南シナ海の危険な「追跡合戦」 強気の中国、装備不足ベトナム

中国が石油掘削装置(リグ)を設置したことで緊張が高まる南シナ海の西沙諸島(英語名パラセル)周辺。領有権を争うベトナムは巡視船を派遣して警戒に当たっているが、中国船による追跡行動は勢いを増すばかりだ。
Reuters

中国が石油掘削装置(リグ)を設置したことで緊張が高まる南シナ海の西沙諸島(英語名パラセル)周辺。領有権を争うベトナムは巡視船を派遣して警戒に当たっているが、中国船による追跡行動は勢いを増すばかりだ。

外国人記者の一団が15日、ベトナムの巡視船「8003」に乗船。リグまで約20キロの地点まで近付き、取材を行った。

巡視船がエンジンの回転速度を上げると、中国語による警告アナウンスがスピーカーから流れる。

「すべての船舶は退去せよ。ここは、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)に属している。海洋石油981(リグ)を撤去せよ」

その後、リグの周辺にいた20隻以上の中国船が陣形を崩すように、ベトナムの巡視船を追跡し始める。

これが、記者団が目にした光景だ。まさに「いたちごっこ」で、巡視船の乗組員なら誰もがこれまでに目にしている。ただ、数に劣るベトナム側が先に退き、中国船が追跡をやめるというのが現状となっている。

中国は今年5月、予告なしに総工費10億ドルに上るリグ「HD981」を設置。これは、中国とベトナムとの関係が、過去30年で最も冷え込む引き金となった。

一方、ベトナムはこの海域は、沿岸から200海里のEEZ内にあると主張し、中国側がベトナム漁船に衝突しようとしたなどと非難している。

中越のにらみ合いをめぐっては、米国が11日、双方に緊張緩和を求め、中国の行動は「一方的で挑発的だ」と懸念を示した。

南シナ海の約9割の海域で権益を主張する中国は、領有権問題の平和的な解決を訴えているが、中国もベトナムも後に引かない姿勢を見せており、早期解決の見通しは立っていない。

<装備の近代化>

中国は、同海域への軍の艦船派遣を強く否定。しかし、ベトナムの巡視船の乗組員にとっては、中国の主張はあまり意味を持っていない。

乗船取材の15日、巡視船の船内ではレーダースクリーンの周りに人だかりができ、デッキの上では双眼鏡で監視を行い、中国船の様子を動画で撮影する船員の姿があった。

テレビのスクリーンは、船尾にミサイル発射装置が付いた中国のフリゲート艦を映し出していた。

船長は電話を取り、ベトナム本土の本部に連絡し、中国艦船の情報を報告。乗組員が「高速ミサイル攻撃艇」と表現する中国船の上空では、確認できない航空機が飛行していた。

巡視船のNguyen Van Hung船長は、任務は軍事的なものではないとし、漁船と密接に連絡を取り合い、装備増強も進める中国から漁船を守ることが任務だと強調した。

その上で、船長はベトナム側の装備不足に言及し、「漁船を守るという任務を遂行し、主権を主張するこの海域で存在感を増すためにもより近代的な船舶が必要だ」とも語った。

ベトナム側の装備増強は意外と早期に行われるかもしれない。リグをめぐる問題が発生したことで、日本などから支援の申し出が出ているからだ。

また、ベトナムのグエン・タン・ズン首相は、巡視船32隻の建造、現在保有する船舶の改良を行うため、5億4000万ドルの予算案を承認した。

巡視船には武器が備わっているものの、船長は自衛のためだと主張。「事態は深刻だが、平和的に問題を解決することが、沿岸警備隊、政府、ベトナム共産党のポリシーだ」と語り、「中国の行動が間違っていることを中国に示したいだけで、リグの撤去を求める」と付け加えた。[南シナ海 15日 ロイター]

(Martin Petty記者 翻訳:野村宏之 編集:橋本俊樹)

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