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【安倍政権】長期化の成否を決めるのは「アベノミクス第2章」

2014年08月20日 15時37分 JST | 更新 2014年08月20日 15時52分 JST
EVARISTO SA via Getty Images
Japan's Prime Minister Shinzo Abe speaks during a ceremony of signature of agreements at Planalto Palace in Brasilia, Brazil on August 01, 2014. Abe is on a three-day official visit to Brazil. AFP PHOTO/EVARISTO SA (Photo credit should read EVARISTO SA/AFP/Getty Images)

[東京 20日 ロイター] - 「積極的平和主義」を掲げ、集団的自衛権の行使容認にまで突き進んだ安倍晋三首相。長期に及んだデフレからの脱却と日本経済再生という実績を足場に、長期政権への道筋を固めつつある。

だが、悲願である歴史的な憲法改正に布石を打つには、高い内閣支持率の維持が不可欠。地方活性化や少子化対策という難題にどう取り組むか。「アベノミクス第二章」の成否が政権の行方を左右する可能性も否定できない。

<政策運営の軸足、ふたたび経済へ>

ロイターでは首相側近やアドバイザーなどへのインタビューを通じ、長期政権に向けた政策課題とリスクを探った。

安倍首相が任期中に成し遂げたい最終目標は「憲法改正」。首相側近のみならず、政府・与党関係者の見方も一致する。しかし、その実現を急げば、国内外からの批判が噴出し、内閣支持率の急低下を招きかねない。

7月1日に集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈変更を閣議決定すると、首相は政策運営の軸足を再び経済に移した。「優先すべきは日本経済の再生」(菅義偉官房長官)という判断からだ。秋の臨時国会で焦点となる「地域活性化」と「少子化対策」での実績作りを狙う。

憲法改正や独自の外交安全保障政策など中心とする、いわゆる「安倍アジェンダ」を強引に推進すれば、「右翼ナショナリスト政権」という批判が増幅しかねない。そうした論争的な政治課題には慎重な現実路線で対応し、国民が最も期待する日本経済の再生は大胆に推し進める──。これが一昨年12月に政権に復帰してから、安倍首相が高い支持率を順調に維持してきた「成功の手法」だった。

その手法は功を奏し、来年9月の自民党総裁選で再選を果たし、少なくとも2期6年の長期政権を築くことも夢ではなくなってきた。

「安倍さんは安全保障の問題にとりわけ関心が強い。しかし、自己主張を押し通すだけでは、安定的な政権運営はできない。国民の支持も長続きしないとわかっている」(与党幹部)。安倍首相側近も、政権基盤を強化するには、安全保障政策の拙速な議論は避け、新たなアベノミクスの展開で改革の「配当」を拡大することが必要との認識を強めている。

<集団的自衛権で、連立に引き締まり感> 

7月2日。その前日に集団的自衛権の行使容認という日本の安全保障政策の歴史的転換を果たし、安どしていた安倍首相に、一遍の漢詩が届いた。送り主は、首相の安全保障政策のアドバイザーで、元駐タイ日本大使の岡崎久彦氏。 

「こう(日へんに旧字体の広)古の敗戦 久しく志を奪う

誰にか託せん 民族安危の事

父子三代 憂国の情

遂に顕(あきら)かにす 集団自衛の義」  

祖父の故岸信介(元首相)が手掛けた日本の安保強化という仕事を、孫である安倍晋三が集団的自衛権の行使容認という形で結実させた。七言絶句の漢詩には首相の心情が投影されているかのようだ。

「長かった」。関係者によると、第一次政権でも掲げた7年越しの政策課題の達成に、安倍首相はこう漏らしたという。 

国論を二分する集団的自衛権の行使容認は、「平和の党」を旗印とする公明党が譲歩できる余地を確保するため、周到に議論を積み上げるプロセスだった。安倍首相も譲歩した。政府・与党関係者らによると、限定容認論なら公明党も歩み寄れるのではないかと判断し、そこに交渉の照準を絞ったのが昨年秋ごろ。安倍首相が「限定でいこう」と方針を固めたのが今年3月。安倍首相は公明党との交渉役に高村正彦自民党副総裁を指名し、より強硬論の石破茂幹事長を外した。

5月15日。安倍首相は安保法制懇(安全保障の法的基盤再構築に関する懇談会)の報告書を受けた後の記者会見で、「個別的・集団的を問わず自衛のための武力行使は禁止されていない、国連の集団安全保障措置のような国際法上合法的なものには憲法の制約は及ばない」との報告書の考え方は採用しないと明言した。

公明党は「歴代政権が積み上げてきたものを破壊して、フルモデルチェンジする考えが(首相には)ない」と受け止め、「これまでの政府の憲法解釈と論理的に整合性をもつこと」が担保されたと判断した。

