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【ソニー イノベーションの舞台裏】こうして「ロケフリ」は復活した!

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3月25日、ソニーから国内初となるブルーレイレコーダーの録画番組や放送中番組をインターネットを経由して外出先で視聴する「外からどこでも視聴」が発表になった。Android または iOS版(4月下旬対応)の アプリケーション(TV SideView)をインストールし、初回のみ500円の課金さえすれば対応ブルーレイレコーダーに録画したテレビ番組や放送中のテレビ番組をスマホ・タブレットを通じてインターネット経由で外出先から見られる。

この開発の舞台裏には、かつて注目を集めたソニーの「ロケーションフリー」をもう一度復活させようと実現に奔走した二人の担当者の存在があった。インタビューをもとに「外からどこでも視聴」実現までの舞台裏を探る。

■ソニーに流れるイノベーションのDNA

ソニーという会社は、日本を代表する世界的な電機メーカーであるとともに、非常に個性的かつ大胆なイノベーションのDNAを持つ企業でもある。古くは国内外におけるソニーブランドの確立に貢献したトリニトロン方式のテレビ、音楽の聴き方そのものを変えてしまったWalkman、小型・軽量化で民生用カムコーダーを一般化させたハンディカム、新規参入ながら現在は業界最大手にまで上り詰めたゲーム機「PlayStation」シリーズなど、その例は枚挙にいとまがない。

そうしたソニーのイノベーションを代表するキーワードの1つが「ロケフリ」の愛称で知られる「ロケーションフリー」だ。インターネットを利用して、外出先からでも自宅のテレビや録画番組を楽しめる製品として、2004年3月に発表されたロケフリ第1号機「LF-X1」(当時のブランド名は「エアボード」)は、テレビのあり方を変える画期的な家電製品として大きな注目を集めた。

当初は専用の端末でしか視聴できなかったロケフリも、2005年10月発売の「LF-PK1」ではWindowsやPSPでも視聴できるようになり、「ロケフリ」は爆発的なヒットを記録。経済産業省が主催する「ネットKADEN2005」ではLF-PK1が大賞に輝き、ロケフリはソニーが持つ唯一無二の魅力あるネット家電として、確固たる地位を確立していた。

■地デジ移行で事実上終了となったロケフリ

しかし、2006年にLF-PK1の後継となる「LF-PK20」が発売されて以降、外出先からテレビが見られる「ロケフリ」は事実上終了することになる。メーカーとしての方針や業界動向など様々な要因もあるが、最たる理由はテレビ放送のデジタル化だ。

コピー対策に関しては比較的緩かったアナログ放送に比べ、録画が1回までのコピーワンス、10回までのダビング10など厳格なコピー対策が施されたデジタル放送では、インターネットを介しての視聴は認められなかった。アナログ放送のみをターゲットとしたリモート視聴はその後も海外製品を中心に登場したものの、地上デジタル放送のリモート視聴は2013年に登場した技術規格「DTCP+」が実現するまで、実に7年近いブランクが空くことになる。

しかしながらこの7年の間、ソニーがロケフリをあきらめていたわけではない。「好きなものを好きなときに見よう」というソニー独自規格で展開したビデオテープレコーダー「ベータマックス」の広告キャッチコピーに代表される、「好きなものを好きな時に観よう、好きなものを好きな場所で観よう」というソニーの志は脈々と受け継がれてきた。

ソニーにとってレコーダーはテレビを録画するという手段のためではなく、見たいものを見たい時に見られるという目的を実現するために作られた製品だった。この目的は今も受け継がれており、ソニーのDNAとも言えるロケフリの復活はソニーの悲願だったとも言える。

■スマホ時代のテレビライフに新しい形を…ロケフリ復活に挑戦するソニー

この「ロケフリ復活」の引き金となったのは、2012年11月に総務省が開催を発表した「放送サービスの高度化に関する検討会」だ。この検討会では4Kや8Kなどの高画質化やスマートテレビなど、新たな形の放送サービスのあり方やルールの整備などを行なうものであり、テレビ放送局やメーカー、放送事業者などが検討会の構成員として参加。ソニーも構成員の主要メンバーとして参加している。

