たった25ドルでシリアへ密入国 腐敗したトルコ国境の現状

ダーイシュの外国人戦闘員になりたい者にとって、トルコ国境を越えてシリアに入ることは難しいことではない。そのために必要なのものは、密入国をするための案内人と連絡を取って、約25ドルの現金を支払うことだけなのだ。
An armed man walks in IS-controlled Tal Abyad across the Turkish Akcakale border gate, Turkey, Saturday, Jan. 31, 2015 as some people wait for the possible release of Japanese journalist Kenji Goto, kidnapped by the Islamist militant group in Syria. The fate of a Japanese journalist and Jordanian military pilot were unknown Friday, a day after the latest purported deadline for a possible prisoner swap passed with no further word from the Islamic State group holding them captive.(AP Photo/Emrah Gurel)
An armed man walks in IS-controlled Tal Abyad across the Turkish Akcakale border gate, Turkey, Saturday, Jan. 31, 2015 as some people wait for the possible release of Japanese journalist Kenji Goto, kidnapped by the Islamist militant group in Syria. The fate of a Japanese journalist and Jordanian military pilot were unknown Friday, a day after the latest purported deadline for a possible prisoner swap passed with no further word from the Islamic State group holding them captive.(AP Photo/Emrah Gurel)
ASSOCIATED PRESS

先日、ニューヨーク市ブルックリンに住む3人の男性が、ダーイシュ(イスラム国)に加わろうとした疑いでFBIに逮捕された。だが、もしこの3人がトルコ行きの飛行機に乗ることに成功していたら、トルコからシリアへ渡るのは簡単なことだっただろう。

ダーイシュの外国人戦闘員になりたい者にとって、トルコ国境を越えてシリアに入ることは難しいことではない。そのために必要なのものは、密入国をするための案内人と連絡を取って、約25ドルの現金を支払うことだけなのだ。

実際に、2月中旬にロンドンの10代の女子学生3人がトルコへ向かい、そこでダーイシュの女性スカウト係とTwitterで連絡をとった後シリア領内へ姿を消したと報道されている。

トルコ政府は、全長800kmにも及ぶシリアとの国境の警備に全力を尽くしていると主張している。しかし、密入国案内人や戦闘員、そしてシリアからの難民からの情報によれば、トルコの犯罪組織や買収された国境警備隊員が、金さえ払えば誰でも国境を越えてシリアに入れるようにしているという。

シリアとトルコの国境を越える難民と案内人(2013年4月23日撮影)。

「トルコ政府が国境のある場所が通れないようにしても、越境のためのルートがまた別な場所にできるからね」と、トルコ国境の街カルカミスに住む30歳の密入国案内人、ジャシム・カルティムはハフポストUS版に語った。

カルティムは、これまでに数えきれないほどの人たちをダーイシュの支配領域へ案内してきた。もう彼らの顔も覚えていないが、あるサウジアラビア人の若者をダーイシュの支配下にあるジャラーブルスへ連れて行ったところ、その若者の父親がカルカミスへ来て、息子を連れ戻しに行くので国境を越えさせてくれ、とカルティム氏に懇願した出来事は、父親でもあるカルティムにとって、忘れられないことだという。

カルティムの壊れかけた家では子供たちが画面のチラつくテレビでアラビア語字幕入りの「バットマン」を見ている。その家で彼は密入国のシステムを説明した。彼によると、密入国案内人たちは、国境警備隊を支配下に置く「王族(emir)」と呼ばれる人物から国境の特定の部分を、1回30分間あたりの支払い方式で「購入」するという。

「その男は、元々はトルコ人の、アブ・アリという人物だ」と彼は言う。「兵士たちは、みんなアブ・アリを恐れている。何かに腹を立てたというだけの理由で、アブ・アリが国境を10日間閉鎖したこともあったくらいだ。とにかく、この人物がすべてを取り仕切って密入国をさせることで大金を稼ぎ、ダーイシュのために武器や弾薬を買っている」

窓のそばに立つのが、シリアのダーイシュ支配地域への密入国を案内している男性。トルコのカルカミスにある、この男性の自宅で 撮影。

国防と安全保障問題を専門とするイギリスのシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」の準研究員で、トルコ研究の専門家であるアーロン・スタイン氏によれば、密入国問題の解消に取り組むことは、核戦争後にがれきを片付けるような仕事だという。それは、広範囲に破壊されたものを元に戻すのは容易ではない、場合によっては不可能かもしれないということを意味している。

