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ヘイトスピーチに「愛国者じゃない、日本の恥」 カウンター右翼青年が叫ぶ理由

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ヘイトスピーチのデモにスピーカーで罵声を浴びせる山口祐二郎氏 | Taichiro Yoshino
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2014年1月19日、日曜日の昼下がりのJR西川口駅周辺は喧噪に包まれていた。日の丸を掲げ「不良外国人は一人残らず叩き出せー!」と叫ぶデモ隊。そして、並行して歩きながらデモ隊を「人間のクズ!」と罵倒し、「差別主義者は恥を知れ」というプラカードや中指を突き立てる集団。

デモを主催したのは「外国人犯罪撲滅協議会」という団体。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)に代表される、外国人排斥など差別発言を街頭で叫ぶ「ヘイトスピーチ」が社会問題になっている集団の一つだ。インターネットを通じてデモや演説の動画を拡散し「ネット右翼」を集めていると言われる。

デモ隊を罵倒していたのは、 C.R.A.C(Counter-Racist Action Collective=対レイシスト行動集団)。「カウンター」と呼ばれる、ヘイトスピーチのデモに対抗するグループで、「レイシストをしばき隊」(解散)や「プラカード隊」などの団体が集まったものだという。

「帰れ!帰れ!日本の恥!」

山口祐二郎氏(28)は拡声機を肩に担ぎ、デモ隊に向かって叫びながら中指を突き立てていた。カウンターの中でも「男組」という、威圧的な外見と行動で知られるグループの「関東若頭」を名乗る。平日はフリーライターやフリースクールのカウンセラーなどをしているが、新右翼団体「統一戦線義勇軍」元メンバーで、2007年7月には防衛省に火焰瓶を投げ込んだ容疑で現行犯逮捕されたこともある。

実力行使も辞さない「カウンター」はありなのか。なぜネット右翼のデモに立ち向かうのか。著書「奴らを通すな!」(ころから刊)を出版した山口氏に聞いた。

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ヘイトスピーチvs.カウンター(2014年1月19日、川口・蕨)
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■「いじめは、体を張って止めないといけない」

――差別発言を大声でわめくデモには嫌悪感を覚えますけど、「しばき隊」も正直、柄が悪いというか…

レイシスト(人種差別主義者)への圧力です。見た目もあえて柄悪くやってるんです。行儀よく反差別を訴えるプラカードの部隊とは別に、役割として僕らみたいなのがいてもいい。街に迷惑かけてるけど、ヘイトデモに反対の人もいるってことを示さなきゃいけない。

――正直、どっちもどっちではないかと…

下品な言葉遣いの中心にいると自覚してますけど、彼らは外国人というだけで「出て行け」と叫ぶ。全然違うと思っています。

人間って、暴力的なものを本能的に持ち合わせていると思うんです。彼ら、ヘイトのコールをすると、快感らしいんですね。ただ、こっちは差別をしている個人に絞って「差別をやめろ」と罵倒しているのであって、属性への罵倒ではない。

――「しばき隊」の暴力性については?

安易な暴力はよくないですが、武力を使うのも時には必要なこと。目の前にののしっている人がいて、手を出しちゃったら、そのくらいは許容範囲内。ちょっと怖さを見せないと、威圧効果を出せないというのが、リアルな側面としてある。それにあれだけ在特会が警察にガードされている状況で、実際に手なんか出せないですよ。

――さっきカウンターの人たちも言ってましたけど「弱い者たちが夕暮れ、さらに弱い者を叩く」という歌の一節が思い浮かびました。

それはありますね。デモをしている側も生きづらさを抱えている。仕事につけない不器用な人もいる。人生がうまくいかないのを全部外国人のせいにしている。傷ついてひねくれて、そんな解釈に至ったんでしょうけど。

――街の喧噪を加速させている面もあるのでは?