この検討会を機に、ソニー内ではブルーレイレコーダーを軸としてスマホ時代に新たな形のロケフリを取り戻したいという動きが起き始める。かつてのロケフリは、ロケフリ専用機器を使って宅内のテレビや録画機器を操作するという間接的なリモート視聴だったが、ブルーレイレコーダーが直接ロケフリの機能を搭載すれば、リモートから直接レコーダーにアクセスし、テレビ視聴や録画番組視聴、リモート予約などより高度な活用が可能になる。それがソニーの狙う新たな形のロケフリだった。

ブルーレイレコーダーにとって非常に大きな改革となるこのロケフリを担当したのは、ソニーマーケティングから1年前にソニーの商品企画へ異動してきた遠田啓一氏。元々VAIOのマーケティング担当だった遠田氏は、小型PC「VAIO type P」をタイトなジーンズにねじ込むという大胆なプロモーションを展開した経歴をもつが、商品の企画は今回が初の経験。「商品企画1年生」と自ら言う遠田氏が、社内はもちろん社外のメーカーや放送局と話し合い、協力を仰ぐと同時に、商品企画を進めるという難関に挑むことになる。


「ロケフリ復活」の仕掛人、ソニーの遠田啓一氏

■どうしてもやりたかった「ロケフリ」

「スマートテレビ」という漠然とした規格を具体的に策定していく検討会の中で、ソニーが訴えたのは、「シンプルに『ロケフリをやらせてほしい』ということだった」(遠田氏)。しかし、検討会はソニーだけではなく、他のテレビメーカーや民放キー局、BS/CS放送事業者など、ビジネスモデルや目的が異なる立場が混在する。

「好きなものを好きな時に観よう、好きなものを好きな場所で観よう」という志を持つソニーにとって、すべてが追い風という環境ではない中、遠田氏は議論の着地点を模索していった。

議論の争点の例としてはペアリングの期間だ。一般社団法人次世代放送推進フォーラム (NexTV-F) が発表したリモート視聴の規格では、3カ月に一度ブルーレイレコーダーとリモート視聴対応機器のペアリングをしなければ宅外からの視聴ができなくなる。このペアリング期間が無制限になると、例えば大阪にいながらにして東京の番組を常に見ることができてしまい、業界の同意は得られない。規格上、リモート視聴はあくまで『外出時』に定められているため、外出とされる期間を議論した結果、3カ月という要件に落ち着いた。

NexTV-Fが定める規格には、業界やユーザーなど各方面から様々な意見があるのも事実。「正直、規格はユーザー視点で満足いくものとは思っていない。ただし、ゼロよりはまし。今までゼロだったものがまず0.1にさえなれば、1にも10にもなれる。『モバイルでTV』をソニーはもちろん、業界として、またはユーザー自身で盛り上げていけば変わっていく希望を持っている」と遠田氏は語る。

■エンジニアと二人三脚で社内を奔走

社内の一体感も、新生ロケフリの実現には欠かせない要素だった。

そもそもソニーのブルーレイレコーダー新製品には、リモート視聴のための機能や仕様が設計要件から落ちた状態で、予算もなく、このままではロケフリ復活の実現は難しかったという。そこで遠田氏は、機器開発を担当するソフトウェア設計本部のソフトウェアマネージャーである満生一隆氏とともにロケフリ復活をかけて社内の交渉に回った。

当然のことながら、同じソニー内であっても製品ごとにシェアも事業エリアも大きく異なり、グローバルに展開するテレビ事業に比べると、ダビング10など国内独自の仕様が詰め込まれたレコーダーは必然的に日本独自の製品になる。社内といえど簡単な話し合いばかりではなく、放送局の許諾が取れるかどうかに懐疑的な雰囲気もあったこともあり社内調整は困難の連続だった。「打ち合わせのたびに、何度も心が折れかけたが、俺たちが諦めたらロケフリが終わる、という気持ちだった」と遠田氏は振り返る。

そんな遠田氏と組んで技術サイドでリモート視聴を推進してきたのが前述の満生氏だ。レコーダーで録画した番組をPSPやWalkman、携帯電話などにダビングして外出先に放送番組を持ち出して見るという文化を創り出した「おでかけ転送」以来、主に機器連携を担当していた満生氏は、放送局事情などによりリモート視聴の実現に懐疑的だった社内の空気をよそに、いずれ求められるようになる技術連携と長年にわたるプロト開発を続けリモート視聴の準備をしていた。ロケフリの仕様上ソニーだけでなくスマートフォンやnasne、クラウドサービスなど、ソニーグループの様々な連携が必須だという考えのもと、機能連携面でロケフリを主導。商品企画とエンジニアが二人三脚で社外はもちろん社内もかけ回り、ロケフリ復活の実現に奔走した。

