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スピーチライターの仕事の舞台裏「原稿執筆よりも、情報戦」蔭山洋介氏に聞く

2015年01月10日 01時55分 JST | 更新 2015年01月10日 15時23分 JST
The Huffington Post

「Japan is back (日本は戻ってきた)」、「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのならどうぞ」、「汚染水は完全にコントロールされている」など、これまで注目された安倍首相の演説は、実はスピーチライターによって書かれたものであることが報道され話題となった。安倍首相ばかりではなく、オバマ大統領の「Yes, We Can」や、ケネディ大統領の「国があなたに何をしてくれるかではなく、自分が国のために何ができるかを考えよう」といった有名なフレーズも、スピーチライターによって生み出されたとされる。

1月10日には日本テレビ系で『学校のカイダン』というスピーチライターが主人公のドラマも始まり、その存在が注目されている。しかし、スピーチライターとは、実際はどのような仕事なのか。『学校のカイダン』の制作に関わり、1月8日に著書『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』(角川oneテーマ21)を出版した蔭山洋介氏(34)に話を聞いた。

■年収2千万円?アメリカでは当たり前でも日本にはいないスピーチライター

――最近「スピーチライター」という職業についての報道が増えています。仕事の秘匿性もあるのかもしれませんが、実際に「私はスピーチライターです」と名乗っている人は、あまりいないように思います。スピーチライターという仕事をしている人は、日本には何人くらいいるのでしょうか。

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オバマ大統領とスピーチライターのジョン・ファブロー氏 Jan. 23, 2012. (Official White House Photo by Pete Souza)

純粋にスピーチライターの肩書で活動している人は、日本ではおそらく片手で足りる程度だと思います。「スピーチコンサルタント」という名で活動する人はいますが、スピーチライターを名乗る人は少ない。私も2006年からスピーチライターの仕事をしていますが、スピーチライターの肩書を使い始めたのは、オバマ大統領のスピーチライターが大きく報道された後の2009年からでした。日本ではまだまだ、知られていない仕事です。

一方で、アメリカでは既に一般的な職業になっていて、「秘書、募集!」などと同じように、企業によるスピーチライター求人広告もよく掲載されます。年収も最も多い層で600万円程度と、なかなかですし、2000万円ほど貰うかたもいるようです。

――アメリカでは政治家だけでなく、企業も募集しているのですね。日本とは違う土壌があるのでしょうか。

スピーチというと、何か人を動かす必要のあるときや、世界を変えたいと訴えたいときに行われる演説がよく取り上げられますが、それは政治家だけのものではなく、スティーブ・ジョブズやソフトバンクの孫正義社長のように、製品やサービスをアピールしたい場合にも効果的なんですね。1回のスピーチで製品やサービスの売り上げが大きく変わる。アメリカはそれが理解されているから、より多くの顧客を獲得するために、スピーチライターを雇って顧客に刺さるスピーチ原稿を考えてもらうことは効率的だと考えられているわけです。

需要もあるので、なりたい人も多い。アメリカでは長年「話し言葉教育」が徹底されていて、幼稚園から大学生までカリキュラムが組まれています。大学ではスピーチライターになるために推奨される専門の教育課程もあるほどです。

一方の日本では、最近ようやく表現教育などに力を入れるようになりましたが、まだまだ「スピーチは、原稿を書いて読み上げるものだ」とイメージする人が多い。スピーチに対するイメージが、アメリカと日本では大きく異なるんですね。

しかし、普段人に何かをお願いするとき、原稿を読んだりはしないでしょう? 話し言葉で、普通に話しますよね? それと同じで、原稿を読み上げるのではなく、その場の聴衆に合わせて話し言葉で行うスピーチを、パプリックスピーキングと呼びます。パブリックスピーキングの具体的な手法については、拙著『パブリックスピーキング 人を動かすコミュニケーション術』(NTT出版)でも書きましたが、アメリカで教育されるのは、主にこのパブリックスピーキングです。パブリックスピーキングの場合、スピーチライターは原稿を書かないことが多いです。

■原稿を書かないスピーチライター?スピーチを練習すると失敗する?

