キューバとの国交正常化に向け、アメリカが交渉開始へ 背景に何があったのか

オバマ大統領は、1961年以来、半世紀以上も外交関係が断絶しているキューバと、国交正常化に向けた交渉を始めると発表した。2015年に国交が回復すれば、54年ぶりとなる。
AFP

オバマ大統領は12月17日、1961年以来、半世紀以上も外交関係が断絶しているキューバと、国交正常化に向けた交渉を始めると発表した。2015年に国交が回復すれば、54年ぶりとなる。両国は相互に大使館を設置し、貿易と旅行の規制を緩和する方針だ。

フィデル・カストロ氏(1979年撮影)

■キューバ革命、そして国交断絶の歴史

アメリカから約150キロしか離れていないキューバは、かつてアメリカの実質的な保護国だった。しかし、フィデル・カストロ氏らがキューバ革命で当時のバティスタ政権を打倒した後、アメリカと対立が起こる。貧しい農民や労働者らの利益を代弁する政府を掲げたカストロ政権が、当初はアメリカとの友好を求めたものの、農地改革の過程でアメリカ企業を接収したことが原因だった。

これに対して、アメリカはキューバの主要産業である砂糖の輸入を停止。ここに、冷戦のさなかだったソ連がキューバに砂糖の買い付けなど経済協力を申し出たため、キューバは急速にソ連に接近。東西対立に巻き込まれていった。

これを受けてアメリカは1961年にキューバとの国交断絶を通告。対するキューバは社会主義革命を宣言した。カストロ氏がアメリカの圧倒的な力に対抗するために選択したのが、ソ連の強大な力を借りること、すなわち社会主義体制への転換だった。

キューバでミサイルが発見されたことを受けて、軍幹部らと会談するケネディ大統領(右端)

そして、1962年10月、ソ連がキューバに核弾頭ミサイル基地建設を進めていることが明らかになると、アメリカが戦艦と戦闘機でキューバを海上封鎖するキューバ危機が発生。ソ連が譲歩してミサイルを撤去し、衝突は回避されたものの、世界中を核戦争の瀬戸際に陥れた。

その後、アメリカはキューバとの貿易を全面的に禁止するなどの経済制裁を発動し、この措置が現在まで継続されていた。キューバは無条件の国交正常化や経済制裁の解除を強く求めていたが、アメリカ側もキューバに対し、現在の共産党の一党体制から複数政党制とすることや、政治犯の釈放などが実現されない限り、要求には応じない姿勢を堅持してきた

一方で、キューバは海外からの投資の誘致や市場経済化を進め、ロシアや中国が経済的関係の強化を模索。アメリカの政財界からはビジネスチャンスを逃さないよう、経済封鎖の解除を求める声があがっていた。

■政治犯の開放、そしてオバマ氏の演説

ハフポストUS版によると、キューバ政府はこの日、2009年からスパイ容疑などでキューバで拘束されていたアメリカ人、アラン・グロス氏を5年ぶりに解放。アメリカ側も、スパイ容疑で拘束していたキューバ人3人を釈放した。

グロス氏が開放された数時間後に、オバマ大統領が演説。キューバを国際的に孤立させることによって、キューバの民主化促進を目指すとしてきたこれまでのアメリカの政策についてオバマ氏は、「これまで失敗してきた時代遅れの手法を終わらせる」などと失敗を認めた。

オバマ氏は、「アメリカの外交政策で賞味期限が切れたものがあったとすれば、それは対キューバ政策だ」、「我々のほとんどが生まれる前にとられた、かたくな政策は、アメリカ人だけでなくキューバ人にとっても役に立つものではない。新たな序章の始まりだ」などと述べ、政策を180度転換させる考えを示した。

すでにケリー国務長官にはキューバ側との交渉を指示。キューバへの渡航や送金の緩和や、原則として禁止してきた、建築資材や携帯電話などのキューバへの輸出の緩和、テロ支援国家指定の見直しなどを検討する考えだ。

■正常化のきっかけとなったものは…

朝日新聞によると、これまで国連総会では過去23回「アメリカの対キューバ経済・通商・金融封鎖を終了させる必要性がある」という決議案がキューバ共和国から提出され、圧倒的多数で経済制裁解除を求める決議が行われてきた。アメリカのブッシュ前大統領は、キューバ制裁措置を強化したが、オバマ大統領は、キューバとの対話を重視し、これまでのアメリカの強硬な対キューバ路線を変更。キューバとの対話を進めていた。

キューバとの国交正常化を目指す背景について、産経ニュースはウクライナ情勢を受けてアメリカとロシアの関係が悪化していることを指摘している。ロシアが対米戦略の観点から、再びキューバに接近することが懸念され、キューバとの関係改善によって外交・安全保障環境を安定化させる狙いがあるとみられる。

一方でNHKは、オバマ大統領の任期が残り2年となるなか、みずからの功績としたいねらいがあると分析している。フィデル・カストロ氏の後を次いだ、弟のラウル・カストロ国家評議会議長(83)とオバマ大統領は、2013年12月、ネルソン・マンデラ氏の葬儀で、歴史的握手を交わしていた。

ハフポストUS版は、急速な進展の背後には、カナダ政府やローマ教皇などの仲介があったと報じている。アメリカの高官とキューバの高官がカナダで会談しており、また、ローマ教皇はカストロ議長とオバマ大統領の両方に対し、正常化を急ぐよう促す手紙を送っていたとされる。オバマ大統領がローマ教皇と会談した後に送られたとされており、政府高官によると、ローマ教皇から直接的なメッセージが送られるのは「非常にまれなことだ」という。

17日の演説に先立ち、オバマ大統領は16日、キューバのラウル・カストロ国家評議会議長と45分間電話で会談した。その際の写真が、ホワイトハウスから発表されている。

キューバのカストロ議長と電話会談するオバマ大統領

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