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「ヘイトスピーチの再発防止につながれば」李信恵さん、在特会・保守速報を提訴で会見【全文】

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記者会見する李信恵さんと上瀧浩子弁護士 | Taichiro Yoshino
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ネット上の誹謗中傷や街頭でのヘイトスピーチに対し、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と会長の桜井誠(本名・高田誠)氏、まとめサイトの「保守速報」を相手取って損害賠償を求め提訴したフリーライターの李信恵(リ・シネ)さんと、代理人の上瀧浩子弁護士が、9月5日に日本外国特派員協会で記者会見した。

■「自分は安全な場所にいて差別をあおり、商売にする。許せない」

李:8月18日、在特会と桜井誠会長、まとめサイトの「保守速報」に対し、損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしました。今回提訴した理由は2つあります。一つはネット上のヘイトスピーチに対してです。自分自身もネット上のヘイトスピーチに苦しめられており、とりわけネット上の匿名掲示板、2ちゃんねるなどの差別発言を選択、抽出し編集し「出て行け」「死ね」などを強調し加工したまとめサイトはひどいものでした。

特定の個人や団体に対し、誹謗中傷だけで仕上げた記事は、ネット上に渦巻く個人の差別感情を後押しし、煽動するものでしかないと思っています。また、その標的になった場合、多くの一般の人には自分を守る術がありません。抗議しても個人はきちんと取り合ってもらえないことが問題だと思っていました。

さらにネット上でヘイトスピーチをまき散らし、在日朝鮮人や外国人、女性、LGBTに嫌がらせをする人がそうであるように、まとめサイトの管理人の多くが匿名です。自分自身は安全な場所にいて差別をあおり、それを商売にする。そのことも許せないと思っていました。ネットに匿名はない、調査すれば特定できる、差別や誹謗中傷は訴えられるということがわかれば、再発防止につながるのではないかと考えました。

もう一つはネット上にとどまらない、ヘイトスピーチ、路上に飛び出した行動する保守団体の責任を問いたいと思っていました。

彼らと行動を共にした28歳の青年は、昨年Twitter上で「私を殺す」と脅迫した容疑で書類送検されました。ある中学生の女の子は去年の2月、大阪の鶴橋駅前で「朝鮮人を虐殺する」と叫びました。ベビーカーを連れた女性を囲んで恫喝し、朝鮮学校無償化除外の反対を叫んだパレードに突っ込んでいった18歳の少年は、その後、別の容疑で逮捕され少年院に送られました。彼、彼女らを煽動したのは誰だったのか。行動する保守団体の代表は、まとめサイトの管理人と同様、自らは安全な場所にいて若者らの憎悪をあおり、将来を曇らせた。京都朝鮮第一初級学校を襲撃し、多くの保護者や子ども、教員の心を傷つけました。しかし、代表者個人としてはいまだ何の責任も問われていません。その後も在特会らは反省もないままに、道路使用許可と表現の自由の名の下に、毎週のように差別の煽動活動を続けています。日本には差別を裁く法律はなく、名誉毀損や侮辱にしても、刑事事件の告発は、とてもハードルが高いです。

ライターである以上、ペンで戦うことも考えました。記事を何度も書き、取材にも毎週のように通いました。しかしペンを持たない普通の人たちはいったいどうするのか。被害者を守ることはどうすればできるのかとずっと考え続けていました。路上でネット上で声も上げられず黙らされているのは一体誰なのか、ということを、ずっと今も考えています。

訴訟をすることは自分も含め、一般の人や被害者にとって難しいことでもあります。金銭も時間もかかり、自分も露出することになり、二次被害も心配しました。残念なことに現実にすでに被害は起こっています。けれど、これまで裁判で戦ってきた京都朝鮮第一初級学校の被害者の人たちも同じ普通の人たちでした。ずっと支援をしてきましたが、京都地裁判決後に、次は自分が戦う番だと思い、訴訟に踏み切りました。

大人が、今の自分ができることは法廷に立つことだと思っています。差別の種をまく者を何とかしたいと思っています。在日朝鮮人であること、女性であることで標的にされてきましたが、同様な思いをもうほかの誰にもさせたくないと思っています。今回の訴訟を契機に、さらにネット上や路上でのヘイトスピーチに歯止めがかかれば、また議論が深まればと願っています。

