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「社長になるなんて1ミリも思わなかった」Zaimの閑歳孝子さんに聞く"ジョブチェンジ"する働きかた

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KANSAI
The Huffington Post
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日本最大級の無料オンライン家計簿「Zaim」(ザイム)。機能的なサービスが「簡単」「使いやすい」と反響を呼び、7月に3周年を迎えた今、ユーザーは200万人を超えている。

この開発を手がけ、起業したのが閑歳孝子(かんさいたかこ)さん(写真)だ。IT企業に勤めながらプライベートでZaimを開発した閑歳さん。出版社の記者を経て、ITの世界に転職した閑歳さんが、エンジニアとして働き始めたのは、29歳のときだったという。

当時、社長になるとは想像していなかったという閑歳さんに、Zaimや"ジョブチェンジ"する柔軟な働きかたについて聞いた。

——いま、Zaimの運営に専念されていますが、もともとプログラミングや開発に興味はあったのでしょうか。

慶応SFCのときに、仲間と一緒にサービスを作ったことがありましたね。いまのSNSのようなコミュニティサービスで、授業情報などを共有できました。例えば、そのサービスを使って、ある講義で「今から出欠を取ります」っていわれたら、授業に出席している子が他の受講者に一斉同報するような機能を備えていました。

コミュニティ機能や、いまのTwitterのような機能もあり、すぐに大学内のほとんどの学生が使うようになったんです。本当に、1日1日ユーザーがどんどんどんどん増えていって、知らない人が「これすごい便利だ」って言ってくれて、すごく楽しかったですね。

——まるでFacebookのようですね。

そうですね。でも、私たちの駄目だったところは、誰もビジネスマインドがなかったことです。「作って楽しい、以上!」みたいな感じでした(笑)。NTT無線システム研究所長だった小檜山賢二先生の研究室に所属していて、その研究の一環として作っていたつもりだったので、研究室に寄贈して、そのまま社会人になりました。大学ではこの研究室と、「だんご3兄弟」や「ピタゴラスイッチ」などで知られる佐藤雅彦先生の研究室にも所属していました。

——佐藤雅彦研究室では、どんなことを学ばれましたか?

佐藤先生には、根本的なところで、すごく影響を受けていますね。今も、先生に見られて恥ずかしいものは絶対に作れないと思います。

一番自分の中で残っているのは、「リジット(rigid)な表現をしなさい」とよくいわれたことです。リジットって「根本的な」「根源的な」という意味なんですが、変な装飾を加えたり、ごまかしを入れないで、根本的にいいものをつくる、余計な装飾をつけないものがいいという刷り込みを受けたと思います。

——最初に就職したのは、IT企業ではなく出版社だったんですね。

大学のときは、「お問い合わせフォーム」を作るような簡単なプログラムは書けた気がするんですが、コミュニティサービスを一緒に作った友だちのひとりが、本当の天才だったんです。それを見て「彼とは絶対戦えない」と思って。インターネットは大好きだけど、このままやっても自分は三流にもなれないと感じたんですね。

就職は、インターンをしていたMicrosoftと日経BPで迷ったんですが、記者の仕事やマスメディアの世界は全然想像できなかったので、わからないからそっち行ってみようと思って出版社に決めました。

日経BPでは、『日経コミュニケーション』という雑誌で、通信業界を取材していました。当時、光ファイバーやADSLが出てきて、ソフトバンクの孫正義社長が「BBフォン」を始めた頃で、通信業界が熱い時期でした。「ADSLはなんで早いのか」みたいなテーマで、電波の波長を解説したりしていましたね。

——通信ですか。やっぱりインターネット業界を取材されていたんですね。

今考えると、通信の世界は、小学生の頃から興味があったみたいです。ワープロに電話線つないで、地元のローカルエリアで草の根チャットをしたり、ニフティサーブでパソコン通信をしたりしていました。家族に詳しい人はいなかったので、独学で遊んでいました。

高校生のときに、自分でパソコンを買ってから“ドはまり”して、まだテレホーダイが普及していないときに3分10円でつないでいたら電話代が3〜4万円になってしまったことがありました。親は何もいわずに払ってくれましたが、そのときに「あれ、自分おかしいかも」と気づきました(笑)。

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——ウェブ業界へ転職されたきっかけは?

