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川内原発、再稼働の手続き粛々 高まる地元住民の葛藤

2014年10月16日 14時38分 JST | 更新 2014年10月16日 14時38分 JST
Reuters

[薩摩川内市(鹿児島県) 16日 ロイター] - 新しい規制基準によって全国で初めて再稼動が見込まれている九州電力川内原発。年内と予想される地元同意表明に向け、説明会などの手続きが大きな混乱もなく「粛々」と進んでいる。

ただ、お膝元の薩摩川内市では、重大事故の発生確率がゼロでないことに対し、生活基盤崩壊への懸念を強める声も根強くある。地元経済に組み込まれた原発を否定できないという「現実」との間で、地元住民の葛藤は次第に高まっている。

■住民説明会、かみ合わぬ議論

「安全神話が崩れた以上、(実効性ある)避難計画は再稼働の必須条件だ。市長には考えを改めてほしい」──。今月9日、川内原発の新規制基準適合性審査に関する住民説明会で、自治会長を務める女性市民が発言すると、会場には拍手が起きた。

鹿児島県の伊藤祐一郎知事(66)、岩切秀雄・薩摩川内市長(72)も会場に姿を見せたが、住民の関心度が高い避難計画や再稼働に関する質疑は、対象外の扱いだった。質問は審査内容に限定するよう開会前に繰り返しアナウンスされた。

出席者はひるまず意見や質問を繰り出した。「再稼働すれば、使用済み燃料が(施設内に)どんどん溜まるが、どこに運ぶのか」「テロ対策がほとんど見当たらない」「原発はいささかのリスクもあってはいけない」。質問者10人中9人は厳しい内容だった。

説明にあたった原子力規制庁の審査担当者には、エネルギー政策に絡む再稼働の是非や、警備・国防政策の対象であるテロ対策に踏み込んだ回答をする職務上の権限がない。原発における「ゼロリスク」も福島原発事故によって否定された思想で、審査担当者が住民に安全を確約することはできない。

■再稼働訴える街の実力者

質疑応答でのかみ合わないやり取りが続いた後、最後に質問した男性は「原発推進派の立場で行動してきたが、福島の事故で疑問が生じた。しかし、安全に対する詳細な説明で疑問が払しょくされた」と言い切った。

発言したのは、川内商工会議所前会頭の田中憲夫氏(77)。帝国データバンクによると、田中氏が会長を務める川北電工(薩摩川内市)の主要取引先には九電、九州通信ネットワーク、九電工<1959.T>と九電グループが並ぶ。地元関係者の誰もが認める地域の実力者だ。

田中氏はロイターの電話取材に対し、川内原発は再稼働させるべきと答えた。「30年間、稼動して地域の経済に組み込まれていた。宿泊施設や交通関係者も原発停止の間、大変に苦しんできた」と話した。

説明会では座席は全て指定。質問者は主催した県・薩摩川内市側が選び、質疑応答の内容を誘導する可能性を指摘する声も、会場に集まった住民の一部から出ていた。

当日の司会進行を担当したフリーアナウンサーの中村朋美氏に、田中氏を指名するよう主催者側から要請があったかどうかを問い合わせたところ、中村氏は否定した。「田中さんの顔を知っていて、推進派だと報道で知ってはいたが、田中さんとわからずに当ててしまった。(座席側から)ライトが当たり、前方からではわからなかった」などと答えた。

小渕優子経済産業相は翌10日の会見で説明会の内容について「不安が払しょくされたという声もあったと聞いている」と発言。西日本新聞によると、薩摩川内市の岩切市長は10日の会見で「(再稼働の是非を)判断するいい材料になった」と述べた。

■地元同意、最短で12月

説明会は薩摩川内市のほか、原発から半径30キロ圏内に位置する市町で計5回開催される。台風の影響で当初13日に予定されていた隣接市のいちき串木野市では20日に延期されたが、一連の説明会が終わると、再稼働への最後の関門となる「地元同意」のプロセスは最終局面に入る。

伊藤知事は「地元」の範囲について県と薩摩川内市を挙げ、同意の対象を知事と同市長、県・同市議会の4者に限定している。地元関係者の見方を総合すると、推進側にもっとも順調に進むシナリオだと、今年12月中には地元同意に至る。

具体的には、1)薩摩川内市議会が11月中に臨時議会を開き、再稼働陳情を本会議で採択、2)臨時議会の最後に岩切市長が同意表明、3)12月の県の定例議会中に特別委員会で結論を出し、最終本会議(18日の見込み)で再稼働陳情を可決、4)12月議会の会期末か数日後に伊藤知事が同意を表明──という流れだ。

鹿児島で反原発運動を主導し、2012年の鹿児島県知事選に立候補(落選)して伊藤知事と争った向原祥隆氏(出版社経営)は29日、ロイターの取材に対し「再稼働の手続きは、伊藤知事の設計図通り進んでいる。安倍首相が九電会長ら九州財界首脳と会食して、『川内はなんとかしますよ』と応じたと、7月に報道された通りに進んでいる」と述べた。

■近隣自治体、地元範囲に異議

地元同意は4者とする伊藤知事の意向に対し、薩摩川内市に隣接するいちき串木野市議会と、人口の半分以上が30キロ圏にある日置市議会が、地元同意の対象に加えることを求めた伊藤知事あての意見書をそれぞれ9月末に採択した。

いちき串木野市の田畑誠一市長(74)は今月10日、ロイターのインタビューに応じ、再稼働の是非の判断について「市議会は12月の定例議会の前に臨時議会を開くと思う。それを受けて(市長としての)最終的な判断をする」と述べた。

