「雑誌への"先祖帰り"をスマホに」 キュレーションメディア「Antenna」の挑戦

「雑誌への先祖返り」――キュレーションスマホアプリ「Antenna」は一風変わった運営方針でメディアを選んでいる。町野健社長に聞いた。

ウェブ上のメディアをまとめ、アプリの上で見せる「キュレーションマガジン」的なサービスは数多い。だがその中でも「Antenna」はちょっと変わっている。10月7日には、スマートデバイス向けアプリのダウンロード数と、PC版の月間アクティブユーザーの合計数(同社では「ユーザー数」として公開している)が100万を越え、順調にビジネスを拡大している。

「雑誌が好き」

運営ポリシーと特徴は、どこにあるのだろうか。Antennaの運営元である、株式会社グライダーアソシエイツの町野健社長に話を聞いた。そこから見えてきたのは、「ネットでのコンテンツと広告」を巡る、“古くて新しい”考え方だった。

まずAntennaのサービスを見てみよう。冒頭で述べたように、Antennaはキュレーションマガジンだ。ネット上のメディアから情報を収集し、レイアウトを美しくまとめ、カテゴライズして読みやすくして表示する。iOSやAndroidなどのスマートデバイス向けの他、ウェブブラウザー上で動作するPC版がある。

「私は雑誌が好きなんですよ。好きなジャンルや分野について、さっと読めるのがいい」と町野社長は言う。Antennaの理想も雑誌にある。

キュレーションマガジン的なサービスは多いが、Antennaの特徴として、町野社長は「ソフトが勝手に情報を集めてくるのでなく、独自に評価した『いいメディア』を我々が集めてまとめている点にある」と話す。

雑誌には色々な情報が入っているが、それは基本的に、編集部側が厳選し、構成を工夫して積み重ねたものだ。Antennaも、ソフトウエアによる自動化処理を組み合わせつつ、雑誌的な「厳選」と「構成」という要素を重視している。現在、Antennaには170のメディアが登録されている。その中には規模の大きなメディア(このハフィントン・ポストも含まれるだろう)もあれば、個人が運営するブログに近いものもある。毎日新聞のような「既存型の大手メディア」も、ハフィントン・ポストのような新興メディアも、そして小規模なブログも、まったく同じように扱われ、誌面が作られる。

メディアはどういう風に選ばれているのだろうか?

基準は一つ。Antenna側が「面白い」「価値がある」と判断したかどうか、だ。

「メディア規模が小さくてもいいものはあります。そうしたメディアについて、まさにアンテナを張ってチェックし、一社一社、実際に訪問して、情熱を込めて膝詰めで相談した上で提携しています。かといって、頂点の情報だけが集まっていては意味がなくて、裾野の広さ、カバレッジの広さも重要です。しかもただ広げるだけでなく、独自の視点があることも大切。最近は、良いメディアを、提携したメディアの方々から教えていただくことも増えてきました。いいメディアは、いいメディアを運営している人が知っている、というところでしょうか」

そうした工夫をすることで、それぞれのジャンルについて濃く、まとまった情報を見せられるようになっているわけだ。また、写真を中心とした表示になるよう工夫しているのも「雑誌的」なこだわりによるものだ。

“興味のない分野”もあえて出す

「雑誌的」という意味では、もう一つ、工夫している点がある。それは「わざと興味のない分野も出てくるようにしている」(町野社長)ということだ。

「そこから、今までは気にしていなかったような情報も発見できるようにしたいのです。例えば弊社女性社員の中には、まったく車には興味がなかったのに、好きなファッションなどの情報と一緒に出てくる記事を読んでいるうちに興味が出てきて、クルマを買いたいと思った人もいるんです。そうしたように、自分で『視野をストレッチする』ような感覚になれば」

町野社長はそう話す。その裏ではもちろん、テクノロジーが働いている。写真を軸に見やすく構成することもその一つ。文字は読むためのストレスが大きいが、「写真を中心に構成することで、ストレスなく読めるようになり、興味がないと思い込んでいた情報にも興味を持ってもらえるようになる」という考え方に基づいている。

若干IT的でない、見せ方にこだわる方針を貫いているためか、Antennaは、この種の「スタートしたばかりのネットサービス」の割には、女性ユーザーの比率が多い。

「当初は9:1で男性でしたが、今は35%が女性。特に、今年の初めに、iPad版の提供を開始したところから増え始めました。女性の方が情報の吸収力があるからですかね。女性向けにプロモーションをしたわけではないのですが、女性に支持されるメディアになりつつあり、非常にいい流れだと思います」

「普通の情報にみんな飽きている」

そうした点は、Antennaのビジネスの軸である「広告展開」に繋がってくる。

ウェブを中心としたネットビジネスでは、いわゆる「GIFバナー」などを軸にした、アドネットワークから配信されるバナー広告が中心だ。こうした広告は見られるだけでは価値が薄く、クリックされることで価値が最大化される。

だが町野社長は「通り道に広告を置いて、クリックしてもらう、という今までのやり方は曲がり角にさしかかっている」と指摘する。世界的にも、バナー広告のクリック率が下がってきているのは事実だ。Antennaでは、そうしたバナー広告スタイルではなく、「記事としての広告」を挟み込むスタイルを採る。まさに、古典的な雑誌のアプローチだ。

「マークジェイコブスに広告出稿をしていただいているんですが、その記事も、ユーザーは『クリップ』しているんですよ。ユーザーにとっては、記事の提供元が企業なのか個人なのかは関係ないんです。『いい記事だった』からクリップしただけ。きちんとした企業であれば、どこにも相応の拘りがあります。そして、その拘りを記事にすれば面白くなるんです。確かに、そうしたものには、広告としての即効性はないかも知れません。しかし『認知』『ブランドロイヤリティ』には大きな効果があります。逆に言えば、ネットには、そういうところにこだわる企業が広告を出す場がなかったということ」

町野社長はそう説明する。

「例えばです。店に行って、店員さんに拘りの革製品の話を聞いたすると、面白いじゃないですか。買う気がなかったのに、買ってしまったりする」とも語り、作り込まれた「記事広告」の価値を説明する。Antennaでは、そうした広告連携を軸に、収益の拡大を狙っている。パートナーとなる広告主企業としては、そうしたブランド価値を重視する大手企業を対象とする。

他方で「このようなアプローチは、10年前だったら全然通用しないでしょう」とも言う。

現在は、モノが売れづらくなっている。商品名を連呼して、量で浴びせるような広告展開では通用しづらい。

「みんな飽きている。視点・クオリティで勝負の時代。広告しても面白くなかったら売れないんです。逆に、小さい会社でも大きい会社でも、面白ければ売れる。面白いものがあるのなら、それを伝える場があればいいですし、そのためには、文章で伝えないといけない」

それが、Antennaで町野社長が狙う方向性だ。そうした考えがまとまり、出来がったのが、ネットメディアを「雑誌的にまとめた」サービス、ということになるだろう。ネットの成熟により、新しく生まれるメディアも広告も、ある意味で「先祖帰り」したのだ。

(西田宗千佳)

グライダーアソシエイツは10月、オフィスを青山一丁目に移した。

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