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John Hathwayさんインタビュー「世界よ、これが本当のクール・ジャパンだ!」 クラウドファンディングで達成率1000%超のアキバ系企業

2013年10月02日 16時28分 JST | 更新 2017年08月20日 23時15分 JST
John Hathway

クール・ジャパンの聖地・秋葉原で産声を上げたばかりのベンチャー企業が、ネットで資金を募るアメリカのクラウドファンディング「キックスターター」で目標額の10倍を上回る資金を達成する快進撃を続けている。その企業とは、「JHラボ」(東京都千代田区)。初音ミクのデザインを手がけたKEIさんら日本の最前線ポップカルチャーを紹介する雑誌のプロジェクトを立ち上げ、世界を相手にクール・ジャパンを売り出す戦略という。その中心的なアーティストが、アートと科学が融合する独自の世界を圧倒的な画力で描くJohn Hathwayさん。彼らが目指すのは、"日本発のディズニー"だ−−。

■謎の現象を追い求め、東大大学院で物理学を研究

JHラボがキックスターターで資金を募ったのは、アキバ系雑誌「Akiba Anime Art Magazine」の創刊プロジェクト。KEIさんを始め、ワダアルコさん、藤ちょこさん、またよしさん、月嶋ゆうこさん、はしもとしんさん、HIME+YOUさん、Julie Wataiさんらアニメや漫画、ゲーム、コスプレなどのジャンルで活躍するアーティストが数多く参加している。

8月にこのプロジェクトをキックスターターで立ち上げたところ、必要な4500ドル(約44万円)を48時間で達成。10月13日のキャンペーン期間終了を目前に、約1000人から目標額の10倍以上にあたる47329ドル(約446万円)が集まっている。その9割以上が海外からだった。

数多くの海外の人たちを魅了したJHラボのプロジェクト。その中心を担う作家は、John Hathwayさん。「日本で最も有名なアーティストの一人で、ペンネームはアメリカ人のようだけれど、実は日本人です。英語が話せません!」とキックスターター上で紹介されている、れっきとした日本人だ。

海外でも人気急上昇中のJohn Hathwayさんが描くのは、かわいい女の子。その背景には、自由に宙を飛びながら往来する人々が緻密に描かれている。少し先の未来のようでありながら、どこかレトロで懐かしいこの世界は、「アートと科学のはざま」なのだという。John Hathwayさんは、東京大学大学院物理工学科で量子極限物理学を学んでいたサイエンティストでもあった。

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John Hathwayさんの作品

John Hathwayさんの独自の世界観は、少年時代にまでさかのぼる。科学に興味を覚えていた小学生のころ、UFO研究家の矢追純一さんが紹介していた「ハチソン効果」を知り、強く惹かれた。これは、カナダの発明家だったジョン・ハチソンが、高周波や高電圧を発生させる装置テスラコイルなどを用いて物体が宙に浮かんだと主張したものだった。

「これはやるしかないと思いました」と振り返る。

自分の部屋だった和室を改造して、実験室にした。筑波大学や千葉大学のゴミ捨て場で器具を拾い、アメリカにファックスで部品を注文。テスラコイルなどを使って高電圧で本当に物が浮くのか、実験を繰り返した。「たまに畳を焦がしてました」と笑う。

しかし、ハチソン効果の再現を試みても、なかなか成功しない。ハチソン効果自体も「インチキ」と思われ、物理学の研究者には見向きもされていなかった。「でも、ハチソン効果が本当なら見過ごすことはできない。だったら、物理学者になって解析するしかないと思いました」。ところが、進学した千葉大でも正統派物理の人が多く浮いていた。

絶望し、卒業後は一人で実験を続けようとしていたJohn Hathwayさんだったが、大学の先生に大学院で勉強したほうがよいと勧められ、東大大学院の門戸を叩いた。

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JHラボのCEO、小笠原篤史さん(左)とCOO、中川幸司さん。二人の真ん中には、テスラコイルが。

「東大では、正統派の量子力学を学びました。コンデンサーに一気に電気をかけて発光させるカメラのフラッシュと同じ原理なのですが、そのコンデンサーが体育館ぐらいの大きさがありました。