2011年9月から2014年3月まで、トルコはシリアのアサド大統領と戦う反体制派を支援するため、シリア反体制派が国境を越える際に、むしろ積極的に便宜を図っていた。だが、2014年の春を境に、その状況が変わった。ダーイシュが手に負えない問題となり、その問題に関与を深めてきたアメリカが、トルコの国境が「穴だらけ」であることを非難し始めたからだ。

1月2日にイスタンブールのサビハ・ギョクチェン国際空港に到着した、パリのテロ事件のアヤット・ブーメディエンヌ容疑者と、男性案内人の防犯カメラ映像。

トルコ政府は何年も前から国際社会に対して、増え続けるシリア難民への対応への協力を求めてきた。トルコ政府と国連の統計によると、難民の数は162万2000人を超えているが、その中には多くの過激派戦闘員も紛れ込んでいるという。トルコ政府は、大勢の外国人戦闘員やダーイシュ支援者が国境をくぐり抜けてしまう理由は、関係国間の情報共有が欠如しているためだと指摘する。

たとえば、2015年1月にパリで起きた食料品店人質立てこもり事件の容疑者の妻、アヤット・ブーメディエンヌが簡単にトルコからシリアへ逃亡したことでもトルコ政府は批判されたが、これに対してトルコ政府は、逃亡に対処できなかったのは情報不足のためだと反論した。

いずれにしても、穴だらけの国境と簡単に買収できる警備隊員たちを、戦闘員たちがうまく利用しているのは事実だ。

アナスと名乗る20歳の若者は、パスポートを持っていないにもかかわらず、トルコの正式な国境検問所を通って、シリアとトルコの間を何度も行き来している。「トルコの国境警備隊に賄賂を渡してあるからだ」と、アナス氏はこともなげに言う。

トルコの国境の街キリスにある、バブ・アルサラム検問所から歩いて出てきたアナス氏は、肩まで伸びた長い髪、濃くて長い顎ひげという、イスラム教徒戦闘員の典型的な風貌をしており、大勢の難民の中でもひときわ目立っている。彼は最初は自由シリア軍に加わって戦い、その後ダーイシュに参加したが、いまは「シリアのアルカイダ」としても知られる組織、アル=ヌスラ戦線に属していると語った。

トルコのアクチャカレ国境検問所のすぐ向こう側にある、ダーイシュ支配下のシリアの街、タル・アビアドを歩く武装した男(2015年1月31日撮影)。

また、シリアのアレッポに住む、23歳のラミ・ザイドは、バブ・アルサラム検問所の東側にある警備が手薄な場所から、月に1、2回はトルコ側へ渡っているという。ザイドもパスポートを持っていないが、アナスとは違い、パスポートがないと正式な国境検問所は通れない。そのためザイドは、トルコとシリアの密入国案内人に毎回25~50ドルを払って、国境を越えさせてもらっているという。

24歳のシリア人、アブ・ハルハレンは、羊を売買する仕事を辞めて、密入国案内人になった。そんなハルハレンの日課は、バブ・アルサラム検問所の警備隊員を買収するだ。彼は、国境の向こう側の、自由シリア軍に属する戦闘員やより過激なジハーディストが支配する地域へ毎月100人ほどを密入国させているという。

このトルコとシリアの国境を本当の意味で統制しているのは、検問所にいるトルコの警備隊ではなく、誰もが恐れるトルコの「ギャング」の中の4、5人の有力者のグループだ、とハルハレンは言う。彼らがキリスの街で密入国の「商売」を仕切っており、ハルハレンも毎日のようにその人々に会っているというのだ。

彼によると、密入国案内人は1人を密入国させるごとに75トルコ・リラ(約30ドル)を受け取るが、そのうち20ドルほどをトルコの犯罪組織と国境警備隊員に払わなければならないため、案内人の手元に残るのはおよそ3分の1だという。

もし密入国案内人が稼ぎの全てを自分の懐に収めたらどうなるかをハルハレンに尋ねると、彼は首を振りながらこう答えた。「やつらはマフィアだ。人殺しだって平気でやる」

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

[日本語版:水書健司/ガリレオ]

シリアでの戦争(2015年2月)

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  2. ただし現在、「イスラム国」という用語の認知度が高いことから、当面「イスラム国」を併記します。
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