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自衛隊の広報が軟派傾向に 「永遠の0」や「ガルパン」に協力

2014年03月17日 16時57分 JST | 更新 2014年03月17日 17時22分 JST
Reuters

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自衛隊の広報活動が「軟派路線」に急傾斜している。映画やテレビ番組の制作に積極的に協力するほか、グラビア雑誌と見まがうPR誌を出版。東日本大震災の救助活動への高い評価を追い風に、親しみやすさをさらにアピールし、防衛予算などへの理解を広げようという狙いだ。

しかし、大衆文化でソフトにくるむ宣伝手法には、軍隊という自衛隊本来の姿が正確に伝わらない、と冷ややかな反応も少なくない。

<戦車に搭乗してリアル感>

女子高生が戦車を操縦して試合を勝ち抜く「戦車道」。茶道や華道と並び、大和撫子(やまとなでしこ)のたしなみとされる架空の武道をテーマにしたアニメ番組「ガールズ&パンツァー」が、2012年から昨年にかけ大ヒットした。いわゆる「萌えキャラ」が主役だが、単なる美少女アニメではない。自衛隊の最新型一○式や、旧日本軍の八九式など、実在の戦車が映像の中で忠実に再現されている。

作品を手掛けたバンダイビジュアル(東京都品川区)によると、制作には自衛隊が協力した。茨城県土浦市にある陸上自衛隊武器学校でスタッフが戦車に乗り、実物の雰囲気や質感、内部の広さなどを確認した。「女子高生が戦車を操る武道という大きな嘘をついているので、話を本物らしくするため細部にこだわった」と、杉山潔プロデューサーは言う。

杉山氏が狙った視聴者層は30代の男性で、軍事マニアはターゲットとして特に意識しなかった。自衛隊の宣伝をするつもりもなかったが、結果的にアニメは自衛隊への関心を高めた。昨年8月に富士山近くで行われた総合火力演習には、6000人の観覧枠に1万1000人が応募した。その多くがガールズ&パンツァーのファンだったという。

関心や理解のない人をいかに振り向かせるか。創設当時から憲法違反と批判され、ずっとマイナスのイメージに悩んできた自衛隊にとって、まずはこれが広報活動を強化する狙いだ。防衛予算を「税金泥棒」などと日陰者扱いする見方を何とか是正したいとの思いも強い。

防衛省の三原祐和広報課長は「本物らしく臨場感を高めることで視聴率が上がるなら、我々にとっては(自衛隊に)関心を持ってくれる人が増えることになる」と、制作に協力した意図を説明する。

内閣府が12年1月にまとめた世論調査によると、自衛隊に「関心がある」と回答したのは69.8%。09年1月の前回調査から東日本大震災を経て、5.1ポイント上昇した。しかし三原課長は「震災があったので高くなるのは当たり前。そのころの高い評価は落ち着いてきている」と話す。「防衛省・自衛隊は事故や不祥事が多い。世の中と距離があると、何が起きた場合に必要以上に嫌われる」と、さらなる広報強化の必要性を強調する。

古くは「ゴジラ」など、これまでも自衛隊が裏方としてテレビや映画の撮影に協力する例はあった。だが、「特に最近は攻めている傾向を感じる」と、映画監督の山崎貴氏は言う。山崎氏が監督し、特攻隊員を描いた映画「永遠の0」では、護衛艦「たかなみ」が丸一日撮影に参加し、映画の中で空母「赤城」が海上を進むシーンにひと役買った。「映画を好きになってくれた人たちが、自衛隊が撮影に協力したと知ったら良い印象を持つと思う」と、山崎監督は語る。

<理解が深まるかどうかは別>

阪神・淡路や東日本大震災、国際協力活動などを通して世の中の意識が変わり、自衛隊に対する抵抗が減ったことも、メディアで存在感を高めている理由だ。昨年春に放映されたテレビドラマ「空飛ぶ広報室」では、航空自衛隊の広報部員の日常が描かれた。視聴者側に自衛隊への拒否感があったひと昔前なら自衛隊を主役に据えたドラマはありえなかった。

10年以上前に自衛官が主役のドラマを作ろうとしたインターネット番組の制作・配信会社、日本文化チャンネル桜(東京都渋谷区)の水島聡社長は、時代が変わったと話す。「自衛隊側は『主役なんてとんでもない。出演者の中に(脇役で)1人いれば十分』という反応だった」と話す。「テレビ局のほうにも拒否感があった。こういう企画が通るようになったのはすごいことだと思う」。

防衛省の広報誌「月刊MAMOR(マモル)」は、書店で一般に販売され、制服に身を包んだ女性芸能人や声優が表紙や巻頭グラビアを飾る。フジサンケイグループの扶桑社(東京都港区)が編集を請け負うこの雑誌の人気ページは、自衛隊員の恋人を募集する婚活コーナーだ。以前なら自衛隊員は結婚相手に選ばれにくかったが「今やアレルギーはなくなった」と、高久裕編集長は話す。

しかし、自衛隊への関心が高まるのと、理解が深まるのとは異なる。三原課長は「離島防衛の必要性や、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威があると認識した上で、対処能力を上げるために自衛隊に税金を払ってもいいと思ってもらえるまで理解してもらいたい」と話すが、ドラマやアニメを見終わった後に、防衛白書をインターネットで検索してみようという人はまずいない。

200人近い隊員に取材し、自衛隊を社会学的に考察した著書「不安な兵士たち」のある米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のサビーネ・フリューシュトゥック教授は、「あいまいでかわいいイメージは、若い世代の共感を得やすい」と言う。しかし、それが国防の強化という理解につながるかというと「ノー」だという。「評価が高まっているのはあくまで震災の影響。米国と違い日本には、自衛隊を戦うための組織と肯定的に受け止めるような考え方はない」と、同教授は話す。[東京 17日 ロイター]

(久保信博、ティム・ケリー 編集:北松克朗)

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