北朝鮮の高層マンション崩壊、なぜ起きた? 背景に平壌の建設ラッシュと...

北朝鮮・平壌の中心部で高層マンションが崩壊して多数の死者が出たとみられる事故は、金正恩第1書記への権力継承を印象づけるための建設ラッシュと、それを突貫工事で進めたことが背景にあるのではないかと指摘されている。
KCNA

北朝鮮の首都・平壌の中心部で高層マンションが崩壊して多数の死者が出たとみられる事故は、金正恩第1書記への権力継承を印象づけるための建設ラッシュと、それを突貫工事で進めたことが背景にあるのではないかと指摘されている。

■特権階級の住む地区で多数犠牲に?

北朝鮮のメディアが相次いで事故を報じている。5月18日の朝鮮中央通信は、「13日、平壌市平川区域の建設場では住宅の施工をいい加減に行い、それに対する監督・統制を正しく行わなかった幹部らの無責任な行為によって重大な事故が発生して人命被害が出た」とし、手抜き工事が原因とみられる事故で死者が出たことを報道した。

北朝鮮の国営通信社としては異例の、事故の発表に踏み切った背景について、韓国政府政府当局者は「平壌の中心部で起きた事故であり、噂が広がるのを防ぐのは不可能とみて公表したのではないか」としている。

朝鮮中央通信の記事では、軍や政府の幹部が市民の前で謝罪する場面まで伝えられた。労働新聞は18日付で以下のような写真を掲載している。

韓国政府関係者は「23階建てのアパートが建設中に崩壊した。すでに92世帯が入居しており、多数の死者が出た」との見方を示した

韓国紙・中央日報によると、現場は平壌駅の北西で、金正恩第1書記の執務室から約2キロの地点にあり、特権階級が多く住んでいるとみられる。同紙は消息筋の話として、「事故が起きたアパートは、当局が財政確保のために、数万ドルの現金と交換に資本主義方式で分譲した。労働党や軍関係者、新興資本家勢力らが多数住んでおり、犠牲になった」と伝えている。

■背景に大型建築の建設ラッシュ

経済難が指摘される北朝鮮だが、ここ数年、現地を訪れた旅行者らは「平壌で大型建築物が次々に建設されている」と話している。ロイターは中国やロシアなどの援助を背景に建設ブームが起きており、社会主義では本来は無償のはずの住宅が市場で取引されていると伝えている

初沢亜利さんの写真集「隣人。38度線の北」(徳間書店)より

中央日報は同じ記事で「馬息嶺(マシンニョン)速度」と呼ばれる建設現場の突貫工事が惨事をもたらしたと指摘した

北朝鮮東部の江原道に2013年12月末、金正恩第1書記の指導で建設されたという馬息嶺スキー場が完成したが、金第1書記は工事中に何度も現地を視察に訪れて工事のスピードアップを促した。完工式では北朝鮮の事実上ナンバー2とされた崔龍海・朝鮮人民軍総政治局長が「他国なら10年かかってもやり遂げられない膨大な工事を短期間に成功裏に終えて『馬息嶺速度』という新しい時代語を輝かした」(2014年1月1日朝鮮中央通信)と、その工事スピードをたたえている。

以来、「馬息嶺速度」は北朝鮮の至る所で強調されるフレーズとなった。

1年余りの期間に世界一流のスキー場を建設したのは、朝鮮労働党の命令・指示を無条件最後まで決死の覚悟で貫徹する革命的軍人精神を体質化した朝鮮人民軍の軍人だけが生み出すことのできる歴史の奇跡である。(中略)すべての人民軍将兵と人民は、「馬息嶺速度」を創造したその勢い、その気概で飛躍の熱風を強く巻き起こして前進、前進、闘争、また前進しなければならない。

強盛国家建設のすべての部門で「馬息嶺速度」で飛躍の熱風を強く巻き起こさなければならない。

(朝鮮中央通信「『労働新聞』『馬息嶺速度』を創造した勢いで飛躍の熱風を巻き起こそう」より 2014/01/04)

ただ、突貫工事の現場では、ずさんな作業が横行していた可能性もある。

日本を拠点にするジャーナリストグループ「アジアプレス」は、北朝鮮国内の協力者が高層ビルの建設現場に潜入取材したときの動画を公開している。それによると、2012年4月の故・金日成主席生誕100年に合わせて、10万戸の住宅を建設する計画で突貫工事が進められた。

動画には、窓の形や大きさもバラバラで、高層建築なのにクレーンも使われていないなど、素人が見てもずさんな建設中の建物が写っている。

アジアプレスで脱北者を通じた北朝鮮事情を主に取材している石丸次郎氏は、以下のように解説している。

北では高層建築の大方は、外で作った大小のコックリートブロックをどんどん積み重ねていく独特のブロック工法。生コン横流しするために、水と砂でふやかすから強度弱い。使う鉄筋の数も少ないとか。http://t.co/hT5SPtSL6f

— Ishimaru Jiro (@ishimarujiro) 2014, 5月 18

■金正恩氏は翌日にサッカー観戦?

金正恩第1書記は5月18日配信の朝鮮中央通信で「報告を受けてあまりにも胸を痛めて夜を明かし」たと伝えた。しかし、16日付では、朝鮮労働党や軍の幹部とともにサッカーの試合を観戦したことが伝えられている。中央日報は、写真に写った電光掲示板の日付などから、事故発生の翌日夜にサッカーを見ていたと報じている

関連記事

「隣人。38度線の北」より

北朝鮮の日常(写真集「隣人。38度線の北」より

北朝鮮の現実

注目記事