古田貴之さん「少子高齢化はロボットが解決する」 ロボット博士が語る未来像【動画・画像】

日本が誇るロボット技術は、未来をどう変えることができるのか。2014年末に未来ロボット技術研究センター(fuRo)の古田貴之所長にインタビューを行った。
Kenji Ando

ギー、ガシャン!記者がコントローラーのボタンを押すと、目の前のロボットが突然変形した。それまでは車輪がついた自動車のような姿だったのが、たくさんの足がついたムカデのような姿へと変形した。コントローラーのレバーを前に押し出すと、ガッシャンガッシャンと研究所の床を歩き出した。

このロボットは「ハルクII」。長さ80cmほどのコンパクトな機体に56個のモーターを搭載。車両モード、昆虫モード、動物モードの3形態に変形することで、あらゆる場所を移動することが可能になるという。

開発したのは、千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター(fuRo)の古田貴之(ふるた・たかゆき)所長だ。fuRoはロボット技術で文明の進歩に貢献できるような活動をめざす研究所だ。

2003年に千葉工業大学の津田沼キャンパスの構内に設置された。二足歩行ロボット「モルフ3」やロボットカーの「ハルキゲニア01」など個性的なロボットを次々と生み出した。2011年の福島第一原発事故でも、fuRoで開発されたレスキューロボット「クインス」が使用され、原子炉建て屋内の写真撮影に成功している。

日本が誇るロボット技術は、未来をどう変えることができるのか。2014年末にfuRoを訪ねて、ロボット研究の第一人者である古田所長にインタビューを行った。

3段階に変形する「ハルクII」の動画(fuRo提供)

■ロボットにしかできないことは?

−−日本ではロボットへの関心が非常に高いですが、ロボットは世の中をどのように変えることができるでしょうか?

インターネットなどの情報通信技術にできることは、情報の提供だけです。しかし、ロボットは実際に動く「物理的な行動」ができます。ロボットと言うと、手足の生えたものがロボットだと皆さん勘違いしがちですが、ロボットとは「感じて考えて動く機械」の事であり、形は問題ではありません。下半身がなくても、腕がなくてもロボットなんです。

−−知的な機械の総称ということですね

そうです。だから今、家もデジカメもエアコンも、ロボット化しています。自動車の自動操縦もそれに当たります。今の機械製品のほとんどは、すでにロボット化されています。ただ、新しい枠組みづくりがうまく行ってないから、既存の商品の範疇にロボット技術を当てはめるに留まっています。

しかしこれからは、今まで見た事がない新しい枠組みの中にロボットが入ってきます。私は、単に製品を作る「ものづくり」ではなく、文化そのものをつくる「ものごとづくり」が重要だと常々言っていますが、新しい「ものごと」として、ロボットが社会に登場するようになっていきます。

■介護ロボットではない高齢者のためのロボット

−−具体的にロボットをどのように社会で活用するのですか?

少子高齢化社会を、ロボット技術で解決することを考えています。日本は先進諸国の中で、真っ先に少子高齢化を迎える国です。でも、少子高齢化を解決できる社会システムを作れば、日本はその分野で先進国になれるんです。ピンチをチャンスに変えることができます。

そのために、衣食住を徹底的に作り直す必要があります。「新しい人間の生活」を定義し直す。皆さんが、少子高齢化という言葉で、真っ先に何を思いつくかというと、高齢者の介護です。よく出てくるのは「介護ロボット」という発想で、それを否定はしませんが、ワクワクする未来が作れるかというと疑問です。

なぜかというと「介護ロボット」の発想の背景には、高齢者をお荷物扱いした上で、その人達をケアして、負担を少なくするという思想があるからです。それって明るい未来でしょうか。

これから団塊の世代が、どんどん高齢化を迎えます。本当の高齢化社会は、高齢者が活動的な「アクティブシニア」として、世の中の主役となって動かす社会です。高齢者は「寝たきりでどうケアしようか」という社会のお荷物ではありません。これからどんどん増える高齢者が経済活動と文化活動を、主役になって世の中を引っ張っていくんです。

−−寝たきりじゃなくて快活に活動出来る高齢者を増やすと?

そうです。世の中は人が動かないと、物も経済も動かないんですよ。人間は、人の心と体とコミュニティとの繋がりが、三位一体となっています。本当に動かなくなって閉じこもると、鬱状態になっていく。人との関係が疎遠になっていくと、どんどん体と心が蝕まれていき、本当に寝たきりになる。

僕は高齢者が快活に動くためには、衣食住を改革しようと思いました。まずは、高齢者が健康になっていただく。高齢者が一人で亡くなる孤独死の事例の多くは、糖尿病と高血圧症が原因なんです

2007年から僕らは、積水ハウスと一緒にロボット住宅のプロジェクトを進めています。これは家に生体センサーと人工知能を埋め込むんです。知らず知らずのうちに健康診断できる。

日々の健康診断システムを自動化する事で、さっきの高血圧症と糖尿病によって死亡することが、ほぼ100%防げる。寝たきりや一人暮らしの人が急に亡くなることを防止できます。このシステムの事業化を、積水ハウスは進めています。洗面所にさまざまなセンサーを置いて、最終的にはお医者さんに繋がるように手配していきます。家にいながら健康になるんです。

−−健康になったあとは?

