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「反転授業」 先駆者アーロン・サムズさんが語るその効果と課題

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CLASSROOM
Cavan Images via Getty Images
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基本的な学習は授業前に宿題として行い、学校の授業では応用力や課題学習などに注力する「反転授業」(Flipped Classroom)。2000年代から、アメリカの初等中等教育を中心に草の根的に広がり、日本でも2012年ごろから関心が高まっている。

佐賀県武雄市では、2013年秋から一部の公立小学校で試験的に導入。児童は家庭でタブレット端末を用いて予習、学校では話し合いを中心に学ぶというもので、教育の専門家や保護者の間で賛否両論が巻き起こっている。「反転授業」の効果と課題はどのようなものなのか?

アメリカで「反転授業」の指導方法を実践してきた先駆者で、『反転授業−基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける』を上梓したアーロン・サムズさんが5月24日に東京大学・本郷キャンパスで行った来日講演から、その答えを探る。

■欠席した生徒の補講代わりに動画をオンラインに

サムズさんが、『反転授業』の共著者で同僚であるジョナサン・バーグマンさんとともに、コロラド州のウッドランド・パーク高校の教員になったのは2006年のことだった。「高校で12年間、化学を教えてきました。そのキャリアの中で、もっと良いやり方があるに違いないと思っていました」とサムズさんは語り始めた。

「僕はそれなりに良い教師でした。教師として栄誉ある賞も受賞し、大統領にも会えました。ただ、良い教師でしたが、目指していた教師像とは違っていた。教室を学習中心、生徒中心にしたかったのです。長い間、教室では教師が中心で、授業もそのように設計されていました。でも、それだけが教育法なのか?」

サムズさんはこれまでの授業の問題点をこう指摘する。「教室の中で一番活動しているのは、誰でしょうか? 教師です。教師の脳が最も活発に働き、学習していました。生徒はどうでしょうか。居眠りしたり、髪の毛をいじっています。教師が前に立って、一方的に話をするのは楽です。でも、これは時間の使い方を誤っていると思います。一方、家庭では、こういう問題がないでしょうか? 生徒は一番むずかしい作業を宿題として与えられ、何をすればいいのかわからない。カリキュラムは決められていて、全部カバーするのに、十分な授業時間がありません。教室では一部しか伝えられず、宿題で出さなければいけません。つまり、簡単なことを教室でやっていて、難しいことを家庭でやっていたわけです」

著書『反転授業』によると、サムズさんとバーグマンさんは、2007年春から授業にオンラインで見られる動画の利用を始めたという。きっかけは、多くの生徒たちがスポーツ活動などで頻繁に授業を欠席することだった。郊外の高校だったために、試合や大会に出るとなれば、1日がかりでバスの移動をしなければならず、生徒たちは授業に出られないことが多かったのだ。そこで、2人は教室で見せる内容を動画に編集、補講代わりに欠席した生徒にオンラインで動画を見せた。

結果は好評。そこで、サムズさんはこれまでの授業の問題点を解決するアイデアを出す。

僕達の授業をあらかじめ全部収録して、生徒がそれを『宿題』として観る、というのはどうだろう。実際の授業の時間はビデオを観て理解できなかった部分のフォローに使うんだよ。
(『反転授業』より引用)

「テクノロジーを使えば、簡単なところは家庭でやってもらい、教室ではもっと難しいことができます。そこで、生まれたのが『反転授業』です。パワーポイントに音声をつけて、動画として自宅で生徒に見てもらい、それから教室に来てもらうようにしました。今まで、30分かけて教室で教えていたものを15分の動画にまとめることができました。そして、教室では実践に費やすことができました」


講演で紹介された「反転授業」の動画

■反転授業のメリットは教室にある

こうしてアメリカの高校で始まった反転授業は、どのような効果を生んだのだろうか?

インターネットという新しいテクノロジーを使ったメリットについて、「インターネットの世界では作成も配布も簡単です。大勢の人たちに対し指導できます」とサムズさんは指摘する。「私はあるところにいって、情報を得なければならないとは思っていません。ポケットの中にいつでもあります」と、スマートフォンを取り出したサムズさん。壇上で「アメリカの第24代大統領は誰か?」という質問の答えを音声検索してみせた。

「もうひとつ、動画が強力なツールだった理由は、生徒にとって親しみやすかったからです。たとえば、生徒がルービックキューブのやり方を知りたいと思った時に、何を参考にするか? YouTubeです。14歳の子が出ているルービックキューブの動画がありました。誰からでも学ぶことができますし、再生ボタンを押せば何度でも観ることができます。アニメ、テキスト、写真、音声という複数のメディアをひとつの動画に圧縮して提供もできます。製作も簡単です」