エヴァンゲリオンみたいに、遠隔の別室からモニターしながら、電子ロックを掛けた部屋に置いた小さなコイルに、コンデンサーに溜めたエネルギーを一気に流して強力な磁場を発生させる。その磁場が世界一というような実験をしていました。実験ではゼロから実験器具を設計して組み立てないといけなくて、とても面白かったです」

大学の教授たちも変わっていた。ハチソン効果のことを話すと「実は僕もそういうのが好きなんだよ」と打ち明けてくれた。しかし、やはりハチソン効果を再現するような実験の継続は難しかった。「普通の物理」をやることにして、大学院に在籍しながら学術振興会特別研究員を兼任した。

一方、John Hathwayさんは子供の頃から、雑誌「りぼん」など愛読、少女漫画が大好きだった。自室を改造した実験室で高電圧を発生させながら、少女漫画家になるために漫画を描く日々。大学になってからは少年漫画も描くようになった。昼間は研究、夜は漫画やイラストに没頭していた。ある時、「普通の物理」の研究で物理学へのモチベーションが途切れ、情熱は一気に絵を描くことへと向かっていった。

■日本発のディズニー目指し、日米で起業

John Hathwayさんが描いたのは、「もしも反重力技術が実用化されたら?」という世界だった。自身の研究テーマである科学をアートというメディアと融合させた。絶妙のバランスでアシンメトリーに歪む背景。空を飛ぶ人々はキャラクターがよく伝わるように頭身を調整している。「科学的に絵をとらえています」と説明する。

その緻密な描写や独自の世界観は、高い評価を得た。コミックマーケットなどで作品を発表、人気を得てきたが、2011年に村上隆さんがプロデュースするギャラリー「pixiv-zingaro」で個展を開催、本格的にアーティストとして活動を始めた。国内外のアートフェアに参加、12月まで開催されている国際美術展「神戸ビエンナーレ2013」の審査委員兼招待作家もつとめている。

そんなJohn Hathwayさんを「クール・ジャパンのコアになる」と見い出したのが、中川幸司さんだった。慶応大学を卒業後、英国留学を経て北京大学大学院で経営学博士号を取得。組織戦略の専門家で経営学の専門家で、2012年まで北京大学で研究者だった中川さんは、「日本や中国、欧米のコンテンツ産業を経営学から研究していました。アートは美学や教育学的な側面からとらえることもできますが、経済的にみれば、例えば絵があることによってお菓子のパッケージが元の価値よりも10円高くなるというものです。これをきちんと体系化できないかと考えていました」と話す。

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左が東洋インキ(東京都中央区)が開発したインク「Kaleido」を用いたイラスト。従来の印刷(右)と色の奥行きが違う

John Hathwayさんの絵を5月に東京で開催されていたアートイベント「デザイン・フェスタ」で初めて見た中川さんは、「ここに価値があるとすんなり落ちてきた」という。中川さんたちは、7月に「JHラボ」を立ち上げ、1カ月経たずにアメリカデラウェア州にも子会社を設立。当初より、世界進出を目標としている企業としてスタートした。

「クール・ジャパンは、政府主導のマクロ的な状況しかみえなかった。でなければ、海外の人が見つけてくれていた。日本人はガラパゴスでなかなか海外に出て行きません。そこで、世界にどうやって売っていくのかスキームを組み立てました。日本はマーケットが既に飽和状態で、ターゲットにすることは難しいので、最初から世界に向けようと思っています」

その第一歩が、キックスターターで資金調達を成功させた「Akiba Anime Art Magazine」のプロジェクトだった。プロジェクト成立となったため、2014年年明けまで創刊号が発刊される予定だ。

JHラボは「日本の良いモノ・良い技術・良いサービスを真摯に研究開発し、スピード感ある国際戦略として事業展開すること」を掲げている。たとえば、今回の雑誌も東洋インキ(東京都中央区)が開発したインク「Kaleido」を採用した。これは、従来使用されていた4色印刷機でも6色や7色印刷に近い、豊かな色の再現を可能としているインクで、日本の優れた技術の紹介という目的もあるという。

"日本発のディズニー"を目指したいというJHラボ。テスラコイルやさまざまな工具がひしめく秋葉原のオフィスは、未来の詰まった実験室のようだ。アニメ、漫画、ゲーム、アート、そして科学を既存の枠にとらわれず、生粋の「クール・ジャパン」の発信がここから始まろうとしている。

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