再稼働に必要となる地元同意の範囲について、同市長は「国の責任で同意の範囲を定めるべき」と話した。

日置市議会の宇田栄議長(67)はロイターなどの取材に対し、意見書の提出によって伊藤知事が判断を変える可能性について「知事の考え方ひとつだろう」と語った。

鹿児島県議会の遠嶋春日児議員(60、薩摩川内市区選出)は、隣接・周辺自治体が同意プロセスに加えるよう要望していることについて「福島の教訓に学ぶなら、せめてUPZ(緊急時防護措置準備区域=30キロ圏)には同意を求めるべきだ。ただ、伊藤知事は今の(判断の)まま通すかもしれない」と述べた。

向原氏は「結局、いちき串木野市でも日置市も市長は、同意プロセスに加えろとは強引には対応しないだろう。ただ、議会の決定は重いから、そこはもん着が起きる可能性はある」と指摘する。

川内原発が再稼働すれば、早いタイミングで関西電力<9503.T>高浜原発、九電玄海原発などが規制委から規制基準への適合が認められ、地元同意のプロセスに入る見込み。その際、再稼働のハードルを高める同意対象となる自治体の拡大に、政府は消極的だ。川内がその前例とならないよう、伊藤知事は腐心しているとみられる。

■かつては激しい反対運動、いまは地元を覆う無関心

いちき串木野市議会が今回の意見書を採択した背景には、市内で今年5月に「市民の生命を守る避難計画がない中での再稼動に反対する」との署名活動が始まり、6月下旬までに市人口の半分を超える署名が集まったことがある。

これに対し薩摩川内市では、住民の意思を問う一定以上の規模のアンケートや署名活動は行われなかった。

市職員として長年勤務し、今年5月まで川内商工会議所専務理事を務めた岩下晃治さん(70)は、昭和50年(1975年)前後をピークとした、川内原発をめぐる激しい反対運動を経験した。

岩下さんは、反対派と機動隊が衝突した当時と比較し、再稼働問題で全国的な注目を集めながらも、静かな街の様子について「隔世の感がある」と述べた。

推進派の岩下さんは「この町は原子力と共生してきた。(運転開始から)30年間、大きなトラブルはなく、九電は丁寧に説明してきた。住民には認知されてきた」と語った。

川内原発で次長(副所長)を務め、現在も原発から5キロ圏に住む元九電社員の徳田勝章氏(76)は、薩摩川内市民の再稼働に対する意識について「6対4で反対が多いだろう」と指摘する。

ただ、自発的に行動し再稼働に抵抗するような反対派は極めて少数とみている。同氏は「無関心層が圧倒的に多いだろう。再稼働に賛成か反対かとなると、無関心層は(原発が)あるよりないほうを選ぶのではないか」と述べた。

■強固な支配構造、沈黙を強いられる住民

薩摩川内市内に住む村山智さん(66)が、ロイターの取材に応じた。現在は屋久島(鹿児島県)でガイドをしながら、自宅と行き来しているが、かつては日本共産党の専従職員や赤旗記者として原発推進派と対峙してきた。

村山さんは薩摩川内市について「原発城下町特有の40年間に及ぶ支配網が、隅々まで網の目のように確立され、がんじがらめの状態だ」と評した。

城下町の住民がものを言えない状況を実感したのが、今年3月。商工関係者の再稼働に対する意識を探ろうと、市内の国道沿いの商店街で再稼働に反対する署名活動に回った時だ。

「30軒くらいまわって、署名が取れたのは6軒。行く先々で『福島みたいになったら大変。再稼働には反対だけど、商売上、署名はできない』と言われた」という。

地元の状況について「あきらめと無関心が覆っているのではないか」と問うと、村山さんは「そうかもしれない」と答えつつ、「目覚めもある。理由は福島だ。この3年半、薩摩川内市民は自分のことと考えるようになった。一部かもしれないが強烈な目覚めだ」と述べた。

「40年間、原発反対運動をしてきた」という遠嶋県議は、市民の間で草の根的な運動について、「ばらばらで横につながっていない」と指摘。多くの市民が、原発城下町に張り巡らされた支配網の「虜(とりこ)になっている」と話す。

■自前の住民投票、主権者は市民との呼びかけ

村山さんも呼びかけ人の1人となって、薩摩川内市民にはがきで再稼働の賛否を問う活動が10月から始まった。「52円の住民投票の仲間たち」と名付けたこの活動は、市内の各戸を回り、私製のはがきを配り、52円切手を貼ってもらい、再稼働への賛否を書いて私書箱に郵送してもらうものだ。

発案した自営業の川畑清明さん(58)は、ロイターの取材に対し「市長がまったく住民の意思を問おうとしないので、自前の住民投票によって市民の受け皿を作ろうと考えた」と語った。

約30人の有志が市内を回り、これまでに約7000枚は配布した。10月中には1万2000─5000枚くらいの配布を目指すという。同市の有権者数は約8万人。「はがきの集まりで有権者の過半数を超えるのが最初の目標」だという。

官製はがき(52円)を配れば、参加者をもっと増やせることもできるが、市民の手弁当に頼らざるを得ない草の根運動が浸透するには時間がかかる。

しかし、再稼働の手続きは、推進側の設計図通り今後一段と加速する勢いだ。「以前は自分も安全神話に乗っていた」という川畑さん。「3.11で止まった原発がいよいよ動き出すかもしれないのに、市長と市議があまりにも前のめりな姿勢なのに驚いた」と話す。

今回の活動は「再稼働のスイッチが入るまで続ける」と意気込む川畑さんは、市民に覚醒を呼びかける。「薩摩川内市の人間はこの市の政治の主権者。お上任せではなく、みんなで自分の意見を表明したら変えることができると自覚してほしい」と述べた。

(浜田健太郎 編集:田巻一彦)

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