政府筋は、高村氏の交渉役指名が自公間の交渉を大きく進展させた「ひとつのターニングポイント(節目)」と指摘する。しかし、「限定容認」で双方が歩み寄り、与党協議の場が正式発足したものの、閣議決定案の文言をめぐって、ぎりぎり最後まで攻防が続いた。 

ただ、自公間の激しいせめぎあいは、連立解消どころか、かえって「連立の絆」を強め、安倍連立政権を強固にしたという。 自民党の大島理森・元副総裁は「自公が集団的自衛権問題を乗り越えたことは、政治論として大きい。政治の安定性は引き締まり、ぐっと固くなった」と振り返り、今後、「税の問題、社会保障の問題、いろいろな問題を乗り越えられる確信、安定感ができてきた」と解説する。

<尾を引く「右旋回」のつけ、長期政権実現にはなおリスク>

しかし、日本の安保政策を集団的自衛権の行使容認という形で大きく「右旋回」させたリスクは少なくない。内閣支持率は一時は政権発足後初の40%台まで低下。直近のNHK世論調査では50%台に上昇し、下げ止まり感も出ているが、福島県知事選(投開票10月26日)や沖縄県知事選(投開票11月16日)で苦戦を強いられれば、安倍首相の求心力低下は必至の情勢だ。

9月2日、3日にも予定される党役員人事と内閣改造も「政権の今後を左右するハードルになる」(自民党中堅)。3年の野党暮らしで入閣待機組は40─50人もいるとみられる。9月に「報われなかった人」がため込んできた不満を公言し始めれば、官邸主導の「政高党低」の政策運営にほころびが生じかねない。 

さらには、 消費税率の10%への引き上げは12月上旬にも最終決断を迫られており、状況を見誤れば、景気回復の芽を摘みかねない。いずれも内閣支持率の低下となって、来年4月の統一地方選に重くのしかかってくるはずだ。

安倍政権は、集団的自衛権行使容認に伴う一連の関連法案の提出を来年の通常国会に先送りした。これによって、こうした法案の本格審議は来年度予算成立後の4月以降、統一地方選後になる。統一地方選を重視する公明党に配慮をした判断といえる。

ただ、安倍政権にとって気がかりなのは、通常国会での法案審議が紛糾した場合のシナリオだ。そうなると、来年9月の自民党総裁選前後と目される衆院解散・総選挙で勝って「2期6年」の長期安定政権を手中にするチャンスが遠のく可能性もある。

最終目標の憲法改正への道筋はどうか。「総裁再選後の3年間に、本格的な議論に着手」(萩生田光一・自民党総裁特別補佐)との指摘も聞かれるが、その場合でも、「環境権」などコンセンサスが得られやすい課題からの着手で、一足飛びに「前文」や「9条」の問題にいくわけでもない。 

成田憲彦・駿河台大学教授は、来年の通常国会で関連法案の審議に入れば「公明党との間でも、同床異夢であることがだんだん明らかになっていく」と予想、「公明党が選挙で自民党から離れたら自民党に未来はない」と指摘する。国政・知事選で初めて敗北した滋賀県知事選は、公明党が動かなかったからだと分析。「安倍さんとしては、風穴を開けたことで良しとしなければとの思いだろう。次の3年の間に憲法改正はできない」と見通した。  

自民党重鎮の大島氏は「集団的自衛権論争を乗り越えたことは、安倍さんにとって、既に歴史に残る結果を生み出した。憲法改正は党是だが、やらなければならないことはやはり経済だ」と慎重な対応を求めている。

<カギ握る「アベノミクス2.0」> 

頼みの綱となる経済運営は、これまでの成果を生んできた勢いをいつまで維持できるか、正念場に来ている。アベノミクスには地方への恩恵が足りないとの批判が根強く、来年の統一地方選を照準にして実施されていく「地方創生」の中身が大きな焦点だ。経済政策運営のアドバイザーらは、旧来型のばらまき復活なら、安倍内閣への支持率は上がらず、内閣の命運は尽きると警告する。 

政府の産業競争力会議のメンバーでもある竹中平蔵・慶応義塾大学教授は「守りに入れば、政権は悪循環を起こす。支持率が下がるかもしれない」と懸念する。構造改革を前面に出した中長期ビジョン「アベノミクス2.0」の策定こそ重要だと首相官邸にも提言しているという。

中期ビジョンの具体的な政策として、同氏が提言しているのは、1)経産省が後ろ向きの「エネルギー改革・電力改革」の断行、2)公的部門が保有する資産を民間に活用させる政策の実施、3)財務省が抵抗する「歳入庁」構想の実現──などだ。

第二章となる新たなアベノミクスの成否について、同氏は「アジェンダ設定をどうするかで決まる」と指摘。「厳しい状況になったからこそさらに厳しく戦う。安全運転をしないこと。攻めることだ」と述べ、構造改革を前面に出した大胆な政策展開を訴えている。

(吉川裕子 リンダ・シーグ 梶本哲史 編集:北松克朗)