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外山恒一氏インタビュー「東京都知事選に出て誤算だったこと」

2013年12月26日 19時09分 JST | 更新 2014年02月06日 01時54分 JST
Taichiro Yoshino

この3年で3回目となる東京都知事選が、2014年2月に投開票される。2007年に立候補して政見放送で話題となった外山恒一氏にとって、あのときの立候補は今、どんな意味を持つのか聞いてみた。

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――また東京都知事選があるぞ、と思ったら、2013年夏に朝日新聞のロングインタビューで「もう選挙に出るつもりはない」と言ってたんですね。

いや、分かりませんよ。お金があればね。僕の友人には(猪瀬直樹・前知事と徳洲会を仲介した)木村三浩・一水会代表と懇意な人もいますんで、頼んでみようかな(笑)。

――知名度を上げるという意味で、300万円以上の効果はあったのでは?

同じことを広告でやろうと思ったら、数十億はかかりますよね? 多少話題になるパフォーマンスができれば、選挙では負けても(知名度を上げる)勝負には勝てるという勝算があった。YouTubeには今も当時の政見放送が残っていて、スタンダードナンバーのように再生されている。それを見て、何人かはまともな奴が僕の所に来てくれます。

目算が外れたのは、都知事選の終盤には、僕の選挙カーには何百人という人が毎日、入れ代わり立ち代わり来ましたけど、大半の人は面白がって終わってしまったこと。全国の書店で、比較的容易に自分の本を入手できる状況にしたかった。それがね、あの演説を聴いて僕の文章力にピンと来る人はいると思ったんだけど、ほとんど来なかった。

都知事選の次の年に福岡に一軒家を借りて「革命家養成塾」を開いた。ひたすら座学で、反体制運動史や前衛芸術を午前9時から午後5時まで詰め込む。十数人来たんですけど、大半は長続きしなかった。派手なことを期待しているわけで、思っていたのと違って、やめてしまったんでしょう。

でも、都知事選の翌日に各地から福岡に移り住んで、九州を中心に運動を展開していこうという人が、7、8人現れました。コアな部分は今でもつながっています。

――熊本市議選や鹿児島市議選にも出たけど落選。最近は立候補しない形での運動をしているんでしょうか。

大きな選挙に立候補するより、最近では国政選挙のたびに、原発の再稼働を支持する候補に宣伝カーで同行して大音量でほめ殺す合法的な選挙妨害、もしくは投票率をダウンするための介入など、いろいろやってきました。

町議選や村議選だと、供託金ゼロで立候補できるところもある。原発のある小さな町や村に選挙の3カ月前に住民票を移して、20人ぐらい仲間を立候補させれば、状況は大きく変わるかな、と。でもね、九州電力玄海原発のある佐賀県玄海町で9月に町議選があったんで、立候補しようと思ってアパートを探したんだけど、1軒しかなくて、空きもなかった。原発の建つような田舎に、アパートなんてないんですね。誤算でした。

――全国ツアーと称して地道な啓蒙活動をやっているんですね。

都知事選でもう一つ誤算だったのは、反体制言論やってるということに気づいてくれた人が、全国で講演などに呼んでくれると思ってたんですけどね。僕はもう朝日文化人として成り上がっていくことに決めたんで(笑)。拠点にしようと思ってバーもやったけど、ミーハーな記念で来るのが9割で、エネルギーを割いてる割に期待した効果が得られなかった。おととしから「拠点にこもってるだけじゃだめだ、こっちから出向いていく」ってことを考えてやってます。

学生運動が盛り上がらないと社会を変えられない。直接学生にたきつけていくことは今後もやっていく。そうでないと突破口が開けない。学生運動の再建なんて途方もないことに見えるけど、世の中が大きく変わるときってのは、若くて、ヒマで、ある程度知性がある、この3条件を持った階層がワーッと騒ぎ始めるときです。幕末で言えば下級武士たち、近代では学生しかありえない。

とにかく右翼も左翼も優秀な奴を発掘して、交流させて影響を与え合わせよう、その結果、ファシズムになるはずです。

――外山さん、なぜ今、ファシストになったんですか?

