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「アナと雪の女王」のクリストフはなぜ業者扱いなのか? 夏野剛×黒瀬陽平×東浩紀の3氏が男性視点で新解釈

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ANAYUKI
アナと雪の女王
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映画の興行収入やDVDの売上、DVDレンタル数など、快進撃を続けている「アナと雪の女王」。美しい映像や楽曲に加え、女性たちの共感を得て大ヒットとなっているが、果たして、男性視点で「アナ雪」を見たらどうなるのか?

作家で批評家の東浩紀さんが運営するイベントスペース「ゲンロンカフェ」(東京都品川区)で6月、トークイベント「男たちが語る『アナと雪の女王』——なぜクリストフは業者扱いなのか」が開かれた。登壇したのは、慶應大学大学院特別招聘教授の夏野剛さんと美術評論家の黒瀬陽平さん、そして東さんの3人。「アナ雪」では、従来のディズニー映画における王子やヒーローとは異なり、ハンス王子やクリストフが「ぞんざいな扱いを受けている」と感じた3人は、男性視点からの独自の新解釈を展開する。

「とくに悲惨なのがクリストフだ。彼は命がけでアナを女王の宮殿に送り届けた。アナの危機を救うべく氷河を渡って駆け付けた。それなのに『正式に氷を納める役目』で大満足。それでいいのか、クリストフ?!」。男性たちの熱い議論の一部をご紹介したい。

■世の中の90%の男は王子ではなくクリストフ

東浩紀さん(以下、東):僕たちの共通意見としては、まずクリストフがかわいそう過ぎるのではないかと。アナとエルサの仲の良さを描きたかった映画なのはわかる。それなら最後にクリストフをダッシュさせることはないのではないかと。

黒瀬陽平さん(以下、黒瀬):これから、男性のみなさんに語りかけますけど、おそらくほとんどの男性は、大切な女性に劇場へ連れて行かれて見たと思います。そして、見ている間に少しずつ「おかしいな」と感じていたはずです。確かに「レット・イット・ゴー」は美しいけれども、この映画のなかで男はどうなっているのか、と。メインの男性キャラクターであるハンスとクリストフの片方は詐欺師だし、片方はヘタレで役立たずです。

東:クリストフは最後、ソリにカップホルダーついてるとかで喜んでたじゃん。「ソリを気に入ったって? もちろんさ!」って。「うひょ〜! キスしちゃっていいの?」ってなって終わってましたよね。

黒瀬:よく考えたら、クリストフは氷屋ですよ。でも、エルサは氷作れるから!

東:あっ!

黒瀬:徹底的にいらない存在ですよ。

夏野剛さん(以下、夏野):クリストフは愚かな民の象徴だよ。単に小間使い。クリストフはあれで終わるんです。クリストフはそれで満足なんですよ。生物学的に人間だけが、男が異常にラッキーな種族。サルでもライオンでも、強い男しか自分の遺伝子を残せない。大体1割。残り90%は残せない。ただし人間は知性があって社会性の動物だから、一応女性に一夫一婦制にしてもらっているわけです。ディズニーは、その100%の女性と90%の男性を相手にしているわけです。

東:お前らバカな男たちは「カップホルダーついてるからそれでいいじゃん」てことですね。この間まで、ディズニーは王子様を出していたけど、90%の男たちがついていけないと。「俺に王子とか、無理無理」。ちょっとマーケットが引いてきたので、90%の男たちに向いてきたと。

夏野:業者で十分! 時々ほめられて、キスまでさせてもらってる。何が文句ある。人生最高!

東:90%の男たちは、「うひょ〜! 俺もクリストフになれるかもしれない! カップホルダー付きのソリくるわ!!」って感じなんですかね。

夏野:だって今までのディズニー映画は、男ができ過ぎですよ。キスしただけで生き返ったりするんだよ。生まれがもう違うんだもの。

東:じゃあ、最近のマーケットの傾向としてはディズニー映画を見ると、男性はコンプレックスに苛まされると。

夏野:ちょっとよく考えてみよう。男は戦場に駆り出されて、バンバン死んでたんですよ。「永遠の0」をみると、結婚してない男が「お国のために!」と死んでくわけ。愚かさの象徴のわけですよ。男は愚かなんですよ。なんでこの20年、日本がだめかというと、男ばっかりでやってるからですよ。女をもうちょっと入れたほうがいい。

黒瀬:クリストフが最後、一生懸命走ってくるじゃないですか。結局、クリストフは間に合わず、愛する女性の危機に際して何の役にも立っていない。でも逆に言えば、もしクリストフが間に合っていたら、今までのディズニー映画と同じになってしまう。だから、あの棒立ちになったクリストフは新しいといえば新しいんですが……。

東:「俺もそうだ! 俺も間に合ってないし!」と観客の男たちは思っている?

