中国、国営メディアに変化 政府の汚職撲滅運動と連携

中国政府による汚職撲滅運動は、国営メディアにも変化を与えている。これまでの慣行を破り、大手国有企業などの不正行為を報道し始めている。
ロイター

中国政府による汚職撲滅運動は、国営メディアにも変化を与えている。これまでの慣行を破り、大手国有企業などの不正行為を報道し始めている。

依然として「聖域」は存在し、政府指導部や強い権力を持つ機関などに責任が及ぶ内容にまでは踏み込んでいない。

ただ、国有銀行である中国銀行

中国人民銀行(中央銀行)は今月、国内4位の中国銀行が海外送金を通じて顧客のマネーロンダリングの手助けをしていたとする中国中央テレビ局(CCTV)の報道について、事実関係を確認しているとした。中国銀行は、規制を超える額の海外送金をしていたとするCCTVの報道を否定している。

CCTVのある職員は、同報道に踏み切ったのは政府の汚職撲滅運動も理由の1つだとし、「以前は汚職が存在しなかったというわけではなく、現在はそうした報道をする余地がかつてよりは幾分ある」と話した。

ロイターの取材に匿名を条件に応じたCCTVの現・元職員5人によれば、これまでも国有企業に対する批判的な報道はあったものの、中国銀行のような大手に関するものは極めて異例だったという。この件に関し、CCTVからのコメントは得られていない。

別のCCTV関係筋は「中国銀行に関する調査報道は、政府全体が取り組む汚職および汚職関連活動への取り締まりの一環であるのは明らかだ」とし、中国語放送では調査報道に人員を増やしていると明かした。

中国に参入している外資系企業とその現地法人も、国営メディアのターゲットにされている。

上海テレビ傘下の東方衛視は先週、米食品卸売会社OSIグループの中国法人である上海福喜食品の工場で、従業員が期限切れの食肉を混ぜている姿などを報道。食の安全に関するスキャンダルは香港や日本にまで広がった。

米マクドナルド

OSIは26日遅く、上海福喜が生産した全ての製品を市場から回収すると自社サイトで発表。併せて、現職を含む過去の上海福喜幹部を対象に内部調査を行い、問題の責任者には法的措置を含めた「迅速かつ断固とした行動」をとると言明。新たなマネジメントチームを中国に送り込むとした。

ジャーナリズムを専門とする中山大学(広東省広州)の張志安教授は「食の安全に関する報道は広範な影響を及ぼす。(東方衛視の)調査報道は全く的を射ていた」と指摘。「こうした報道はますます増えている」と語った。

上海福喜の工場に近い職業紹介所の職員は、記者が身元を隠して工場での仕事を探しに来たとし、「四川省出身で工場に入りたいと言っていた。誠実そうに見えた」と述べた。

記者からコメントは得られていない。また東方衛視もコメントを差し控えた。

<プレッシャー>

ロイターの取材に応じた国営メディア筋によれば、企業の不正行為を報道するよう政府から明確な指示があったかどうかは分からないが、こうした調査報道は政府の汚職撲滅運動に一致するものであり、視聴率も高いという。

前出のCCTV職員は「中国銀行の報道が実現したのは、政治環境の拡大が理由の一部として考えられる」と話した。

メディア関係者によると、国営メディアは大抵、政治的配慮から大手国有企業に関する報道は避けるという。CCTVの編集プロセスを直接知る人物は、もし中国銀行が事前に内容を知っていれば、CCTVに放送を取りやめるよう圧力をかけるのは簡単だったはずだと語った。

同関係筋によると、中国では発表前に取材対象者にコンタクトを取る場合、ほぼ必ずと言っていいほど報道をもみ消すために行政的手段が講じられる。また、発表されてしまった場合は、報道が「和諧」されるようコネが使われることがあるという。

和諧とは元々、中国語で調和を意味する言葉だが、当局による検閲を意味する用語としてインターネット上で使われている。

しかし、メディア専門家は、中国の国営メディアは独立性に乏しく、本当の意味での「監視役」からはほど遠いと指摘する。全体的に見れば、国営メディアが伝えるのは、政府が放送を許した範囲での重要汚職事件に限られている。

北京外国語大学の展江教授(ジャーナリズム論)は「国内企業や外資系企業に関する報道は、あくまでも政府内で金と権力を握る人たちの妨げにならない限りにおいてという話だ」と述べた。

[北京 27日 ロイター](Megha Rajagopalan記者 翻訳:伊藤典子 編集:宮井伸明)

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