「子どもとスマホのつき合いかた」有識者に聞くデジタル教育や知育アプリの可能性

「子どもとスマホのつき合いかた」と題したトークイベントが2月22日、デジタル教育や知育アプリなどの有識者を招いて、ハフィントンポスト主催で開催された。
(左)聖愛幼稚園の園長・野口哲也さん(中)スマートエデュケーションの池谷大吾さん(右)NPO法人CANVASの石戸奈々子さん
The Huffington Post
(左)聖愛幼稚園の園長・野口哲也さん(中)スマートエデュケーションの池谷大吾さん(右)NPO法人CANVASの石戸奈々子さん

「子どもとスマホのつき合いかた」と題したトークイベントが2月22日、デジタル教育や知育アプリなどの有識者を招いて、代官山蔦屋書店にてハフィントンポスト主催で開催された。

iPhoneやiPadの遊びかたは——? いま子どもを持つ多くの親が悩む問題だ。賛否両論の情報があり、一部では「スマホ子育て」の悪影響が報じられる。しかし、実際の子育てにスマートフォンやタブレットを利用している親は少なくない。スマートデバイスを何歳から使わせるべきか。フィルタリング機能をどう活用したらいいのか……子育ての疑問を解消しながら、うまくスマートデバイスを知育・教育に取り入れる方法を、有識者と参加者が一緒に考えるイベントの様子をレポートする。

パネルディスカッションには、プログラミング体験など子供の創造性を育むワークショップを開催するNPO法人CANVASの代表・石戸奈々子さん(写真右)や、「乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関する5つのポイント」を発表した知育アプリの開発メーカー、スマートエデュケーション代表取締役・池谷大吾さん(写真中)、園児活動の一部にiPadを導入し、幼稚園団体でもIT活用の講師を務める聖愛幼稚園の園長・野口哲也さん(写真左)が参加。ハフィントンポスト日本版の松浦茂樹編集長をモデレーターに議論した。

——iPhoneやiPad、いつからスマートデバイスを使わせたらいいのか?

まず、子供を持つ親の多くが抱く疑問「iPhoneやiPad、いつからスマートデバイスを使わせたらいいのか」について、それぞれの立場から考えを聞いた。

■親子でルールを決めることが大切

NPO法人のCANVASの石戸さんは、スマホに限らず携帯電話が普及したときから、同じような疑問はあったことに触れ「一律の答えはないので、親子でルールを決めることが大切」と語った。

「どういう教育を子供に受けさせたいかを考えるのと同じように、まずは親が、どうやって子供にスマートデバイスを使わせたいかを考えてみることが大切です。子供の年齢や興味に合わせて『子供使うときは、親が一緒に使う』など、親子で一緒にルールを決めるといいと思います」

「私の場合は、テクノロジーを使いこなして新しい価値を生み出していくことが、これからは大切だと思っているで、子供が0歳のときから(スマートデバイスを)使わせていました。基本的には、興味を持ったときに自由に使わせていましたね。ただ、私がキッチンで家事をしているときに『10分間遊ぼう』という感じで、長時間にならないように心がけていました」

■子供のスマートデバイス使用、「2歳以上は1日2時間」を目安に

知育アプリを開発するスマートエデュケーションの池谷さんは、1日の使用時間について「驚くほど、多くのお母さんたちから質問が寄せられた」と語った。2013年11月に発表した提言で、「各機器から映し出される映像への接触時間は、2歳以上なら1日2時間以内」を目安にするように伝えているという。

「いつから使わせたらいいかという質問について、私たちは生後8ヵ月からとお伝えしています。『おやこでリズムえほん』というアプリが生まれたきっかけは、8ヵ月〜を対象にした「書店で売られている音の出る絵本」でした。正直なところ、絵本の音は、あまりいい音に感じられなくて、これでは音楽に感動できない、もっといい音を楽しんでもらいたいと思って、アプリを開発することにしたんです」

「0〜5歳は、子供が最も成長する時期。本を読んでいるときもスマートデバイスで遊んでいるときも、お母さんが思っているよりも、子供たちが成長しています。そのことをご理解いただくと、何を使わせたいかわかってくるのかなと思います。提言では「機器から映し出される映像への、1日の接触時間は2時間以内を目安に」と伝えましたが、アメリカ研究機関の発表や、国内教育関係者の考えをもとに、お母さんたちの参考になるんだったら、という意味で提案しました」

■幼稚園でのiPad活用、子供たちは自分たちでルールを守って遊んでいる

聖愛幼稚園園長の野口さんは、幼稚園でのiPad利用について「子供たちは自分たちでルールを守って、順番に遊んでいる」と語り、園でのスマートデバイスの取り入れ方を説明した。

「朝9〜10時の登園する時間が、子供たちがiPadで遊んでいい時間です。子供たちは、それぞれ、外で遊んだりiPadで遊んだりして過ごしていますね。iPadのアプリで遊んでいる子は、例えば『1曲終わったら交代』などと決めて順番で遊んでいます。お絵描きアプリなどは『砂時計が終わったら交代』というルールにしています」

「次の子が、砂時計をじっくり見ているから、ひとりの子が長く使うことは起こりにくいですね。たまに(iPadを)渡したがらない子もいますが、ルール違反すると、年長の子が年少の子に注意していたりしますね。先生が注意するよりも、子供たち同士で注意し合ったほうが、みんなで順番に遊ぶものだってわかるようですね」

——子供の安全な利用のために気をつけることは? フィルタリングの設定は?