しかし、動画を教材として使う本当のメリットは、教室にあるという。

「では、授業で何をするのか。たとえば実験や分析、あるいは問題解決をさせる。あるいは何か新しいものを作らせることもできます。授業である生徒が夜間、太陽光を使って携帯電話の充電をするシステムを設計したいと言いました。『アリサ、夜に太陽光はないよね?』と聞くと、『私は太陽光を保存して、水素と酸素に分離させ、電子エネルギーに変換して充電したいんです』と言いました。そして実際、彼女はその設計を完成させることができました」

サムズさんは、反転授業の効果をこう語る。

「こんな生徒が出てきたのは、授業で新しいことができたからです。理解と暗記だけを何年も授業でやってきましたが、それを外に押し出し、やっとようやく全員を上の階層へ引き上げることができました。教育者としても、学習者としても、変わらなければなりません。情報はすべて私が伝えるものではありません。教師は教室の前に立つ賢者ではなく、ガイド役でなければなりません。みんなその方法がわかりませんでしたが、反転授業はそのためのツールなのです」

■「反転授業には恐れや懸念もある」

『反転授業』によると、サムズさんとバーグマンさんは、化学の授業すべてを動画にまとめた。授業は1回95分、隔日で行われる。生徒は1日おきに宿題として動画を観て、勉強したことをノートに取る。実験作業は以前と同様に授業で行っていたが、この方法を始めてから、実験にも練習問題を解く時間にも余裕が生まれ、授業時間が余ることもあった。明らかに授業をしてから宿題を出すより効率が良かったのだという。この反転授業はまたたくまに教育関係者の間で評判となった。メディアにも注目され、2人は欧米各地で講演するようになった。

しかし、「この話を聞いて、やりたいと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、反転授業には多くの神話があり、恐れや懸念があることも理解してほしいと思います」とサムズさんは釘を刺す。

「家庭でインターネットに接続できないのに、動画をオンラインで見ろというのは、デジタル格差を生んでしまいます。別の解決策を考えなくてはなりません。私たちは、動画をパソコンやDVDで観られるようにしました。別の方法もあります。iPhoneを使うこともできます。いくつもの、クリエイティブな解決策があるのです」

さらに、よく懸念されるのは予習をしてこない生徒への対応だ。

「生徒が宿題をやってこなかった時の言い訳に『犬が私の宿題を食べてしまいました』というのがありますが、もしも生徒が動画を観てこなかったら、どのようにすればいいのでしょうか。教室にパソコンを置き、生徒にはそちらでヘッドフォンをつけて観てもらいます」。授業でやるはずだった課題は、従来の方法のように自宅で行わなければならない。「先生に質問できる場で課題をやったほうが得だ」と生徒は早々と察するという。

動画だけ観ていれば、「授業に顔を出す必要がそもそもあるのか?」という問題も出てくる。これに対しては、「教師の役割は反転授業の中で一層大事になると思います。反転授業で共有できることは、実際の経験です。私は反転授業を行った教師として、みなさんに情報を提供することはできます。しかし、重要なのは何を学ぶのかではなく、コミュニティの中でなぜそれが大事なのかです。それは、みなさんのコミュニティで考えることです。すべてのライブの授業をやめて動画にすべきと言っているわけではありません。その授業にとって、最も良い情報伝達方法は何かを考えてください」

flippedclassroom講演するアーロン・サムズさん

■課題も多いが期待も大きい「新しい学びの形」

『反転授業』では、その課題も解説されている。本書の監修を務めた東京大学情報学環反転学習社会連携講座の山内祐平准教授と大浦弘樹特任助教は、序文でこう指摘する。

「まず、オンライン学習コンテンツにアクセスするためのデバイスとインターネットアクセスをすべての学習者に確保する必要がある」。また、日本では家庭でインターネットを使用した学習環境が未整備で、「特に初等中等教育においては大きな課題になるだろう」とする。

一方、「オンライン教材の整備も重要な課題」だ。サムズさんたちのように教材を自分で作ることができる教師ばかりとは限らない。そうした場合、アメリカのようにオンラインでの教材が流通していない日本では、何らかの対策が必要になるとしている。さらに、インタラクティブな教育方法を習得した教員養成も不可欠となる。

課題は決して少なくないが、反転授業には期待が集まる。サムズさんによると、反転授業を採用した結果、数学の力が重視される理系の授業において、数学の学力が低かった生徒群が高い生徒群に近い成績を出せるようになったという。

この新しい学びの形は未来をつくるのだろうか? 今、注目が集まっている。

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