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【3.11】長く続けられる復興支援の形とは? 津波ですべてを流された寿司職人と東京のデザイナーをGoogleが縁結び

2014年03月21日 23時41分 JST | 更新 2017年08月20日 23時14分 JST
猪谷千香

宮城県気仙沼市。東日本大震災で店や自宅が流されてしまった寿司職人たちがいた。店はなくても、腕はある。彼らは自ら「流され寿司」と名乗り、全国各地のイベントや会合に出向いて寿司を握り続けた。その一員で、「気仙沼新富寿し」を営む鈴木真和さんと和洋さんの兄弟は1月24日、新たな店をオープンし、再スタートを切った。看板やウェブサイトに輝くロゴをよく見れば、「人」の文字。そこには、兄弟の思いとそれを表現したデザイナーの存在があった。そして、両者を結びつけたのはGoogle。東日本大震災から3年、ネットを活用して長く無理なく続けられる復興支援の形とは?

■「新しいロゴを作りたい」とGoogleに電話

「震災後に広がった人とのつながりを大切に、気仙沼でもう一度寿司を握りたい」。真和さんたち兄弟が、再び気仙沼市で店を開こうとした時、「欲しいもの」があった。新しい店のシンボルマークになるようなロゴだ。

「ロゴは震災前から作りたかったのですが、作ってもらえる方をどうやって探したらいいかわからなかったし、高いイメージがありました。それで、頼りになる根来(ねごろ)さんに電話したんです」と振り返る真和さん。根来さんとは、Googleのシニアマーケティングマネージャー、根来香里さんのことだ。

真和さんとGoogleの出会いは、2011年夏の気仙沼だった。Googleは当時、東日本大震災の被害状況などを記録するために、被災地でストリートビューの撮影をしていた。真和さんは地元の人に依頼され、Googleの撮影班に寿司を持って行ったのがきっかけで、訪れていた根来さんとも知り合ったという。真和さんがロゴの相談をしようと電話した際、根来さんはGoogleがインターネットを活用して東北のビジネスやコミュニティ復興を支援するプロジェクト「イノベーション東北」に携わっていた。

Googleでは2011年3月11日に東日本大震災が発生した当初、「パーソンファインダー」(安否情報)などを中心に、東京をベースにした支援を行っていたが、翌月からは現地で何ができるかを模索していたという。「地方ではインターネットやネット企業に対して、懐疑的に思われることがあります。でも、パーソンファインダーをやったおかげで、その印象を変えている方がたくさんいらっしゃることが現地でわかりました」と根来さんは話す。

「パーソンファインダーでは、避難所などから安否情報を携帯写真で撮ってピカサ(オンラインアルバム)に上げてもらいました。それをボランティアの方たちが書き起こし作業をしてくれて、14万件ぐらいデータが集まった。我々の呼びかけがユーザーにも伝わったことを感じました。2013年に入ってからは復興のニーズも高まり、パーソンファインダーで成し遂げたように、たくさんの人がちょっとずつボランティアする支援ができないかと考えました」

そこで2013年5月から始めたのが、「イノベーション東北」だった。

■東北の事業者と全国のサポーターを「クラウドマッチング」

「復興支援」といっても、その選択肢は決して多くない。現地でボランティアを行うか、東京で募金するか。それ以外の方法でも何か支援はできないかという悩みの解消を目指したのが、「イノベーション東北」だ。支援を受けたい「東北の事業者」と、被災地を支援したいスキルやノウハウを持った遠隔地の「登録サポーター」を、Googleの事務局と現地をよく知るコーディネーターが協力してマッチングさせる。支援の形を「知恵やスキル」に限ったことにより、遠隔地からでもビデオ会議などのインターネットツールを活用して、プロジェクトの実行が可能になった。

たとえば、こんな例がある。震災被害で生産が大幅に減少してしまった伝統食材「なまり節」。地元の高校生たちがこの「なまり節」を新たに売りだそうと開発したのが「なまり節ラー油」だ。しかし、PRの方法がわからず、困っていた。そこに協力を申し出たのが、東京都在住のWebコンサルタント、小松雅直さんと佐賀県在住の料理ブロガー、藤吉和男さん。サイト作成支援や、ビデオ会議ツールなどを使って、ネット上での効果的なアピールの方法をレクチャーをした。

「イノベーション東北」ではこれまでに50件以上の支援を達成、約50件のプロジェクトが進行中だ。「復興の結婚相談所です(笑)。現地のニーズとスキルを持っている人がきれいにマッチしました」という根来さん。その成功の理由をこう語る。