やっぱり、通信やウェブ業界には興味があって、いつか何かやりたいと考えていましたが、記者だったので、書くこと以外の仕事は無理かなと思っていたんです。そんなときに、たまたま大学の友だちがやっているベンチャー企業に誘ってもらえて、25歳からウェブ業界に転職しました。

主に他の企業から依頼を受けて、ウェブサイトを開発している20人ちょっとの会社でした。初めは、何もできなかったので、スケジュールや人の調整などのディレクションをしていました。

——プログラミングをはじめられたのは、いつ頃ですか。

ウェブの基本的なことを学んでからは、そのうちに自分でプログラミングを書くようになりました。当時「Ruby on Rails」というウェブアプリケーション開発のためのフレームワークが出始めて、それを試したときに「あ、みんなこうやってプログラミングしてたんだ」って初めてわかったんですね。それをきっかけに、自分でも作ってみようと思ったんです。

それまでは「こういうの作りたいな」と思ったときに、エンジニアに頼まなければいけなかったんですが、自分の中で完結して作れることがことが本当にうれしくて、色々作っていました。なんとか自分で作れるようなってきたのは、たぶん28歳ぐらいだったと思います。

——その後、エンジニアとして、ふたたび転職されたんですね。

受託開発は、他の企業にいわれて作るものがメインですが、次第に自分たちのプロダクトやサービスを作りたいなと思うようになったんです。かつ、あまり大きい会社じゃなくて小さいところがいいなと。そんな話を友だちにしていたら、その子が偶然「来週そんなことをしている人に会うよ」というので一緒についていったら、ユーザーローカル社長の伊藤将雄さんにお会いしたんです。

「みんなの就職日記」や「なかのひと」「うごくひと」などの多くのサービスを企画・開発された人ですが、お会いして衝撃を受けたというか「あ、こんな人、世の中にいたんだ」みたいな感じでした。伊藤さんのもとで学びたいな、自分の力が発揮できるんならやってみたいなと思って、そのまま転職しました。

アクセス解析をやってる会社で、ホームページに何人来訪し、どのページがどう見られているかをビジュアルで見せるサービスなどを作りました。ページ上にちょっと赤くなったりとか、ヒートマップと呼ばれる機能があって、コンテンツのどの位置が一番読まれているかがわかるサービスでした。

3年半、ずっとそれをやってましたが、本当にすごく楽しくて、勉強になりました。自分が今こうしてZaimというサービスを作れたのも、全部ここで学んだからだと思います。

——個人でZaimの開発をはじめたのはいつ頃ですか? 会社にいわず作っていたのでしょうか。

ユーザーローカルに入って2年目の後半からZaimを作りはじめましたが、こっそりではないです(笑)。自分で作る前に、会社の企画案の1つには入れていたんです。ただ、BtoBのサービスに注力している会社だったので、BtoCのサービスを作るのに、会社の時間を使えないなというのは正直ありました。

会社のサービスにすると、たとえ継続したくても「止めろ」といわれたら、止めるしかないですよね。個人で開発すれば、全部自分が決められます。「絶対に続けたい」とか「止めなきゃ」ということを決める責任は、自分で持っておきたいと思ったんです。

BtoCのサービスは、当たらない可能性も高いので、全く当たらなかったら開発にかけた時間がすべて無駄になります。そう思うと、会社のお金でやるにはリスクがあると感じました。そう思って、2011年にひとりで開発を初めて、7月にZaimをオープンしました。

——「家計簿」アプリにされた理由は?

家計簿というかお金は、飽きないテーマだと思ったんです。自分が当事者としてユーザーの気持ちがわかるテーマは何だろう……って結構ずっと考えていたんですが、お金は大きなテーマだなと。お金は、何歳になっても使うもので、自分の生活環境が変わっても、お金使わないってことはないだろう考えました。

たとえば、レシピコミュニティーサイト「クックパッド」の「食」も、本当に、人間の根源みたいな大きなテーマです。お金も、それに近いものがあると思っています。役に立つものであり続けたいと考えたときに、「家計簿」は自分が負える最大限大きなテーマなのかなと思いました。

大学を卒業して一人暮らしを始めてから、4年間ほど家計簿をつけていたので、使う人の気持ちはある程度わかると思いました。紙の家計簿は、最後の集計がいつも大変だったんです。

——Zaimのネーミングは、どのように決まったのですか?

ヌーラボという福岡にある会社のドローイングツール「Cacoo」(カクー)がすごく好きなんです。海外でも広く愛されているサービスなんですが、英語圏の人も覚えやすいし、日本語の「描く」の意味も込められていて、すごくいいなと。

自分が作るサービスも、Cacooのようなネーミングがいいなと思って調べていました。そこで、Zaimなら、漢字の「財務」もあって英語表記で読み間違えることもなくて、「なんでしたっけ、あのサービス」って言われなさそう、覚えてもらいやすいかなと思いました。

——Zaimの様々な機能に対するユーザーからの反応はいかがでしたか?

レシート入力や金融機関との連携など、いろんな機能に対応していますが、これらは使いたい人が使えるようにという位置づけにしています。

実は、今まで機能を追加してきた中で一番効果的だったのは、すごく地味なんですけどオフラインでも使えるようことですね。素早く入れたいのに、入力の度にネットにつなげないと駄目だというのが一番のストレスだったみたいです。

当初は、SNSが流行っているから「ソーシャル家計簿」と呼んでいたんですけど、全然みんなソーシャルの機能使わなくて。今、考えると当たり前なんですが、プライベートなお金のことは、SNSとは連動したくないんだなってわかりました。

お店や移動場所をチェックインするFoursquareも参考にしたんですけど、コミュニケーションツールのFoursquareとZaimでは使うときの気分は違うんだなとわかったり……。いろいろ試して、ストレートなユーザーからの声を参考に、こつこつと改善してきました。

——作り手が見えるZaim、ユーザーとの距離が近いと言われています。そこは開発者として大切にされているんでしょうか?