夏野:そんなことはない。だって、俺が行ったから、アナは出てきた。それは、「アナが姉さんを守る」というゴールのアシストをしたのは自分だということ。「ゴールは決めてないけど、アシストは俺」。

東:正しい男たちの見方としては、「俺達すごくがんばった。業者にもなれたし、もう上り詰めたよね。クリストフ、まじ幸せ! クリストフになりたい!」みたいな?

黒瀬:いや、ないでしょ……(笑)。多くの男性は、ずーっと見てて、「あれ?これ男いらなくね?」って思ってたはずよ。

夏野:でもよく考えてみて。結婚して子どもができるじゃん? うちで主役の座がなくなる。独身はそれがわかんないんだよ!

東:エルサとアナが姉妹だってことになってるけど、母と子だったらリアルだよね。「あれ? 俺いらなくね? すみません!」。出産もそうだよね。すごい勢いでダッシュしても、「子ども生まれる! えっ生まれた? あっ俺ら関係ないですよね〜」みたいな。

夏野:しかも、それだけ一生懸命やっても「あなた間に合わなかったよね」ってめちゃめちゃ言われる。どんなにやったって浮かばれない。

東:それで許してもらって、クリストフは新しいソリをもらえた。「本当にありがとうございます!」 間に合わなかったのに。

夏野:でも、ソリを壊したのアナじゃん! お前が壊したんだから、弁償しろって。でも、女性はそういうものです。ちょっとでも施すと、ものすごい施したような気がする。

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「アナ雪」について語る東浩紀さん、黒瀬陽平さん、夏野剛さん(左から)

■女性が感動している横で男性が感じた違和感

東:女性たちが何かやっている時に、男たちが入る隙がない感というのはありますよね。

夏野:それをよく考えないと。映画を見た後に気持良く、「良かったね、アナ!」って出てこないと。

黒瀬:いや、ならないですよ。僕は正直に感想言っちゃったから、ケンカになっちゃった(笑)

夏野:愚かだな〜。

黒瀬:まあ、愚かなんでしょうね(笑)。多くの男性は、おかしいなーと思いながらも、ふと横を見たら、自分の大事な女性はめちゃめちゃテンション上がってて「良かったよね!」となっている。それを見て、自分の中の違和感は押し殺さなければならない、と本能的に悟るんでしょう。そして「歌よかったよね〜」とか無難な相槌を打ちながら、すごすごと劇場を出て行ったんですよ、きっと。

夏野:でも、多くの男性はハッピーなんですよ。

東:今みたいな見方、聞いたことないですよ!

夏野:結果的に男がそういうふうに操られていた。ディズニーに手玉に取られていた。俺も「あれー?」とか思ったけど、うちの娘2人がすげえハッピーな顔してたからまあいいやって。

東:うちの娘と奥さんもすげえハッピーな顔をしてた。

夏野:だって、歌詞が「いい子はやめるの」だから。「今まで、私たちは抑えられてたのよ。本当は実力あるのに、隠してたの!」。プリキュアですよ、あれ。

東:僕なんか見終わった後、複雑な気持ちがしたのが、女の子が一生懸命、がんばるという話をストレートに作っているだけじゃなくて、わざわざ男いらないって強いメッセージを出している。なんでそこまで王子モデルを攻撃しないといけないのかと。

黒瀬:確かに、今までディズニーはすごく抑圧的に女の子を描いてきたから、それへの批判に応じるために、女の子の物語を作るのはわかるんです。けど、女の子の物語を作るからといって、男が全く必要ない物語にしてしまってはダメでしょう、ということですよね。それでは今まで男が女にやっていたことを、単にひっくり返しただけになっちゃう。

■「アナ雪」は家庭に居場所のない日本の中年男を表現

東:(ニコニコ生放送でイベントを配信中、コメントで)女性視点がほしいと流れてきてる。

夏野:何もしゃべれなくなるよ!