――ビジネスの場で求められるのはパブリックスピーキングだが、パブリックスピーキングでは原稿は書かない。企業がスピーチライターを雇うのは一般的だと言われましたが、どういうことでしょうか。

原稿を書いても無駄だからです。さらにいうと、書いた「読み上げ原稿」を読む練習をしたりすると、失敗します。

文章には「書き言葉」と「話し言葉」があります。新聞や本などで使われる書き言葉は、綿密な情報を盛り込むことができます。しかし書き言葉が読み上げられるのを聞いていると、人間はすぐ眠くなるんですね。

例えば、「笑っていいとも!」最終回でタモリさんは次のようにスピーチをした。

「考えてみれば、気持ちの悪い男でしてね。こういう番組で、以前の私の姿を見るのが、私は大嫌いでしてね。なんかこう、気持ち悪い。濡れた“しめじ”みたいな感じ。なんかこう、嫌〜な、ヌメッとしたような感じで、本当に嫌でして、いまだに私、自分の番組、観ません」

これを、書き言葉にしてみましょう。

「自分を客観視してみてみると、自分のことが気持ち悪く見えます。私はテレビ番組で、以前の自分の姿を見ることが大嫌いですが、その理由は、テレビの中の自分が、濡れた“しめじ”のように見えて、気持ちが悪いからです。ヌメッとした感じがします。そんな自分の姿を見るのが嫌で、いまだに私は、自分が出ている番組を観ません」

こんな感じでしょうか。これを読み上げてみてください。話している感じでは、なくなりますよね? 何も考えずにスピーチ原稿を書くと、このような仕上がりになりがちですが、これでは聴衆に伝わらない。「読まされている」という感じがバレてしまう。書き言葉で書かれた「読み上げ原稿」をいくら練習したとしても、なかなかよいスピーチにはならないんです。

もちろん、「読み上げ原稿」をきっちりつくり、その内容を間違わずに伝える必要がある場合もあります。例えば天皇陛下のお言葉は影響力が大きいので、政治の世界に影響を与えないように細心の注意を払っていらっしゃると思います。また、大統領や首相が海外で行う演説なども、外交に影響を与える事が考えられていますので、「読み上げ原稿」が用意されているのが普通です。

しかし、パブリックスピーキングでは、スピーチライターは話し手とスピーチの内容の大枠は決めますが、実際に話す言葉は、話し手に任せます。選挙での演説なども典型的なパブリックスピーチで、大枠はあるけれどきっちり原稿があるわけではない。安倍首相も衆院選の応援演説では、自由に話しているように見えませんか。

スピーチライターが原稿を書いていないんだったら、仕事をサボっているんじゃないかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。スピーチライターにとって、原稿を書くことよりも重要な仕事があります。それは、スピーチに盛り込む情報を収集したり、関係者と話す内容を調整したりすることなんですね。原稿を書くことは、スピーチライター全体の仕事の一部でしかないんです。

■スピーチライターに最も必要な「コミュニケーション力」

――関係者との調整も、スピーチライターが行うのですか?

行います。話し方の指導も行いますよ。話す内容について「別の表現にしてはどうか」「こういう言い方をしたほうが伝わる」などの細かいアドバイスもします。本にも書きましたが、「全く自分は話せない」という人でも、原稿なしで話すことができるようなトレーニングを行うこともありますし、より効果的なスピーチのための演出を用意することもします。しかし、それよりも調整の仕事のほうが大変なんですよ。

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首相のスピーチ原稿のつくり方を参考に説明しましょう。民主党政権の鳩山首相の時代には、当時の内閣官房副長官だった松井孝治さんのほか、劇作家で演出家の平田オリザさんが、スピーチライターとして活躍しました。しかし、彼らより前の時代には、秘書官室や内閣官房のスタッフが首相のスピーチライターの役割を担っていたのですね。

