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オーマイニュース、生き残り探る 「市民記者こそ我々の価値」【韓国メディア事情】

2014年03月26日 15時35分 JST | 更新 2014年03月28日 14時50分 JST

韓国でインターネットメディア「OhmyNews(オーマイニュース)」が登場したのは2000年。プロの新聞記者でない一般の人々が投稿する「市民記者」制度が、既存のメディアに不信感を持つ人々から支持された。2002年の大統領選では民主党の予備選挙を生中継。大統領候補に選出された盧武鉉氏を支持する大きなうねりとなり、当選を後押ししたとされる。盧武鉉氏は大統領に当選直後、単独インタビューの相手にオーマイニュースを選び、メディア新時代の到来を印象づけた。

しかし2008年、大統領が保守の李明博氏に交代すると、風向きは変わった。「前政権に近いメディアに政府広告が優先的に出稿されている」と、オーマイニュースは保守系の大手紙や与党議員からやり玉にあげられた。政府広告は打ち切られ、企業の広告も激減した。ここ数年は、赤字と黒字を行ったり来たりしている。

韓国で独立系ネットメディアの草分けともいうべきオーマイニュースは現在、どんな状況なのか。

■「市民記者」を支える「常勤記者」

ohmynews

オーマイニュースが抱える「市民記者」は現在、約8万人。ただ、市民記者の投稿だけでサイトが成り立っているわけではない。編集部で雇用している「常勤記者」も約70人いる。大手全国紙の記者の数がおよそ300人だから、ほぼ4分の1の規模に当たる。これ以外を外部の「市民記者」でカバーしていることになる。

常勤記者のうち、取材記者は45~50人。政治、社会、文化などそれぞれ担当があり、新聞記者とほぼ変わらない取材をしている。写真記者(いわゆるカメラマン)が4人、編集(いわゆる整理)が15人。動画サイト「OhmyTV」担当が7人いる。

編集記者は常勤記者と市民記者が書いた記事をすべてチェックする。追加取材を指示したり、書き直しを命じたりといったやりとりを経て、正式に採用される記事の65%が市民記者のもの。トップページにサムネイルつきで採用される「トップボード」になると45~55%になり、常勤記者がやや多いくらいになるという。

市民記者は記事が採用されると編集部から報酬が支払われる。トップボードに採用されたら5万ウォン、一般の記事なら2000ウォン。それ以外に各記事にボタンがついており、記事を気に入った読者がボタンを押して、筆者に直接カンパすることもできる。「最盛期はトップに掲載された記事1件で1000万ウォン(約950万円)以上を稼ぐことも珍しくなかった。10年以上活動している市民記者は、4000万ウォン以上を受け取った」と、編集局長にあたる「ニュースゲリラ本部長」の李漢基(イ・ハンギ)氏は話す。

ちなみに、オーマイニュースは日本にも2006年に進出したが、2009年に撤退した。初代日本版編集長の鳥越俊太郎氏はハフィントンポスト日本版のインタビューで「ビジネスモデルとして成立しなかった」「(韓国は)新聞不信があって、ネットが力を持ってある一定の影響力を行使できた。その韓国モデルを日本へそのまま持って来たところに無理があった」と語っている。

■政府広告は事実上中断

インターネット環境も大きく変わった。TwitterやFacebookなどソーシャルメディアで個人が発信する時代になった。「オーマイニュースは特色が薄れた」。そんな声を韓国でよく聞いた。

経営の安定化を図るために、定額制の会費制度「10万人クラブ」を設けた。様々なコースがあるが、基本的には1人月額1万ウォンを支払って経営を支援する仕組みだ。ただ、3月24日時点で8019人と、10万人にはまだ遠い。

「ニュースゲリラ本部長」の李漢基氏に、現状と今後の展望をインタビューした。

――現在の経営に広告が占める割合はどれくらいか

現在、収入の6割台を広告に依存しています。昨年はわずかな赤字を出しましたが、その前に3年連続で黒字を計上しています。10万人クラブは、新聞のように購読料を払う必要があると思う人たちが自発的に購読料を払う仕組みです。経営的な理由ももちろんありますが、大企業の広告の比率が高ければ高いほど、意向を伺わざるを得ない状況になり、大企業が広告を削減したり中断したりすれば打撃が大きいので、健全な言論のために比率を下げないといけません。

メディアが健全であろうとすれば、権力や資本から自由でなければなりません。ただ、資本主義社会で収入なくしてメディアの維持はできず、広告を完全になくすことはできません。70%を超えていた広告の比率を、ほかの比率を高めることで広告の比重を低めたいのです。理想は会員の支払う会費だけで運営が可能になることですが、すぐに実現は難しいでしょう。