「復興支援をしているネット企業はGoogle以外にもありますが、被災エリアが広いということが課題でした。しかし、地域で立ち上がろうとしてる若者や事業者が実際にたくさんいらっしゃることはわかっていたので、きめ細かく展開していければうまくいくと思っていました。信頼を築くところが大事です。試行錯誤をしながら続けています」

■「人とのきずな、つながりを大事にしたい」をデザインに

さて、「気仙沼新富寿し」を営む鈴木兄弟から、再出発にふさわしいロゴ作成の相談を受けた「イノベーション東北」。名乗りを挙げたのは、東京・渋谷の株式会社モノサスのチーフデザイナー、小野木(おのぎ)雄(ゆう)さんだった。

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イノベーション東北の根来さんとデザイナーの小野木さん(右)

「イノベーション東北については、こういう支援の方法があるのかと前々から知っていました。東京にいた場合は、寄附するなどが一般的ですが、技術で貢献するという試みは面白い。会社の代表がサポーター登録をしていて、代表からロゴを制作したい方がいるという話を聞いて、これなら僕でもできると思いました」

小野木さんは、実際にデザインを始める前にしたことがあった。「とにかく鈴木兄弟にどういう経験をされたのか、今後どうしていくのかを聞いてみたいと思いました。被災された方の話を聞くのは初めてでしたが、衝撃的すぎて......」

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津波に流されてしまった新富寿し。向こうには第18共徳丸が見える。

鈴木兄弟の店は、気仙沼市中みなと町にあった。海から内陸へ800メートルほど流された第18共徳丸が打ち上げられた地点は目と鼻の先だ。地震発生直後、鈴木兄弟は店の片付けをしてから近くの川を見に行ったという。

「最初は小さい津波が入ってきたけど、後からでっかい津波が入ってくるのが見えて、あわててお店に逃げて戻りました。母親やアルバイト、近所の方も数十人気づいてなかったから声をかけて、一次避難場所に逃げた。でも、津波がどんどん押し寄せてきて、そこもやばいなと思って、山の方に避難しました」と兄の真和さんは淡々と当日の様子を語る。

「これは本当に中途半端な気持ちでやってはいけないと思った。でも、わかった気になってもいけない。被災された方の気持ちは完全にはわからないと思うのですが、できるだけ気持ちにそって、表現したいと思った」と小野木さんは話す。

鈴木兄弟には、新しいお店にかける思いがあった。「お店なので人が集まる場所にしたいという思いはあったのですが、きずなを大事にして色々な方とつながって創造していきたいというのが新しいお店のコンセプトです。震災の後に『流され寿司』で全国あちこち行かせていただいて、元気をもらったし、勇気づけられた。和が波及していくことはすばらしいなあと思いました」

この思いを受け止めた小野木さん。膨大な数のデザインを考えながら、「人とのつながり」にフィーチャーした。最終的に小野木さんは20、30種類のデザインを鈴木兄弟に提案。二人が迷うことなく一目惚れしたのが、「人」の文字が洒脱にデザインされたロゴだった。

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ロゴをデザインした小野木さん

■無理なく長期的に続けられる復興支援の形とは

新しいお店のオープン直前の1月、小野木さんは気仙沼市を訪れた。ロゴだけでなく、ウェブサイトの制作も担当、その写真撮影のためだった。初めて現地を訪れた小野木さんは、気づいたことがある。

「新富寿しさんはその地域でいう『スター』。ゴールまでたどりついたレアな人たちです。近くのラーメン屋さんはまだプレハブで営業されてて。新富寿しさんは地域で期待されている存在なんだなと思いました。でも、難しい方もいるんだなというのは感じました」

被災地から復興のニュースが届く一方、まだそこまで到達していない人たちも存在する。支援する側にも無理なく長期に続けられる方法が今後、ますます重要になってくるだろう。小野木さんは今回のプロジェクトを振り返り、こう語った。

「復興支援に対するイメージで一番変わったのは、お金や体を動かすことではなく、ITと自分の技術でもできることがあるということでした。被災された方が抱えている問題は、ニュースで流れない。だからこそ、お金じゃなくてこういう方法がよいと思いました。思ったよりは大変でしたが(笑)、でも、また機会があったらいいものを作りたい。新富寿しさんのロゴにこめた思いは強いです。今後もずっと繁盛していってほしいですし、僕がおじいちゃんになってお店に行っても、このロゴがあるといいなあと思っています」

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新しいロゴとともに1月24日、オープンした新富寿し。「3年間待っていたよ」と地元のお客さんたちが訪ねているという。新富寿しのウェブサイトには鈴木兄弟の連名でこう書かれている。

「私たちはこれからも、大好きなここ気仙沼で、一貫一貫わっつらうまい寿司を握りつづけてまいります。たくさんのみなさまとの絆を大切に、ありたっけの魂と感謝を込めて」

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