みずほ銀行・佐藤康博頭取の窮地で、みずほ全体がピンチに?

みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長が、窮地に立っている。金融庁が強く経営責任を追及する事態になれば、佐藤社長が変えようとしていた古い体質に「逆戻り」するリスクをはらんでいる。

3行統合の弊害を指摘されてきたみずほフィナンシャルグループ

傘下の2銀行を合併し、1バンク体制を構築した強力なリーダーシップで業績回復を図ろうとしたが、足元で展開されていた不祥事を未然に防ぐガバナンスの強さは行内に浸透していなかったかたちだ。金融庁が強く経営責任を追及する事態になれば、佐藤社長が変えようとしていた古い体質に「逆戻り」するリスクをはらんでいる。

<道義的責任から、経営責任へ>

「満月は欠け始めると、後は早い」――。みずほFGのある役員OBは、平安時代に権力を握り、わが世の春を謳歌(おうか)した藤原道長が詠んだ和歌になぞらえて、佐藤社長の現状を指摘した。

今年7月にはグループ傘下のみずほ銀行とみずほコーポレート銀行の合併を実現させ、政府の産業競争力会議には唯一の金融界代表として参加し、存在感を発揮していた。3行統合の後遺症で、他行に比べコスト圧縮の対応が手ぬるいと指摘され、「3メガバンク中の4位」と揶揄(やゆ)されてきた業績も、足元では回復基調を示していた。「みずほの中興の祖として足場を固めていたはずだった。こんなことで足元をすくわれるとは」と、この有力OBは残念がる。

暴力団への融資を放置してきた問題は、今月8日になって急展開する。この日、佐藤社長は問題の発覚後はじめて記者会見に臨み、これまで同グループが説明してきた事実関係を一転させた。

佐藤社長は、取締役会に反社勢力との取り引きが報告され、自分自身も「知りうる立場にいた」ことを明らかにした。旧日本興業銀行出身で、国際業務や大企業取引を得意としてきたが、リテール業務に潜む反社会的勢力に対するリスク認識に抜かりがあったとの批判も出ている。

この発言内容は「それまでの道義的責任から、自らに経営責任を生じかねさせない事態となった」(ライバル行役員)と、金融業界では注目を集めた。

<佐藤社長のリーダーシップ>

佐藤社長が、持ち株会社のみずほFG社長に就任したのは2011年。東日本大震災直後の大規模システムトラブルに伴う人事刷新で、旧みずほコーポレート銀行頭取から、持株会社社長を兼務し、経営トップの座に座ることになった。「弁舌巧みで、発想も豊か。金融庁としても佐藤氏を推した」と、同庁関係者は話す。

さらに傘下2行を合併させる1バンク体制を敷き、自らがCEOとして1トップに収まる体制も確立した。

銀行は通常、企画部がお膳立てし、社内の関係者に根回して新たな方針を打ち立てるボトムアップ方式による意思決定が多い。だが、佐藤社長は自ら旗を振る「トップダウン経営」が信条。「側近も重用せず、自ら方針を立案して決めることもあり、企画部が後から慌てふためくこともある」(同行関係者)という。

母体である旧日本興業銀行、旧富士銀行、旧第一勧業銀行の確執が金融界の「常識」と批判されてきたみずほの旧弊。旧3行のバランス人事の払しょくにも腐心し、今年4月の役員人事では副社長、副頭取7人を一気に退任させるなど、大幅な刷新にも踏み込んだ。

「旧興銀出身の佐藤社長に配慮して、旧興銀出身者を大目に配分した人事案を蹴られた」(同行関係者)というエピソードもある。旧富士、旧一勧出身者の中にも「スタンドプレイが過ぎるなど短所がないわけじゃないが、佐藤社長を支えるほかにみずほが浮上する道はない」と、佐藤社長への求心力が高まる局面になっていた。

<見えない「ポスト佐藤」>

だが、虚偽の報告をして、誤った前提に立った行政処分を金融庁に出させることになったみずほに対し、同庁が経営責任を強く求めてくる可能性も否定できない。佐藤社長が就任以来の窮地に立っていることは間違いない。

一方、佐藤社長が進めてきたみずほの改革路線は、未だに「道半ば」だ。佐藤社長が何らかの経営責任を負うことになれば、みずほの経営方針に大きな影響が出かねない。

「三井住友フィナンシャルグループ

1トップ体制の確立は、ポスト佐藤体制が整っていない現状の裏返しでもある。今回の事件を契機に佐藤社長がグループ内での求心力を失えば、「後任体制をめぐる3行のさや当てが、また浮上しかねない」(みずほ役員)と危惧する声もある。

(布施 太郎 編集;田巻 一彦)

[東京 18日 ロイター]

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