首相がスピーチを行う際には、まず、各官庁からどういうことを話して欲しいかという要望が「短冊」と呼ばれるメモで提出される。それを元に、内閣官房のスタッフや秘書官らが首相とすりあわせてまとめていくという、官僚主導でのパッチワークのような「つぎはぎスピーチ」だったんです。

スピーチの持ち時間は決められているため、全てを盛り込むことができない。何を話すのかを整理して関係者と調整する。それがスピーチライターの役目ですね。首相のスピーチは大きく報道されますし、様々な影響を与える。そのため、首相にスピーチで何を話してもらうのかは、関係者にとって大変重要です。「あそこの省の方の話題のほうが長い。なぜうちはこんなにカットされたんだ?」と言われても、相手を納得させてうまく落としどころをみつけなくてはいけない。

鳩山政権では「政治主導」が叫ばれて、「短冊」方式ではなく、まず首相が何を話すかを決めてから各省と調整する方法が取られたようですが、それでも所信表明演説は閣議決定を経る必要があることもあり、関連省庁との調整の必要だった。これと同じように、企業における決算報告などのスピーチなども、社長秘書や広報室が各部署と調整するんですね。

リーダーのスピーチは、その後のその組織のあり方に大きく関わってきます。そのため、リーダーに何を話してもらうかを主導するスピーチライターは、参謀的な役割が求められる場合もあります。相手を理論で納得させることができるかも問われ、原稿を書く能力よりも、「コミュニケーション力」のほうが必要とされます。

企業で言えば、社内政治力と言い換えてもいいかもしれません。私も駆け出しのころに失敗しましたが、ある企業からスピーチライティングの依頼を受けたときに、広報担当者からうまく情報を引き出すことができなかったことがあったんです。

その企業では私が入るまで、社長のスピーチをつくるのは広報担当者の役割でした。そこへ私が外部から入ったので、広報担当者から見たら自分の仕事が奪われたとも受け取れるわけです。企業に属する広報ですから、社内の様々な情報を持っています。その情報を出してもらえず、結局、その広報の方が書いたスピーチ原稿が採用された。今なら、広報の方とチームを組むという方法で行うでしょうが、当時は私も若くて、分かっていなかったんです。

――チームを組むということは、一般的なのですか。スピーチライターが一人でスピーチをつくるのかと思っていたのですが。

よくあります。今抱えているスピーチライティングの仕事は、45秒程度の短いものですが、これを、大体1カ月かけて、4人ぐらいのスタッフでつくります。実際の作業時間は一週間程度ですが、調査や調整、演出の準備などでこれくらいかかります。

このようなスピーチ案件を、複数同時並行ですすめることは、一般企業でも珍しくありません。首相もそうですが、大企業の社長などは、毎日のようにスピーチの機会があるわけです。全てのスピーチを社長が自分で書くなんて無理です。

スピーチの一つの肝は、目の前の聴衆に合わせて話す内容を変化させることですが、聴衆がどのような人なのかを調査することはもちろん、聴衆がこれまでどのような情報を持っているのか、ライバルがどんなことを話しているのかも含めて調査しなくてはいけません。選挙などのときには、直前にライバル候補が自分の批判を行っていたら、その反論をスピーチに盛り込まないと、聴衆は話し手にとって不利な情報を保有したままになる。だから、ライバルの情報も仕入れなくてはいけない。スピーチは情報戦なんですよ。

■話し方を間違うと「ブラック企業」に…スピーチは中小企業や個人事業主で必須になる

――「チーム制」、「情報戦」などときくと、スピーチライターという仕事は大手企業や政治家向けの商売のように思えますが、蔭山さんの顧客も大企業や政治家ばかりなのですか。

中小企業の経営者や個人事業主の方からの依頼も多いです。例えば最近の仕事では、中小企業から就職説明会でのスピーチライティングの依頼がありました。就職説明会というと、聴衆は学生。彼らからみて「ブラック企業」に見えないスピーチをつくらなくてはいけません。

――「ブラック企業」に見えないスピーチですか?怪しい会社からの依頼だったのですか?

いえいえ、そう