指をかざすだけで開錠、家電を操作 住宅を変える「血流認証」とは

玄関で指をかざすだけで「誰」が帰ってきたかを判断し、火元や家電の制御を行う、そんなスマートハウスが登場するかもしれない。
バイオニクス

玄関で指をかざすだけで「誰」が帰ってきたかを判断、自動的にドアの鍵が開き、火元や家電の制御を行う、そんなスマートハウスが登場するかもしれない。

ヤマダ電機の子会社で住宅メーカーのヤマダ・エスバイエルホーム(ヤマダSXL、大阪)は6月、人物識別技術の開発を行うベンチャー企業・バイオニクス(大阪)などと連携し、血流認証技術を活用した住宅制御システム「Fin-Key(フィンキー)」を開発すると発表した。バイオニクスの特許商品で指の血流認証(静脈認証)によって住宅のロックを解除するシステムに、家電制御システムを融合させる。

「個人」を特定できる血流認証では、「誰」が帰ってきたかということを判断できる。これによって、例えば子供の帰宅時に両親にメールを送付したり、両親が帰宅するまでガス機器の使用を制限したりするなど、幅広い制御が可能になるのだ。

血流認証を使うと、どのようなことができるのか。バイオニクスの須下幸三社長に話を聞いた。

■血流認証とは何か、個人を特定することで用途が広がる

血流認証は、手のひらや指を通る静脈の形状によって、人を識別する認証方式だ。静脈の形状は人によって異なり、一卵性双生児の間でも同じものが存在しないという特徴を利用する。指に照射したLED光で静脈を撮影。パターンマッチングさせて個人を特定する。

体内にある血管を見て本人かどうかを判断するため、指紋認証のように「型」を取って樹脂などで同じパターンを偽造されるなどの危険性がなく、手荒れなどで読み取りにくくなる心配もない。眼球の虹彩認証や顔認証などは装置が大型化するなどの欠点があったが、指先や手のひらだけで認証が可能となる静脈認証は機器を小型化できることもメリットだ。

これまで血流認証は、施錠やシステムへのログインなど、金融機関のATMや大手薬品メーカーの薬剤管理、企業のサーバールームの入退室等など、主にセキュリティの分野で利用されてきた。高精度で個人の特定が可能となったことから、より幅広い分野で応用が可能になり、国内市場規模は2013年から2018年にかけて、年平均成長率で34.6%になるという調査もある。

須下社長は個人を特定できるメリットについて、ヤマダSXLの取組むFin-Keyを例にあげて説明する。

「働いている両親と子供、おじいちゃんがいる一家を想像して下さい。

Fin-Keyでは、子供が指をかざして家に帰ったときに母親の声で『〜〜ちゃんおかえり』と音声を流すことで鍵っ子の寂しさを減らすことができる。両親が不在の時には家全体をロックしておき、親が帰宅したときに一括でロック解除するということもできる。

夏の暑い日におじいちゃんが一人でいるとき、自動的にエアコンをつけて熱中症を予防することもできる。外出した人の部屋の家電を、自動的に待機モードに切り替えるような、省エネ機能も実現できるでしょう。

行動パターンが人によって異なっていても個人を特定することで、より細かく制御し、快適な暮らしを提案できるようになるのです」

■血流認証は日本生まれ

指紋認証や虹彩と違い、血流認証は日本で生まれた認証システムだ。2000年代前半から、日立やバイオニクスが草分けとなり、日本発のシステムとして育ててきた。須下さんの母親がアルツハイマー病を発症し、カードや鍵を持たせられない事態になったのもこの頃だった。

「血流認証では鍵を持つ煩わしさから開放されます。子供がいると、外で鍵を無くさないかを心配したりするでしょう。大人でもあるかもしれませんね。私の場合は、自分や家族が必要としたシステムだったんです」

2004年、大阪のマンションでバイオニクスの認証システムが大規模導入されることになった。大手クレジットカード会社と提携し、クリーニング等の決済機能も兼ね備えたものだ。企業や官庁だけでなく、民間に使われたことは大きな契機になったと須下さんは話す。

「女性、子供、お年寄り、爪の長い人、指の細い人や太い人、色々な人がいます。冷え性、妊娠、月経など、コンディションによって日々血流量が変化しますし、子供の成長にも対応しなくてはいけない。

民間の商品ではクレームも多いですし、家に入るためにすぐに対応する必要がある。夜中でも対応する必要がありますし手間もかかりますが、様々な要求に答えていくうちにノウハウがたまりました。おそらく世界中でもバイオニクスだけの財産です」

マンションへの導入からちょうど10年たった2014年、バイオニクスのシステムをアップデートして使い続けるかどうかがマンションの住民からなる管理組合に謀られた。組合の回答は「使い続ける」。住民から「鍵穴のないマンション」が評価された瞬間だった。

バイオニクスはこの技術によってつくられた製品を、技術立国・日本の「メイドインジャパン」製品として、アメリカの軍事施設や金融機関など、海外にも販売してきた。現在は、経済産業省が主導する組織である独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)とも共同開発を行っており、国際規格にすることもすすめている。

「日本のものづくりの力は素晴らしい。その力を活かすべきなんです。

日本の凄いところは、色々な技術を組み合わせて新しいものをつくることができる点。バイオニクスの血流認証にも、たくさんの技術が使われています。一つ一つを取ってみても、それだけで事業ができるくらいです。

色々な技術を持つ企業が互いに力を出して、より良いものをつくる、そういうことが得意なのが日本企業だと思います。それは、自分だけが勝つ、1社が全てを取るというWinner-take-allという欧米式の考え方ではなく、全員が幸せになるという日本の古くからのやり方ではないでしょうか。そういうものづくりは、これからも世界から尊敬され続けることになるのではないかと思うのです。

技術力には自信があります。バイオニクスも、ものづくりの国の一員として、グローバル市場でも胸を張りたい」

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