■「沈黙効果を打破していく一つのきっかけに」

上瀧:李信恵さんを原告とし、2つの裁判を起こしています。ひとつは在特会と同会長の桜井誠。もうひとつはまとめサイトの「保守速報」です。

たとえば桜井会長はニコニコ動画や街頭宣伝、それからTwitterで、継続的に彼女を民族差別してきました。それは民族差別だけでなく、名誉毀損や業務妨害にもあたるものでした。たとえば桜井会長は「あの天下の李信恵さんですね。ご存じの通り、立てば大根、座ればドテカボチャ、歩く姿はドクダミ草」。あるいは街頭宣伝で「李信恵さんを称える市民の会でございます。今日はようこそいらっしゃいました。李信恵さんね、私はあなたに一つだけ感謝をしていることがある。みなさんここにいる朝鮮人のババアね、反日記者でしてね、日本が嫌いで嫌いで仕方ないババアは、そこのピンク色のババアです」。このような発言は当然に李さん自身の尊厳をふみにじり、かつ民族差別かつ女性差別であると考えています。

李さんは桜井誠氏と在特会に550万円の損害賠償請求をしました。また、まとめサイト「保守速報」には2200万円の損害賠償請求をしました。「保守速報」はネット上で李さんに対し、たとえば「北朝鮮だけ特別なんだ」「北の工作員というのもあながち」とか「こいつらって完全に朝鮮の工作員なんだな」という書き込みを選択して、自己のブログに貼り付けました。それからやはり、2ちゃんねるから選択して貼り付けたものですが、非常に特徴的なものです。彼女を「在日朝鮮人ゆえに日本から排除しよう」「日本から出て行け」という言葉を非常に多く選択して貼り付けています。このような書き込みはもちろん、彼女の人格の尊厳を非常に傷つけるとともに、名誉毀損でもあり、民族差別、女性差別でもあることは在特会と同様です。

この2つの訴訟は単に李さん個人の権利の回復ではなく、社会的に大きな意味も持っています。一つは差別をする社会を再生産させないことが大きな意味。このような人種差別的な行為を放置することは、人種差別をしても何も不利益がない、あるいは人種差別をしてもいいんだというメッセージも同時に伝えていると考えています。

そして差別を訴えることは被害者にとってとても難しいことです。この差別を受けた時に、何も言えない、黙ってしまうのを沈黙効果といいますが、この沈黙効果を打破して行く一つのきっかけになってほしいと考えています。

3番目としては、7月8日に朝鮮学校に対する襲撃事件への控訴審判決がありました。その大阪高裁判決の中でこのように言われています。「人種差別撤廃条約の趣旨を私人間、つまり個人と個人の間においても適用すべきものである」「人種差別撤廃条約の趣旨は、このような差別行為の悪質性を基礎づけるものとして、理不尽、不条理な不法行為による損害賠償、精神的苦痛などの無形損害の大きさに反映されるべきである」。その結果、朝鮮学校では、1220万円という高額の損害賠償が認められました。この判決を継承発展させていくことが3番目の目標です。

【質疑応答】

イギリス・タイムズ紙:ネットが登場して明らかに状況が変わった。つまり今まで表現する場もなかった人たちが、突然自分の考えを多くの人に読んでもらえるようになった。たまたまその手段を手に入れたから、一部だけがこのような騒ぎ始めたのか。それとも日本社会全体に憎悪感、差別的な気持ちを持つ人たちが増えたのか。

2つ目は、法制度について。このような街頭活動や書き込みを制限すべきという意見の一方、もし可決されると乱用されるかもしれないという懸念を示す人もいる。政治家への批判など、あるべき不満まで封じ込められるのではないかと言われるが、どう思うか。

李:もともと日本社会の中には在日朝鮮人を蔑視する、外国人を蔑視する背景があったと思っています。日本社会がそれを下支えしてきた。過去の戦争における歴史を振り返らなかったり、人権教育がちゃんとできていなかったりすることが背景にあると思います。また、免許取り立ての人がサーキットに出るようなもので、まだネット上のリテラシーみたいなものが育っていない現状もあるかと思います。

タイムズ:差別的な気持ちを持つような人たちの数は日本では増えていますか。それとも一部の人たちだけでしょうか。

李:一定数は必ず存在していたと思いますし、安易なデマに踊らされる、あおられて踊らされることを楽しむ娯楽にしているような人も多いと思います。

上瀧:法制度を乱用される恐れは可能性としては個人的にあると思います。しかしそれはいったいどのような、とりわけ刑罰について要件を課していくのか、どのような訴追手続きを取るのかで工夫するべきことで、乱用の可能性があるからといって今現在、被害にあっている人たちを放置することは許されないと考えます。