過激に相手を挑発して、何のデモだか分からなくさせてるんです。今日のデモだって、外国人より、ほとんど僕らカウンターへの罵倒になってたでしょ? 僕が罵倒されるのは全然構わないので、身代わりになるのも一つの目的です。いじめられている人がいたら傍観しないで、体を張って止めないといけない。

――一般の人々の支持を得られますか?

得ようと思ってません。「男組」には入れ墨を見せて威嚇するメンバーもいますし、逮捕者も出た。一般の人への反差別の周知は、プラカードの部隊がやってくれる。とことん悪党になってもカウンターします。

――なぜ右翼の山口さんが、「ネット右翼」とか「ネトウヨ」と言われる在特会のデモに反対するんですか?

あれは愛国者じゃないでしょ。人の痛みも考えられない差別主義者は真の右翼ではない。日本が大好きで誇りに思っているなら、なぜ他の人に配慮できないのか。在日コリアンもニューカマーも日本を好きでいてくれて、そこで商売しているのに、罵倒したりバカにしたりする。韓国人もアメリカ人も、国や故郷を誇る思いは一緒です。そういう尊厳を踏みにじる行為が理解できない。だから目を覚まさせたい。「差別して何が愛国者だ」と。愛国心の暴走を止めたいんです。

■「かつての仲間へのカウンター、今でも躊躇」

――なぜ新右翼の団体に入ったのか?

最初は右翼思想とか持ってなかったですね。親から「進学はしておけ」と言われて、群馬県から上京して神奈川県内の大学に入ったんですけど、法学部の勉強にまったく興味が持てなくて、3日で行かなくなりました。ミュージシャンやプロ格闘家になるという夢も、現実は厳しかった。アルバイトも不器用で根性もなくて、コンビニ、牛丼店とか、怒られてすぐ辞めた。

ヤクザか右翼ならお金になるんじゃないか、右翼ならヤクザより危険も低そうだ、という動機で、21歳のとき、新宿のアルタ前で、一水会や統一戦線義勇軍といった新右翼の合同演説会を聞きに行ったんです。その中で統一戦線義勇軍の議長がかっこよくて、この人の下でやりたい、と思って、何をしているのかも知らずに入りました。入ったら交通費とか出て行くばっかりで、全然お金になりませんでしたけど。

――あまり思想的な背景はなかったと?

ただ、入ってからは、いいことしてるんだ、と思えてきた。自分なりに変な思想にならないように疑いつつ、自分の思想を作ろうと勉強しました。

僕は理屈抜きに今の(天皇)陛下の人柄とかすごい好きですし、実際問題、多くの日本人は皇室が好きですよね?大日本帝国の時代に戻したいとも思わない。陛下が「辞めたい」とおっしゃれば、皇室制度を再考することだってあってしかるべきです。毎年、靖国神社に行きますけど、決して戦争を賛美するからではなく、戦争で亡くなった方々の悲しみを静かに弔いたいから。

2012年2月に自分から「統一戦線義勇軍」を辞めました。原発問題への姿勢にせよ、反差別にせよ、組織の意見とは必ずしも一致しなかった。そのうち「統一戦線義勇軍は朝鮮人ばっかり」といったデマも流布されるようになって、組織に迷惑をかけると悪いと思ったからです。

――在特会の側も深く考えずに入った人がいるかもしれませんね。

僕自身、ドロップアウトした後に議長と出会って嬉しかった。生きづらさを抱えた人たちが引きつけられて、仲良くなるとすごい嬉しいみたいなんですよね。もちろん、普通に仕事してるのも、高学歴の人間もいますけど、居場所を見つけられてうれしい、かといって深い付き合いも煩わしい。バーチャルな感じにヒットしたんでしょうね。

――「奴らを通すな!」は、ほとんどがカウンターをできなかった後悔の記録ですね。右翼団体の組織にいるとやりにくいんですか?

