【3.11】「電気が役に立っているといわれたい」福島第二原発と戦った作業員の誇りとは 漫画「ストーリー311」が伝える真実

震災から、3年——。漫画家たちが多忙な仕事の合間を縫って、東北に足を運び、被災された方々の話を聞いて描かれた作品の第二巻が、2014年3月11日に単行本『ストーリー311 あれから3年 漫画で描き残す東日本大震災』として発売される。
story311

東日本大震災を漫画で描き残すプロジェクト「ストーリー311」。漫画家のひうらさとるさんが発起人となって2012年に始まったこのプロジェクトには、第一弾におかざき真里さん、末次由紀さん、うめさん、第二弾に、二ノ宮知子さん、松田奈緒子さんなど、人気連載を抱える多くの漫画家が参加。2013年12月には、ネット上でクラウドファウンディングを実施。約200人のサポーターによって、300万円を超える支援金が寄せられた。

震災から、3年——。漫画家たちが多忙な仕事の合間を縫って、東北に足を運び、被災された方々の話を聞いて描かれた作品の第二巻が、2014年3月11日に単行本『ストーリー311 あれから3年 漫画で描き残す東日本大震災』として発売される。

巻頭に収録されたの上の作品は、さちみりほさん(写真)の描いた福島第二原発で働く原発作業員の物語だ。発起人のひうらさんが「すごいインパクトでした。さちみさんの話を巻頭に掲載するのは、みんなの総意でしたね」と述べたこの作品には、震災当日から、不眠不休で働き続けた原発作業員たちの業務や人間関係がリアルに表現されている。今回は、さちみさんに「ストーリー311」に参加したきっかけや、物語の制作秘話、原発作業員の人たちへの想いを聞いた。

——さちみさんは1巻のときから「ストーリー311」に参加されたんですね。

2011年の10月、漫画家の岡本慶子さんに誘っていただいてボランティアツアーで気仙沼へ行きました。それで、自衛隊、ボランティアの人たちの様子を目の当りにして……。絶対にまた来たいな、何かお手伝いができたらなと思っていたんです。そんなときに、ひうらさんから「ストーリー311」の話を聞いて、ぜひ参加したいと思いました。

前回は、震災直後に避難所で生活をされていたご家族のエピソードを描きました。たくさんご感想をいただけてうれしかったです。避難所のみなさんにも回し読みしてもらえたそうです。

——今回、福島第二原発の作業員について描くことになった経緯を教えてください。

今回も漫画を描くにあたって、何人かの方から震災についてのお話を聞きました。漫画にも登場しますが、最初にお話を聞いたのは、福島県富岡町でボランティアガイドをされている藤田大さん。防護服を着て、一緒に旧警戒区域を回りました(画像集)。

そのときに見た、津波に流されたまま時が止まっている富岡町のことも、他の方の話も、もちろん描きたかったんですが、東京電力の元社員の吉川彰浩さんに聞いた原発作業員のエピソードが、本当にすごくて。話を聞くだけで、頭のなかに場面が浮かんで……「もう絶対に描きたい! 描くんだ!!」と思いました。

——震災の日、吉川さんは福島第二原発で働いていたのですね。吉川さんは当初、漫画化を反対されたそうですが……。

やはり、そうだと思います。福島の話はとても複雑ですからね……。藤田さんはお会いする前日に、私が描いた『ストーリー311』の話を読んでくださっていたようで、あとがきに「神のような原発作業員の皆さん」って描いていたのを見て、「この一言で、インタビューを受けようと思った」といってくれました。安心して話ができるって思ってくださったそうです。

吉川さんは、元東電の社員として、震災後に壮絶な嫌がらせを経験されたそうで、私に会う前は「東電のせいで」っていわれたらどうしよう……という心配もあったそうです。だから最初は、私が読者の方に攻撃されるのを心配して「絶対に(漫画を)描かないでください」と反対してくださいました。でも、私が「いいから描かして! 大丈夫やから」って説得しました。そうやって聞いていったら、貴重なエピソードがいっぱい出てきたんです。気づいたら、予定時間を超えて話してくださって、最終的には「許可」というか「許し」をいただきました(笑)。

——漫画では当時、津波を受けて危機的な状況に陥っていた第二原発に立ち向かう原発作業員の状況が描かれていますね。実際に描くにあたって気をつけたことはありますか?

津波による電源喪失や復旧作業、危険な場所へ向かう特攻チーム、汚染水のなかでの作業……。本当に描ききれないくらいのエピソードを吉川さんから聞きました。全部は無理でしたが、できるだけ伝えられたらと思って描きました。漫画なら、3年経った今でも再現することができますからね。忘れられつつある今だからこそ、漫画が役に立てることもきっとあると思って。

あとは、なるべく正確に表現するために、吉川さんにも何度かチェックしてもらいました。ネームの段階では、防護服で作業する作業員の絵を描いていたんですが、防護服は全部第一原発に送っていて、当時の第二原発になかったことを教えてもらいました。実際は、作業服にマスクとヘルメットだけで作業されていたそうです。

吉川さんは、どんどん協力的になってくださって、コードをヨロっと描いたら「コードは、太くてピーンとなっている」と聞いて修正したり、ワイヤーの作業をしたのは「東電じゃなくて関電工」だと教えてもらって、ヘルメットを全て描き直したり……。「早よ言うて〜」いいながら、ちゃんと直しましたよ(笑)。描いてみることでわかったことも、たくさんありました。

現場の様子は、東京電力のサイトに写真が詳しく載っているので、それを参考にしました。写真そのままではなく、なるべく違う角度を想像して描くようにしました。

——原発で働く人たちの環境についてどう感じましたか?