監視社会批判、管理社会で警察国家が実現しようとしているという現実に抵抗していることは昔から変わっていません。ただ、かつては永遠の抵抗者としてのアナーキスト(無政府主義者)という展望しかなかった。歴史上、アナーキストって勝利したことないんですよ。活動しながら、常に勝利しない宿命なのかな、というあきらめがあった。

ファシズムに目覚めたのは獄中です。極右思想のように言われるファシズムですけど、アナーキズムとかなり近いことに気づいた。ファシズムはアナーキズムが勝利する唯一の活路なのかもしれないと。

ファシズムのオリジナルはヒトラーではなくムッソリーニです。彼は元々過激な左翼です。イタリア社会党を除名され、活動主体としてファシスト党を立ち上げるけど、新しい左翼政党を作ったつもりでいた。そこにアナーキストや前衛芸術家や右翼が合流して、初期は右だか左だか分からない組織だったんです。実存主義的なベースの反体制運動なんですよね。

(実存主義:人間の理想や本質を考えるといったことより、現実に今ここに存在する人間をどうするのか考えようという哲学の思想。単に「定職につかずダラダラしている人」という意味でも一時使われた)

実存主義的な過激派もありうるわけですよ。時代の状況によって右とも左とも手を組む。戦後はずっと左と手を組んできたんです。今は左翼が支配しているので、右と手を組むのもファシズムだろうと。

――えっ、日本の左翼は戦後、体制を支配したことなんてないのでは?

全共闘って、実は「試合に負けて勝負に勝つ」という勝ち方をした。全共闘を震源とする反差別的な物言い。PCとか男女共同参画とか、フェミニズムとかエコロジーとか嫌煙権運動とか、全共闘が個別具体的な課題に散っていった結果です。

(PC:ポリティカル・コレクトネス。差別・偏見を防ぐための概念やその表現方法。反差別の名による「言葉狩り」の意味で使われることもある)

自民党の政治家も失言で糾弾されるけど、人前で言ってはいけないことがあるという認識にはなっているでしょ。PC的な物言い、つまりスチュワーデスや看護婦といった単語がいけないという概念は、すべて全共闘にくっつくんですよ。

だから、若者の右傾化というのは、ある種当然です。もはや左翼というのは風紀委員であり、差別言動監視委員です。それは反感を買って当たり前ですよ。

以前だったら人前で意見を述べる機会も能力もなかった人が、ツイッターなんぞが広まったことによって意見らしきものが言えるようになってきた。本来語り得ないサバルタンが、ネットで語り散らすようになった。左翼はサバルタンの代理をしてきたつもりだったのに、今や「サバルタン黙ってろ」というのが本音じゃないですか。弱い者の味方だったはずの社民党なんて、党首からして完全に風紀委員ですからね。

(サバルタン:権力構造から疎外された人々)

――ところで、特定秘密保護法なんて、どうですか。

監視社会が進行する出来事であって、阻止できるものは阻止した方がいいんだけど、秘密反対、リベラル系の人たちは「戦争ができる国づくりを阻止する」なんて言ってる。まだ戦前だと思ってる。

でも世界的には9・11以降、反テロ戦争が続いている。相手は国際テロネットワーク、地球上至る所が戦場になりうる。一部批評家たちは、世界規模の内戦と言っている。

内戦で全面に立つのは警察です。米軍は「世界の警察官」として派遣されてるわけです。軍と警察の境界があいまいになっていくのがまったく新しい戦争。振り返ると日本では1995年、オウム事件でそれが起きている。オウムをきっかけとして警察国家化が始まっている。左翼セクトの活動家がホテルに偽名宿泊しただけで逮捕される時代になった。路上喫煙禁止とか、そもそも監視社会化、警察化を戦争ととらえないと、どんどん進んでいるってことがわかってない。そんな運動が勝てるとは思えない。

――じゃあどうすればいいんですか。

うーん、そうだな、右翼的なセンスの人たちとか、非合理だったとしても習慣化していることの方が価値があるという、伝統的保守主義を反監視社会に説得していく。伝統的共同体が機能していれば、監視カメラで街を一杯にしていく必要などないし、そんな悪い人いっぱいいないだろう、的な緩い社会が95年以降、どんどん崩れていく。そういうことに伝統的な保守主義こそ気づかないといけない。

――繰り返しますけど、知事選には出ませんか。

供託金300万円出して選挙に出ても、6年前より面白いことはまずできない。それより、残りの4700万円を有効に使った方が面白いことができそうだし、そっちに期待してしまう(笑)。

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