中国「動画投稿の実名義務化」、理由は「人肉検索」

中国政府は1月下旬、ネットに動画を投稿する際には実名を登録することを義務付けた。
Peter Cade via Getty Images

中国政府は1月下旬、ネットに動画を投稿する際には実名を登録することを義務付けた

ロイター通信によれば、中国の出版物、ラジオ、映画、テレビ放送を管理する政府機関は、この規制の導入の理由は、「俗悪で卑劣な内容や、過度に暴力的、もしくは性的な内容のインターネット動画が社会に悪影響を与えるのを防ぐため」だと説明しているという。

しかし、国際的な人権団体「フリーダム・ハウス」で上級リサーチアナリストを務めるサラ・クック氏は、米ハフィントンポストに対してこう指摘する。「中国では、国営放送のCCTVなどでニュース番組を見るよりも、インターネット上でニュースをチェックする人が増えており、特に若者の間でその傾向が見られる。とりわけ、政府当局者の汚職や不正行為、警官による残忍な行動などに関する内容の場合、国営メディアよりもオンライン動画の情報を信用する人が多い」

クック氏のほか、全米民主主義基金(NED:「他国の民主化を支援する」名目で、公式には「民間非営利」として米国で設立された基金。実際には米国議会が出資している)で国際フォーラムのディレクターを務めるクリストファー・ウォーカー氏などによると、政府にとって都合の悪い動画が匿名の内部告発者によって相次いて投稿されたことが、今回の実名登録の義務化につながったという。

おそらく、こうした動画の中でもっとも有名なのは、国営の雲南鉱業の副理事長で、立法助言機関「中国人民政治協商会議」のメンバーでもある厳林昆(ヤン・リンクン)氏のものだろう。2013年2月に投稿された以下の動画では、雲南省の昆明(クンミン)にある長水国際空港で、飛行機の時間に間に合わず搭乗できなかったことに腹を立てた厳氏の一行が、空港設備を破壊する様子が映し出されている。

中国の動向を英語で発信するウェブサイト「ChinaSmack」では、特に政府関係者の汚職や不正行為に関する有名な動画や、論議を呼ぶ動画を多く集めている。これらの動画は、「民衆の叫び」などの偽名を使って、中国のユーザーがアップロードしたものだ。

同サイトを少し閲覧しただけでも、政府関係者による買春行為の動画などが次々と現れるほか、「城管」と呼ばれる都市管理警察が、行商人や臨時職員を残忍に扱う様子を収めた動画などが見られる。

しかし、政府当局者にとって、動画よりもっと恐ろしいのは、「人肉検索」(「人肉捜索」)と呼ばれる現象だろう。これは、匿名のネット自警団たちがオンラインで連携し、動画に映った人物を特定する活動だ(米国で2013年に発生したボストン・マラソン爆発事件の犯人を探す際に、ウェブサイトの「Reddit」が使用されたことにも似ている)。

人肉検索に関してよく知られたケースには、2006年に中国の動画サイト「Mop」の匿名ユーザーが投稿した、「ハイヒールで子猫を殴り殺す動画」がある。この行為に憤慨したコメントの発言者たちは、すぐに結集し、動画に映った女性を特定して嫌がらせを行うことを決意。最終的に、この女性は国家公務員としての職を失うことになった。

この現象は、ハクティビスト集団のアノニマスが行う、「ドキシング」(doxing)という個人情報をさらす行動に似ている。米国では、「ポピュリズム(人民主義)的な嫌がらせ」として非難を受けているものだ。

中国でもそうした傾向はあるが、同国には人民主義を訴える手段がほとんどないことから、「人肉検索」は政府当局者の汚職を暴露する方法として頻繁に利用されている。

たとえば、人肉検索の対象となった結果、陝西省安全監督局長の楊達才(ヤン・ダカイ)は2013年9月、収賄と汚職で有罪判決を受けた(同氏がバスの事故現場で笑っている写真や、さまざまな高級腕時計を身に着けている写真がインターネット上で広がり、国民の怒りを招いたことが腐敗捜査につながり、懲役14年の判決が下った)。

また、深セン海事局の党秘書を務めた林嘉祥(リン・ジャーシン)は2008年、11歳の少女に性的な行為をしようとした動画から人肉検索が行われ、解雇処分となった

[Betsy Isaacson(English) 日本語版:兵藤説子/ガリレオ]

ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています

関連記事

中国初の空母、試験航行=海洋権益にらみ威嚇効果

中国初の空母「遼寧」

注目記事