東:「レット・イット・ゴー」のところで、「私たちすごく心が解放されたんですよ」っていわれて、ですよねえ。女性の社会進出って本当に大事で〜。

夏野:そりゃそうっすよ!

黒瀬:ちまたのアナ雪読解でありがちなのは、マイノリティの問題を扱った映画として、ありのままで生きることの素晴らしさを歌っているのだ、という見方ですよね。しかし本当にそれだけの作品でしょうか? たとえば、「レット・イット・ゴー」を歌っている時に、エルサが自分の力を解放して、美しい自分の王国が生まれる。でも、エルサが「ありのままに」力を開放することで、同時に生まれ故郷の国に強烈な寒波が来て、すごい勢いで寒くなっている。映画をよく見れば「ありのままで」いいんだ、というメッセージ以外のこともたくさん描いていると思うんですけど。

夏野:歌っている時はわかってないんだよ。

東:あれ、確かに謎なんだよね。

黒瀬:「ありのままで」だけでは、いろいろ整合性が取れないところがあるでしょう。

東:そもそも、あの呪いはなんで解けたの? 愛で解けたってことになってるけど。

夏野:なんでアナは硬くなったの? あんないいタイミングで。

黒瀬:それはフィクションだからですよ(笑)。あそこで硬くならないとクリストフが間に合っちゃうから。

東:つまり、エルサの呪いでアナが凍って、エルサの愛でアナが溶けたんでしょ? 完全に自己完結だよね。

黒瀬:そうなんですよ。家族以外信用できない、いらないって感じでしたよね。

東:お父さん、お母さんが死んだのもあっさりしてるじゃん。なんで2人っきりなんだろうね。

夏野:それがテーマだから。結局、女同士の力は強い。最近、そういうことを感じるんだよね。うちなんて娘2人だから、疎外感が半端ない。話を合わせないと合わない。

東:どんな話するんですか?

夏野:「アナ雪」をみんなで合唱したりさ……。

東:それは確かにきついですよね……。

夏野:「もう最高だよね〜アナ雪!」って言います。男の居場所はない。常日頃そういう環境で生きているから、素直に受け入れちゃった。結婚してから、奥さんの実家のほうによく行くでしょ? 男の実家によく行くという家を見たことない。

黒瀬:自分の疎外感を表してくれるから、「アナ雪」がいいんだと言っている男性に初めて会いましたけどね(笑)

夏野:でもね、ディズニーは常にその社会の本質を表しているんだよ。

黒瀬:ということは、「アナ雪は日本の中年男性の本質を表している映画だ」ってことになるわけですが、しかし、ディズニーは何のためにそんなものを作ったんだろう(笑)

■新説「オラフはエルサとアナの同性カップルの子ども」

夏野:俺は思うんだけどね、前のパターンで作ってたのが売れなくなってるんじゃないか。「ラプンツェル」ぐらいからちょっと変わってきた。思いっきり、プリンセス・シリーズに流れている娘たちも、もう飽きてきてる。ストーリーが展開しきれなくなってきて、現実に近づいてきている。でも、プリンセスの嫁姑問題を描くよりは、一気にもう女の世界に持っていく。これはすごいと思う。

黒瀬:さっきも言いましたけど、ディズニーは前の作品で批判された点を修正して、次の作品を作るじゃないですか。次の「マレフィセント」って魔女が主役でしょ? あの愚直さというか、マッチポンプ感はある意味すばらしい。これは差別だろと言われていたのを、いや、今度はちゃんとやりましたよって。だからその原理でいけば、次は排除されたハンスとクリストフが二人で国を作ればいいんじゃないか。向こうが雪だから、炎の国を作って戦う。

夏野:オラフはどうするの?

黒瀬:僕、オラフについて考えてて、大変なことを発見してしまったんですよ。

東:そうなんだ。お前もヒマだな。何を発見したの?

黒瀬:世間では、「アナ雪」はレズビアンのプロバガンダ映画であると言われていますよね。確かに、アナとエルサの関係性がレズビアンカップルのメタファーだと考えれば、いろいろとしっくりくる。しかし、だとしたら、オラフはアナとエルサの子どもですよ。映画のなかでは、アナとエルサが魔法を使って2人仲良く遊んだときに、最初に作った存在なわけですから。

東:本当だ! どうなっちゃうの!?