■知育アプリは、親が使ってみることが大事

「知育アプリは、親が吟味して使わせたいと思ったものを使うのがいいと思います。アプリのストアなどでは、正直好ましくないと思うアプリもランキングの上位に上がっている。だから親がちゃんとアプリを使ってみて、ルールを決めてあげることは大切だと思いますね」(池谷さん)

■「アクセスガイド」を利用して、子供の使用範囲を設定

「幼稚園でiPadを使う理由のひとつは、『アクセスガイド』の設定ができることです。ひとつのアプリに利用を制限できる機能なんですが、例えば、今日は『リズムタップ』のアプリで遊ぶと決めたら、それだけを使えるように設定することができます。これなら、子供たちが、他のサイトやアプリに行く心配がない。子供たちが違うアプリで遊びたくなったら、先生が設定を変える、という感じにしています」(野口さん)

■フィルタリングをかけた上で、親が選んだアプリから子供が選ぶ

「できるだけ自由に利活用させたいですが野放しではもちろんいけないので……ダウンロードできないようにするなどの利用制限はかけています。親が選んだ良いと思うアプリを入れておいて、その中から子供が遊びたいものを選んでもらう環境を用意していますね。テクノロジーによる制限と教育のセットで提供していくことが大切。親自身が主体的に関わるためにも、子供が使うアプリは親がもしくは年齢に応じて親と子どもで選ぶことが大事だと思います」(石戸さん)

(左)聖愛幼稚園の園長・野口哲也さん(中)スマートエデュケーションの池谷大吾さん(右)NPO法人CANVASの石戸奈々子さん

——スマホ子守りが報じられていますが、子をあやすために使うのはどう思いますか?

■公共の場では、お助けアイテムになる

「例えば、電車のなかで子供が騒いじゃって大変っていうときには、お助けアイテム、特効薬として利用するのはいいと思います。ただ、何を見せるかは大切なので、普段子供のコンディションがいいときには、クオリティが高いものを親子で選ぶといいでしょう」(池谷さん)

■学習ツールと限定せずに、気軽な利用を

「子供を見るのが面倒だからという理由で、スマホに子守りさせるのは違うのかなと思いますが……親がリフレッシュしたいときや子供が遊びたいときに、スマホを使うのはいいと思います。iPadなどを『学習ツール』などと構えすぎず、気軽な息抜きに使ってもいいと思います」(野口さん)

■同じものを見ても、子供は毎回新しい発見をしている

「小さいときは、遊びのなかから学んでいくもの。子供は、日常生活のなかで、楽しみながら学んでいます。何度も同じ絵本を読んでいるのは、毎回毎回新しい発見をしているからなんですね。子どもはアプリからも色々と学んでいると思います。だから、親が家事などの用事をしないといけないときなどに見せるのは、とくに問題ないと思います。また、学びや創造的活動に活用できるアプリもたくさんあります」(石戸さん)

——親子のコミュニケーションのツールとして使うには?

■デバイスを渡すだけではなく、親子で感想を言い合う

「渡してそれっきりではなくて、コミュニケーションのきっかけになればいいなと思います。『お父さんこれ使ったけど、面白かったけど、どうだった?』などと感想を言い合うだけでもいいと思いますね」(野口さん)

■アプリは「親子で一緒に」遊ぶツール

「うちの知育アプリがヒットした要因は『親子で一緒にやってください』と提案したことでした。アプリは、あくまでコミュニケーションの手段。イラストと一緒に『ハグしながら遊んでください』と提案したのが、すごく喜ばれたんですね。私も実際に、自分の子供と遊んでみたら、仲良くなったんです」(池谷さん)

■親は子供の伴走者として、興味関心を引き出す存在

「アプリを通じて会話ができるといいなと思います。一緒に歌ったり、一緒に回答したり。もしくは、子供が初めて知ることがあれば、そのときの興味関心を引き出してあげるような声がけをするのが大事かなと思います。子供のファシリテーター(伴走者)として、日々の生活に還元できるような、子供のヒントになるような情報を提供してあげるといいですね」(石戸さん)

——一部で報道されている、子供のスマホ依存についてどう思いますか?

