アントニオ猪木議員が、党員資格停止処分覚悟で北朝鮮を訪問した理由とは?

アントニオ猪木議員が北朝鮮訪問を強行したことで、何かしらの処分が下るとみられている。なぜ猪木議員はそのような処分を覚悟して訪朝したのか。
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アントニオ猪木参議院議員が、北朝鮮訪問を強行した。7月に続き、訪朝は今年2度目のことだ。猪木議員は11月4日には金永日書記らと会見したとされ、6日には金正恩第1書記の後見人とも言われる張成沢国防副委員長と会談するという。

しかし、猪木議員の訪朝に批判が出ている。国会の許可無く訪朝しており、何らかの処分が下されるとの見方もある。猪木議員は処分を覚悟で訪朝したとされるが、何故、そこまでして訪朝を強行したのか。

■批判される理由1:国会の許可がない

国会議員に対して許可を出す役割を担っている、みんなの党の山内康一衆議院議員は、猪木議員の訪朝について、国会の許可がでていないことを批判している。

例えば、衆院議員の会期中の海外渡航には、衆議院としての許可を得る必要があります。

8日以上だと衆議院本会議の議決で許可し、7日以内だと衆議院議長決裁で許可します。

実際は、衆議院の議院運営委員会理事会で、各党代表者が許可をした上で議長が決裁し、衆議院としての海外渡航許可が出ます。(中略)

時には他党の議員も根回しに来ることもあり、逆にわが党議員が海外渡航許可を得るために、他党の理事に根回しすることもあります。(中略)

そういう手続きをすっ飛ばして、院の許可なく、国会会期中に海外に行くのは異例の事態です。

所属する「日本維新の会」の議院運営委員は、そうとう困っていることだと思います。

(衆議院議員山内康一ブログ「蟷螂(とうろう)の斧」「国会中の訪朝事件」より。 2013/11/05)

国会が猪木議員の訪朝を許可しなかったのは、「書類の不備」が理由とされる。この理由について猪木議員は激怒。1日に羽田空港で記者団の取材に応じた猪木議員は、「北朝鮮に行ってはいけないというのであれば、そう言って欲しい」と不満を漏らした。

搭乗直前、集まった報道陣の取材に応じた猪木は「(議運の)指導の通りに書類を書いたが、書類記載不備が理由らしい。『北朝鮮に行ってはいけない』というのであればそう言ってもらいたい。書類不備などは世の中の不合理」と不満を吐き出した。

一方で、所属する日本維新の会に訪朝と渡航許可のゴタゴタを報告しようとしたものの「(維新が)電話に出ない。自己責任で俺はやります。ご迷惑をかけないようにします」と言い切った。

(東スポWeb「アントニオ猪木氏が強行訪朝「書類不備などは世の中の不合理」」より。 2013/11/01 11:54)

■批判される理由2:訪問先が北朝鮮

山内康一議員が指摘する2点目は「訪問先が北朝鮮」であるという点だ。

さらに問題は渡航先が北朝鮮ということです。

北朝鮮への渡航は自粛すべきものとされており、変に渡航して北朝鮮側の政治宣伝に使われたら、日本の国益を損なうことになりかねません。(中略)

困ったことに当事者たちは、議員外交を通じて、日本の国益を追求しているつもりの場合が多く、政治犯のように信念を持ってやっています。

本人の主観では、日朝友好とアジアの平和のため、命懸けでがんばっている、という構図でしょうが、第三者的に見ると北朝鮮の思惑に乗せられかねず、たいへんリスクの高いやり方です。

(衆議院議員山内康一ブログ「蟷螂(とうろう)の斧」「国会中の訪朝事件」より。 2013/11/05)

現在日本は、北朝鮮に対して「対北朝鮮措置」を実施しており、北朝鮮への渡航についても、自粛を求めている。このような状況なのに、国会議員が訪朝するなど、とんでもないということだろう。

■アントニオ猪木議員の処分は…

猪木議員の行動は、議員が所属する日本維新の会でも受け入れられないようだ。橋下徹・日本維新の会共同代表は11月5日、記者団の質問に対して下記のように答えている。

橋下共同代表は記者団に対し、「日本維新の会は、拉致問題の解決を重要問題に位置づけている。北朝鮮との関係は、極めて慎重にやっていかなければいけない外交問題であり、一議員の勝手な行動は許されない」と批判しました。

そのうえで、橋下氏は猪木議員の処分について、「今回の訪問が、国会議員団の中で、拉致問題の解決にも資するということで、はっきりしていればいいが、戦略に基づかずに議員個人がバラバラに動いていたとしたら大問題であり、国会議員団でしっかりと対応を協議してもらいたい」と述べました。

(NHKニュース「維新橋下代表 猪木議員の訪朝を批判」より。 2013/11/5 19:01)

また、日本維新の会の国会議員団の松野頼久幹事長も、下記のように話している。

同国会議員団の松野頼久幹事長(53)は「ルールを理解していなかったのかどうかを本人に聞いてから対処する」とし、7日の帰国後に猪木氏から事情聴取して対応を決めることを明かした。

(東スポWeb「猪木議員 敵増えても北朝鮮「闘魂外交」貫く」より 2013/11/5 11:00)

■アントニオ猪木議員は何を考えて訪朝したのか?