夏野:今それを聞くまでは、オラフはクリストフ以上に馬鹿男の象徴かと思っていた。

黒瀬:違うんですよ。おそらくオラフは、アナとエルサという同性愛カップルの養子として描かれているんじゃないか。だとすれば、この映画のなかで一番のマイノリティはオラフかもしれない。しかも、よりによってオラフもまた、男なんですよね……

東:やばい。俺たち、やばいところに触れてきている!

夏野:じゃあ、あのニンジンの鼻は……?

東:確かに、ニンジンの鼻はやばいメタファーだよね。やばい。やばい。

夏野:絶対そこまで考えてないよ(笑)

東:俺は思うに、絶対に考えているよ。あいつら2年間ぐらいずっと作ってるんだから、あらゆる解釈をしているに決まってる。

黒瀬:エルサは「ありのままで」良かったかもしれないけど、オラフは「夏が好き」とか「抱きしめて」とか言ってるじゃないですか。でも、オラフは「ありのままに」抱きしめたり、夏になったりすると溶けちゃうんですよ。

東:決定的じゃん。アナ雪はレズビアンカップルのカミングアウト物語だと思われているけど、異物を差し込んでる。そんな甘っちょろい話じゃないよね。

一同:傑作すぎる……。

黒瀬:だから、オラフが一番、孤独な存在なんじゃないか。最後、オラフの頭の上に雪雲ができて喜んでたけど、それに関してはひどい欺瞞だと思いますね。

東:これはけっこうきた。ここから先、どう展開したらいいのか。そうやって見るとすごくメタファーがしっくりくる。2人が遊んでて、エルサがアナを傷つけてしまい、その結果、エルサの欲望が封印されて。あれ本当は子どもの頃にちょっと性的なイタズラをしてしまって、近所の人に見つかって怒られて、もう絶対近づくなっていわれたって話なんだって考えると、そのまんまなわけじゃない。すごい好きなんだけど、あなたに近づくと変なことしちゃうからだめなのー! ってしっくりいきすぎる。

黒瀬:私たち仲良いから家族ごっこしようって言って、作った人形がオラフなんですよ。そしてエルサが大人になり、あらためて自分のマイノリティ性を解放した結果、命を持った子どもになって帰ってくる。あそこでアナとエルサが歌ってる「雪だるま作ろう」っていう歌は、けっこう悲しい歌ですよね。

東:じゃあ、俺らはどうしたらいいの?

夏野:男はいらないんだね。もう男は。

黒瀬:確かに、僕たちには何もできない….. やっぱり業者なんだろうか。業者で行った隙に女を口説くみたいな……

夏野:もう全部、謎は解けたね。

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■サウナの中でぬくぬくとしていた家族はアナの欲望の反映

夏野:じゃあ、あれは何なの?「ほっほ〜」っていってるやつのサウナの中の家族。あこがれなの? あそこで家族を出すのは何かメッセージがあるよね。

東:いい指摘ですね〜。だって、あそこでしか家族が出てこない。

夏野:吹雪で寒い時に、あそこだけ家族がぬくぬくとサウナに入っている。そこに対するあこがれがあるんじゃない?

東:エルサとアナは姉妹という設定になってるけど、実際は姉妹っていう設定にしないとまずいからしているだけで、孤児ですよ。2人が出会って、雪だるまを作り、アナが悪い男にだまされて、エルサが旅にでて、追いかけたアナは途中でぬくぬくとした家族に出会う。アナは家族を求めていた。だから、ハンスみたいな悪い男にだまされる。アナは家族がほしかったという設定。エルサはそういうのがない。

黒瀬:じゃあ、あのサウナの家族はアナがみている欲望の反映なんですね。

夏野:でもそれは、クリストフもそうでしょ。あのゴロゴロは何なの?

黒瀬:トロールは、クリストフとアナは結婚するべきだって言ってましたよね?

東:クリストフの家族は結局、トロールなんだよ。クリストフのところに行けば、家族は手に入る。けどそれは本物ではない。みんなあいつら、家族がない。アナはすごい家族を作りたいやつなんだよ。悲しい話だなあ……。

黒瀬:それがうまくいかなくて、最後に養子としてきたのが、オラフ。

一同:(しーん)

黒瀬:すみません、そっちに行くと帰ってこれなくなりますね……。

■もしも「アナ雪」が男女逆だったら?