はい、健康になったら外に出たくなる、という事で乗り物が登場します。実は高齢者用の乗り物で、都市部で短距離を移動するのにちょうど良いものって、あまり良い物がないんです。

シニアカーも高齢者が喜んで乗るかというとそうではなく、仕方なく乗っている方が多い。人間は視力が弱いと眼鏡をつける、体内時計が不正確だと時計をつける。これらは、ファッションになっていて自ら欲しがる物になっています。

それと同じように、アクティブシニア用に、自ら欲しくなるような、高齢者から若者まで皆が欲しがる小型電気自動車が必要なんです。今、僕らは自動車メーカーと共同で、ロボット技術を活用した新しい交通手段の開発を進めているところです。

2008年に国立科学博物館で行われた大ロボット博で子供達の前でロボットのデモンストレーションを行う古田所長(fuRo提供)

■子供たちにロボットをどうアピールするか?

−−少子高齢化のもう一つの側面として、子供が少なくなっています。子供達とロボットはどのように関わることができそうですか?

はい、今の僕の危機は、未来をつくろうと一生懸命やっていますが、僕が死んだら終わりなんですよ。

−−跡継ぎがいない

そうです。未来を作るためには、子供をなんとかしなきゃいけない。人間は経験した事しか分からないから、ロボット技術の楽しさを経験させるためにロボットを子供たちに分解してもらって、「こんな風にロボット技術が使われているんだ」ということを皆さんに経験してもらっています。

でも、それだけでは不十分だと思っていて、僕らは2013年から、ヒューマンアカデミーと共同で「ロボット博士養成講座」を、実施しています。実際にいろんなロボットを作りながら、ロボット技術が勉強できる。

障害物回避の人工知能。あるいはアームロボット。人間型のロボットのキットもあります。それらでしっかりロボット技術を教えながら、いつのまにか数学の勉強ができます。本当にプロのロボット博士を作るための初の講座を実施しています。子供達の反響もすごいです。「好きこそものの上手なれ」とは、よく言いますね。

−−日本を変えていくには、人材育成がやはり重要ということですね

その通りです。日本は資源がほとんどない。日本にあるのは、技術とサービス、文化ですよ。しっかり技術を開発し、それをちゃんとグランドデザイン出来る人間を作り、「ものごと」を作る必要があるんです。

(日本発のアニメ・漫画などの)ジャパニメーションは、見事に「ものごと」を作り、輸出産業になっています。昔は皆「たかが漫画」「たかがアニメ」と見下していたのが変わりました。ああいう日本ならではの「ものごと」をロボット技術で作っていきます。

■「鉄腕アトム」に憧れて

−−最後に伺いたいのですが、古田所長が最初にロボットを作りたいという興味を持ったきっかけは何ですか?

最初のきっかけは、テレビアニメの「鉄腕アトム」でした。2歳半でインドに行く前に日本で見ていて、すごく印象に残ったんですね。

「鉄腕アトム」に登場する、天馬博士のようなロボット博士になりたいという思いを膨らませていき、小学生で日本に帰ってきたんです。その後、14歳のときに脊髄の病気で一時的に下半身がマヒしたことが転機になりました。同室の患者がどんどん亡くなっていくのを、この目で見たんです。

そのとき、「人生って自己満足劇場なんだな」と思ったんです。死ぬ瞬間どれだけ満足できるかなんだなって。そのとき僕は、ロボット技術で世の中変わったかな、というのを満足にしたいなと思いました。やっぱりいつか自分は死ぬけれど、技術と文化は残るはず。

建築家のアントニ・ガウディが設計したスペインの教会「サグラダ・ファミリア」。あれは、ガウディ本人は1926年に亡くなりましたが、建造物は今もニョキニョキと伸び続けています。

ガウディと同様に、いろんな人間がいろんな分野で仕事を残すことで、文化ができています。僕もロボット技術で文化に足跡を残したい。ロボット技術が世の中で使われる事を自分の一生の仕事にしようと思っています。

fuRoで開発されたロボット画像集

■古田貴之さんの略歴

1968年、東京都生まれ。97年、青山学院大学の助手時代に小型の二足歩行ロボット「Mk.」シリーズの開発に成功。2000年、工学博士。01年、科学技術振興機構のグループリーダーとして人間型ロボット「モルフ」シリーズを開発。03年6月、未来ロボット技術研究センター(fuRo)設立に伴って、同センター所長に就任。「モルフ3」「ハルキゲニア01」などを開発。

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