坂根シルックさん「フィンランド流の子育てと働きかた」女性の80%以上がフルタイムの国【Womans'Story】

世界一しあわせな子育てができる国、フィンランド。女性の80%以上がフルタイムで働いているこの国では、出産に際は男女問わず育休を3年とることができる。また小学校から大学までの教育費は無料で、待機児童も存在しない。フィンランドでは、誰でも平等に教育が受けることができるという。
The Huffington Post

世界一しあわせな子育てができる国、フィンランド。女性の80%以上がフルタイムで働いているこの国では、出産に際は男女問わず、3年間の育休を取得することができる。また小学校から大学までの教育費は無料で、待機児童も存在しない。フィンランドでは、誰でも平等に教育が受けることができるという。

また、世界経済フォーラムが10月25日に発表した「国際男女格差レポート2013」では、「最も男女が平等に近い国」で世界136カ国中2位にランクイン。国会議員の42.5%が女性。過去には女性の首相や大統領も輩出し、閣僚の半分は女性だという。

今回は、日本でフィンランド流の子育てを働きかたを実践した坂根シルックさん(写真)に話を伺った。現在は、東京農工大の特任准教授として活躍中。フィンランド語の通訳や翻訳も手がける一方で、テレビ番組へのレギュラー出演や学校や自治体での講演を通じて、日本とフィンランドの架け橋として活動している。フィンランドの子育てや働き方は日本とどう違うのか。シルックさんにインタビューした。

■大好きな日本で就職してカルチャーショック

「フィンランド語よりも先に、日本語を覚えました。幼稚園の頃は、家族の通訳をしていましたね。実は今でも、本は日本語で読むほうが早いんです」

日本語が流暢なシルックさん。初めて日本に来たのは3歳のときだったという。教会で牧師をしていたお父さんとともに家族で日本へやってきたのだ。東京で2年間を過ごした後、九州の大分へ。地元の小学校で、のびのびとした学校生活を送ったそうだ。

小学校を卒業後、フィンランドで学生生活を送ったが、幼い頃を過ごした日本のことが忘れられなかったシルックさんは、20歳のときにもう一度日本に行く決心。進学したビジネススクールの夏休みを利用して、シルックさんは再び来日。フィンランド大使館を訪ねたことから、面接を経てフィンランドの製紙会社の輸出機関で働くことが決まった。23歳のときだった。

しかし、翌年から日本で働きはじめたシルックさんは、日本の企業文化に大きなカルチャーショックを受ける。1980年代前半、男女雇用機会均等法が施行される前の日本。若い女性社員が、いわゆるOLと呼ばれた時代だった。

「当時の日本は、女性は寿退社するのが一般的で管理職もいませんでした。私は、一番最後に入社した若い女の子。取引先との食事などでセクハラを受けたり、会議で意見を聞かれて発言したら、後から『あなたは一番下なんだから黙ってなさい』と怒られたり……あの頃は、つらかったですね」と当時を振り返る。

「絶対フィンランドに帰ろう」そう思ったシルックさんが、それでも日本に残る決意をしたのは、日本で出会った人と結婚することになったからだ。

■子育てを支援するフィンランドの育休制度

製紙関係の会社を辞めてからも、フィンランド福音ルーテル教会の機関、フィンランド政府観光局、ノキア・ジャパン株式会社などで働いたシルックさん。フルタイムで働きながら、男の子と女の子を出産し、2人の子供の母となった。

「国の機関である教会や政府観光局にいたときに出産しました。だから、私の育休はフィンランド式でした。1人目は東京で、2人目はフィンランドで産みました。私の産休と育休期間は、8〜9カ月だったと思います。フィンランドでは、男女問わず3年の育休をとる人も多いんですよ」

フィンランドでは、3年間の育休をとった後に、育休前の役職で復帰することができる。また育児に積極的な男性が多く、女性の80%以上がフルタイムで働いているので、最近では、妻のほうが早く仕事に復帰し、夫が長く育休をとるケースもよくあるという。

シルックさんは、日本の子育て支援について「育休3年を提唱するより先にやることがあるのでは」という。「今の社会では、働く女性が3年間休むのは無理。制度の前に、企業の育児に対する意識の向上や、残業しなくてもすむ環境づくり、待機児童問題の改善が大切です」と、男女が子育てできる社会が必要だと語る。

■すべての赤ちゃんに届く自治体からのプレゼント

また、フィンランドでは、新しく産まれてくる赤ちゃんのために自治体からプレゼントが届けられるという。「マタニティ・パッケージ」(写真)と呼ばれるプレゼントの中身は、おむつ、おむつカバー、服、下着、帽子、クリーム、体温計、お風呂の温度を測る水温計のほか、ブラシやスポンジ、絵本、おもちゃ……など。望まない妊娠を避けるためのコンドームも同梱されている。70〜80cmほどの頑丈なプレゼントの箱は、生後間もない赤ちゃんのベッドにもなり、中に入っていたスポンジがベッドマットとして使えるという。