夏野:よく考えると、ノーマルな男であるクリストフにはどこにも居場所がない。業者としての居場所はしっかりある。王家御用達の氷職人。本当はエルサがいるからいらないんだけど、一応、あてがわれた仕事がある。

黒瀬:他の氷職人仲間たちは、明らかにいなくなっている。

東:氷職人はイノベーションが起きて、業界ごとなくなってる(笑)

夏野:オープニングではあんな格好良くやってるのに。なんか音楽業界みたい。クリストフしか残ってない。あの業界、終わったわ。

東:その解釈はすごい。

夏野:でも、やっぱりサウナの中にいる家族が憧れなわけです。あそこは守られている。家族愛は大事。そう意味では、現代社会の環境変化が起こる中で、家族愛は環境が守られたサウナの中でしか理想の姿がない。

黒瀬:50年代にソビエトでアニメ映画「雪の女王」が作られているじゃないですか。すごい傑作で、あれと比べると面白いんです。そもそも、雪の女王は人間じゃなくて、神や自然そのものなんですね。主人公2人はベタベタな幼なじみなんだけど、その外側には神話的世界が広大に広がっていて、そこで男の子が雪の女王にさらわれて、女の子が助けに行って成長するって話なんですよ。

東:その「雪の女王」を見たんだけど、けっこう面白いと思ったのが、主人公2人はカイとゲルダっていう名前なんだけど、カイがさらわれて、ゲルダが追いかけていく。アナが今回、ゲルダの役割をしているんだけど、追いかける中で、実はゲルダが途中で山賊の娘に出会う。この娘がゲルダを自分のものにしようとするんだよね。実はレズビアンカップルのようなものがもう描かれていて、「私のものにしたい」と娘は思うのだけれど、ゲルダはカイを探しに行ってしまうんですよ。

黒瀬:別れのあとに、山賊の娘が泣くんですよ。自分の愛が間違っていたことに気がついて、悲しくて泣くんです。その娘は山賊に育てられているから、愛は相手のことを独占して生殺与奪権を持つことだと勘違いしていたんですね。

東:まずそこにレズビアンのメタファーが入っているということと、山賊の娘が今回、クリストフの役割になっているんだよね。

黒瀬:だとしたら、もしもクリストフが女だったら……?

夏野:じゃあ全部、男女逆だったらどうなるの?

黒瀬:逆だとテンション上がらないですよね(笑)

東:逆は逆で面白い。今の「アナ雪」は女性に圧倒的に受けている。逆にしても、受ける気がする。アナとエルサが男だったら、最後、女の子が走っているのに、男同士でガシって抱き合って、「俺の愛で!」ってなったら、やっぱり女は喜んで、横で男が「あれ?おかしくない?」ってなる(笑)。それで「レット・イット・ゴー」で「俺は自由になるんだ〜!」って歌って。腐女子が大喜び。

夏野:BLだよ。やっぱり、男の居場所がない……。

東:異性愛の居場所がなくなってますよね(笑)

夏野:異性愛はサウナの中。そういう映画だったのか! じゃあ、「フローズン2」は出る?

黒瀬:次回作は「バーニング」(笑)

東:でもやっぱり女には受けてる。ハンスとクリストフで燃える!

■トロールたちはクリストフの悩みに答えるネットユーザー

東:俺、トロールはネットユーザーだと思う。

夏野:いきなり、ネットユーザー!!(笑)

東:だから、「クリストフが俺って結婚するべきかな?」ってYahoo!知恵袋で聞いて、「絶対するべきでしょ!」「お前は俺らの代表だ、行っけーー!」ってなって。「僕には好きな彼女がいて、でも彼女は同性愛者で……」「絶対奪っちゃえ!」に「ベストアンサー!」みたいな感じでダッシュで行った!みたいな。

夏野:ネットユーザー説!すばらしいね!

黒瀬:トロールの2ちゃんねらー感はすごい(笑)。2ちゃんねらーが言いそうなことしか言ってない! 前半は「電車男」そっくりじゃん!

