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東京国立博物館や歌舞伎座でもスタート 親が安心して芸術を楽しめる「イベント託児」とは?

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東京国立博物館の託児室 | 猪谷千香
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■東京国立博物館の正面プラザに「託児室」登場

東京・上野の東京国立博物館は2014年4月、「正門プラザ」をリニューアルオープンした。国内外から訪れた人たちを迎える日本最大級の博物館の玄関口として、チケット売り場が一新、ミュージアムショップも新たに設けられた。その一角に「託児室」が併設されたのだ。

連日、長蛇の列ができて話題を呼んだ東京国立博物館の特別展「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」の「翠玉白菜」の展示期間中だった6月末、真新しい「託児室」を訪れてみた。ドアを開けると、ベビーベッドやおもちゃ、絵本が並ぶ。この日は、1人の女の子が託児室を利用。「お買い物ですか?」「何を買ってきたの?」と保育者の女性たちに聞かれ、女の子はバッグからたくさんの野菜やケーキのおもちゃを取り出して、楽しげに遊んでいた。

この託児室は、事前予約が必要になるが、原則的に毎月第1、第3土曜日と第2、第4水曜日の月4回の利用が可能だ。託児室を開設する以前、東京国立博物館では、2013年1月から2月にかけ、特別展「書聖 王羲之」と特別展「飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡―」の期間中に、館内の会議室を使って9日間の託児サービスを試行。2013年7月から8月の特別展「和様の書」、2013年10月から11月でも、特別展「京都」の期間中にも託児サービスを実施した。

「子育て中の方でも安心して展示を見ていただけるようにと、2013年度の特別展限定で、3回の託児サービスを実施してみました。とても好評で、平均すると1回2.5人のお子さんの利用がありました。そこで、お客様の潜在的なニーズがあるのではないかと考え、今回、常設の託児室を開設しました」と担当する東京国立博物館総務部の石坪直紀さんは話す。「若い世代、子育て世代の方たちにも継続的に東京国立博物館に親しんでいただければ」

東京国立博物館だけではない。最近、子育て世代が子どもを預けて、ゆっくりとアートやコンサートを楽しめるよう、美術館や劇場での託児サービスが増えている。同じく上野の東京都美術館や東京・六本木の国立新美術館、東京・半蔵門の国立劇場、東京・東銀座の歌舞伎座………。

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東京国立博物館の「託児室」。

こうした首都圏の名だたる美術館や劇場をはじめ、全国で「イベント託児」を展開するのが「株式会社マザーズ」(東京都中央区)だ。演劇やコンサートなど月平均100公演、1回平均で子ども5人の託児を引き受けている。場所によって異なるが、たとえば東京国立博物館は、0歳児から1歳児は2000円、2歳児以上は1000円と、託児サービスとしては比較的安価で利用できる。他の美術館や劇場も同様だ。その理由は、イベント主催者が利用者へのサービスの一環として託児サービスを導入して運営費を負担。利用者はそのうち一部のみを負担するシステムになっているからだ。

安価といっても、0歳児やハンディのある子ども1人に対し保育者1人、1歳児2人に対し保育者1人、2歳児以上の子どもには3人に対し保育者1人でそれぞれ対応。これは、認可保育所の「乳児3人に対し保育士1人、1〜2歳児6人に対し保育士1人、3歳20人に対し保育士1人、4歳30人に対し保育士1人」という設置基準に比べ、かなり手厚い。それだけ、子どもの安全を最優先にしているのだ。

当初は、「子守りにお金がかかるなんて」「子どもを預けて遊びに行くなんて」と主催者にも利用者にも理解を得られなかったという「イベント託児」。どのように裾野を広げてきたのか、「マザーズ」創設者で、代表の二宮可子さんにその舞台裏を聞いた。

■母親目線による徹底した危機管理

「自分が子どもを預けて楽しみたかったんです」と二宮さん。「私も働いていたのですが、子どもができて退職しました。それまではレストランで食事したり、芝居を見たりしていたのに、出産したらどこにも行けなくなってしまいました。どこかに子どもを預けられないか探したけれど、そんな託児サービスは当時ありませんでした」

二宮さんが出産した1980年代、イクメンという言葉はもちろん存在せず、専業主婦は夫の協力を得ずに家事も育児も1人で完璧にこなすのが当たり前という風潮だった。二宮さん自身も「そう思い込んでいた」という。食卓で子どもが何かをこぼせば、その都度まめに拭き、子どもが泣けば、どうしたら最良の育児ができるのか悩んだ。「自分の子どもをかわいいと無心に抱くことができませんでした」と振り返る。

「ある日、子どものお昼寝の時間を計算して、新宿の伊勢丹のベビールームで寝かしつけ、夫に『そばで見ていてくれるだけでいいから』とお願いしました。1人で一番近い映画館に入って、そこで一番短い映画を見て、やっと『ああ、私は人間だったんだ』と自分を取り戻せたんです」