「産まれたばかりの赤ちゃんにとって必要なものが全部つまった、素晴らしい制度です。1年間、色や柄も含めて同じアイテムが届けられます。だから、同じ柄の服を着た子は、同級生。外で見かけると親近感がわいて『今、何カ月?』と親同士の会話が弾むこともよくありました」

■「目はかけるけど、手はかけない」フィンランド流子育て

仕事は忙しかったが、平日の夜と週末は、とことん子供と向き合う時間にした。携帯電話も見ないで、子供とのひとときを楽しんだという。

シルックさんは、フィンランド流子育ての特徴のひとつとして、「見守ること」を挙げた。「ああしなさい」「こうしたら?」とはいわず、子供の気持ちを大切にして、子供がやりたいことを静かに見守ることが大事だと話す。

「子供に『宿題したの?』と聞くことはありましたが、『勉強しなさい』といったことは、一度もありません。宿題をやってなくて困るのは、本人。無理矢理やらせる必要はないと思います」

一方で、子供が親にやってほしいといったことには、できるだけ応えてきたという。「『ハグして』といわれたら、すぐにハグをします。家事で忙しくても、ちょっと待ってねといって、落ち着いたらハグしてあげる。子供と約束を守ることが大切です。キャラ弁をつくるスキルや時間はないけれど(笑)、プライベートの時間では子供に寄り添うように心がけました」とシルックさんはいう。

「小学生と中学生になった子供たちに『フィンランドで暮らしてみたい』といわれたときは、最初は仕事もあったのでさすがに無理だと思いましたが、子供にとって有意義な経験になると考え直し、入念な準備をしてフィンランドへ。2年間、家族で暮らすことができました」

フィンランドでの生活を通じて、おっとりした性格でひとりの時間を大切にする娘は、時の流れがゆるやかなフィンランドが自分に合っていると気づいたという。何事も早く決めるタイプの息子は、刺激的な東京の暮らしを楽しんでいるようだ。シルックさんは、それぞれの個性を尊重している。

子供の進学先も、子供たちの意志で決まった。スポーツが大好きだった息子は、自分の偏差値よりは少し下のランクになるが、部活が楽しめる大学へ。高校受験で志望校に入れなかった妹は、「とにかく楽しそう」と思えた高校を選んだという。

■離婚率50%のフィンランド、多くの人が選ぶ「共同親権」

シルックさんのご主人は、同世代の男性にしては珍しく、家事も育児も積極的な人だったそうだ。朝、子供を連れて保育園へ行き、小学校のPTAにも参加してくれたという。後に、ご主人とは離婚することになったが、シルックさんは「今も彼のことは尊敬しています」と語る。子育てについては、今も2人で協力し合っているという。

実は、フィンランドでも離婚は多く、離婚率は50%ともいわれている。離婚後の親権は、フィンランドでは共同親権が一般的だという。日本では、離婚時に、どちらかの親が親権を持つことになるが、フィンランドには共同親権という制度があるのだ。そして、どちらかが再婚したとしても、その再婚相手のことを「パパ」「ママ」と呼ぶ必要はない。子供を産んだ2人が、責任を持って育てるのだ。

「子供にとって2人が親である以上、夫婦が離婚することになっても、一緒に子育てしていくのは自然なことだと思います」

■「生きることは、働くこと」フィンランド人のライフスタイル

25年以上に渡り、日本で働いてきたシルックさん。日本は、まだまだ男女平等の世の中とはいえないが、当時とは比べられないほど、若い男性の育児への関心が高まったと感じている。

「男性同士が、スマートフォンやパソコンにある子供の写真を見せ合っているのを見ると、うれしくなりますね。今日は『奥さんが残業だから』といって、17時に退社して保育園に迎えにいく男性も見かけるようになりました。本当に時代は変わったんだなと、感慨深いです」とシルックさんは微笑む。

シルックさんの子供たちは、社会人になった。自分の時間が増えたシルックさんは、大学教員、通訳、TV出演、講演など、多方面に活躍の幅を広げている。こんなふうにキャリアが広がっていったことをどう考えているのか。シルックさんに聞いた。

「直感で進んできました(笑)。自然豊かな近くの公園を散歩したり、自然の中で座ってぼーっとしたりしていると頭がすっきりして、行くべき方向が見えてくるんです。実は、30代のときにうつに患って休職したこともありましたが、仕事を辞めようと思ったことはありませんでした」

「生きるということは、イコール働くということ。それは家庭があっても、子供がいてもいなくても、人間として当たり前というのがフィンランド人の考え方です」とシルックさんはいう。男女平等な国、フィンランドには、ライフスタイルに男女の区別がないことが伝わってきた。

※フィンランドの子育て支援や、フィンランド人の働きかたについて、どう思いますか? あなたの意見をお聞かせください。

ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています
フィンランドの冬

フィンランドの画像集

注目記事