東:クリストフがアナを連れてきて、すげえ大事な奴らがいるんだよって2ちゃんのスレ見せて、ここに俺の家族がいるって、「えーっ」てアナもドン引きでしょ。「ちょっと今、チャットすっからさ!」

夏野:あれだけトロールが結婚を薦めたあの展開は、要はあそこに世の常識をぶつけて、全否定してるわけだ。これを娘たちに見せた俺たちは……。

東:でも、アナもつらいよね。ちょっとクリストフが家族を紹介するってついて行ったら、スレ見せられて。「いや、違うんだよ、本当に家族なんだ!」って。

黒瀬:俺の家族は魔法が使えるんだ!とか言ってますしね。これはイタいなぁ……

東:同性愛のカミングアウト映画としてもおそらくいいんだけど、その向こう側にかなりいっぱい仕掛けがある。クリストフという、家族も友達もいない、引きこもりみたいなやつのそばに唯一いるのがスヴェンで、でも、意思疎通ができていない。勝手にクリストフが話しているわけじゃない。スヴェン=クリストフ、アナ=エルサ関係が対なんだよね。アナも家族がほしい。クリストフも家族がほしい。クリストフはとりあえず、2ちゃんで我慢している。人間的な反応を変えてしてくれる何かで乗り切っている。つらいな……。

■ディズニー映画と宮崎映画との違いとは?

東:僕は見た時の感覚で、単に同性愛者のカミング映画だと思わなくて。女の子が自由に生きていいんだよという映画だとしたら、いろいろな要素が多いなあと。今、読み解いていく中で、けっこう見えてきたなと思います。その違和感が。

夏野:間違いなくメッセージ性を埋め込んでいる人がいるわけですよ

東:読み解こうとして読み解けるアメリカ映画はすごいね。

夏野:宮崎映画で同じことやるとどうなるの?

東:宮崎映画でやっても、「自然は大切」とかにしかならないんじゃない。

夏野:そのつまんなさそう感がすごい(笑)

東:もっと正確にいうと、宮崎映画は宮崎駿という1人の人間の妄想なんですよ。それがぶわーって表れて、だからすごいアーティスティックなんだけど、アメリカ映画はもっと社会との関係が強い。

黒瀬:ディズニーは人間に興味があるんでしょう。ソビエト版の「雪の女王」では神話の話だったのに、すべて現実社会の人間の話に置き換えてる。

東:僕は「風立ちぬ」をみて、この人は本当に社会をメタファーにすることができないんだなと。あれは戦争映画だし、設定からしてもこの人は何を象徴してって、もっともっと明確な対応関係があるはずだし。そういうことが、「風立ちぬ」ではできてなくて、彼の中の「飛行機描くのが楽しい」とか、そういうのに引きずられていく。それはある意味で、宮崎さんの映画の魅力なんだけど、社会的な枠組みで読み解こうとすると、限界がある。ディズニーはそれに比べるときっちりしている。

夏野:設定からしても、なぜあそこで北欧か。北欧はアメリカから住んでいるやつから見ると、一種、進んだところなんだよね。文化的、芸術的に。美しい人たちがいて、将来の先ゆく姿。社会問題とか少子化とかの先進国、未来社会を暗示している可能性がある。未来社会は、トロールとともに生きる。

東:2ちゃんねらーと生きるってこと? クリストフは、業者もいろいろやったけど無駄だったと。

夏野:無駄だと思っててもやり遂げる男っているでしょ。でも、そんな馬鹿なことをする女はいない。賢いから。男は馬鹿だから、やり続ける。だから、クリストフは死ぬまで氷を切ってる。本当はエルサがばっとやれば、作れるのに。そのうち、認められるかもしれない。エルサの氷よりも、そのうち、クリストフの氷の方が水割りがうまいとか。

東:そうやって考えると、「女性が解放されて良かったんだ〜」という脳天気な映画ではない。

黒瀬:そしてもちろん、「みんなで劇場で歌おう!」っていう映画でもない。

夏野:それがさ、馬鹿な男も歌ってるんだよ。俺、俺。

東:夏野さん、自分を譲りすぎじゃない!?

黒瀬:それは本当に馬鹿ですねって言おうしたら、夏野さんだった(笑)。

夏野:大事なことがある。ちゃんとわかる男の子は、2回目のみんなで歌うバージョンは見ないはず。でも、第二のクリストフ、第三のクリストフが日本中にうようよいるんだよ!

東:業者でバンザイ!

夏野:死ぬまで業者だ!

このトークイベントは8月12日19時からゲンロン完全中継チャンネルにて、録画放送される。詳しくはこちらから。

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