では、なぜ猪木議員は、そのような処分があることを覚悟してまで、今回訪朝を強行したのか。

猪木議員は今回の訪朝で、自身が理事長を務めるNPO法人「スポーツ平和交流協会」の平壌事務所を開設した。

猪木議員は7月の参院選で当選した直後、スポーツ外交を展開していきたい考えを述べている。「スポーツ平和交流協会」の各国への展開もその一つとみられるが、このNPOには重要な役割があるとみられる。

猪木議員は10月にパキスタンを訪問し、スポーツ平和交流協会・パキスタン連絡事務所を開設。この事務所の開設について猪木議員は自身のブログで下記のように述べ、「スポーツ平和交流協会」事務所を通じて、国の動きよりもはやく、平和的な支援を行いたいとの考えを示している。

そこ(パキスタン連絡事務所)を通じて支援物資等は用意していましたが、いかんせん非常に混乱している状態で今回は外務省も通さずに単独で、いつもそうなんですが、役所と言うのはこういうのを(危険な地域への訪問)やられると困るという体質を持っていますので、その許容範囲の中での行動、また安全って言うことを最優先としていますし、それはそれで理解できます。

一番の問題はタリバーン。昨年の11月にイベントを行まして、ここは非常に危険な場所で初めはここではやらないでくれと言われていて、でも開催して何もなかった。周りからは奇跡じゃないか。と言われました。で今回約1年ぶりに訪問して一つのテーマは地震支援ですが、もう一つは国際平和ってことで(中略)

実際に何をしたら、タリバーンの問題、テロも含めて(解消できるか?)どうすればいいのか?解決はできないにしても、イランの人質解放での経験、自分の行動から出てくるヒントを信じています。まず、一つに「井戸を掘る」そして「学校を作る」水資源、教育の確保を進めていきたいです。

昔からも、そうですが、行ってみないとわからない、そして、行ってみて、今回感じたことですねこれが。(パキスタン)政府間にも気づいてほしいですね。危ないから行ってはいけないと言われますが、私は「危ないから行きます」。選挙中に公約した通り「外交」は私の武器ですから、早い時期にそれを実行しました。タリバーンの解決のためにもこれからも足を運んでいきたいです。」

(日本維新の会 参議院議員 アントニオ猪木オフィシャルサイト「タリバーンの問題解決へ アントニオ猪木がパキスタンから帰国いたしました」より。 2013/10/10)

猪木議員はこれまでの経験を通じて、「平和的な交流には、沢山の人が集まる」ということに自信を持っているともみられる。

俺がやれる得意な分野は「外交」ということで来ているわけですね。なかでも北朝鮮に関しては師匠(力道山)の故郷でもあるし。師匠に導かれてっていう、自分なりに感じていることがあって今日に至っているから、それはそれで政治のテーマとしてやりたいと思っています。

北朝鮮に関しては俺だけじゃなくていろんな人も動いていますけど、なかにはパフォーマンスで動いている人もいるんですね。その点、俺と北朝鮮の歴史は1994年からですから、もうかれこれ来年で20年になりますかね。ピョンヤンで「平和の祭典」を開催した時は2日間ともに19万人の人たちが集まって、盛大にやったし、これからも、できればスポーツ交流を積極的にしていこう、というのが本心でもあります。

(アントニオ猪木 IGFプロレスリング「週刊イノキ Vol.130 国会は窮屈か? 18年ぶりの返り咲きから2カ月、猪木が答える!」より。 2013/10/18)

猪木議員は、今年8月に開かれた記者会見の席で、「外交に勝利なしという言葉がある。これは私の思う外交の基本。どこかで落としどころを決めなければ、片方が勝っても負けても不平不満が生まれる」と、外交についての持論を展開している。

「拉致問題が解決したら我々は幸せになりますかね?」と講演で言うと、皆さん「え?」って顔をする。そうすると、今まで凝り固まっていた考え方、色んな視点をちょっと変えることによって、そうするともっと知恵が出てきて、解決をどうしましょうかとなる。

一番の問題は、日本の拉致名簿の中にある数字がどんどん変わり、日本で死んでいる人もいる。そういった名簿を提出して解決しようとしても、北朝鮮側からしたら「そんないい加減なことを言ってくるなよ」となる。

(HuffPost 日本版『アントニオ猪木氏「拉致問題解決したら幸せになりますか」 外国人記者は「闘魂注入」をどう感じたか』より 2013/08/06 07:13)

両国の交流をスピードをもって広げたい。「思いついたら、行ってしまう性格」が今回の北朝鮮訪問につながったと見ることができるが、猪木議員自身はもっと大局的な見方をしているのではないかというのは、猪木氏と旧知の間柄というコリア・レポート編集長の辺真一氏だ。

「本人も7月に訪朝して帰国した際に「これからすべてがサプライズ外交で問題が解決する」と思わせぶりな発言をしていますからね。猪木氏のいうサプライズ外交の最終目標は、安倍首相と金正恩のトップ会談です。そのための下地づくり、パイプ役として自分が頼られると考えているのです。」

(NEWSポストセブン「A猪木氏「日朝トップ会談の下地作りのため訪朝強行」と識者」より。 2013/11/06 07:00)

アントニオ猪木議員の訪朝について、あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。

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