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イラク周辺が「地中海のアフガニスタン」と化す危険性も 中東諸国は複雑な反応

2014年06月16日 19時09分 JST | 更新 2014年06月16日 20時02分 JST
Reuters

[ベイルート 13日 ロイター] - アルカイダ系武装集団がイラク北部の都市モスルとティクリートを掌握したことは、イラク国内の宗派間の勢力図を塗り替えるだけではなく、中東地域の国境を再編する可能性がある。

スンニ派の過激派武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」は10日、イラク第2の都市モスルを掌握し、首都バグダッドに向けて攻勢を強めている。

こうした中、他の中東諸国や米国などの大国は、ISILが中東の中心部に危険な拠点を築き、「地中海のアフガニスタン」と化す危険性を認識している。

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の中東専門家、ファワズ・ジョージ教授は「私たちが目にしているのは、権力の分裂であり、マリキ首相はこれまでのように中央集権化はできないだろう」と指摘。「国境の書き換えをまさに目の当たりにしている」と語った。

対立が激化する中、シーア派の最高権威シスタニ師は13日、支持者に対し、武器を取って反撃するよう異例の呼びかけを行った。これより先、マリキ首相は連邦議会に非常事態宣言を発令するよう要請したが失敗。スンニ派とクルド人の議員らは議会を欠席した。

<元イラク軍兵士を引き抜き>

一方、クルド人自治区の民兵組織ペシュメルガが、境界を接する北部の石油都市キルクークを制圧。混乱に乗じて勢力拡大を狙っている。

シリアの内戦で成長し、同国東部とイラク西部にまたがる広大な地域を手中に収めるISILが、いとも簡単に相次いでイラクの都市を掌握したことは、衝撃的な出来事には慣れていそうなこの地域を動揺させている。

国際武装勢力アルカイダと袂を分かったISILは現在、バグダッドに向かって南進しているが、行き過ぎによって失敗する可能性があるとみる専門家もいる。だが、ISILの前任者らは2007━08年に米軍の支援を受けたスンニ派部族の民兵に負けを喫したものの、マリキ首相の宗派主義に対するスンニ派の怒りをうまく利用し、フセイン大統領時代の軍人たちを引き抜いた。

前述のジョージ教授は「実際、ISILに関する昨年の最も重要な動きは、解散した旧イラク軍の元高官や兵士たちを引き抜く能力を得たことだ」と指摘。「ISILの戦い方を見れば、統制がとれ、士気が高く、戦術を駆使した小さな軍隊だと分かる」と述べた。

また、ISILにはフセイン元大統領に忠実だった元バース党の高官やマリキ首相を打倒したい武装グループなどが合流。ISILがこれまで手中に収めてきたのはスンニ派の都市であり、ジョージ教授はスンニ派がマリキ打倒で結託していることに危険が潜んでいるとの考えを示した。

<国境再編>

一方、100万人強規模のイラク軍は200億ドル以上かけて米軍から訓練を受けているものの、士気は低く、汚職がはびこり補給ラインを妨げている。

イラクで大多数を占めるシーア派は、2003年の米国主導のイラク戦争によって政権の座に就いたが、スンニ派はイラク軍がシーア派の敵対的な関心を追求しているとの見方を強め、同軍の効力は損なわれている。

クルド人勢力によるキルクーク制圧は、フセイン政権崩壊後にイラクを1つに保っていたぜい弱な勢力バランスを覆すことになった。

クルド人勢力はイラク北部で自治権を握り、石油収入の一定の割合を与えられている。だが今回、膨大な石油埋蔵量を持つキルクークを完全に掌握したことで、自らさらに利益を得ることが可能となり、イラクにとどまる理由がなくなった。

米国のオバマ大統領は12日、ISILが勢力を拡大していることについて、米軍による攻撃の可能性も排除しないと明言。すでに戦闘によって破壊されている中東で、ISILが国境を再編しかねない脅威となっている重大さを強調した。

英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のアソシエートフェロー、Hayder al-Khoei氏はISILの猛攻が米国を苦しい立場に追い込んでいると指摘する。「米国製の軍事車両や武器がモスルで武装組織の手に渡っているのを目にすれば、政策立案者たちは、倒したいと思っているまさにその相手の手に渡るかもしれない軍用品を今後もイラク政府に提供する効果に疑問を持つだろう」と語った。

<周辺諸国の反応>

中東諸国はこうしたイラク情勢に対し、複雑な反応を示している。

イラクがシーア派によって支配されていることを断固として受け入れないサウジアラビアとスンニ派の同盟諸国は、マリキ首相がシーア派のイランと同盟を結んでいることを嫌悪している。だが、マリキ氏失脚は望んでいても、それがアルカイダ系組織が実現することも望んでいない。

サウジとその同盟諸国は、イラクからシリア、そしてレバノンまでシーア派勢力のネットワークを構築したいとイランが考えているとみている。

一方、イラクに大きな影響力を持つイランは、米国と協力してイラク政府を支援する可能性がある。同国のある高官はロイターに対し、そうした案を指導部が現在協議中だと語った。当局者らは、マリキ首相を援護するため、当面アドバイザーや兵器をイラクに送るが、軍隊は派遣しないだろうと述べた。

また専門家らは、シリアのアサド政権と戦うため国境を渡ってくるジハード(聖戦)戦士を見て見ぬふりをするトルコに、自国の宗派対立を恐れて軍事介入する覚悟はなく、国境の安全を守ることに専念するとみている。

決定的な鍵を握るクルド人勢力も、モスルや他の都市を奪還するため兵士の派遣を求めるイラク政府の要請には応じないとみられる。クルド人当局者によると、むしろキルクークや国境沿いでのプレゼンスを強固なものにしようとする考えだという。

<イランの介入>

イラクの専門家は、同国内で数千人規模とみられるISILが、バグダッドに進攻することは不可能だと指摘する。そこには、イランの訓練を受けた民兵の支援を受ける軍特殊部隊が控えている。

LSE中東センターのトビー・ドッジ所長は、ISILが無理をして失敗する可能性があるとした上で、それはISILの問題というよりむしろ、イラクという国の弱さを物語っていると述べた。

スンニ派の攻勢が強まるにつれ、イランは隣国シリアにしたように、同盟国のイラクを助け、同国への影響力を回復する目的で介入を余儀なくされるかもしれない。

外交筋によると、イランはすでに革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ」司令官の側近2人を含む幹部を定期的にマリキ首相と会談させているという。

専門家たちは、マリキ首相がシーア派民兵を動員すれば、全面的な宗派対立を引き起こす可能性があると指摘する。そして、イラクが崩壊し、シーア派、スンニ派、クルド人勢力がそれぞれ独立した存在となるとの懸念も浮上している。

前述のジョージ教授は「マリキ氏は火遊びをしている。これは大惨事を招く行為だ。全面戦争を引き起こすこと、まさにこれこそがISILの狙いなのだ」と語った。

また、同教授は「イラクはいまだ和解しない分断された国家だ。危機が転換点を迎えるのは、イラクが3━4の国に分かれるか、和解するときだろう。和解の場合は、新しい指導者、新たな考え方が必要だ」との考えを示した。

(Samia Nakhoul記者 翻訳:伊藤典子 編集:橋本俊樹)

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