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東大から宇宙へ 3億円で超小型衛星を打ち上げるベンチャー「アクセルスペース」

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yuya nakamura

世界中の人が宇宙からのデータをスマホで気軽に利用する――。そんな日常が近い未来、訪れるかもしれない。その鍵となる「超小型商用衛星」を開発し、日本の宇宙ビジネスの歴史に新たな1ページを刻んだのは東京大学発のベンチャー企業「アクセルスペース」(東京都千代田区)。通常の衛星の100分の1までコストを抑え、「ヘリコプターと同じ価格で自社衛星を持つ」ことを実現。北極海の海氷を観測するために利用する「ウェザーニューズ」(千葉市)の新しいビジネスを後押しした。アクセルスペース社長の中村友哉さん(33)は「人工衛星が民間のビジネスになるのは画期的。宇宙は夢ではない。誰もが使えるようにしたい」と意気込む。この衛星「WNISAT-1」は11月21日、ロシアから打ち上げられた。

アクセルスペース社が開発した衛星はわずか一辺27センチの立方体で、重さ10キロ。両手で持ち上げられるほどの大きさだ。数百億円かかる1トン超の大型衛星と違い、開発から打ち上げまでのコストは約2~3億円。北極海の海氷を観測することなどに機能を特化し、コスト削減や小型化を実現した。
 
近年、地球温暖化の影響で、7月~10月の間、北極海をタンカーなどが航行できるようになった。欧州―アジア間では、距離がスエズ運河経由の3分の2、喜望峰経由の半分に短縮されることにより、燃料費や人件費、環境負荷の軽減が図られるため、注目を集めている。ウェザーニューズ社によると、昨年は46隻が行き来した。
 
ウェザーニューズ社はこれまでも、既存の衛星の画像を入手し、海運会社に情報を提供してきた。しかし、頻度は多くなく、画像が粗過ぎるなど課題を抱えていた。今回、自前で衛星を持つことで、迅速に自由にデータを得ることができるようになり「情報の精度があがる」と同社は期待する。

■ヘリコプターを持つように、衛星を持つ時代に

人工衛星は通信・放送のほか、地震発生時の被害状況を把握や気象情報の提供などに使われている。国内の宇宙機器産業の規模は約2600億。9割以上が政府関連だ。宇宙ビジネスに民間企業の参入が進まない理由に、リスクの高さや膨大な費用が挙げられる。そして、「人工衛星はあまり身近でなく、企業もどう使って良いのかわからなかった」と中村さんは指摘する。

「宇宙はとにかく高い。例えば、H2Aロケットを使って衛星を打ち上げると1回100億円近くもかかる。リスクをとって新規ビジネスに参入するにしても、民間企業が簡単に投資を決断できる額ではない。それを変えたかった。宇宙を色んな人が使っていけるようにしないといけない」

その突破口が超小型衛星だった。超小型衛星を開発し、相乗りで打ち上げた場合、費用は3億円程度。「ヘリコプター1機と同じ価格。民間企業が自社で衛星を持つのは夢でなくなった」と中村さんは話す。

■宇宙好きではない、憧れもない、だからこそ

中村さんは東京大学在学中、中須賀真一教授の下で人工衛星を研究。2003年、東大と東工大が世界で初めて打ち上げた重さ1キロの超小型衛星「キューブサット」のプロジェクトにも携わった。

yuya nakamura
(東京大学で人工衛星を研究していた当時の中村さんら)
 
「実は宇宙好きでなかったんです。まさか、宇宙に関わるとは大学3年生まで思いもしなかった。宇宙に憧れを抱かなかったからこそ、よかったのかも」と中村さんは笑う。だが、研究を進めるうちに「超小型衛星を使って、もっと日常生活に役に立つものを作りたい」という思いが膨らんできた。しかし、周りを見渡しても超小型衛星を作っている会社はない。「何とかしたい」。中村さんらが中心となって2008年、アクセルスペース社を起業した。

■「宇宙ムラ」に挑んで生まれる画期的なサービス

中村さんが挑戦するのは、これまでの「宇宙ムラ」でない、新たなフィールドだ。

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(WNISAT-1(中央)と開発に関わったアクセルスペース社のメンバー)
 
「宇宙の世界を見ていると閉鎖的で、まさに『村社会』。超小型衛星でビジネスをしているというと『夢があっていいですね』と言われるけれど、それを変えたい。衛星データを加えることで価値観が変わる画期的なサービスが生まれるかもしれない。『宇宙ムラ』だけでなく色んな人が宇宙を使えるように変えたい」

■拡大する宇宙ビジネス、世界で勝ち抜く戦略は

宇宙産業は世界的にも市場規模が拡大している。アメリカは約4兆円、欧州は約7千億円。一方、日本の市場規模はアメリカのわずか15分の1に過ぎない。地上インフラが整っていない新興国でも需要が高まり、今後10年で過去10年間の4倍の需要が見込まれるという。

アクセルスペース社も海外市場に目を向ける。中村さんがライバルに名を挙げるのは、衛星画像サービスを行う「スカイボックス・イメージング」や「プラネット・ラブズ」。いずれもアメリカのベンチャー企業だ。国内大手メーカーも超小型衛星事業へ参入する、との報道もある。
 
いかに競争を勝ち抜くか。鍵はこれまでに培った「民間のニーズを設計図に落とし込めるノウハウ。早い段階で、民間商業用の超小型衛星を
つくった実績」と中村さんは考える。さらに「人工衛星にかかる費用の8割は人件費。我々の目標は5人で衛星を1年以内で作り、コストを抑えること」で大手メーカーとの差別化を図る。

wnisat1
(WNISAT-1制作作業の様子)

■「超小型衛星は日本が引っ張っていける」

 今後の課題について、中村さんは民需の割合を増やし、宇宙産業のパイ自体を増やしていくことが必要だと指摘する。「宇宙ムラの中で食い合っていてもパイは増えない。外から需要を持ってくるのが我々の使命」
 中村さんはこう続ける。「(超小型衛星ビジネスは)ブルーオーシャンどころか水もない状態から始めなければならなかった。その苦労もあるけど、世界のリーディングカンパニーになる可能性もある。宇宙業界はどうしても、欧米の後追い。超小型衛星は日本が引っ張っていける分野。超小型衛星は日本のアクセルスペースだよねと世界で重要な役割を示せる会社にしたい」

■超小型衛星を「新しいインフラ」へ

 中村さんの目標は、超小型衛星を「新しいインフラ」にすることだ。「安価で多くの衛星を打ち上げることで、よりリアルタイムで衛星画像が見られるようになる。例えば渋滞状況や隣町の天気などを調べることに利用できると考えている。大型衛星1機分のコストで、数十機の衛星を打ち上げ、インフラを完成させられる。大型衛星が出来ない可能性が小型衛星にはある。世界中の人々が当たり前のように超小型衛星からのデータを使って日々の暮らしを送れるようにしたい」

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