ツールがコミュニケーションサービスとはかけ離れていて、人のにおいが感じられないのがずっと気になっていたんです。本当に運営されているのか、本当にサービスの向こうに人がいるのかなって一般の人は全然わからないと思うんです。

Zaimでは、ユーザーに「ちゃんと運営してますよ」「ちゃんと良くしようと思ってますよ」ってことを多少なりとも感じてほしくて、なるべく人のにおいがするように心がけています。

一般的に、プッシュメッセージはユーザーに嫌われるんですが、Zaimの「今日はお金を使いましたか?」みたいなメッセージは温かみがあるみたいで、「おかんみたいや」とTwitterに書かれたりします(笑)。

アップデートの文書もお送りすると、ユーザーからは「僕の意見を聞いてくれた」っていうリアクションがあるんです。ご要望はひとつ残らず目を通しているので、それを感じてくださっているのかなと思います。

初めてお会いした方から「昔、Zaimに要望を送ったら、返信がきて感動した」といわれることが結構あります。「あ、こういうところでつながってるんだな」って大事にしていきたいと思っています。

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——今後のZaimの展望は?

Zaimは単身者にも、年金生活者の方にも、学生の方にも使っていただいています。親子など家族で利用されている方もいます。そんな、どんなライフスタイルにも寄り添えるサービスとして進化していきたいと考えています。ちゃんと家計簿を使いこなして入力を簡単にしたいっていう方にとって、Zaimは便利だと思ってもらえるようにしたいです。

やっぱり、お金は「節約したい」か「増やしたい」か、どちらかだと思うんですけど、最終的には「何かに使う」と思うんです。結局、そこが重要だと思うので、Zaimをきっかけに「何のためにお金を増やしたいのか、持っておきたいのか」を考えてもらって、自分たちの生活が楽しくなるようにマネージしてもらえたらいいですね。今後は、その考え方を、ちゃんとサービスに落とし込んでいきたいなと思っています。

会社化しようと思っていたときに、クックパッドからお話があって連携しました。当面は今までどおり、お互いにそれぞれのユーザーを見て事業を進めていくと思いますが、ユーザー同士の親和性は非常に高いので、一緒にやれるところはどんどん進めていけばいいかなと思ってます。

今はクックパッドからの誘導をきっかけにユーザーも広がっていますし、食費を気にしながらお料理をするという部分で、クックパッドの特売情報がZaimを通じて閲覧できるようになったり、一部のサービス機能は連携しています。

——女性のエンジニアは貴重ですが、女性の視点が生かせることはありますか?

女性はすごく少ないですね。特に自分でプロダクトを作っている人は本当に少ないです。私が知っているのは「ToriSat」作者の郷田まり子さんぐらいです。郷田さん、尊敬しています(笑)。

LINEは、すごく上手ですね。エンジニアとディレクターは完全に分業だと思いますが、ディレクターに女の人がいます。エンジニアの男女差は、あるかどうかわからないんですが、ユーザー視点があるかの差はあるかもしれません。女性がエンジニアとして活躍できる環境はあるので、もっと開発の面白さが伝わるといいのかなと思います。

先日、クックパッドでインターネットを活用したものづくりに興味がある女子中高生向けのイベントがあって、彼女たちに「Ruby on Rails」の初歩を教えて「プログラムはこうやって動いているんだよ」とお話する機会があったんです。

参加した女子高生のなかには、本当に「HTML5書いてます」みたいな子がいました。やっぱり若くなればなるほど、たぶん全然抵抗なく、フラットにプログラミングの面白さを感じて、開発をする子が増えてくるだろうなと思います。

——閑歳さんは、記者やディレクター、エンジニア、今はZaimの社長と、いろんな職種を経験されてきました。今後のビジョンはありますか?

5年前に、Zaimをやって社長をしているとは1ミリも思ってなかったです。正直、もし5年後に今の自分が想像できる範囲のことをやっていたとしたら、がっかりしますね。それは逆に意図しなかったことです。

先が見えないほうがいいです。5年後は、どんなデバイスを使っているかもわからないし、スマホがこんな形なのかもわからない。そもそもの生活が違っていて、それこそ本当にバーチャル・リアリティの世界が来て、みんなそっちの世界に住んでいるかもしれません。

こういう近未来を考えるのも好きなんですけど、私自身はすごく他人に興味があります。世の中にはいろんな人がいて、それぞれが何を考え、どういう行動をするのか。そういうことを分析するのが好きなんです。その分析結果は、ただ自分の胸の中に閉まっているだけでも満足なのですが(笑)、どこかで自分がサービス開発する際のヒントにつながっていればいいなと考えています。

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