「仕事を辞めてはじめて気づいた、"働きたい"」あのときママが踏み出した【わたしの第一歩】

2014年10月09日 00時22分 JST | 更新 2014年10月10日 01時06分 JST
Yuko Kawashima

女性にとって大きな転機となる、出産。

「子育て」と「仕事」は、ママやプレママのみならず、多くの女性にとって重大なテーマとなっている。子育てを大事にしながらも、産後も働きたい女性は、どうしたらいいのか——。

育児を経て、自らの働きかたを見つめ直し、新しいワークスタイルを築き上げた2人の女性がいる。「ごちクル」主宰の濱野亜紀さん(右)と、パワーウーマンスタイル代表取締役社長の伊藤香織さん(左)に、産前から現在までの仕事のステップや、心境の変化について、その歩みを聞いた。

■1st Step 急成長のベンチャー企業でやりがいのある仕事

スターフェスティバル株式会社で「ごちクル」主宰を務める濱野亜紀さん。「ごちクル」は、法人や団体向けにお弁当やケータリング料理を届ける総合モールで、有名飲食店を含む600ブランドのお弁当を注文することができる。5歳の女の子のママである濱野さんは、入社してまもなく3年になる。

濱野さんは以前、6年ほど楽天株式会社に勤務していた。「楽天は、まだ社員が50人くらいの頃で、ベンチャー起業としての急成長期でした。若いうちからリーダー職にしてもらったこともあり、やりがいのある仕事がおもしろくて、結婚や出産にはまったく興味がないほど、仕事に夢中でしたね」と当時を振り返る。

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忙しくもやりがいのある日々。そんな濱野さんの大切な仕事アイテムはヒールのある靴だった。「ヒールが大好き」と笑う濱野さん。当時から靴に合わせてフットケア商品を使い分けていたという。「7センチのヒールを履くので、つま先タイプのインソールを使っています」と話す。

■2st Step 完璧主義の私が経験した“子育て”という挫折

自らを「完璧主義で、自分の思う通りにやりたいタイプ」と分析する濱野さん。仕事漬けの日々が続くなかで、縁あって結婚することになり、うまく「仕事と家庭の両立」をするため、時間的に余裕のある大企業の証券会社へ転職した。

「責任のある立場ではなくなったので、時間や心の余裕は生まれました。1年半ほど経った頃に子供を授かり、育児休暇(育休)をとりました。でも、大きな会社で社内の人間関係が十分に築けないまま休んでしまい、社内の様子がまったくわからなくなってしまったんです」

休職期間は1年半。通常、金融機関は2〜3年に一度のペースで異動がある。濱野さんが育休をとっている間に、チームの同僚は全員異動になり、さらに会社の事情がわからなくなった。

急にひとり取り残されて、仕事から引退したように感じた濱野さん。思い通りならない小さな子供と向き合う日々。ママコミュニティになじめないストレスも重なった。そんな暮らしを続けるうちに「こんな状態で、会社の役に立てるのか不安で、自信がなくなってしまったんです」と振り返る。

こうして濱野さんは、復職予定の1カ月前に人事担当から連絡が来たときに「行きません」といってしまったという。

「会社に戻りたいという気持ちや、自信が持てなくて……。仕事内容もおそらく変わりますし、知っているスタッフもいない状態で復職することは、また転職するようなものだと思ったんです」

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■3rd Step 2年間の子育てを経てアルバイトで復職

会社を辞めて、子育てや家事に専念することを選んだ濱野さん。もう一度「働きたい」という気持ちが芽生えたのは、それから1年後だった。

「子供が2歳になり、だんだん子育てに慣れて自分に余裕ができ『やっぱり働きたい』と思いはじめました。でも、2年のブランクがあって、自分に何ができるかがわからなかったので、正直、雇ってくれる会社ならどこでもいいと思いました」

楽天時代の同僚だった岸田祐介さんが起業したことを知り、週3のアルバイトとしてスターフェスティバルへ入社した。濱野さんは「雑用でも何でもやります」という思いだったという。

当時は、スタッフがまだ30人くらいの規模で、ベンチャー企業らしい活気にあふれており、一人ひとりの個性を尊重する雰囲気があった。「2年間のブランクのある私を温かく受け入れてくれ『ああ、やっぱり仕事をするっていいな』と思えました」