エコーニュース:ネット上のヘイトスピーチを支える経済的基盤となっているIT系大企業の責任についてお考えをお願いします。李さんの訴えられた「保守速報」を始めとするヘイトスピーチのまとめサイトには、グーグルなど多くの大企業が広告を出して収入を得ています。「保守速報」について言うと、ことしの3月までアマゾンが広告を出していました。また李さんの名前で検索すると、2番目と10番目でヘイトスピーチのサイトが出てきたのですが、前者は「NAVERまとめ」でした。ここにヤフージャパンが広告を出しています。10番目のアマゾンが出しています。彼らの企業はたとえば、アマゾンやグーグルは明確にサイト上での人種差別表現を禁じていますし、他の会社も公序良俗違反を禁じるなど一般的な書き方で、人種差別のサイトや著作憲法違反を禁じています。

しかし多くのネットユーザーは知っていることですが、契約違反の問題があるサイトをIT系大企業に連絡しても広告が引き上げられることはめったになく、これらの企業がヘイトスピーチを支える経済的基盤になっています。これらのサイトについてどうお考えでしょうか。また、抗議をしてこられましたでしょうか。

上瀧:広告を出しているサイトについては特に抗議はしていません。民事訴訟の範囲内でいいますと、どのように故意ないし過失を証明していくかというのは非常に大きな課題です。そのような大きい会社が一つ一つのブログにどのような内容を認識するのかについて、なかなか民事訴訟法上は困難なものがありです。そのような技術的な限界があって、抗議もしていません。

李:個人的にはTwitter社には通報は100回以上しています。YouTubeにも通報窓口から通報しています。NAVERやアメブロなど代表的なブログサイトには通報していますが、なかなか取り組んでもらえなかったり削除もしてもらえなかったのが実情です。でも、カウンターと呼ばれる反レイシズム運動が活発になる中、Twitter社が開示したりとか、企業の中でも反差別に向けた取り組みが少しは進んでいるかと思いますので、提訴をきっかけに企業もこれから取り組んでいただければと思っています。

江川紹子:李さんに伺います。さきほど提訴の後に二次被害もあったと聞きました。どういう被害があったのか、あるいは被害以外に応援するようなメッセージがあったのか。また、ようやく安倍総理もしっかり対処しなければならないと都知事との会談の中で言っていました。司法と並んで行政の課題も多いが、どういうことをしてもらいたいか。

李:被害については、提訴後すぐにニュースで流れたので、大分県の高校教諭がFacebookで実名で「極左の信恵と極右の桜井は無人島かどこかで殺しあえ。日本からゴミがなくなったら美しくなる」というような発言を掲載していました。なりすましの可能性もあるので、その高校には連絡して、教頭先生と話し合いをしました。処分については教委に一任しております。その後、個人的に誹謗中傷はTwitterで吹き荒れておりましたが、福岡市議会の議員が裁判についてブログで誹謗中傷を繰り広げております。逆に、すぐに支援の会が立ち上がり、メーリングリストをつくったりカンパをいただいたり、いろんな声を届けていただいております。

法規制も行政の取り組みも時間がかかると思いますが、都知事や川崎市長、大阪市長が差別は許さないという声をまずあげていただくことによって、抑止力になると思っている。まずいろんな小さな所から、代表の方が声をあげていただければ。

Q:安倍首相がこの問題について今まで発言しなかったのは遅いという意見もあるが、李さんはどう思うか。

李:遅かったと思うが、今からでも全然遅くないので、声を上げて取り組んでいただけるのなら一日でも早くと思っています。

弁護士ドットコム:家族や周囲のかたはどう思ってらっしゃったのか。提訴したことでどう反応したのか。

李:夫は「自分が決めた仕事なので自由に思うように活動しよう」と言っている。日本人との国際結婚なので、差別問題に取り組むことは重要なことだという話を夫ともしています。息子も嫌がるかと思いましたが、ネット上や路上でのひどい差別がなくなるなら頑張れと言ってくれました。

Q:どれくらいで結論が出るのか。

上瀧:「保守速報」は早いかもしれないが、桜井氏と在特会は反訴の予定もあると聞いているので、2年くらいはかかるかと予想しています。

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【ヘイトスピーチ】2013年6月30日、在特会の新大久保周辺デモ
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