の東京オリンピック開催決定を受け、政府がテロリスト集団による組織犯罪の未然防止に向けた「共謀罪」創設の検討に入ったというMSN産経ニュースの記事が話題になっている。「『集まった』という理由だけで罪のない一般人まで罪になるのでは?」「思想を処罰することに限りなく等しい」などの声だけでなく、「共謀罪ではテロは防げない」という指摘も出ている。共謀罪とは一体、どのようなものなのか。

今回「共謀罪」創設が検討されるきっかけとなったのは2020年の東京オリンピック開催決定だ。MSN産経ニュースは「共謀罪」創設検討について、次のように報じている。

政府は23日、暴力団やマフィア、テロリスト集団による組織犯罪の未然防止に向けた「共謀罪」を創設するため、組織犯罪処罰法の改正案を来年の通常国会に再提出する検討に入った。国際テロ組織が重大犯罪を実行する前の計画・準備に加担した段階で共謀罪に問えるようにする。国際犯罪を防止するための条約に日本は署名、承認していることや、2020年夏季五輪の東京開催が決定し国際テロ対策の必要性が強まったことなどから、法整備を急ぐことにした。

(MSN産経ニュース「暴力団やテロリスト集団の犯罪対策 「共謀罪」創設法案 通常国会に再提出へ政府検討」より。 2013/09/24 01:37)

共謀罪」とは、「重大な犯罪にあたる行為を『団体の活動』として『組織により』実行しようと共謀すると、実際に行動を起こさなくてもそれだけで罰する」というもの。

アメリカやイギリスなどでは既に法律が存在するが、日本にはない。というのも、実際に犯罪を行わなくても、何らかの犯罪を共謀した段階で検挙・処罰することができるという懸念があり、反対意見が多いためだ。

また、共謀罪の対象とされる「重要な犯罪」が「4年以上の刑を定める犯罪」とあいまいに設定されているという点も、反対理由として出ている。例えば、会社の税金に関する相談をすることや、マンションの建設に反対する運動に関して相談するなどのことが共謀罪にあたるのではないかとの懸念だ。

法務省はこれに対し、「法案の共謀罪は、例えば、暴力団による組織的な殺傷事犯、悪徳商法のような組織的な詐欺事犯、暴力団の縄張り獲得のための暴力事犯の共謀など、組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪を共謀した場合に限って成立する」と説明し、税金に関する相談や、マンションの建設反対運動は対象にならないと表明している。

■「共謀罪」は国際的な義務と法務省は説明

「共謀罪」の議論は、今回が初めてではない。2000年11月15日に国連総会において「国際組織犯罪防止条約」が採択された際も、議論が行われている。

「国際組織犯罪防止条約」が採択された背景には、人身売買や資金洗浄などの国際的な組織反犯罪の急増があった。国際的な組織犯罪には、各国が独自の刑事制度を強化するだけではなく、国際社会全体が協力して取り組むことが不可欠--。そのような認識が高まり、「国際組織犯罪防止条約」が採択された。「重大な犯罪の実行について合意すること、犯罪収益の資金洗浄を行うこと、条約の対象となる犯罪に関する犯罪人引渡手続を迅速に行うよう努め、また、捜査、訴追、及び司法手続において最大限の法律上の援助を相互に与えること」などを規定した内容の条約である。

日本では2003年5月に国際組織犯罪防止条約が国会で「承認」されたものの、最終的な確認・同意する「批准」にまでは至っていない。というのも、この条約には、「共謀罪」の創設が必須となっているのに対して、日本国内ではまだ成立していないことが原因だ。

法務省は「日本は条約に署名したのだから共謀罪を創設する義務がある」としているが、衆議院の解散などもあり、いまだ成立には至っていない。

■そもそも「共謀罪」ではテロは防げない?

これに対し、弁護士の落合洋司さんは、共謀罪が導入されているアメリカで9.11のテロが防げなかったことをひきあいに出し、「共謀罪」ではテロは防げないと指摘する。既に国内には「殺人予備罪」や「銃刀法違反」・「爆発物取締罰則」などがあるため、組織犯罪やテロ対策には、かなりの効果を挙げることが可能と指摘した上で、自身のブログに次のように書いている。

問題は、処罰すべき法令がないから、ということではなく、いかにして事前に情報を収集して生かすか、未然に防止するか、ということで、それは、米国での9・11テロでも、テロ発生後に大きく問題になりました(テロを未然に防止できる情報を得ていながら生かすことができなかったことが明らかになっています)。既に共謀罪が導入されている米国で、9・11テロを防止できず大惨事を引き起こさせてしまったことも想起すべきでしょう。共謀罪があるから組織犯罪やテロが防止できる、という単純な話ではありません。

(落合洋司さんブログ「[話題]暴力団やテロリスト集団の犯罪対策 「共謀罪」創設法案 通常国会に再提出へ政府検討 」より。2013/09/24 17:14)

「共謀罪」の創設は日本に必要だろうか。あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せ下さい。

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