■ルールを決めれば、時間にこだわる必要はない

「私自身が、漫画ばっかり読んでゲームばっかりしていた子でした。だから、自分の子供に対して『10分ね』など時間を制限することはいいません。『お風呂のとき、ごはんのときは、ちゃんと来ようね』などと家族でルール決めれば、あまり時間にこだわる必要はないのかなと思います。幼稚園では、先生があえて『iPad禁止の日』を作りました。制限することで、好きじゃなかった折り紙や外遊びをやってみて、面白さがわかったりするようなこともありますね」(野口さん)

■子供にとってスマホは、外遊びや絵本と同じ遊びのひとつ

「うちのアプリにはタイマー機能もありますが、実際にユーザーさんから『子供が熱中しちゃっておかしくなった』などという声が届いたことはないですね。当社がタブレットをお貸出ししている8つの幼稚園・保育園でも、そういうトラブルはないようです。何度か園に伺っていますが、子供たちは元気に外遊びも楽しんでいますね」

「子供にとっては、外遊びも絵本を読むのもタブレットで遊ぶのも、楽しい。どれも選択肢のひとつなんだと思います。どちらかというと、今のところ保育園、幼稚園などの現場では、スマートデバイスなどは、ネガティブに捉えられて閉め出されているのが現状なので、まだ『デトックス』する段階ではないかなと思います」(池谷さん)

■社会で生きていく人間としてのルールは守る

「発達年齢にもよりますが、ルールがわかるような年齢になったときは、ひとりの人間として社会のルールは守るべきかなと思います。『ごはんのときは、触っちゃいけない』といったことは、話し合って決めていくことですね」

「私にも3歳の子供がいますが、『外に行こう』っていったら喜んで外に行きます。子供には、粘度があってクレヨンがあってレゴがあってタブレットがある。それくらいのワン・オブ・ゼム。依存という意味では、勉強だけやっていても外遊びだけでもやっていても良くないですよね。アナログなもの、デジタルのもの、そのときに合わせて最適なツールを選んで使っていけばいいんじゃないかなと。バランスよく環境を揃えてあげることが大事だと思います」(石戸さん)

——スマートデバイスによる教育の未来についてご意見をお聞かせください。

■これからの学びに、テクノロジーが大きく寄与する

「CANVAS立ち上げる前にアメリカの大学にいたんすが、有名な教育学の先生がよくいっていた言葉に『150年前の外科医を、今に連れて来ても全く役に立たない。でも150年前の先生を、今の教壇に立たせても、多分同じように授業ができるだろう。そのくらい教育は変わってこなかった』というものがありました。明治時代に、寺子屋から学校に教育制度が変わってから、学びの環境はほとんど変わってきませんでした。けれど私は、これからの学びにテクノロジーが大きく寄与すると思います」(石戸さん)

■質疑応答

——子供は今、2歳8ヵ月。おすすめのアプリはありますか?

「スマートエデュケーションのアプリだと「おやこでスマほん」ですね。約120冊の動く絵本が読み放題のアプリです。他社のアプリなら、スウェーデンの「Toca Boca」がリリースしている「Toca Hair Salon 2」というヘアサロンごっこが楽しめるアプリで、世界中で数千万万ダウンロードされているそうです。子供の想像力を100%生かす、とても面白いアプリです」(池谷さん)

「うちの子は、最初はiPadで写真を見ていましたね。アプリじゃなくても、壁紙を変えるだけでも楽しいようです。スマートデバイスのスイッチを切ったりするだけで楽しんでいますね」(野口さん)

「図鑑ですね。写真が豊富な図鑑を、動物園に行った後に、子供と一緒に見たりします」(石戸さん)

——子供が近視になる可能性ついて、どう思いますか?

「池谷さんと提言をつくるときにも調査しましたが、スマートデバイスだから近視になる、という因果関係は見つかっていません。目が悪くなるからではなく、子供の生活スタイルへの影響から、各機器から映し出される映像への1日の接触時間を2時間以内としました」(野口さん)

■登壇者プロフィール

石戸奈々子さん(NPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役)

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども 向け 創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。これまでに開催した ワーク ショップは 2000回、約30万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子 ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。その後、株式会社デジタルえほんを立ち上げ、えほんアプリを制作中。総務省情報通信審議会委員、慶應義塾大学特任准教授などを兼務。著書に「デジタル教科書革命」、「デジタルサイネージ戦略」など。デジタルえほん作家&一児のママとしても奮闘中。

池谷大吾さん(株式会社スマートエデュケーション代表取締役)

明治大学大学院理工学研究科修士課程修了後、日本ヒューレットパッカード株式会社に入社。2004年8月に株式会社シーエー・モバイルに入社し、 数多くのモバイルメ ディ アの企画開発を経験し、同社執行役員、取締役を歴任。2011年6月に知育アプリを開発するスマートエデュケーションを創業し、代表取締役に就任。2013年11月に『乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関する「5つのポイント」』を発表し、「スマホと子守り」問題が各メディアで大きく話題になった。私生活では3児の父。

野口哲也さん(聖愛幼稚園・園長/東京都福生市)

早稲田大学教育学部卒。2000年代から園児活動の一部にパソコンを取り入れ、現在はiPadを導入。幼稚園団体でIT活用の講師を務めているほか、園でのiPad活用ぶりが新聞や雑誌で紹介される。スマートエデュケーションが発表した『乳幼児の適切なスマートデバイス利 用 に関 する「5つのポイント」』の策定にも参加。私生活では2児の父。

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