濱野さんは3カ月後、岸田さんから「これからも力を貸してほしい、もう少し長く働ける方法はないか」と提案され、時短で勤務日数を調整した、新しい雇用形態の契約社員(現在の名称は限定正社員)として働くことになった。

「とてもうれしくて、必要とされることがありがたかったです。会社の期待に応えたいと強く思いました」

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■My Step “わたしの第一歩”「仕事を辞めてはじめて気づいた、"働きたい"」

現在は週5日で9時半〜17時まで勤務し、18時に保育園に子供を迎えにいく。はじめは、自分だけが17時に帰ることが後ろめたかったが、周囲は受け入れてくれたという。

濱野さんは「独身の頃は、仕事は『must=しなければならない』ことでした。でも復職後は、それが『want=したい』ことに変わったんです。自分がやりたくてやっているから、仕事がつらいと思ったことは復職後では一度もありません」と微笑む。

ママになった濱野さんにとって、ヒールのある靴は今も大切なアイテムだ。「保育園の送り迎えで自転車に乗るときはサンダルですが(笑)、仕事のときはヒールですね。家に帰ったら、足をマッサージしてリンパを流し、メディキュットの着圧ソックスをはいています」と話す。

限られた時間で成果を挙げて「ごちクル」の急成長を支えてきた濱野さん。現在は管理職として、スタッフが子育てしながら働ける環境づくりも大切にしている。

「私の場合は、両親が近くに住んでいて、夫のサポートも受けられるので、恵まれています」と話す濱野さん。社内のスタッフが子供の病気などで突然休んだり、会社の交流会に参加できずに悔やんでいるケースがあることも十分に理解している。

「チームのみんなでプロジェクトを共有できる社内体制を、今後つくっていきたいです。一方で家庭でも、子育てや家事を夫婦で分業することが当たり前だという考えかたが、もっと広まっていくといいですね。今は『want』の気持ちで働くことができる女性が、もっと増えたらいいなと思っています」

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もうひとりは、子育てをきっかけに起業する道を選んだ株式会社パワーウーマンスタイルの代表取締役、伊藤香織さんだ。ママの「働きたい」を応援する会社を立ち上げ、企業や自治体と恊働でイベントやセミナーを開催している。

■1st Step 仕事大好き人間、子育てで“プチうつ状態”に

伊藤さんは、前職でハウスウェディングを手がける株式会社テイクアンドギヴ・ニーズで、ウェディング会場の責任者をしていたという。

当時の伊藤さんにとって、ヒールのある靴は仕事スイッチのひとつ。「ウェディングの現場にいたときから、私の仕事スイッチは、ヒールをはくことでした。背筋が伸びて、シャキッとします」と微笑む。

「私、仕事大好き人間なんです(笑)。創業に近いメンバーとして入社し、会社が成長して上場するまでの過程を見てきました。そこでスピード感をもって仕事に取り組み、成果を出していくことで会社が成長していくことの面白さを知りました。仕事が楽しくて仕方ありませんでした」

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伊藤さんは、そんな日々のなかで“思いがけない”妊娠をする。当時、若い社員が多い社内に、子供を持つ女性はいなかった。「突然のことで心の準備ができていなくて、自身も、受け入れるのに少し時間がかかりました」と振り返る。

出産を決意し、1年間の育休を取得した伊藤さん。慣れない子育てに四苦八苦する日々のなかで、心の余裕もなくなり“プチうつ状態”になってしまったという。

「大好きな仕事ができなくなって、息子を産んだ9年前は、東京には今のように子連れで堂々と食事をしたり、遊びに行ける場所があまりなくて……。出かけることすらネガティブになってしまったんです。ママであることをまったく楽しめなくて、産後3カ月のときに“プチうつ状態”になってしまいました」

「産後はまったく自分らしくなくなったように感じて、ついには『なぜ産んでしまったんだろう』と考えてしまうほどでした。今思うと、わが子が一番かわいい時期に、子育てを楽しまなかったんです」