向こう(在特会側)に知り合いも多かったんです。逮捕されたとき、警察署の外まで来て激励の演説をしてくれた大先輩もいます。街頭演説やビラ配りの合間に酒を飲んだ友人もいます。そんな仲間が今、あちらにいる。今も躊躇することもあります。

右翼も差別には反対です。一方で品格を重視します。「現場で罵り合いなんかみっともない」と今でも仲の良い当時の先輩に言われます。「愛国」を名乗って罵り合うのは、内ゲバみたいに思われる。僕も以前は「組織にいるから」カウンターをしない言い訳にしていた。2013年2月に「しばき隊」が在特会を実力で防いだのをネットの映像で見て、自分は何て恥ずかしいんだろうって思って、「しばき隊」の仲間に入れてもらいました。

――山口さんのかつての仲間は、なぜヘイトスピーチの側に行ったんでしょう?

おそらく在特会に可能性を見たんだと思います。今の右翼団体は若者もいないし、元気もない。僕自身、新聞配達をしながら、朝夕の余った時間でビラ配りとかしてましたが、活動するのはいつも3、4人で、休日に街頭演説しても全然人が集まらなかったし、仲間も増えなかった。こんなので効果があるのか、と葛藤してました。

一緒に葛藤していた同い年の仲間は「普通の人が日の丸を持つんだぜ」と興奮してた。ネットで動画が拡散して、それを見た人が集まる。安易に可能性を見いだしたんじゃないでしょうか。だけど僕は、どれだけ動員力があっても、差別主義者になろうとは思わない。

――彼らは「外国からおびやかされている」と言っていますね。

そりゃいろいろあります。歴史問題、領土問題はそれぞれの国に反対しなければいけない。領土問題であれば米軍基地の問題もあります。原爆投下はアメリカ大使館に抗議します。でも「アメリカ人出て行け」と叫ぶのは違う。

――個別説得もしているそうですが。

僕自身も盲目的にヘイトに近いこと、昔は言ってたかもしれないんですよ。人は変われると思っているので、対話は絶対にしていかなきゃ。

難しさは痛感しています。実際はおとなしい人が多いんですよ。2人で会うと「差別はよくない。あんなデモにはなるべく参加しないようにしようと思う」なんて言いながら、数日後にデモに参加しているのを何度も見て来ました。無力感を覚えます。

いくら理論的に論破しても、彼らはなかなかやめない。「生活保護受給者のほとんどが在日だ」なんて、ちょっと調べりゃすぐウソと分かること。事実かどうかなんて、ある意味どうでもいいんでしょう。カルトにはまる人に似てますね。集団の狂気なんでしょうか。

■「自分1人になってもやらなきゃ」

――あなたにとって、活動のゴールは?

とりあえずヘイトデモがなくなるまで。最初はこんなに長くやるとも、僕が中心になるとも思っていなかった。でも、ヨーロッパではモグラ叩きのような状況が何十年も続いている。長期戦を覚悟してます。

ヘイトスピーチが日本でもちょっとは知られてきて、カウンターも増えてきて、法規制の是非も取り上げられるようになった。今は世の中捨てたもんじゃないと思うけど、たとえ自分が1人になってもやらなきゃいけない。

――法規制の話が出ましたが、山口さんはヘイトスピーチの法規制に賛成ですか?

迷っていたけど、今は賛成です。これからもデモのたびに争乱状態になるのは、街にも迷惑。カウンター側の負担もきつい。それにもし仮に、選挙期間中に選挙演説としてヘイトスピーチをする候補がいたら、カウンターは選挙妨害で捕まってしまう。やりたい放題になってしまうんですよ。

拡大解釈される可能性は慎重に考えないといけないと思います。民族差別は規制しやすいと思うけど、それ以外の要素が絡んだとき、どこで線引きすればいいのか。米軍基地に反対もできなくなるのか、性や宗教、たとえばイスラム教やキリスト教への批判もヘイトスピーチになるのか、難しい問題がたくさんあります。

――理想の日本とは?

温かい感じですね。今は人とのつながりが薄れて、他人の痛みに鈍感な冷たい社会になっている。差別の問題の根本には人の痛みがあると思うんです。人があって国があるわけですから、人の痛みに寄り添う温かい社会にしたいですね。

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