そして、最後にモノを言ったのは、ソニーの志だ。「いろいろあったが、結局みんなロケフリという製品とそのコンセプトを好きだったので最終的には協力してくれたんです」(遠田氏)。

ロケフリ復活の実現が決定的になったのは、2014年の2月。検討会で具体的に仕様を固めていたとはいえ、実際に一般公開されたことで「本当に業界が動いているんだという実感が社内メンバーにも伝わっていった。もともとロケフリをやりたいという志はみんな持っているが、この発表をきっかけにより具体的に話が進むようになった」(遠田氏)。潮目が変わった、瞬間だった。


技術面でロケフリ復活を支えた満生一隆氏

■スマホ・タブレットを通じてテレビとネットをつなぐ新生ロケフリ「外からどこでも視聴」

NexTV-Fの発表からわずか1カ月後の3月25日、ソニーは満を持して新生ロケフリとなる「外からどこでも視聴」を発表。対応のブルーレイレコーダーを所有しているユーザーであれば、ソニー製アプリ「TV SideView」最新バージョンをインストールし、初回のみ500円(税込)の課金さえすれば携帯回線(パケット通信料別途)やWi-Fiが利用できる環境でスマホ・タブレットを通じて外出先からの放送中テレビ番組視聴・録画番組視聴が可能になる。スマホ・タブレットはソニー製品に限らず4.0.3以上のAndroidに幅広く対応し、4月下旬には6.0以上のiOSへの対応も予定するなど、間口の広さもソニーならではだ。対応するブルーレイレコーダーは、現在発売中の「BDZ-ET2100/ET1100/EW1100/EW510/E510」の5種類。今後発売するレコーダーも順次対応する予定だ。

TV SideView最新バージョンの特長はもちろんリモート視聴だが、さらに今月下旬に予定されているアップデートでは、「ワイヤレスおでかけ転送」「外から録画予約」といったレコーダーの便利機能を搭載予定である。スマホやタブレットを使ったレコーダーの連携操作がこのアプリ1つでできるようになる。

これらの機能進化が意味するのは、「ブルーレイレコーダーがロケーションフリーになる」ということだ。自分の使っているスマホ・タブレットで、録画予約から放送中や録画番組の視聴をいつでもどこでも楽しむことができる、つまりリビングのTVの前に座ってレコーダーをリモコン操作することからユーザーはフリーになる。

「新しいロケフリを『単なるリモート視聴』に終わらせたくなかった。モバイル機が普及し回線も太くなったこの時代だからこその新しい体験を目指したかった」と遠田氏は言う。


現在放送中の番組から、録画した番組の視聴、録画予約まで1つのアプリでできる

ネット連携もTV SideViewの特徴だ。TV SideViewのトップ画面では放送中の番組やおすすめの番組に加えて、YouTubeのおすすめ動画を一覧で表示。さらに検索機能ではテレビ番組に加えてYouTubeやWebサイトも同時に検索できるクロスサービスサーチを搭載。さらに気に入った番組をソーシャルネットワークへ投稿したり、番組の出演者情報をWebで表示したりと、テレビとネットの連携が積極的に進められている。


遠田氏と満生氏の二人三脚で「ロケフリ復活」が実現した

■テレビの前の体験をスマホ・タブレットを通じていつでもどこでも再現

インターネットやスマホが普及して当たり前になった昨今では、人々の生活にはスマホが常に身近にあり、コンテンツをスマホで楽しむ機会が多くなっている。若い世代は「テレビを見なくなった」という声も大きくなっている。

だが、「テレビはまだまだ面白い番組はいくらでもある。ブルーレイレコーダーとTV SideView によりTVに触れる機会を増やすことで、テレビ業界そのものが盛り上がると期待してるんです」と遠田氏は言う。

スマホ・タブレットからブルーレイレコーダーの機能をほぼコントロールできるようになることで、これまでは自宅にあるテレビの前でしかできなかったテレビ体験が、手のひらの中でいつでもどこでも味わえる。

「スマホ時代のロケフリ」は、ブルーレイレコーダーがつなぐテレビとスマホ・タブレットの新しい形であり、「Life with 『TV SideView』」こそソニーの提案する新しいテレビライフスタイルなのだ。

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