当時、託児サービスがあるのは区の主催の勉強会や教習所ぐらいだったという。それも、大人数の子どもを少人数のスタッフでみていたり、子どもの名前もチェックしないなど、ずさんさが目立ち、とても安心して子どもを預けられるレベルではなかった。そこで、「自分と同じように、コンサートや観劇の間に子どもを預かってもらいたい人はたくさんいるはず」と二宮さんは1988年、母親3人で自宅を拠点に、母親目線に立った安心で安全な託児サービスを始めた。

しかし、スタート当初はなかなか理解が得られなかった。イベントの主催者に託児サービスの重要性を説いても、「どうして、“子守り”に費用がかかるのか」と言われた。「託児」という考え方が根付いていなかったのだ。「主婦のわがままなお遊びには付き合えない」と言われたこともあった。「子守りは誰かが適当にやればいいという世界でした。でも、事故があったらどうするのか。だったら、うちの子を預けるとしたらどうしてほしいかという目線で、現在のような危機管理のシステムを手探りで作っていきました」

まず、子どもを預けている時、母親としてどうしてほしいかを考えてみた。「子どもが0歳児だったら、何かあった時には両手で抱いて逃げてほしい」「子どもが1歳なら、1人の大人が2人までは抱けるだろう」「2歳以上でも、大人が1人で対応できるのは、子ども3人が限界」。こうして、保育者の人数を決定。これ以外にも、細部にわたって検討を重ねた。

「たとえば、子どもの飲み物として、麦茶が一般的ですが、小麦アレルギーが出る場合もある。ジュースは柑橘アレルギーがあります。だったら、国産のミネラルウォーターに統一しよう。そうやって、ひとつひとつマニュアルがないところから積み上げていきました」

■安心で安全な「イベント託児」を広めたい

イベントの主催者に門前払いされる日が続いたが、ある時、20代から30代の子育て中の人にも公演へ足を運んでほしいと考えていた「日本フィルハーモニー交響楽団」が、「託児サービスをぜひやってほしい」と言ってくれた。1988年、初めて、東京・赤坂のサントリーホールでの公演で、楽屋を託児室にした初めてのイベント託児が実現。以来、日本フィルでは年間約60公演の「イベント託児」を実施している。

これをきっかけに、少しずつ「イベント託児」を依頼するコンサートホールや劇場が増えていった。「ちょっとの時間でもお母さんがリフレッシュして笑顔になった方が、おもちゃやお菓子を買い与えるよりも、子どもとっても幸せです。夫にとっても妻のストレスがたまっているより、元気になった方が良いのではないでしょうか」と二宮さんは話す。

しかし、マザーズによる「イベント託児」が広がるにつれ、同じように「イベント託児」とうたって、託児サービスをするところが出てきた。そこで二宮さんは「イベント託児」という言葉の商標登録を行った。ある懸念を抱いたからだ。

「私たちは危機管理を徹底してマニュアルを作り、主催者のご協力もとにイベント託児を実施してきました。スタートしてから、これまで無事故です。1995年に阪神淡路大震災が起きた時も、震災が起きた時にどうしたらよいのか、その都度、さまざまな検討をしてきました。そういうものがイベント託児だと思っています。ですから、危機管理のない託児サービスにイベント託児という言葉を使われ、万が一、事故が起きてしまった場合は非常に危険だと思いました」

こうした託児サービスは認可保育所などと違い、行政による基準はない。それだけに、利用者や主催者との信頼関係が大切となる。「イベント託児という登録商標は、マザーズだけで抱え込んで使わせないということではなく、危機管理の報告をお願いしてある水準を満たしているようであれば、使っていただけます。イベント託児という言葉があったら、安心で安全な、危機管理の徹底した託児サービスだということを広めたいと思っています」

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マザーズ代表の二宮可子さん

マザーズでは現在、全国に約200人の登録スタッフを抱える。公募はせず、人柄などの推薦にもとづく紹介によって採用。スタッフとして登録するには1年に1回の健康診断や、心肺蘇生法などを身に付ける上級救命講習の受講も必要で、研修などを通じていざ何かあった時に対応できるよう人材を育てている。

また、マザーズは2013年7月から、「イベント託児」の無料情報誌「イベント託児®info」を発刊している。基本的に隔月発行で、部数は1万4000部。マザーズの「イベント託児」が利用できる公演や展覧会の情報を掲載、各会場や一部の親子カフェ、駅などで配布しているほか、ネットでダウンロードもできる。

全国に根づき始めた「イベント託児」。二宮さんは、こう語る。

「これまで、主催者の方々のご理解をいただいて、イベント託児の良い循環ができるようになってきました。利用者の方にも、こんな公演や展覧会でも託児できるんだということを知っていただければ。親は子どもとずっと一緒に過ごすと、同じレベルになってしまい、ストレスが虐待にもつながりかねません。自分が大人としてこういう豊かな文化に生きているということを再確認した上で、子育ては楽しいということを体感していただければうれしいです。それが、子どもの幸せにも通じるのではないでしょうか」

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