311の後、吉川さんは第二原発から数カ月間ほとんど帰れない状態で復旧作業にあたったそうです。東電の人も下請け業者の人も、みんな不眠不休で働いて。漫画に、机の下で寝ているシーンを描いたんですが、あの通りだったといわれました。本当に暖房もなくて毛布も足りなくて、という状況での作業だったそうです。

当時10代だった男性は、ほんとに1ヵ月寝る間も惜しんで働いて、その月の給与が特別手当付きで50万円だったそうです。彼は「50万もらえた」って喜んだそうですが、吉川さんはそれを聞いて、涙が出たって語ってくれました。「お前、命と引き換えにしてたかも知れない値段だぞ」って。

「東電の社員なら、お金をもらっているんでしょ」と誤解されることもあるようですが、実際に当時、現場で働いていた人たちは、それほどもらっていたわけではないようです。下請けの人たちだって、何千人といる。だから、東電の社員でも、そうじゃなくても、作業員の人たちは、仕事に見合うお給料をもらえているのかなって思います。漫画に登場した人で、まだ原発で働いている人たちはいます。

——東電の場合「原発の仕事はおもに高校卒の地方採用で、年収は30代で400万」と、吉川さんは発表されていますね。今、原発作業員として働く方々に伝えたいことはありますか?

あのとき、懸命に復旧作業をしてくださった方に対しては「よくあそこまでに抑えてくれた」っていう言葉しかないです。今作業してくれている方にも、「ただただ、ありがとうございます」って伝えたいです。原発事故が起こった後に「こんなことになって、どうしてくれるの」っていう意見もありますが、私たちには(現地での作業は)できないのだし、私は作業員の方たちにはただ感謝するばかりです。

もちろん、みなさんのなかにも「日本を守ってくれている」って感じている人もいると思うんですが、そういう声がまだちゃんと現場の作業員の方たちには届いてなくて。「ありがとう」よりも「お前のせいでこうなった」という声が、もう圧倒的に多いようで。それが原発作業員の人たちに伝わっていて……。

「原発の現場作業は、本来メンテナンス。だけど、震災後は修復作業になった」と、吉川さんは教えてくれました。それは、誰でもできることじゃない、より高度な仕事ですよね。そんな方々が、今は、全国から集まる未経験の人たちと一緒に危険な作業されています。日々頑張っているのに、世間から非難されてばっかりいたら、長年原発で働いてきたベテランの人たちが、気持ちを保つのは大変だと思います。

——今回の漫画を通して、伝えたいことは何でしょうか?

吉川さんに「何を一番伝えて欲しいですか」って聞いてみました。そうしたら「電気が役に立っているといわれたい」と。電気が、みんなの生活を支えてる——それに誇りを持ってやってきたから、やっぱり「たかが電気」「電気なんかなくたって生活できる」といわれるのが、一番辛いって。そうですよね。2月の大雪でも思い知りましたが、私たちは電気のおかげで、暖かい暮らしができているんですよね。

今回の取材では、東電の方、東電と仕事をしている方、原発事故の被害に遭われ移転を余儀なくされた方……いろんな立場の方からお話を伺うことができたんです。漫画にも描きましたが、藤田さんは「私らは、東電に恨みなんかない」と語ってくれました。被害に遭われたおじいさんにも「東電の方をどう思いますか」って聞いてみたのですが、「作業員の人たちに、危険がないようにしてやってほしい」といわれました。「とにかく安全に、どうか無事で」と。

あの地域の人々にとっては、きっと他人事ではないんだと思います。おじいさんも「俺も若かったら、多分今頃(原発で)働いてたと思う」とおっしゃってました。吉川さんも、311のときに原発に立ち向かったのは、「家族」を守るためだったと語ってくれました。

——読者の方にメッセージをお願いします。

「ストーリー311」が福島のことをわかってもらえるきっかけになるといいなと。まさか、このテーマで描かせてもらえるとは思いませんでした。一番望んでいたテーマでした。非難は覚悟の上で描きました。

私は他府県の人間なので、おこがましいですが「できれば、福島を一度見にきてください」って思います。足を運ぶ機会がなければ、これだけ頑張っている福島の人たちがいることを知って、応援してあげてほしい。福島米を食べて応援している私たちのことも、どうか非難しないでほしいなと思います。色んな考えがあるとは思いますが、藤田さんから伺った一番印象に残った言葉を最後に。

「もう、誰とも争いたくないんです。東電許せない、放射線が怖いって人とも、福島県民お金もらってるんでしょっていう人とも、誰とも争わず仲良く前を向いてやっていきたい」

ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています

注目記事