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「アジア人と真正面から向き合え」 在日ミャンマー人のドキュメンタリーを撮影した土井敏邦監督に聞く

2014年03月03日 19時26分 JST | 更新 2014年03月03日 22時14分 JST

30年にわたりパレスチナ問題を追いかけてきたジャーナリストの土井敏邦さん(61)が監督を務めたドキュメンタリー映画「異国に生きる 日本の中のビルマ人」は、ミャンマー(ビルマ)の民主化活動を続ける在日ビルマ人の14年間を追った作品だ。2013年3月から全国各地で断続的に上映されている。土井さんはインタビューに「日本が国際化するにはアジア人に真正面から向き合わないといけない」と話す。

映画「異国に生きる」主人公のミャンマー人民主活動家チョウチョウソーさん(50)は1991年、軍事政権の迫害から逃れるため、祖国に家族を残したまま来日。後に呼び寄せた妻ヌエヌエチョウさん(45)と東京・高田馬場にミャンマー料理店「ルビー」を営む傍ら、祖国の民主化運動を続けてきた。映画には、東日本大震災の時にボランティアとして被災地に赴いた姿も収められている。2013年、「文化庁映画賞 文化記録映画優秀賞」を受賞、キネマ旬報文化映画ベストテンでは第3位となった。

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ドキュメンタリー映画「異国に生きる」を監督した土井敏邦さん

――どうして在日ミャンマー人を取り上げたのですか。

この映画はビルマ問題そのものを扱っているつもりはない。僕は30年近くパレスチナ問題を取材してきたのだけれど、在日ビルマ人の生き様はパレスチナ人のそれに似ている。映画のメインテーマはそこなんだ。

いまの日本の若い人たちは「自分一人でも幸せになれる」「物をたくさん持てば豊かになれる」と思っている人が多いけれど、そうではない。人間は社会と切り離して生きられるのか、人間の生き甲斐や生きる意味とは何なのか。チョウ(チョウチョウソーさん)らを追っていると、そういったものを考えさせられて興味を持った。人が深く生きるというのはどういうことか、日本社会に提示したつもりだ。

僕は十把一絡げにビルマ人を描いているんじゃない。こんなにすごい素質を持った人がいると伝えたいと思った。

――製作をして、最も印象に残っている場面はどこですか。

チョウが2005年にバンコクでお父さんと14年ぶりに再会する場面と、1998年に妻のヌエヌエチョウさんとバンコクで再会する場面。自分だったらどうなるんだろうと、つい考えてしまう。自分だったら、民主化運動なんかやめて普通に暮らそうと思うのではないか。

――東日本大震災の後、チョウチョウソーさんら在日ミャンマー難民らがバスを貸し切り被災地にボランティアに出かけます。

チョウは被災地に行って、「一人のために生きるって、つまらなくない?」って言うんだけれども、そこがまさにこの映画のテーマだ。つまり、社会と関わらないと、人間は深く生きることができないんだと教えてくれる。

日本人ではなく、ビルマ人がバスを借りてボランティアに行く。なぜ彼らにできるのか。チョウは平然としたまま「困っている人たちを助けるのは当たり前」という。日本人のあり方が問われている。

――チョウチョウソーさんとはどこで知り合ったのですか。

ビルマ難民の支援活動をしている弁護士の渡邉彰悟さんから紹介された。映画では出てこないけれど、チョウとともにティンチーさんという人も紹介された。今年で61歳になる。彼も民主活動家で、日本で早朝から深夜まで働いていた。「自分の人生や、幸せを考えないのか」と聞いたことがあるのだが、そのとき、彼は「私は自分を捨てました」と答えた。

ティンチーさんは1988年のビルマ民主化運動の時、仲間の一人が軍に捕まり拷問を受けた。しかし、自分は助かったため、「自分は幸せになってはいけない」と思うようになった。

約10年前にアメリカに渡った。日本でずっと難民申請をしても認められず、将来を絶望して亡命した。アメリカでは、たった1時間のインタビューで難民と認められたそうだ。日本の外国人に対する政策をアメリカのものと比べて、考えてしまう。

――東京・高田馬場には在日ビルマ人が多く行き交い「リトル・ヤンゴン」と呼ぶ人もいますが、身近なところにこんな外国人コミュニティーがあるとはそんなに知られていません。

外国人を受け入れないという日本の体質は問題だ。かつて多くのイラン人を労働力として入れたのだけれども、不況になればさっさと切り捨てた。日本は海外とそんな付き合い方をしている。農業や漁業などの分野で、アジア人を低賃金で働かせるが、母国に帰るときには何の技術も得ていない。期限がきたらポイ捨て。研修とは名ばかりの、奴隷制度のようなものだ。

どうもアジアの人は汚くて危ない、と思っている日本人はまだ少なくないようだ。アジアの人に対する日本人の付き合い方をよく考えた方がいい。

――日本の国際化はまだまだだということですか。

英語を小学校から学ぶことよりも、自分と違った文化の人を同じ人間として受け止める感覚が大切だ。日本ではこういった人たちと出会うことでそんな国際感覚を養う機会があるのに、嫌ってバカにして、軽蔑して、恐れ、拒絶している。だから、外国人は小さいコミュニティーにしか生きられなくなる。在特会(在日特権を許さない市民の会)が在日韓国・朝鮮人に対してヘイトスピーチ(増悪表現)を繰り返している。規範感覚が欠ける社会は恐ろしい。

海外から日本に来ているアジア人らは、崇高な精神を持っている人も多い。全く違った文化や価値観を持つ人たちと真正面から向き合わないと、日本が国際化しているとはまだまだ言えない。

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土井敏邦(どい・としくに) 1985年以来、パレスチナをはじめ各地を取材。1993年よりビデオ・ジャーナリストとしての活動も開始。2009年に「届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと」全4部作を完成、その第4部「沈黙を破る」は劇場公開され、2009年度キネマ旬報ベスト・テンの文化映画部門で第1位、石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。東日本大震災後に制作された「飯舘村 第一章・故郷を追われる村人たち」(2012年)で「ゆふいん文化・記録映画祭・第5回松川賞」を受賞。主な著書に「アメリカのユダヤ人」「沈黙を破る─元イスラエル軍将兵が語る“占領”─」(いずれも岩波書店)など。

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