――保守政権になって広告面でどのような影響があったのか

李明博大統領になってから事実上、政府広告が中断しました。正しく知らせるべき内容をメディアを通じて広報するのが政府広告であって、メディアが政権に反対しようが賛成しようが、影響力を客観的に判断して、公正に配分すべきもののはずです。原資は税金なのですから。我々は盧武鉉大統領のときに特別な恩恵を受けていたわけではなく、影響力に見合った広告を掲示していたにすぎません。

金額も、たとえば新聞社は小さいところでも我々の数十倍、政府から広告を出稿されていますし、大手紙の朝鮮日報、中央日報は数十億、数百億ウォンずつ政府広告をもらっている。我々への政府広告が最も多かったときでも3億ウォンには達しませんでした。しかし保守系の新聞から「盧武鉉政権はオーマイニュースを特別扱いした」と批判されたのです。

日本だって安倍政権は朝日新聞にも政府広告を出すでしょう? 政府による広告の選別は言論弾圧です。「好意的に書けば広告やるぞ」というサインを送って、メディアをコントロールすることにほかなりません。

――市民記者育成プログラム「OhmySchool」の運営に乗り出した

市民記者には訓練も必要です。我々は編集の段階で市民記者と意思疎通をかなりやります。「この事実を追加取材して」とか「この内容を書き加えて」とか。積極的なアドバイスを続けることで、記者も成長します。それには費用もかかります。体系的に管理するために、市民記者学校を開いて、希望する記者には素質や能力を向上させるプログラムを提供しています。そこに投じる費用も他のメディアよりかかっています。

平均1日200~250件の記事が上がっており、そのうちの60~70%が市民記者の記事です。もちろん8万人の市民記者が全員フルタイムで稼働しているわけではないですが、彼らは自発的に市民記者として登録して、本業の傍ら記事を書いています。他のメディアでこういう形態のものはありません。ハフィントンポストはブロガーが専門性のある記事を寄稿しますけど、ハフィントンポストの記者として活動しているわけではない。オーマイニュースは一歩進んで、市民がオーマイニュースの記者として活動するのです。忠誠度が違います。

――基本的にアマチュアの記者である市民記者には限界もあるのではないか

市民記者に専門性がないという指摘も受けますが、ある特定の分野において専門家以上の見識を持っている人がたくさんいます。教育の記事をよく書く市民記者の中には現役の教師もいて、現場に強く、情報を持っています。政治では、国会議員が市民記者として寄稿することもあります。公務員は特定の地域の情報に強い。市民記者の記事に長官や次官が反論することもあります。国会議長も長官も、一人の市民記者として対等な立場で意見交換します。よっぽど合理的な理由がある場合を除いて、100%実名で書いてもらうことで、記事に対する信頼性を高めています。

――TwitterやFacebookが登場したことで、何か変化はあったのか

影響は、なくはないでしょう。ただ、ツイッターは140字しか書けないから記者が書くものと衝突はしない。Facebookは重なる部分も多いが、投稿の大部分は個人的で断片的な話。時間が分散するという意味で影響がないとは言えませんが、市民記者の数や記事の数が急激に減ったということはありません。

――「ニュースタパ」のような、独立系の調査報道メディアも現れましたが

とても肯定的に見ています。ニュースタパは多様な視点を提供するニュースサイトです。サイト独自の実験もしていて望ましいと思います。競争相手というより、むしろオーマイニュースにとって力になるでしょう。家具店もレストランも、バラバラにやっているより、集まった方が活性化するし影響力も強まる。我々もいまの地位に安住せず競争しないといけない。それは発展の契機になります。

保守政権が6年目に入って、放送局の社長もみんな政権の意に沿う人物に替えられてしまいました。NHKも今、大変ですが、韓国はもっとひどい状況で、政権をまともに批判できる機能がほとんどないのです。メディアは本来ウオッチドッグの役割を果たさなければならないのに、韓国ではウオッチがなくてドッグだけになっている。監視動物ではなくペットになっている。監視の役割を果たすメディアが決定的に不足しているので、独立系で権力監視を担うメディアは必要です。

――20、30年生き残るために、どのような方向性を志向していくのか

さすがに20、30年後のことは予想できないけど、ただ一つ言えるのは、市民参加型ジャーナリズムや、市民記者の活動の場として発展していくしかないということ。これ自体が否定されたり揺らいだりしたら、オーマイニュースの価値がなくなるのは明白です。電話は有線から携帯電話の時代になったけど、絶対になくならない機能は「通話」です。どれだけデバイスが発達しても、コミニュケーションの機能こそが核心です。同じように、モバイルデバイスやソーシャルメディアの発展の方向はいろいろあるでしょうが、市民記者の活動の場として機能していくことは、オーマイニュースが存在する限り、基本的な価値であり続けるでしょう。

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イ・ハンギ 雑誌記者や編集者を経て、2000年7月に入社。2006~2008年にニュースゲリラ本部長。出版などの仕事を経て2013年12月から再びニュースゲリラ本部長。

【韓国メディア事情】



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