■2nd Step 息子の激しい“いやいや期”を機に退職を決意

伊藤さんは復職後、育休中の子育て経験をふまえて、ママたちが子供たちと楽しめるイベントの開催を社内に提案。そのプロジェクトを担当することになった。

ママのためのイベント事業は順調に成長したが、仕事モードになってしまった母に、息子は寂しさを感じたのかもしれない。1歳半になった息子は、激しい“いやいや期”を迎えた。家にも帰りたがらず、真っ暗な近所の公園で母子ふたりでぼーっとする、そんな不安定な日常が続いたという。

「保育園の先生にも心配されるほどでした。復帰して1年くらい経った頃に『私、何をやっているんだろう……』と思いました。息子のこの時期は今しかないのに、このまま仕事ばかりしていたら、この先後悔するかもしれない。『一度息子とちゃんと向き合う時間を作ろう、辞めよう!』と決めて、退社させていただくことになりました」

退社前の有給消化をする間、伊藤さんは「私はあなただけのものだよ」という態度で、わが子と接するよう心がけ、息子と2人旅行などに出かけたという。息子は、そんな母の変化に敏感だった。

「驚いたことに、有給消化中のわずか数週間でで、あっという間に息子の“いやいや期”が終わったんです。それ以降は、ほとんど手のかからないすごくいい子になっちゃいました(笑)。いかに自分が母として子供と向き合っていなかったかを痛感しました」

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■3rd Step 会社を通じて働きたいママの“プチ起業“をサポート

伊藤さんは、前職のイベントで知り合っていた宮本直美さん(株式会社コッコト代表取締役)と、後に「ママが自然体で働ける会社」を立ち上げた。

「キャリアを積んできたママたちのスキルを、眠らせておくのはもったいない。そんな想いから、登録している在宅ワーカーの仕事を請け負う事務代行の会社、コッコトを始めました」

「起業しても、あくまで子育てを優先する」。そんな誓いを、宮本さんと立てた。事業を急成長させることに重きを置くのではなく、スタッフも在宅ワーカーも、どちらも無理なく子育てと仕事を両立する「女性が自然体で働ける会社」を目指したのだ。

そして震災後、東北に暮らすママたちから「働きたい」という声を聞いて、新たに立ち上げたのが、現在のパワーウーマンスタイルだ。

ママが子育てを大切にしながら働く“プチ起業”という働きかたに着目し、働きたいけれど、どうしたらいいか分からないママたちに役立つ情報を提供する「笑顔で働きたいママのフェスタ(ママフェス)」を、自治体や企業と恊働して全国で開催。ママフェスにはのべ6万人のママが来場したという。パワーウーマンスタイルでは、イベントやセミナーを通じてママの「働きたい」をバックアップする。

伊藤さんは「一昨年、一般の来場者だった方が、ママフェスで感化され、カウンセラーの資格を身につけて、プチ起業をした例もありました。その方は、一年かけてパワーウーマン(登録制の在宅ワーカー)になる条件をクリアして、今年は数千人規模のママフェスを取り仕切る実行委員長になったんです」と微笑む。

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イベントなど、立ち仕事も多い伊藤さん。10センチほどのヒールをはくことも多いという。「一日中立ちっぱなしの日も多いので、靴選びや足のケアには気をつけています」と話す。帰宅後は、ボディクリームで足をセルフマッサージしていると教えてくれた。

■My Step “わたしの第一歩”「ママの背中をそっと押す会社であり続けたい」

伊藤さんは今、会社のスタッフを採用する立場として「今は正社員でかつフルタイムで働けない状況」であっても、プチ起業や在宅ワーカーとして社会と接点を持ち続けていることが、後にママにとって大きな強みとなります」と語る。

「『子供が小学校に入るタイミングで復職したい』とおっしゃる方は多いのですが、変化が早い今の時代に、7年間のブランクは、雇う側にとってもすごくハードルが高いです。出産前のキャリアに誇りをお持ちで、すぐに復職できると考えている方もいるんですが、残念ながら、たとえ復職してもスピード感についていけずに辞めてしまうケースも多いんです」

「ブランクは短ければ短いほうがいい。子供が小さい時期に、収入ありきではなく、社会との接点を持ち続けることが大事。『子育てが一段落したら、また働きたい』と考えている場合、専業主婦の期間をいかに埋めていくかがポイントです」

出産や介護など女性のラ